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噂の噂

作者:樒 七月
 夏休みに入って一週間。
 妹が自由研究のテーマを決めてから3日。
 小学生3年生の自由研究だから大したものではないと思っていたけど。
「廃園の噂、か」
 廃園の噂が印刷された紙を見て眉を寄せた。なんでこんなものをテーマに選んだんだ。
 近くにある廃業となった遊園地。ホラースポットとして有名だった。
「ジェットコースターに観覧車にミラーハウス。ホラーなものもあれば、怪談かどうか微妙なのもあるな」
「学校で噂になってて、このテーマは人気だったんだよー。子供だけだと危ないから、大人と一緒なら良いって。で、お兄ちゃんと一緒にやるって言ったら先生は良いよって」
「責任重大だな」
 隣で紙を覗き見ていた一郎はからかうように言った。他人事みたいに言っているけど、一郎も当事者だ。そのために呼んだんだからな。
 ホラー耐性がある一郎なら適任だ。よくそういうものに巻き込まれるみたいだけど、いつも切り抜けているらしい。守護霊が強いとかあるんだろうか。
「危なさそうなのは止めておこうか。ミラーハウスとか観覧車とか。この中で問題なさそうなのはジェットコースターか」
 確かに、ジェットコースターは「事故があったらしい」という噂で、真実でも嘘でもホラー要素は低い。幽霊が見えるとかではないし。
 あと、調べやすそうだ。
「優、それでいいか?」
「うん。先生は全部調べるのは無理だから一つでも良いって」
「じゃあ、優は自由研究を一緒にやる友達と図書館で新聞を調べる係な。俺たちは近所の人に聞いてみる」
「わかったー」
 優は早速友達の家に行くようで、母親に水筒を頼んでいた。
 図書館は冷房が効いているけど、熱中症には気を付けないと。口煩く言った甲斐がある。
 さて、と。俺たちは聞き込みに行くか。
「一郎、廃園の関係者に知り合いはいるか?」
「確か汐里の従姉妹がアルバイトしてたような」
 一郎はスマホで電話をかけた。記憶が正しくても間違っていても、手がかりにはなりそうだ。
「汐里? 今大丈夫か? 優ちゃんの自由研究で裏野ドリームランドの噂を調べてるんだけど。従姉妹がアルバイトしてたって。……やっぱり。話を聞くことができるか?……ありがとう。じゃあ、また後で」
 一郎が電話をしている間に、廃園の噂についてインターネットで調べてみた。事故があった、というもの以外にもありそうだ。
 人が死んでいる、というのは勘弁してほしいが。
 目につくものをメモ用紙に書き留めてみたけど、やっぱり何かしらの事故があった、というものだった。
 とりあえず、実際に廃園で働いていた人から話を聞いてみよう。

アルバイトの話
「ジェットコースターの事故? 私が働いていた間で2回あったかな。緊急停止で乗客が10分間逆さまになったままだったっていうの。新聞にも載ったはずだよ。あとは、レールの上にいた整備士さんが、稼働していたコースターに接触しそうになったっていうやつ。これは報道されなかったかも。私が知ってるのはその2つだよ」

アルバイトの上司の話
「僕は正社員だったんだけど、あの遊園地は潰れる気がしてた。いろいろ噂があるけど、問題が多かったのは確かだからね。ジェットコースター? ああ、いろいろあったよ。緊急停止で逆さになったのと整備士の話は聞いた? じゃあ、あとは一回転するところで回りきれなくて逆走したことくらいかな。死亡事故? ジェットコースターで亡くなった人はいないよ」

近所の人の話
「あの遊園地のこと? 早く取り壊してくれないかしら。不良の溜まり場になってるみたいだし。噂? 事故? 何度かニュースになってたけどねぇ。誰かが亡くなったというのは聞いてないわね」

オカルトマニアの話
「裏野ドリームランド? あそこはいろんな噂があるよね。実際行ってみたけど、いるよ。何って? 幽霊だよ。まあ、廃墟とか廃園には集まりやすいっていうしね。本当に誰か死んだか? 聞いたことないけど。何? そんな噂があるの?」

「死亡事故はない、ってことでいいな。新聞にも載ってなかったし」
 優たちが調べてきた結果によると、聞いた話と同じだった。小学3年生だから読める漢字が少ない。『裏野ドリームランド』、『事故』というワードで検索した結果を印刷してくるように言っていた。
 死亡事故がなくて良かった。小学生の自由研究で、人が亡くなったという報告は気分が悪い。
 優は明日友達と家で研究結果をまとめるようだ。
 何とか無事に終わって良かった。

***

 圭太には言わなかった。言えなかった。
 圭太はホラー系が苦手だから。
 以前に汐里から聞いていた裏野ドリームランドの噂。汐里の従姉妹がアルバイトをしていたということを覚えていたのは、その噂を覚えていたからだ。
 噂になっていたものは、実際にあったことが改変されているものが多かった。
 『度々子どもがいなくなる』のは、その噂を聞いた親が子どもを置き去りにしていくことが増えたのが真実だ。姥捨て山じゃないけど、邪魔になった子どもを遊園地に置いていく。
 『ミラーハウスから出てきた人は別人のようだった』というのは、ミラーハウスの中で犯罪が行われていたからだった。その被害者は、別人のようになっていた。どんな犯罪だったかは聞いていない。犯罪の被害に遭うと、多少なりとも変わるだろう。
 『メリーゴーラウンドが勝手に廻っていることがある』というのはただの機械の故障だ。
 ちなみに、『観覧車の近くを通ると声が聞こえる』というのも放送設備の故障だったりする。
 噂の中に隠された犯罪。ホラーではなく、ただの犯罪だった。
 圭太が選んだ『ジェットコースターの噂』。どんな事故だったか、誰に聞いても答えが違う。
 そりゃそうだ。ジェットコースターの噂は唯一の死亡事故だ。しかも目撃者はいない。
深夜の死亡事故。レールを点検していた従業員が、誤って転落した。翌朝、警備員が血だまりの中で倒れていたところを発見されたが、その時には死亡していた。
深夜の転落事故は報道されなかった。自殺か事故かわからないまま、人に知られることはなかった。
「こういう話って、当事者死亡なのに何で知ってるのかって矛盾があるよね」
「まあ、今回は発見者がいるからな。行方不明ってわけじゃないし」
「でも、私たちは知っている」

俺は殺されたんだ。
事故じゃない。
睡眠薬で眠らされて、レールの上から落とされた。
あの遊園地には黒い噂が多かったからな。嘘のものもあるけど、本当のものもある。
真実が知りたいなら、教えてやる。
その代わり、俺の……

「「お断りします」」
ずっと後ろをついてくる男に向かってお守りを投げ付けた。
男は消えていなくなった。
いつも持ち歩いているお守りは、知り合いの住職のお手製だ。効果抜群で、何度か付いてきたモノを退治してきた。
今回付いてきたものは。
ジェットコースターのレールから転落して死亡した従業員だった。やっぱり現地で噂をしたのは良くなかったか。
汐里はまとわりついていた子どもたちに手を振っていた。
俺たちに付いてきてはいけない。
俺たちには何もできないから。
助けてあげることはできないから。
だから。

呪ってやる。

「だから、そういうのが駄目なんだって」
 そういうのは退治するしかないんだから。
成仏できたかもしれないのに。
圭太には絶対に言えないこと。幽霊が見えること。
そして、老若男女問わずに消滅させることができること。
本当に怖いのは人間っていうのは、こういうことなんだろう。

裏野ドリームランドのジェットコースターの噂。
真実は誰も知らない。

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