表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ワンライ自選集

バウワウ

作者: yokosa

【第32回フリーワンライ】

お題:何度言えば信じてくれますか


フリーワンライ企画概要

http://privatter.net/p/271257

#深夜の真剣文字書き60分一本勝負

 リード線の先が、尋常ではない強さで道を逸れようとするのを右手に感じて、拓真は「またか」とうんざりして呻いた。

 意地でも進路を変えようとしているのはシロ。拓真の家で飼ってる犬だ。四肢を突っ張って、道を引っ掻いて、特に鍛えもしてないはずなのに妙に力強い。

 平々凡々な名前から推測出来る通り、体色は真っ白で、年齢はおそらく三歳。ふらふら彷徨ってるところを拾ったから、詳しくはわからない。犬種も同様だ。最初は両手の平に乗るほどの大きさだったのが、いつの間にか中型犬くらいのサイズにまで育った。その割りに容貌はチワワのようで、どう見ても犬でしかないのだが、その大きさと相俟って犬だと思えない瞬間があった。

 真っ黒い瞳を正面からじっと見つめていると、何かを訴えてきているように思えることもある。

 しかし、こうやって人間様の両手を引き千切るほど全力で引っ張ってるところなどは、やはり犬なのだなと実感する。

 拓真はあきらめの境地に達しながら、つんのめらないようバランスを取ってシロの後に続いた。

 シロには散歩の度に行きたがる場所があった。


 シロはいつでも何かを探すように鼻をひくつかせ、隙あらば地面を掘り返す犬だった。

 冗談ではなく庭を穴だらけにした挙げ句、隣近所にまで被害を及ぼしかけたこともあった。その時にこっぴどく叱って穴掘りの癖だけは矯正した。

 以来、シロは掘りたい場所があると、こちらの注意を引いてから目当ての場所を前足で叩き、一声鳴くようになった。

 ここを掘れと。

 鳴くのも近所迷惑だからとやめさせようとしたが、これだけは頑としてやめようとしなかった。近頃は成熟してきたせいか頻度が下がったから、拓真としてももう矯正するつもりはないが……


 シロはほとんど飛び込むようにして地面をタッチすると、その場をぐるぐる回りながらワンと吠えた。

 ここに来るといつもそうする。土を叩いて、ワンワンと鳴く。昨日もそうだった。たぶん明日も。

 拓真は頭や肩についた葉っぱを手で払い落としながら、

「掘らねえよ」

 と言った。

 散歩コースを逸れて藪に飛び込むのは毎度のこととはいえ、頭から草木に突っ込むのは未だに慣れない。

 ふと考える。一体いつからこんなことを繰り返してるのだろうか。

 それは確か一ヶ月ほど前だった。気紛れにいつもと違う道を通ったら、突然走り出してここまでやって来たのだ。不意打ちに大きな音でも聞いたようにびくりとシロが跳ねたのを覚えている。

 それからずっとだ。何度もコースを変えようと努力――努力が必要なことだったのだ――したが、シロは必ずここへ向かった。

 拓真自身、うんざり半分興味半分でいい加減掘ってやるべきかも知れないと思わなくもないのだが。こういうのは人間が折れて一度言うことを聞くと、犬は調子に乗って次々同じことを繰り返す、と何かで読んだ覚えがあって、気が咎めるのである。

「掘らねえよ。ほら、帰るぞ」

 もう一度言って、軽くリードを揺らすと、不承不承シロが戻ってくる。諦めがいいのか、毎日繰り返すから強情だと言うべきなのか。

 所詮はその程度の欲求ということなのだろう。そう拓真は納得している。


『大変な発見です!』

 テレビ画面の中で、有名レポーターが唾を飛ばしている。どこかへ取材に出ているらしく、背後に藪が見えた。その手前にはカラーコーンが置かれ、立ち入り禁止のビニールテープが張り巡らされている。

 ソファーに背中を預けてぼんやりしていた拓真は、それを見て「ん?」と飛び起きた。

 見覚えがあるような……

『私は今、――町の二丁目にいます。ここで世紀の大発見がありました。ちょうど、この背後の藪でです』

 それにははっきりと覚えがあった。というか、このところ毎日引き連れられて行かれる場所だ。

 そこで映像が切り替わる。ナントカ大学の長ったらしい肩書きの教授が、記者会見をしている模様だった。スピーチ慣れしていないのか、原稿を読み上げるだけなのによくつっかえるし、その癖中身が婉曲で判然としない。映像が再び切り替わり、何か得体の知れないものの一部を映し出した。

 身を乗り出した拓真は、その銀色の表面を見ながら、耳に入ってきた言葉を吟味した。

「要するに、宇宙船が見付かった、ってことか?」

 拓真は呟いて、無意識に目で探した。犬っぽくないシロ。

 探すまでもなく、シロは彼の右脇に寝転んでいた。前足に顎を乗せて、心なしかむすっとしている。目を合わせる。もしかして、何か言いたいことでもあるか?

 一瞬ちらっとこちらを見たシロは、しかし、黙ってプイと横を向いた。


『あれは半自律軌道する小型着陸艇だ。大気圏突入のショックで機能を一部ショートさせたあれは、自己保護のために着陸の痕跡を隠滅し、地中に潜り込んだのだ。私は空中で放り出され、奇跡的にも無事だったが、あれとコンタクトする手段を持たなかった。私が掘り起こせなかったのは残念だ』


 などと、そっぽを向いたシロの後頭部を見ながら、勝手にアフレコをしてみる。

「とか思ってたりしてな」

 拓真はあまりにも突拍子のない想像に、自分でウケて大声で笑った。笑って、笑って、それに紛れて、

「そうだな」

「――え?」

 何者かの声を聞いた気がして、拓真はリビングも見回した。拓真以外には誰もいなかった。

 ただ、妙にギョロギョロした目のシロが、じっと拓真を見つめていた。



『バウワウ』了

 ちょっと期間開いたけど、そんなに勘が鈍ってなくて何より。

 内容? 知らんな。ストレートに花咲かじいさんやっても良かったんだけど、なんとか上手く捻ろうとしたら、うっかり捻挫してしまった感じ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ