裏切り者 9
結局、ドッジボールは今日も決着がつかなかった。トンフィーも他の皆も倒され、メルメルはたった一人になっても諦めず、どんどん敵を倒していった。そしてついにドミニクと一対一となったところで、残念ながら時間切れ(前に夜遅くまで遊んで、今度夕方五時を過ぎたらドッジボール禁止令をペッコリーナ先生に出されているんだ)になってしまったのだ。
疲れきってとぼとぼと重い足を引きずるようにトンフィーは歩いていた。手にはやはり「命の石と死者の復活」が握られている。トンフィーは暗い気持ちで本を見つめた。
――メルメルと一緒にいる時はいい。心配事も薄れて楽しい気持ちでいられる。だが、一度そんな時間が終わってこうして一人家路につけば、その楽しかった反動でよりいっそう不安な気持ちでいっぱいになる。
「強い力……」
この本に書いてあった強い力の持ち主とはどんなものか? 能力に秀でたもの、強い力を持っている者、いずれにしても曖昧な表現だ。
「高い能力……」
――ソフィーはどうか? 果たして高い能力を持ち得ているのか……。
魔法に関しては、トンフィーの知る限りかなりの能力を持っていると言えた。トンフィーが園で新しい魔法を習ってくると、ソフィーはいつも実に上手にやり方を教えてくれるのだ。そして、ある時などは――、
「トンフィー、魔法に必要なのは基本的に集中力と、想像力だよ。集中力は言うまでもないが、想像力はね、要するにいかに頭の中にその魔法をイメージ出来るかということなのさ」
この頃まだ少し元気だったソフィーはリビングの椅子に腰掛け、魔法を習い始めたばかりのトンフィーにあれこれとアドバイスしていた。
「魔法をイメージ?」トンフィーは首を傾げる。
「例えばファイヤーボールの魔法なら、頭の中で火の玉を思い浮かべる訳だけど、その火の玉をいかにリアルに想像出来るかが重要になってくるのさ……。こんな風に――」
ソフィーが目を瞑る。すると、パッとソフィーの目の前に火の玉が現れた。
「わ~……」
トンフィーは目を丸くして火の玉を見つめる。すると、火の玉はどんどんどんどん大きくなってきて、すぐにトンフィーの背丈と変わらない大きさになってしまった。
「す、すごいや……!」
「あ、あちち!」
ソフィーが叫び、パッと火の玉が消え失せた。小さく床から煙が上がっている。
「あららら~」絨毯に出来た焼け焦げを見て、ソフィーは頭を掻いた。「部屋の中でファイヤーボールはまずかったか……」
「で、でもとってもすごかったよ母さん! それに――母さんは今、呪文も唱えずファイヤーボールを出したよね? どうやったの?」
ソフィーは得意げにニカッと笑った。
「本来――呪文とはイメージ力を高める為や気持ちを集中させる為に唱えるもので、言わば補助的な役割で使う物なんだ。だから、人によっては変わった呪文を唱える者もいるだろ?」
トンフィーは目の玉を上にして考える。
(変わった呪文? ……そう言えば――)
「確かに……。ペッコリーナ先生もみんなとは違う呪文を唱えてたよ!」
興奮したように叫ぶトンフィーに、ソフィーは笑って頷いた。
「そうだろう? その人が集中しやすい呪文ならなんだっていいのさ。中には指で印字を書く人なんかもいる……」
言いながらソフィーは両手の指を様々な形に組み替えて見せた。
「へ~……。でも、母さんはさっきまったく呪文を唱えなかったよね?」
トンフィーは首を傾げてソフィーを見上げる。
「えへん! まぁ、要するに能力の高い者は、呪文を使って集中しなくとも魔法を使えるという事さ!」
人差し指を立てて、ちょっぴりえらそうにしている母親を、息子はキラキラとした目で見上げた。
「すごいな~母さん……」
すっかり感心してしまったトンフィーを見て、ソフィーは段々調子に乗ってきてしまったようだ。「よーし……。もっともっと凄いの見せちゃおっかな~」
「す、凄いの?」
ドキドキしながら見つめると、ソフィーはニッっと笑った。そして次の瞬間、
「――わ!」トンフィーは目を見開いた。「か、母さん……。ど、どこへ――」
突然、目の前にいたソフィーの姿が消えてしまったのだ。トンフィーが青くなってキョロキョロしていると、
「と、トンフィ~」
家の外から情けない声が聞こえてきた。トンフィーが慌てて外に飛び出すと、
「――あ、あれ?」
ソフィーの姿はない。トンフィーは首を捻る。
「ここだよトンフィ~」
「か、母さん!」
何と屋根の上にソフィーが座り込んでいるではないか! トンフィーは驚いて目を丸くした。
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