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レジスタンス 9
 勢いに乗ってついメルメルが言ってしまうと、グッターハイムは一瞬目をしばしばさせた後、大声で笑い出した。
「いい度胸だお嬢さん! ペッコリーナ先生のおかげで立派な判断が出来るようになってるじゃないか! ガハハハハハハ!」
 嬉しそうなグッターハイムとは正反対に、ペッコリーナ先生はとても嫌そうな顔をしている。
「子供だから良く分かってないで言っているだけよ。でなきゃ戦争も経験していないのに、レジスタンスに入るなんて考えるわけないわ。遊びじゃないのよ」
 ペッコリーナ先生の馬鹿にしたようなセリフを聞いて、メルメルは思わず怒りで震えた。
「ちゃんと分かってるわ! 大好きなおじいちゃんをさらったのは悪魔の兵隊なのよ! レジスタンスに入る理由なんて、それだけで十分よ!」
 余りの怒りに、メラメラと瞳の中の炎を燃え上らせているメルメル。その様子を見て、皆思わず息を飲んで黙ってしまった。沈黙の後、グッターハイムが静かに口を開いた。
「大人だからって正しい判断が出来るわけじゃない。子供にだって選択の自由はあるだろ。学ばせると言うなら、別に園でなきゃいけない理由は無い。戦いの中でだって学ぶ事は出来るさ……」
 ペッコリーナ先生は顎に指先を当てて考え込んでいる。メルメルもトンフィーも期待の眼差しでその顔を見つめた。しかし、
「承諾出来ないわ。戦いの中で学ぶ事なんて限られているもの。ちゃんと園に通って、もっとたくさんの事を学ぶべきよ。おじいちゃんは必ず私達が救い出すから、安心して待っていなさい」
 メルメルは大いにがっかりしてしまった。昔みたいに、地面に寝転がって両手両足をバタバタ(それにはプラムじいさんはいつも参って根を上げてたんだ)させたいくらいだった。   
 さすがにそれはやらないにしても、メルメルは最後の抵抗を心みた。
「お願いよ先生。おじいちゃんを助け出したら、また園に通ってちゃんとお勉強するから!」
 ペッコリーナ先生は無言で首を横に振る。メルメルは、さすがにこれは無理そうだと諦めて溜め息を吐いた。横を見るとトンフィーは相変わらずしょげてシュンとしていた。ペッコリーナ先生はそんなトンフィーの様子をちらりと見て、それから何かにふと気づいた様に窓の外に視線を移した。
「すっかり暗くなってしまったわね。あなたはもう帰りなさい。私が送るわ」
 トンフィーは慌てて、「え、で、でも僕……」
 困った様な顔で見つめられて、メルメルは諦め顔で首を横に振った。トンフィーはがっくりと肩を落とした。
「ごめんねメルメル……。僕、何だか余計な事しちゃって……」
「いいのよトンフィー……。ありがとう」
 ペッコリーナ先生がそんな二人の背中を、優しくポンポンと叩いた。
「ほら! そんなしょげないのよ。おじいちゃんの事は私達に任せて。おじいちゃんが帰って来たとき、素敵な笑顔で迎えてあげなきゃ駄目でしょう? ほら、二人とも笑って!」   
 メルメルもトンフィーも、ちょっと無理やりに口の端を上げてみた。
「それにね、こう見えても私達ってとっても強いのよ!」
 悪戯っぽくウインクしながら言われて、メルメルは無理やり上げた口の端がヒクヒクしてしまった。
「さ、帰るわよトンフィー」
「あ、僕……一人で帰れます。すぐ近所だから……」
 そう言いながらトンフィーは肩を落としたままで玄関に向かった。
「あら大丈夫? 気を使わないでいいのよ? 久しぶりにソフィーの様子も見てみたいし……」
「でも、先生が来たら母さん何事かと思ってしまうから。最近、余り具合も良くないし、心配させたくないんです……」
 ペッコリーナ先生は心から心配そうな顔をしている。
「そう……。それじゃあ気を付けて帰ってね。前にも言ったけれど、何か困った事があればすぐに言うのよ?」
 トンフィーは一瞬だけ泣きそうな顔になったが、すぐ笑顔になって頷いた。ドアを開ける寸前で振り返り、メルメルの顔をチラッと見る。
 メルメルは――何故かキラキラと瞳を輝かせていた。
 トンフィーは一瞬驚いてしまったが、何事もなかったかのような顔でドアを開け外に出た。二匹のトラ猫とじゃれ合っていたアケが気付いて、置いて行かれてなるものかと慌てて飛んで来るのを待ってから、「それじゃあ、さようなら……」と少し寂しそうに言ってドアを閉めた。
(ソフィー母さん具合が悪いのね……。それじゃあトンフィー大変だわ。普段だって食事や洗濯や掃除をほとんど一人でやっているのに。やっぱり誘っては駄目ね……)
 メルメルはしばらくぼんやりとトンフィーの消えたドアを眺めていた。
「王子様は帰っちまったか……。たくっ、いい加減頑固だな、ペッコリーナ先生は」
「頑固じゃなきゃ、教師なんて務まらないのよ」ペッコリーナ先生は悪びれもせずそう言って、今度はメルメルの方に顔を向けた。「さて、さっき仕入れて来た情報を聞かせて貰えるかしら?」
 メルメルはそう言えばそもそもその情報とやらを隠した為に、大目玉を食らったのだという事を思い出した。小さく溜め息を吐いて、仕方なく先程ピンクおばさんから聞いてきた、ハゲタカやら斧を背負った大男やらの話を二人に聞かせた。するとああだこうだと、大人二人は頭を突き合わせて相談を始めた。
「……少し疲れちゃったから、お部屋で寝ても良いですか?」
 しばらくしてメルメルが言うと、ペッコリーナ先生は哀れんだ目をこちら向けた。
「色々あったものね……。あったかくして、ゆっくりお休みなさい」
「お休みお嬢さん。夜泣きするなよ」
 二人に頷いて見せて、メルメルはソファーから身を起こし自分の部屋へと向かう。部屋のドアを開けようとした時、ふとドアの横に置いてあるテレビに目がいった。
(しばらくミラークルクルマンも見られないわね……)
 などと考えながらドアを開けると、足元をピューっとミミとシバが通り抜けて行った。二匹はメルメルより先に部屋に入ると、すぐさまフカフカベッドの上で、気持ち良さそうにコロコロ転がった。メルメルも部屋に入り、後ろ手にドアを閉めた。
「まるで飼い猫じゃない! 一緒にお布団で寝る気なの?」
 ベッドにボフンっと横たわり、ミミとシバを抱きしめながら目を瞑る。
「……ハー。本当に疲れちゃった。出来ればこのまま、あなた達と眠っちゃいたいくらいだけど……」
 しばらくそうして黙った後、メルメルはパッと目を開いた。その大きなクリクリの目はキラキラと光り輝いていた。
「行かなくちゃ!」


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