NO,54: I'm home
真っ暗な空間に針穴程度の大きさしかない光が一筋。そんな闇に支配された空間、弱すぎる光に微かに照らされて男が一人立っている。
否、何かに立っているという概念など存在しない。
逆さまかもしれないし、あるいは横になっているかもしれない。
この空間に上下左右など存在しないのだ。
「……間に合わんかった。なんやねんこのお情け程度の穴は? 蟻しか出入り出来ひんやんけ。しかもこれ、保って五分やな」
あ〜あとガックリうなだれる男。
残り五分のリミットなのにその男、龍は異常なまでに冷静だ。
針穴程度の穴を指でつつき遊んでいる。
「……と、いう事や。残り五分で道作ってくれ。俺はケルト魔術師とちゃうから空間支配の魔術は使えへん。そもそもこれ空間支配でどうにかなるんか知らんけどな」
「……久々に喚んできたと思えばこれか。一体何をどうしたらこんな状況に置かれるんだ?」
「まぁまぁそんなに言わないの。龍ちゃんは昔から無茶しいでしょ? シャツまで破っちゃって」
この空間には龍一人しかいない筈なのに、男女の声が一組響く。
我が子と話すかの様にどこか温かな声。
「無茶しいて……俺はそんなに無茶ばっかしてるか?」
「自覚無しか、龍」
「あらまぁ父親似ね」
「いや待て、俺は龍よりも全然無茶はしない!」
「ほら自覚してない。あなたも充分無茶しいよ」
のほほんとした女性の声が響き、むぅ〜っと気難しい男の声がポツリと続く。
龍は自分がそんなに無茶ばかりしているのかを必死に考える。
……少なくとも今回した事は世間一般では無茶と言う。
閉鎖空間に閉じ込められるなど無茶以外の何と言う?
「……取り敢えず時間が無いから頼むって」
「あら、母親に時間を急かすのかしら? この事を千夏ちゃんに言うわよ?」
「……それは勘弁」
クスクスと笑い声が響く。完成に弄って楽しんでいる感じだ。
本気でやめてと頼み込む龍だが、女性の声は無茶したら言うって約束したからと跳ね返す。
ガックリと下に手をつく龍である。
「安心しろ龍。俺がどうにか止めてやる」
「あら、やっぱり父親は息子に甘いのねぇ」
「……でも頭あがらへんから止めきれへんやろ?」
のんびりとした会話が繰り広げられる中、光が針穴よりも更に小さくなる。
ヤバいと焦り、あたふたする龍を見て、声だけ響く二人がやる気を出した。
「確かにヤバそうだ。どれ、やるか」
「微調整はしてね。大穴開けたら閉じるの面倒よ」
瞬間、闇が支配する空間に圧倒的な気配が二つ現れた。
空間が揺れ、今現れた二つの気配に耐えきれないか。
余計壊しそうだ。
「お願いやから慎重にしてくれや、伊弉諾に伊弉冉」
「問題無い、安心しろ」
「私ってお裁縫とか得意なのよ? それに私と諾ちゃんが組めば問題無し!」
「……どうだか。お前らの下らん夫婦喧嘩を仲直りさせるのにどんだけ手間取ったか。何年喧嘩しとった? 千年は堅いやろ?」
「……」
「や〜、それは言わないのが素敵な男性への一歩よ龍ちゃん」
ミシミシと音をたてて軋む空間。
響く会話は激しくどうでもいい。
なんでこんな場所でこのような会話をする?
ビシビシッと音がして空間に亀裂が入る。
そこに、二つの影が降り立った。
和服を着た男女、今まで響いていた声の主、伊弉諾と伊弉冉と言う。
「ともかくさっさと道を作ろう、空間が保たない」
「なんか体重が増えたみたいで嫌だわ……なんで亀裂入るのよ?」
スッと男、伊弉諾が両手を前に掲げた。
それに続いて女性の伊弉冉も何かをぶつくさと言いながら両手を掲げる。
すると目映い光が掲げられた両手から生じ光の出口を作り出す。
「……現渡」
「流石、俺みたいな五流と違う」
「冗談はやめとけ、俺達を喚べる時点で人の行ける範疇など超越している」
「……やから五流なんや。人から外れたら何もすごない」
ゆっくりと光の中へ龍は歩き出す。
が、急にグラリと中が揺れ、危うくバランスを崩して転けそうになる。
「面倒だったからちょっと手抜きよ、走ってね」
「ちょっとどころやないやんけ!? なんやこれ!? グラグラや!」
「文句言わない! 反抗期かしら?」
伊弉冉の手が振られる。
すると龍は不可視の何かに背中を押されて無理矢理走らされる。
走った道が後ろからどんどん崩れていくのは何かのアトラクションか?
「手抜き過ぎやぁ〜!」
「仕方ないじゃない、そろそろ冬物の着物出さないといけないの。早くしないと天ちゃん辺りが風邪引くわ」
「……それはないんじゃないか?」
不可視の何かに押されて見えなくなっていく龍に向かって理由を言うが、届いているかは微妙である。
大体、手を抜いた理由が理由だからあまり聞きたくもない。
やがて光の出口が閉じ、再び闇が空間を支配する。
二人の姿もすぐに消え、鳴り響いていた軋む音もなくなった。
全てが終わったのである。
カフェ・ルミナリエ。
普段は様々な年齢の客で賑わう店も、こんな夜中なら普段は人影など在りはしない。そもそも開いてない。
だが、今日ばかりは別である。学生達がテーブルに突っ伏し、グッタリとした空気を出す。
「……由佳の次は仁と龍かいな。森ん中入ってもなんでかダム着けへんし」
「……おばちゃんら騒ぎに騒いどったで、帰ってきたら一発殴らな」
突っ伏した二人の男子が呟く。その声には疲れが滲み出ており、どれだけ必死に探したか物語る。
他の学生達も然り。
疲れたが、心配で眠れもしない。
ただゆっくりと夜が明けるのを待つだけだ。
女子の何人かは頬に涙の跡もある。
バタンッと奥のドアが開き、少し厚めのコートを羽織った女子生徒が現れた。
長い黒髪を揺らしながら外へ繋がる扉へ向かう。その表情は晴れやかだ。
「……どこいくん千夏? 流石に夜中の森はうちらでも危ないよ」
一人の女子生徒が声を掛けた。
朝になったら探そう、そう言って再びテーブルに両手を投げだす。
そんな女子生徒を見てコートを羽織った生徒、千夏がフフッと笑いながら口を開いた。
「皆準備して、由佳達帰ってきたよ」
「のわっ!?」
光の中を抜けると、いきなりダムの端、コンクリートの部分に落ちた。
別に高い所から落ちたわけでもないので怪我なんてしないけど、痛い。
周りを見る。
空は暗く、星が瞬く。
巻き込まれていた人達は歓喜して誰かに携帯で電話を掛けたりしている。
「げっ!? 咲からメールが三百件来てる!?」
「ハハハ……傑作だねぇ〜」
陽野さんは携帯を見て呻き声を上げ、隣でソウが笑っている。
いつの間にか数が増えている八卦神将の皆さんは、呻く陽野さんを見て苦笑いをしながらスーッと消えていった。
「……龍さんは!?」
ハッとしてここまで俺達を送ってくれた龍さんを探す。
あの人のお陰で俺達はここにいるんだ、お礼の一つや二つは言わないと。
「……いな……い?」
周りを見るが、どこにもいない。
ただ、泣いてる大宮さんに仁さんが何か言っているだけ。
セイラもアレンもミュウさんも、沈痛な表情をしている。本当に戻っていないのか。だけど大陰と仁さんの二人だけは、そんな悲しげな表情はしていない。
まだ帰ってくると信じているのかもしれない。
「……私のせいや……私が勝手に首突っ込むから……」
「アホ、勝手にあいつ殺すなや。いつも通りヒョコッて出てくる」
「由佳やったか? あの小僧なら帰ってくるで、さっきの目見たらなんか自信満々やった。信じたれ」
自分のせいだと泣きじゃくる大宮さんを仁さんと、珍しく大陰がフォローする。
だけどやっぱり泣き止めない、私のせいやと仁さんにしがみつく。
見てるだけでも痛々しい。
「千夏に……千夏に私なんて言ったらえぇねん? 親友の好きな人が私のせいで死んだんやで?」
「……何回言わせる、あいつは俺に絶対帰るって言ったんや。あいつが約束破った事あるか?」
「……ないけど……やけど……今回は無理や」
誰も口をきけない。
なんて言葉を掛けたらいいのか分からないし、掛けてもいいのか分からない。
大宮さんの異変に気が付いた人達も、喜ぶのをやめて黙る。
「やから、あいつは簡単に死なんて」
「でも……!」
「でもなんやねん? 友達やろ、信じたれ」
「そうやで、信じたれや。……って、誰の何を信じんねん?」
「「……」」
場が凍る。
その場にいた誰もが、大陰さえも固まり、ただ一人を見つめる。
仁さんの後ろにある木から、仁さんの言う通りヒョコッと龍さんが顔を出したから。
「……どした? 由佳が泣きじゃくるなんて珍しいな。小二ん時に昔苦手やったアスパラを無理矢理仁に食わされた時以来か?」
「……アホ、無理矢理ちゃう。促しただけや」
「………………龍!?」
いつも通り、ふざけた様に笑って龍さんが大宮さんの意外な一面をカミングアウト。
和ませようとしたのかもしれないけど、見事に失敗。
だけど仁さんだけは普通に突っ込んだ。
大宮さんが感極まって龍さんに飛び付くが。
「仁ガード!」
龍さんが目の前にいた仁さんを盾に使い、見事大宮さんは仁さんと衝突。
良いように言えば胸に飛び込んだ。
「……いった! なんでガードすんねん!?」
「彼氏持ちが別の男に飛び付くなボケ。いくら昔からの友達で、理由が分かっててもいい気はせんもんや」
「やからってもっと別の方法とかあったやろ!?」
「……うっさいな、涙引っ込んだんやからえぇやろ! せっかく無事に戻ったんや、笑えや! 何泣いてんねん!」
「……!」
「珍しくえぇ事言うな、龍」
「アホ、俺は歩く名言集や」
ドンと胸を張って宣言する龍さん。
そんなのになって何がいいのか分からないけど、さっきまであった物悲しい雰囲気は消えている。
空気を変える為にしただけかもしれない。
泣くな、笑え、って言ってるし間違いないね。
「……でもどうやって抜けてきてん?」
「……さっきまで泣きじゃくっとった奴が、恐ろしい程切り替え早いな。まぁえぇ、飛び込んでギリギリセーフや。野球で言うと振り逃げぐらいギリギリセーフやった。紙一重やな」
血液型占いで俺のO型一位やったし、ラッキーやったんや、とか言って笑う。
でもその血液型占い、あの村みたいなところに行って一日以上経ってたから順位変わってるよね。
もしかしたら今日は最下位かもしれないよ。
「道兼さんも、他の人も無事やろか?」
「さぁな、褒美もらえんかったんが残念や」
「まぁ龍、俺がなんか奢ったるよ。色々世話掛けたしな」
まだ褒美にこだわっていたらしい龍さんに仁さんが言う。
仁さんよりも大宮さんが奢るべきだと俺は思う。
絶対にそうするべきだ。
昔からの仲という三人が笑って話し合っているのを見てると、なんだか日本の友達を思い出してきた。
『学院』に飛ばされてからは一度も連絡取ってないし。
俺の行ってた中学はどうなったのかな?
俺どうなったの? 転校かな?
俺が今ロンドンで魔術師やってるって聞いたらなんて思うのかな? いや、絶対に言わないけどさ。
「……どうした悠輝、ボケーっとして?」
「え? あぁいや、なんでもないよ」
長い時間ボーッとしていたわけじゃないと思うけど、それでも目立っていたらしい。
気が付くと目の前に大陰がいた。
改めて思うけど、小さいね大陰。
俺は座ってて大陰は立ってるのに、俺の頭は大陰の肩の少し下ぐらいだよ。
俺もあんまり背は大きくないし、かなり小さいね。
「そうか? じゃあうちは帰るで」
「うん、ありがと」
「『陣』がうちの協力無しで出来る様にもうちょい式神増やしといてや。ほな、杏、松葉、霞、行くで」
後ろを向いてニヤッと笑い、大陰は式神を引き連れていなくなった。
……まだ出してたんだね式神。
式神仲間? がいなくなったモモが寂しそうにうにゃ〜っと鳴いて肩によじ登ってきた。……痛い。
「んじゃ森から出よか。ミュウちゃん、呪い《まじない》解いてくれへんか?」
ずっと会話をしていた龍さんが一旦会話をやめ、ミュウさんの方を向いて頼む。
任せなさいとミュウさんは快く頷いて、森の中へと入っていく。
うん、いつも通りのミュウさんだ。さっきまでの空気に押されていた感じは消えている。
「皆さん分かってると思いますけど、この事は他言無用でお願いします。まぁ今回はマスコミも動けないでしょうがね」
龍さんが周りの人達の方をクルッと向いて話し出す。
周りの人達はあまり思い出したく無さそうだから、たとえマスコミが来ても喋らないだろうけど。
……それにしても、なんでマスコミは動けないの?
「連盟が動く、マスコミは押さえ込まれてインタビューとかどころじゃないんだ。なんか適当に情報隠蔽されて終わりって事だ」
「……怖いね」
なんか今、世界の裏を聞いた気がする。
いや、世界の裏というよりも社会の裏かな?
ともかく、もしかしたら俺が今まで見てきたニュースにもそんなのあるかもしれないって事だよね。
「解いたわよ」
ミュウさんが森から出てきて言う。
どうやって解いたのか気になるけど、教えてもらっても分からないからやめておく。
「んじゃ改めて、こっからさっさと出ましょか」
龍さんが先頭を歩き、一斉に全員が動き出す。
チラッとダムを見る。
見る限り来た時と変わりは無いけど、どこか穏やかな空気になったかもしれない。
庭に映る月を見ながら、何かを飲みながら男が隣にいる男に話し掛けた。
「……褒美、やれんかったの」
「……はい」
少し悔しそうに何かを飲む男、道兼が隣の柳田に言う。
貴族として約束は守ってやりたかったと呟き、道兼はしゃがむ。
水面に映る月を手で掬う。
勿論月には触れない。
「……この月の様に掴めぬ男だったが、良い奴であったな」
揺れる月を眺める。
波でボヤける月は妖しく、神秘的に見えた。
どこか龍と重なって見える。
ふと、道兼は何かを思い出したかの様に頭を上げた。
「如何されましたか?」
「最後に会った少年、北藤というたか。あの者、どこかで見た顔と思ったが、道長に仕えとる陰陽師に似てないかの?」
「……晴明でございますか?」
「それじゃ、成程その様な名だったか」
満足気に頷いて、道兼は立ち上がる。
手に持った尺を月に向け、また会おうぞと言って屋敷に入る。
月はただ妖しく空で輝くのみであった。
「お帰りなさい、シャツ破れてるけど何してたのよ? 赤いわよ、血?」
「……なんや千夏、早い出迎えやな」
「由佳、皆に謝れよ」
「……うっ」
森を出た先に待ち構えていたのは、学生の集団。
龍さんや大宮さんの友達だ、見た事ある。大量の武器持って集合してた人達だよね。
夜中なのにかなりいる。
なんで帰ってきた事分かってたの?
「えぇっと……なんやろ、その……迷惑掛けてすいませんでし――「チェストー!」――た、ふぁ!? いっふぁ、しふぁかんでゃ《いった、舌かんだ》!」
もぞもぞとバツが悪そうに学生の皆さんの前に立ち、歯切れが悪いけど頭を下げて謝る……んだけど途中で友達に頭を叩かれた。
なので最後の方で謝罪が強制中断、舌を口から出して痛そうだ。
叩いた友達、女子の人だけど、それから思いっきり大宮さんを抱きしめた。
ついで他の女子学生も集る《たかる》。何人かは泣いていて、大宮さんも涙が目尻に浮かんでいる。
大宮さんの場合は申し訳なくて泣いて謝ってるのかもしれない。
「……感動的やな仁」
「どこがやねん」
男子学生に囲まれながら龍さんが仁さんに言う。
龍さんも仁さんも周りに「お前らも心配掛けさすなアホ!」とか言われて叩かれているけど、悪いと自覚があるのか反撃しない。
……当たり前か。
ちょっとして、何故か男子学生の群れが左右に分かれて道を作る。
その道を通って龍さんの方へ行くのは確か……千夏さんって人だ。
リアル大和撫子の。
周りの男子学生が、仁さんも、さっきまで何か騒いでいた大宮さん達も、何故か龍さんに哀れみの視線を送る。
すると、千夏さんが龍さんを抱きしめた。
……なんで皆さん哀れみの視線?
「……ちょっと面倒事が起きたわよ」
「……後で聞く」
「……また無茶したんだってね、何回何回無茶するなって言えばいいのか教えてくれない?」
「え? あ、いやぁ、そんな無茶なんてやってへんから!」
「ふぅん、Tシャツ血で染めて無茶じゃないんだ」
「ま、まぁな! 俺は無事やか……あぁぁぁぁぁ!?」
なんか二言三言会話をした後、所謂さば折りという技が披露される。
凄い、背骨がミシミシいっている。
哀れみの視線を送る理由が分かったよ。
これは物凄い。
多分くらったら三日は動けなくなるよ。
「……バカ」
「…………も……申し訳なく思っております」
地面に倒れてピクピクと痙攣? みたいなことをしている龍さん。
今回は遊びとかじゃなくて本当に無理らしい。
何事もなかった様に立ち上がれない。
「中々シュールな光景を見れたな」
「……アレンも似た様な事してるけどね」
アレンだって変な事をミュウさんにしたり言ったりしてぶん殴れたりしてるよね。人の事は言えない。
……そういえば俺もセイラにされた事あるね。
フォルネウスに轢かれた後に思いっきりさば折りにされた。
なんとなく周りを見渡してみる。
何人かは既に森から離れていて、多分あれは帰ってるね。
また何人かは電話をして何やら喜んでいる。
そりゃ嬉しいか。
「……うん、うん大丈夫だから。うん、心配掛けてゴメン。本当に大丈夫だからさ……お願いだから泣かないで……! え? いや、あの、こっちが悪いよ、だからこう、えっと……」
陽野さんは電話越しでひたすら誰かに謝ってる。
思わず本当に頭を下げちゃってるし、『うん』って何回言ってるの?
「……はい!? ちょっと!? 問題って何よ!? 説明しなさいよ! って、あ! 切れた!?」
……横でミュウさんが怒鳴ってる。
携帯を今にも握り潰しそうだよ。ミシミシいってるからね。
何があったんだろうね? 問題とかなんとか言ってたけど、連盟に何かあったのかな?
「……どうしたミュウ? 何があった?」
「詳しくは教えてもらえなかったわ。でもなんか緊急事態が起きたとかなんとかで、お金は出すから少なくとも後二日はニホンに留まってほしいって。学院には連絡いれるから安心してくれって、そんなので満足いかないわよ!」
地面を思いっきり踏みつけて怒るミュウさん。
……元気だね。
でもまぁ意外だ。観光でもしろっていうのかな?
ミュウさんには悪いかもしれないけど、別に俺はいい、母国だし。
ちょうどいいから変態に連絡取ろう。
なんで俺を学院に送ったかみっちり訊いてやる。
「……緊急事態なぁ。なんだろなユウキ」
「……いや、俺に訊いても分からないから」
「理由を私達にちゃんと言わない辺り、本当に緊急事態だと思います」
「私達に隠してもどうせ隠しきれないわよ、なんたって『緊急』よ」
ともかく、まだ全然使ってないあのホテルで最低二日は過ごすわけだね。
何して過ごそうかな?
大した物なんて持ってきてないし。
神戸なんて知らないし、俺関東人だもん。
「まぁ今後よりも目先だ。俺はホテルに戻って寝たい、まだ一睡もしてないだろ俺ら?」
「……そうね、美容に寝不足は大敵なんだから」
クルッと踵を返して道を下り始めるミュウさんとアレン。
大宮さん達に挨拶も何も無しだけど、行くらしい。
もしかしたら話し掛け難いのかもね。夜中なのに友達とワイワイ騒いでるのは、本当に戻って来た事が嬉しいから。幸せ全開ムードってやつ。
セイラと俺も二人の後を追って歩き出す。
「なぁ〜に勝手に帰っとんねん? 水くさいな」
「ホンマやで、今度は私が見送ったるからいつ出発するんか教えぇな」
「二日暇なんやろ? 俺と由佳で色々案内しよか?」
後ろから声を掛けられて四人一斉に振り返る。
仁さんと大宮さんが前に立ちこっちを見ている。後ろの二人の友達もだ、全員ニコニコ顔で見ている。
……龍さんはまだ地面に這いつくばってるけど。
「友達の恩人や、なんかせなバチ当たるで」
「ホンマな。雷とか落ちてきそうや」
後ろにいる人達の中から誰かが言う。
皆頷いて、なんか色々お返しするとかなんとか。
別に大した事はしてない……事もないけど、お礼って言われるとなんかくすぐったいね。
「……そう? それじゃあこれ、携帯番号よ。借り物の携帯だけど今は私達の物だし別に大丈夫でしょ。また後で連絡してね」
ミュウさんが大宮さんに携帯番号を送信。
赤外線って便利だね……じゃなくて、反応が早いねミュウさん。
もしや狙ってた?
番号を教えてそれじゃあと今度は挨拶をして再び歩き出す。
……なんか眠くなってきたけど、シャワーも浴びたいなぁ。
「あ! ちょっと待って! 俺もそろそろホテルに戻らないと! それじゃあ、お世話になりました!」
後ろから慌てて陽野さんが追い掛けてくる。
大宮さん達に礼をする辺り、どうでもいいけど礼儀正しい。
ハァと言って追い付くと、なんか色々と困った顔をしてため息をつく。
曰く、友達に泣きながらの説教をくらったらしい。
泣きながらって事は友達じゃなく、実は彼女じゃないのかな? 男友達が泣きながらってのはちょっとキモいからね。
そんな話をしながら歩き、十字路に差し掛かったとこで別れる。
「それじゃあ、ほんと色々とお世話になりました! また会えるといいですね!」
にこやかにそう言って去っていく。
なんとなく、この人ともまた会いそうだ。
大宮さんだってまさか再会するとは思わなかったし、大いにあり得る。
世界とは意外と小さいね。
ホテルに向かって歩くなか、俺も含めて全員が何度も欠伸をする。
一睡もしないとあんな落武者軍団と戦ってたんだ、ここまで体力がもったのが凄い。
ホテルが少し見えてきた。まだ寝た事ないから分からないけど、ベッドはフカフカがいいな……
暗闇に小さな明かりが一つ。フワァッと宙に浮かび、頼り無い明かりで部屋を照らす。
照らし出されるのは円卓。
周りに幾つもの影が座っており、殺伐とした空気が部屋中を支配する。
「……イタリアのヴェネチアとアメリカのマイアミ、日本の滋賀、ヨルダンでも起きた」
円卓を囲う影の一つから声が響く。
影のみで姿は無い。
魔術師が遠方の者と連絡を取り合う時に使う『投射』という術である。
霊体によりできたその影に術者の面影はあまり無い。
ただの人影にすぎないが、声は発する。
今しがた響いた声を聞き、周りの影はざわつく。
ここはロンドン、連盟本部の一室。
魔術界を牛耳る連盟の最高階位の者達が会議をする場所だ。
「査定でのランクは全てBB、とくにこれといった物は何も盗まれてはいない」
「……わざわざ組織を潰したのに何もか?」
先程響いた声が更に続ける。
それを聞き、一つの影が質問をするが、答えはイエスのただ一言。
一斉に周りから唸りの様な声が響き、顔は分からないが多分、全員渋い顔をしているに違いない。
「世界中で同時に四件もの魔術組織が潰されるなど前代未聞だ、何か犯人などの手掛かりは無いのか?」
「それについては現在調査している三人の『審判者』及び役員より幾つか受けている」
「何かネ?」
「全て共通点がある。秘蔵の魔術書も何も盗まれていない事、その場にいた組織の者は皆殺しにされている事……最後に、壁に血で簡易な世界樹と、その下に蛇が描かれている事」
先程から説明に徹している声が言う。
瞬間、部屋は静寂に包まれる。誰もが何かを理解し、誰もがその理解した物が如何に面倒な事かを知っているからだ。
「……世界樹に蛇かネ。久しいナ、いつ以来ダ?」
「最後に表に出てきたのは百五十年前だ」
一つの声が部屋に木霊するが、周りは何も反応しない。
沈黙し、ただ影が揺れるばかりである。
何も言えないのかもしれない。
「アミリア、君から皆に言いたまエ。」
「……何故私が?」
「君が一番情報を持っているだろウ? 前の突発型の時も何か少しだけ奴らについて掴んだと聞いているゾ? あぁそうダ、奴らの名前も言ってほしイ。口に出すか否かは差が激しいからネ」
「……私は何も掴んではいない。ただ、名前はいいわ、言ってあげましょう。『嘲笑する蛇』よ、知ってるでしょうけど」
凛とした女性の声が響き、その発せられた言葉を聞いて影達が大きく揺れる。
出来れば一生耳にしたくなかった言葉、それがこれなのだ。
「……そうダ、嘲笑する蛇ダ。いいかネ皆、嘲笑するのダ。意味は分かるカ? 我々を嘲笑っているのダ。今回何故ここまで派手な事を起こしたのは知らなイ。だがしかシ、これは明らかな宣戦布告だヨ。我々に対するおちょくりもいいとこダ。君達は憤慨しないのかネ? 奴らは我らをコケにしてるのだヨ!」
ゆらりと一つの影が立ち上がり、熱く拳を振り上げる。
表情は分からないが、確実にその目は怒りで燃えているに違いない。
自分達に対する挑発、これに怒りを覚えずして何が起こる? 魔術師とは誇り高い生き物だ、周りの影とて怒りは覚えている。
が、今回に関しては少々慎重にいかなければならない。
「……アミリア、君だってそうだロ? その剣で奴らを貫きたいのだロ?」
「……今回の事件はおそらく下位の者達が勝手に起こした事です。幹部クラスは何も指示をしていないし、おそらく犯人全員を捕えても有力な物は手に入らない。ここは慎重にいくべきです」
「下位? BBとはいえ数十人もいる魔術師を皆殺しにする者が下位だト?」
「単独の行動ではない筈。最低一つに凡そ五名、計二十数名の犯行でしょう。相手の狙いが分からない上に有力な情報も無い、ここは厳戒態勢をして時を待つしかないです。勿論、その間も調査は続けます。無下に動いたら文字通り、奴らに嘲笑されますよ?」
アミリアが投射している影が鋭く言い放つ。
立ち上がっていた影は押し黙り、再び部屋に沈黙が訪れる。
「……アミリアの言う通りだ。君の言いたい事も分かるが、まだこちらも動くのは早すぎる」
「……代表が言うなら仕方ないネ」
「分かってくれるか。ならば今回の臨時会議は解散だ。アミリア以外の『審判者』には私が伝えておこう」
一つの声が沈黙を破り、会議の終了を伝える。
すると円卓の周りにある影達が大きく揺れ、どんどんと姿を消していく。
立ち上がっていた影も文句一つ言わず、静かに消えた。
「……アミリア、君は何故幹部クラスが関与してないと思うのだい?」
次々と影が消える中、円卓の一番奥、会議の終了を告げた声がアミリアの影に問い掛けた。
『代表』と言われる男の声だ。
「……真の実力者は自らをそう簡単に公に出しません。下位の者程自尊心が強く、自らの立場を誇示する。蛇を描いたのは己の誇示です、そんな者が上に立っていたらとっくに奴らは我らに潰されているでしょう?」
「……成程な。ありがとう、下がっていいよ」
ゆらりとアミリアの影も消え、遂に部屋には一つの影だけが残った。
代表と呼ばれた影だ。
影はゆらりと動き、腕を組む。
「……冬眠は終わったのか、蛇め……」
ゆらりとその影も揺れて消えた。
円卓を照らしていた光も消え、完全に闇が支配する。
それはどこか、崩れて消えた空間と似ている気配であった。
『THIS IS IT』を見ました、その格好良さに鳥肌ばっか立っていた神威です。
どうでもいいですが、授業の体育のサッカーって楽しいですよね。
……さて、取り敢えず呪力災害を浄化という仕事は終わったので長編なる物は終了したのか……な?
でもなんとなく日本に残ってもらいました。
せっかく神戸に来たんだ、神戸らしく締め括ろうとちょっとした小ネタでも挟んでロンドンへゴーです。
お家へ帰るまでが遠足、もとい長編かもしれません。
グダグタになる可能性しかありませんが。っていうか既にグダグタだ。
物語とリアルの時期が非常に近いです。
思ったんですが、この時期の夜中に六甲山の麓なんて寒すぎて死にます。
六甲山の頂上付近は関西なのに気候は亜寒帯もどきです。寒いです。六甲山の頂上付近だけ北海道と似た様な気候です。
いつの間にか三十万アクセスを突破していました。
……死ぬ気で精進致します。
感想、意見、アイデア、誤字脱字の報告、キャッチコピーなる物などをひたすら募集しています。
一緒にこの物語を作っていってくれれば幸いです。
それではまた!
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