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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

キグルミタチノ遊園地

 裏野ドリームランド。
 数年前に廃園になったこの遊園地には奇妙な噂が存在する。
 曰く、『毎月月末の深夜、遊園地に大量の着ぐるみの群れが出現する』だそうだ。
 着ぐるみ達は何をしているのか。何のために廃園になった遊園地に集まっているのか。いろんな噂が飛び交っているが、真相は分からない。

 今回、俺はその裏野ドリームランドの噂を追いたいと思う。
 とある雑誌の新人ライターとして入社した俺だが、未だに一つのスクープも掴めていない。
 そのことでいつも上司に怒鳴られている。あのクソ上司め……見てろよ。この噂を解明して、絶対に見返してやるからな! そしたら立場は逆転して、あのクソ上司をあごで使ってやる……!

 というわけで、裏野ドリームランドの噂を追求したいんだが……どうしたものか。
 インターネットを見てみても真相なんかあるわけもなく、試しに昼間に裏野ドリームランドに行ってみたが、ただの廃園になった遊園地だ。着ぐるみどころか人ひとりいない。
 やはり、噂通りの月末の深夜に行くしかないようだ。

 さて、行くとしても普段の格好で行くのはまずいだろう。理由は分からないが、着ぐるみを着た人が集まっているんだ。バカ正直に普段着で行って、正面から取材なんかしたら門前払いをくらいそうだ。
 木を隠すなら森の中。俺は知り合いに頼んで着ぐるみを調達した。これで潜り込める。潜入取材だ。あとは月末まで待つだけだ……!


 ーーーーー


 月末になり、俺は裏野ドリームランドに向かって車を走らせていた。後部座席には着ぐるみが準備されている。

 裏野ドリームランドは山奥を開拓されて作られた遊園地だ。そのため、行く手段は車かバスで、どこから行っても時間がかかる。
 裏野ドリームランドについて軽くネットで調べてみたが、開園当時はそこそこ人気があったらしい。
 しかし、アトラクションの事故が多く、死者も出ている。廃園の理由もそれによるところが大きいらしい。
 廃園が決まった時は、ファンからの存続を願う声や、市長の取り壊して何か別の物を建設する案もあったらしいが、いつの間にか両方とも無くなり、結局何もされずに寂れた施設が残った結果になっている。

 俺は『立ち入り禁止』のチェーンを外し、駐車場に車を停める。
 他に停めるところもないし、深夜に少しだけだ。バレることはないだろう。
 俺は後部座席のドアを開け、駐車場で着ぐるみに着替えようとする。

「なんだ、これは……?」

 知り合いに何でもいいからと着ぐるみを借りたんだが……これは何の着ぐるみだ? 犬? 猫? 狐? 狸? なんだかマヌケそうな顔をしている。……まあ、なんでもいいか。
 俺は少し手間取りつつも着ぐるみを着て、裏野ドリームランドに向かった。

 駐車場から遊園地までは少し距離がある。その距離を着ぐるみを着て歩くのは正直しんどい。失敗したな。
 俺は遊園地までの道を歩きながら、少し不安な気持ちになっていた。
 噂の解明などと意気込んで来たが、本当に廃園となった遊園地に着ぐるみの集団はいるのか?
 所詮噂だ、都市伝説だ。信憑性は低い。
 そもそも、その着ぐるみの集団はどうやってここに来るんだ?
 ここは車でも時間がかかるぐらい山奥だ。
 なのに、俺が停めた駐車場には俺以外の車は無かった。それどころか、この周辺を走っていて、ただの一度も車を見かけていない。
 噂自体がガセの可能性の方が高い。

「はあ……、ならなんだって俺はこんなとこまで……」

 知り合いに着ぐるみを借りて、馬鹿にする上司に啖呵を切って、同期の制止まで振り切って、俺はこんな深夜の山奥を着ぐるみの格好で歩いている。
 ……なんて馬鹿馬鹿しい。

「帰るか……」

 遊園地の入口が見えるところまで来たとき、俺の心はすっかり沈んでいた。
 しかし、目の前の光景を見たら、そんな気持ちは一瞬でどこかへ行き、俺の心は一気に高揚した。

 そこには夢のような光景が広がっていた。
 右を見ても着ぐるみ、左を見ても着ぐるみ。辺りにいるのは着ぐるみの群れ。
 あちこちに装飾が施され、煌びやかに輝く遊園地。前に昼に来たときはただの寂れた遊園地だったのに、それが嘘みたいに輝いている。
 綺麗に輝く遊園地にたくさんの着ぐるみ達。あまりに現実離れしたこの場所はまさに夢の国……ドリームランドだ。

 俺はあまりの光景に言葉が出なかった。無言で着ぐるみの群れの中に歩いていく。
 本当にあったんだ……。
 ここにいるのはどこを見ても着ぐるみを着ている人だけ。彼らは何のために集まっているのか。
 俺は遊園地の中へと進もうとして、

「チケットを拝見します」
「チケット……? あ、ああ、えっと……すいません、どこで売ってます?」
「お客様初めてですか? すみません、当日券はお売りしてないんですよ」

 と、入口のウシの着ぐるみに追い返された。
 しまった……! まさか中に入れないとは。もう少し調べてくれば良かった。
 どうする? ここまで来たんだ。どうしても中に入りたい。しっかり準備を整えて、また来月という手もあるが、今のこの好奇心を抑えられない。
 どこか忍び込める場所はないかと俺が辺りを見渡していると、ある着ぐるみの一団が目に留まった。

「はーい! みなさーん! 集まりましたかー? これからチケットを配りますよー!」

 目立つ色の服を着たウサギの着ぐるみが旗を上に掲げ、ぶんぶんと振り回している。そして、集まった着ぐるみ達にウサギは何かを渡していた。
 着ぐるみの団体だ。ウサギの格好や言葉遣いがまるでツアーのようだ。いったい何の集まりだろうか。
 興味が出て、しばらく見ていると、

「あれれー? チケットが余りましたー? おかしいですねー! もしかして、まだ来ていないんでしょうかー? おーい! どこにいますかー!」

 どうやら団体の一人が行方不明らしい。ああいった集まりではよくある光景だ。こういうときはだいたいトイレの可能性が高い。

「おーい! どこですかー!」

 ウサギが声を上げながらキョロキョロしているが、それらしき人が近づく気配はない。
 大変だな、幹事のウサギも。

「おーい!」

 この着ぐるみだらけの遊園地に入るにはチケットがいる。俺はそのチケットを持っていないから入れない。

「どこにいますかー?」

 このツアーみたいな団体は、この場でチケットを渡していた。そして、一人が行方不明。つまり、一人分のチケットがあそこにある。
 この団体は事前に集まってここに来たのだろうか。それとも現地集合でここに集まったのだろうか。
 前者なら誰がいなくなったか分かるが、後者なら…………。
 ……………………。

「うーん。困ったなー」
「…………あ……あのー、すいません。遅くなりました……」
「あ! あなたですか? もう! はぐれないでくださいよ!」
「す、すいません」
「はい! これ、あなたの分のチケットです。失くさないでくださいよー?」

 ウサギは疑うことなく、俺にチケットを手渡した。どうやら後者のようだった。それに何の確認もされなかった。適当だな。まあ、その適当さで今回は助かった。

「よーし! これでみなさんそろいましたね! それでは出発しまーす! はぐれないでくださいねー!」

 ウサギを先頭にぞろぞろと着ぐるみがついていき、遊園地の中へと入っていく。奇妙な光景だなと思いながら、俺もその中に混ざる。
 入口のウシにはバレるかと思ってヒヤヒヤしたが大丈夫だった。いちいち客の顔など覚えていないか。

「うわぁ……!」

 中に入ると、思わずそんな声がでた。
 装飾が施されていた入口を通ると、中はさらに賑やかだった。
 きゃー、きゃー、と悲鳴が聞こえるジェットコースター。楽しそうな音楽とともに廻るメリーゴーランド。他のアトラクションを見下ろすように堂々とそびえ立つ観覧車。
 中では普通の遊園地の様子が繰り広げられていた。ただし、普通の遊園地と違う箇所がある。
 今の時間帯は夜だから、通常以上に明かりが灯っていること。それとどこを見ても着ぐるみを着た人しかいないこと。
 風船を配っているネコの着ぐるみ。ポップコーンを売っているリスの着ぐるみ。それらを受け取っている様々な動物の着ぐるみ達。
 客も従業員も全て着ぐるみを着ている。普通の人の姿はどこにもいない。

 そんな着ぐるみ達の遊園地に俺は驚きを隠せなかった。
 着ぐるみ達が集まって“何か”をしているとは思った。だが、それがまさか普通の遊園地だとは思わなかった。
 前にここに来たときは、老朽化した施設だったものが、今はこうして立派なアトラクションとして動いている。とても動かせる状態ではなかったはずだ。どうやって動いている? 部品は? 整備は? 電力は?
 中に入っても謎は深まるばかりだ。ここで働く従業員の中身は誰なのか? 誰か主催者となる人物はいるのか?
『夜に着ぐるみが集まって遊園地を楽しんでいる』だけではスクープとして弱い。ここまで来たんだ。いったい誰が何の為に。それを絶対に解明してやる……!

「はーい! みなさん付いて来てますかー? はぐれないでくださいねー!」

 ウサギの着ぐるみがみんなを先導する。
 そうすると、この団体は本当にツアーなのかもしれない。それは丁度いい。ウサギに園内を案内してもらおう。俺はこのツアーに付いて行くことにした。

 ウサギはまず、俺らにチケットを配った。
 食べ物チケット。園内の食べ物は全てこれで買うらしい。
 遊園地の雰囲気を壊さないために現金ではなくチケットで売買をする。意外としっかりしているな。
 その食べ物チケットを10枚手渡された。着ぐるみの手では持ちづらい。落とさないように気をつけよう。

「はーい! では、さっそくこちらが『裏野ドリームランド』の名物! 『ドリームソーセージ』になりまーす!」

 ウサギは最初にフランクフルトの売店に案内した。
 ブタの着ぐるみを着た人が手を振りながらフランクフルトを焼いていく。香ばしい匂いが着ぐるみ越しでも漂ってくる。
 こんな夜中にジュウジュウと音を立て、目の前でフランクフルトを焼いていく。ああっ、くそっ……反則だろ、こんなもん。
 俺は周りのツアー客とともにチケットでフランクフルトを購入した。
 受け取ったフランクフルトを着ぐるみの中にしまう。着ぐるみの密封された空間に、食欲を唆るフランクフルトの匂いが充満する。
 俺はたまらずかぶりついた。噛んだところからジュワっと肉汁が溢れ、口の中を満たす。屋台のフランクフルト特有の濃い味付けにマスタードがいいアクセントで、食べた先から次が食べたくなってくる。
 気がついた時には全て食べ終え、串だけが残っていた。美味かった。あっという間に食べ終えてしまった。味付けなのかソーセージ自体なのかは分からないが、独特の味がした。少し変わった味。この遊園地オリジナルの味というわけだろう。


 ーーーーー


 その後、遊園地内をウサギに案内されて周って、しばらく……特に変わったところは見られなかった。
 ウサギの案内も普通のツアーのようで、なぜみんな着ぐるみなのかとか、誰が経営しているかとか、真相に迫るものは一つも喋ってはくれなかった。
 というか、このウサギ、紹介するのが最初のフランクフルトに続き、食べ物関係ばかりなんだが……。アトラクションも紹介してくれないものだろうか。
 アトラクションの紹介がないから、遠目から見ていたんだが……それも変わったところはなかった。普通に動いている。
 まあ、廃園になったはずの遊園地が普通に動いているのはおかしいと言えばおかしいのだが……。

 あ、そうだ。どのアトラクションも普通に動く中、観覧車だけは違った。観覧車だけはさすがに劣化が激しいのか、動いていなかった。じっと止まっている。
 あとは、メリーゴーランドが動いてはいたが、人が乗ってなかったぐらいか。まあ、ずっと見ていたわけではないからな。たまたま見たときが人が乗っていないときだったのかもしれん。

「それにしても、あっついなぁ……」

 いくら夜だと言っても、真夏に着ぐるみを着て歩き回っているんだ。中はサウナのように蒸し暑い。
 俺は着ぐるみの首元を開け、換気する。少しはマシになったな。

「はーい! とうちゃーく! では、こちらにあるのがー……ケバブになりまーす!」

 ウサギの案内はまたしても食べ物だった。もういいよ。食べ物は。
 フランクフルト以降も俺はいくつか食べて腹はいっぱいだった。なんか肉系のフードが多いように感じた。そういう遊園地なのだろう。

 腹いっぱいの俺はウサギの説明を無視して、辺りを見渡す。近くにあるのはジェットコースター……おや?
 暗くて見えづらいが、ジェットコースターに並んでいる列。あの列の人は着ぐるみを着ていなくないか?
 改めてよく見てみるが……間違いない。暗いがさすがに着ぐるみのシルエットは間違えない。あそこの集団は着ぐるみを着ていない。
 この遊園地の中で初めて着ぐるみを着ていない人を見た。脱いでいいのだろうか?
 そんな疑問を思ったが、答えは少し考えればすぐに思いついた。
 そうか。ジェットコースターに乗るんだ。着ぐるみを着たままでは乗れない。それなら当然脱ぐだろう。
 じゃあ、最初から生身で良くないか? なんで着ぐるみを着ているんだ?
 俺はもう少しよく見ようとジェットコースターに近づく。

「はーい! では、次に行きますよー! はぐれないでくださいねー!」

 近づこうとしたら、ウサギが次の場所の案内を始めた。
 ……まあ、また後でいいか。俺は踵を返し、ウサギについて行った。


 ーーーーー


 次の場所はアクアツアーだった。ようやくアトラクションの紹介にはいるのか。
 ウサギの紹介によると、アクアツアーは水族館のような所で、自由に魚を観ることができるし、フードコーナーで魚を観ながら食事も出来る場所だった。結局食べ物関係じゃねぇか!

 このツアーはここでしばらくの自由行動になった。周りのツアー客が「アレを観よう」「コレを観よう」「何を食べよう」と散り散りになっていく。
 食べ物はもう十分の俺はその辺を適当に歩き回ることにした。
 大きな魚から小さな魚。タコやヒトデ、クリオネといった海の動物達。遊園地の中程度の規模ながら、思っていたよりもいろんな魚がいることに俺は少し驚いた。
 軽く観るつもりが、思っていたよりたくさんいたため、俺はすっかり魅入ってしまっていた。ぐるりとアクアツアーの中を一周する頃には、自由時間が終わろうとしていた。

 そろそろ集合の時間だ。次の魚が最後かな。
 最後の水槽にいたのは大きなサメだった。人の2,3倍……いや、それ以上に大きい。巨大な体躯に、開けた口からはまるで岩でも砕きそうなぐらい鋭いキバが見える。水槽越しだと分かっていても、思わず後ずさりするような怖さがあった。
 このサメはなんて種類なんだろうか。動物には詳しくないからな。見ただけでは分からない。近くに書いてないかな?
 俺が辺りを見回すと、ドボン、ドボンと音がし、水槽に何かが落ちていくのが見えた。
 どうやらエサの時間のようだ。水槽に入れられたエサをサメが大きな口を開けて食べる。すごい迫力だ。エサの時間が見れるとは、我ながら丁度いいタイミングで来たものだ。

 その後も次々とエサが入れられていき、それをサメが一口で食べていく。これだけ大きなサメだ。エサの量も多いのだろう。

「……ん?」

 サメの食事の様子を見て、俺は少し違和感を感じた。
 次々と入れられていくエサ。それに見覚えがあったのだ。
 エサに見覚えがあるというのはおかしな話だが、たしかにそう感じるのだ。
 エサは入れられてすぐにサメが食べてしまう。俺は注意して水面を見て、サメが食べる前に入れられたエサの形状をよく見てみた。

 骨が出た細長い肉で、骨が出ていない方は先に近づくにつれ、だんだんと細くなっている。そして、最後の方は平べったくなっており、先は五つに分かれていた。

「ハァ…………ハァ…………」

 呼吸が速くなっているのを感じる。
 嘘だ。違う。そんなはずはない。
 見間違いだ。
 入れたすぐからサメは肉を食べる。一瞬しか見てないから、見間違えただけだ。
 俺はそう自分に言い聞かせる。
 ありえない。だって……、水槽に入れられるサメのエサ。俺が見たのは……、

 人の腕だった。

「いや、そんなわけはない。見間違いだ。違うものだ」

 俺はぶつぶつと独り言を呟く。
 そうだ。見間違いだ。人の腕なわけがないじゃないか。
 見間違えただけ。似たような形の別の肉だ。俺が疲れているんだ。それで違うものに見えただけだ。
 しかし、次に入れられたものが、俺にさっき見たものは見間違いではなかったと告げる。

「ヒッ…………」

 ひときわ大きな音を立てて入れられたそれは……間違いなく……見間違うわけもなく……人の頭だった。


 ーーーーー


「はーい! みなさん、ついて来てますねー?」

 ウサギを先頭にツアー団体はアクアツアーを離れ、次の場所に向かう。
 一番後ろに付いて行く俺だったが、内心はさっきのことで放心状態だった。
 なんだったんだ、アレは……。
 見間違い? いや、見間違うわけない。
 俺は降って来た生首と目が合ったことを思い出し、頭を払い、それを消した。
 間違いない。アクアツアーでは、人の肉をサメのエサにしていた。
 なんてことだ。スクープどころではない。殺人事件だ。
 この遊園地で殺人事件が起きている。いったい誰が? 何のために? いや、そもそもアレは頻繁に行われていることなのか?
 俺がいろいろと考えている間に、ツアーは次の目的地に到着した。

「とーうちゃーく! ジェットコースターでーす!」

 ジェットコースター。たしかここは着ぐるみを脱いだ人達が順番待ちをしていたのを見た気がする。
 俺の記憶通りに、そこにはこの遊園地では珍しい着ぐるみを着ていない人が並んでいた。
 さっきは遠くからだったんだが、近くまで来ると……なんか並んでいる人が怯えているようように見える。
 苦手な人は怯えるかもしれないが、それにしては怯えすぎな気がする。それに並んでいる全員だ。それほど怖いジェットコースターなのか?
 そうこうしていると、前の人が乗っていたコースターが戻ってくる。それを見て俺は言葉を失った。

 戻ってきたコースター。それに乗っている人がもれなく全員……首から上が存在していなかった。

 たくさんの首無し死体を乗せたコースターが次に並ぶ人達の前で止まる。慣れた手つきでコースターから首無し死体を降ろしていく係員の着ぐるみ達。そして、血だらけのコースターに次の人を乗せていく。

「い、いやだーっ!」
「やめてー!!」
「うわぁぁぁあああっ!」

 何を言おうが、着ぐるみ達は聞く耳持たずで並んでいる人をコースターに乗せていく。そして、安全バー……いや、拘束具が下がってガッチリと乗せられた人を固定した。
 人を固定したコースターはゆっくりと進み出し、坂を登り始める。俺はその様子を見ることしか出来なかった。
 上からきゃー、きゃー、と悲鳴が聞こえてくる。これはスリルを楽しむ歓声ではなく、本当に悲鳴だったのか。

 いったい何が起こっている。
 目の前のショッキングな光景に、俺は頭が混乱していた。
 人が殺された。事故……? いや、事故ではないだろう。
 慣れた手つきの係員に、ツアー客は俺のように驚いている様子はない。それどころか喜んでいるようにも感じられた。知っている、楽しんでいるんだ。こいつらは。

 分かった。ここがいったい何なのか。
 ここは処刑場。どういった人かは分からないが、集められた人がここで殺される。
 そして、この着ぐるみ達はそれを見て楽しむ狂ったやつら。ここにいるみんなが着ぐるみなのは、身元を隠すためだ。中身は金持ちや政治家、裏の人間といった金と時間を持て余した人間だと想像できる。
 おそらくここのアトラクションは全て処刑道具なのだろう。だから、勿体ぶったように最後に紹介しているんだ。
 まさか、深夜の山奥の廃遊園地でこんなことをしているとは。たしかにここなら気づかれる可能性は低い。
 知ってはいけない裏の世界を知った気がする。俺はなんてところに潜入してしまったんだ。消されてしまうのではないだろうか。

 そうだ。俺は大丈夫なのか? こんなところにいて。
 俺はツアーの客だと偽って、この中に入った。本来はここにいていい人間じゃない。もし、それがバレたら、俺もこのジェットコースターに乗っていた人みたいに……。

「………………!」

 心臓の鼓動が段々と速くなっていくのを感じる。
 急いで逃げないと。この遊園地から外に出ないと。
 俺は出口に向き直り、一歩踏み出そうとして、

「おーっと、どこに行くんですか? 次に行きますよ? はぐれないでくださいね」

 ツアーの案内人のウサギの着ぐるみに止められた。
 ウサギが声をかけたことにより、他のツアー客も何事かとこちらに注目する。
 だ、駄目だ。今目立つのは良くない。下手に目立ったら、正体がバレる可能性がある。

「……な、何でもない……です……すいません……」
「そうですか。では! 次に行きますよー! みなさん、付いてきてますかー?」

 ウサギが声を上げ、ツアー客が「はーい!」と返す。
 俺は黙ってそれに付いて行く。
 チャンスを窺うんだ。こっそり逃げるチャンスを。


 ーーーーー


 次の場所はメリーゴーランドだった。誰も乗ってはいないが、明るく光り、楽しそうな音楽とともに廻っている。
 ウサギの案内で近くまで来たが……熱い。メリーゴーランドに近寄るほど、周辺の温度が上がっている気がする。

「はーい! 危険ですから、あまり近づきすぎないようにしてくださいねー!」

 近くまで来て、その理由が分かった。
 メリーゴーランドの周りで明るく光っているもの。それの正体は火だった。周りでメラメラと燃え、メリーゴーランドを明るく照らしている。
 そして、遠くから見たときは人が乗っていないと思ったが、それも違った。
 人はいた。ただし、乗っているわけではない。遠くから見て、馬や馬車だと思っていたもの。それらが全て人で作られていた。
 人が串刺しにされ、ぐるぐると火で炙られながら廻っていく。それが誰もいないメリーゴーランドの真相だった。

 人が焼ける匂いが着ぐるみ越しでも漂ってくる。俺は吐きそうになるのを堪え、俯く。
 汗をびっしょりとかいていたが、それが暑さによる汗か、恐怖による冷や汗かは分からない。
 呼吸が荒くなり、汗はびっしょりで足も震えてきた。幸いなのかどうなのか、着ぐるみを着ているため、俺が怯えていることは周りには気づかれていなかった。
 ふと、きゃー、きゃー、とジェットコースターから聞こえてくる悲鳴が聞こえてこなくなっていることに気づいた。その理由は考えなくても分かった。


 ーーーーー


 次の場所の観覧車に到着した。たしかここの観覧車は動いていなかったはずだが……。
 観覧車担当のタコの着ぐるみが大袈裟な動きで俺らツアーを迎える。8本の足を器用に動かす様はこんな場所でなければ、すごい技能と思っただろう。
 そこには4人の男女が怯えながら立たされていた。
 タコが一番下のゴンドラの扉を開ける。そこから出てきたのはミイラだった。
 カピカピに干からびた人の形をしたミイラ。体中の水分は失われ、皮と骨だけの姿になっている。
 タコは次々とミイラを降ろす。その数はここに立っている人の数と同じ……4つ。

「い、いやぁぁぁああああ!!」
「うわあああぁぁぁああ!!」

 これから自分達がなるであろう姿を見た4人は発狂した。しかし、タコの着ぐるみは構わず4人をさっきミイラを出したゴンドラに入れた。
 扉を閉め、ガチャリと鍵をかける。バンバンと中から扉や壁を叩く音が聞こえてくる。

 近くでじっと見て気がついたが……この観覧車、ゆっくりだが動いている。一周に何時間かかるのか分からないペースで。
 かすかに耳に入る着ぐるみのアトラクションの説明。
 どうやら、この観覧車は1ヶ月で一周するようだ。
 その間、入れられた人はそのまま。
 1ヶ月間。何も与えられず、日が照っている真夏の昼の中、観覧車に閉じ込められている。この真夏の焼け付くような暑さで、窓もない密閉空間の中の気温など考えたくもない。
 そして、1ヶ月後。満を持して開けてみれば、ミイラの完成、というわけだ。

「う……うぅ…………」

 涙が出てきた。
 なぜ俺は前に昼に来た時に気がつかなかったのか。
 まさか人が閉じ込められているとは思わないだろう。
 いや……でも、昼に来た時も観覧車は見た。その時は中に人なんかいなかったような……。

「………………て……」

 ふいに、かすかに声が聞こえた。
 それ弱々しく、今にも消えてしまいそうな声。
 俺は耳を凝らして、声の主を探す。どこだ、どこから……。
 そして見つけた。これから下りてくるゴンドラの一つ。人らしい肉つきはなく瘦せ細り、ほとんどミイラと同じ人影が壁に張り付いていた。

「…………出し……て……」

「あ……あ……ああ…………」

 涙が止まらなく溢れてきた。


 ーーーーー


 限界だ。
 これ以上こんなところにいたら気が狂ってしまいそうだ。
 いくつかアトラクションを周り、俺の心はすでに限界だった。早く逃げないと、と思いながらも、正体がバレるのが恐ろしく、ツアーについていくことしかできない。

 次にやってきたのはドリームキャッスルという城のアトラクション。
 少し狭い入り口を通り、これまた狭い階段を登る。ツアー一行はドリームキャッスルの2階に到着した。
 2階は壁の一部がガラス張りになっており、そこから1階の様子が見られるようになっていた。
 そこから見える光景は……ドリームキャッスルという名前から想像しそうなものではなく……まるでどこかの工場のような機械がたくさん並んでいた。ここはいったい……。

「はーい! では、みなさん、あちらにご注目くださーい!」

 ウサギの着ぐるみが、1階のある地点を指差す。
 …………俺は周りの着ぐるみ達をよく見ていなかった。ウサギが指差したことで、初めてその指をしっかりと見たんだが……、その指は、妙に毛並みがリアルで、鋭く長いツメを持っていた。
 そんなウサギが指差したところからは、手足を拘束された男がベルトコンベアで運ばれてきた。
 機械の向きが変わり、男は足を上に、逆さまの状態で運ばれていく。男の進む先には首の位置に回転する刃が待ち構えていた。
 必死で抵抗しているのが見てとれるが、手足の拘束が解けるわけもなく、あっけなく男の首は落とされた。

「はーい! まずはあーやって血抜きを行いまーす!」

 逆さの首無し死体からは、勢いよく血が噴き出している。そのまま数分待つ。
 すでに血を抜き終えたものが、次の工程に運ばれていく。

「次にここで内臓を取り出しまーす! ここは機械じゃちょーっと難しいですからねー! 人力です!」

 再び横たわった首無し死体は、何人か着ぐるみのいるところに運ばれていく。ご丁寧にこんなところまで着ぐるみとは。徹底している。
 着ぐるみは慣れた手つきで死体を捌き、丁寧に内臓を取り出していく。取り出した内臓と死体本体は別々のところに運ばれていく。

「はい! 内臓はあっちの方で洗われるんですが、ひとまずそれは置いといて! こっちを見てくださいー!」

 開かれた死体に上からたくさんの刃が降り注ぐ。刃のゾーンを抜けた頃には、死体は人の形を保っていなかった。そして、次の大型機械に吸い込まれていく。

「残念ながら、ここからは企業秘密でーす! 教えられませーん! ぶーぶー言ってもむーりでーす!」

 ……このドリームキャッスルは他のアトラクションと比べて違う所がある。

「見てください! 出てきましたよ! 見事なミンチ肉になりました!」

 それは他のアトラクションと違って、工程が長いということだ。殺す工程……いや、殺した後の工程が長い。

「はい! では、出てきたミンチ肉をですね! 先ほど取り除いた内臓の腸という部位に詰めていきます!」

 後から思えば、メリーゴーランドと観覧車はアレが完成形だったのかもしれない。炙って、干からびて、それで完成。

「こーれーでー……『裏野ドリームランド』の名物ー、『ドリームソーセージ』のかーんせーいでーす!」

 最初はウサギが言っていることの意味が分からなかった。
 なんだ? なにが完成したって?
 ドリームソーセージ。それはたしか、俺がこの遊園地に入って最初に食べた食べ物だ。
 それの完成。つまり、このドリームキャッスルは食品工場だったのか。
 …………いや……重要なのはそこじゃない。
 目を逸らしたい、考えたくない。
 そう思っても、俺の頭は正常に理解し始めていく。思い出す。ついさっき見た光景を。
 人を殺して、いろいろと手を加え、そしてできた。
 俺が食べたドリームソーセージ。その材料は……、

「う……お、おぼぉおおええ…………」

 少しずつ状況を理解した俺は吐いた。
 服が、ズボンが、靴が汚れるのを構わず、吐いた。
 全て吐き出した。食べたもの、全て。ソーセージも、その後に食べた食べ物も、全て。

「はーい! では、作るところを見たところで! できたてを食べてみましょーう! いえーい!」

 ウサギがツアー客ひとりひとりにソーセージを配っていく。

 俺は昔から自分の興味のあることしか見ない人間だった。それでよく、「周りを見ろ」と怒られたこともあった。
 この遊園地でも同じだった。俺は自分の興味のあるものしか見なかった。
 ウサギの案内も聞かなかった。周りの着ぐるみもしっかり見てなかった。
 もうちょっと周りを見ていれば気づいただろうか。もう少し周りに興味を持ったら気づけただろうか。

 ソーセージを受け取ったツアー客。
 ライオンにゾウ、クジラにネズミ。ツアー客も様々な着ぐるみがいるが、それが、みんな、大口を開けてソーセージを食べていた。
 着ぐるみの中の人が、じゃない。着ぐるみが、だ。
 着ぐるみの口が開き、立派なキバを覗かせながら、ソーセージを食べている。
 作り物じゃない。アクアツアーのサメよりも、鋭く、大きく、禍々しいキバがある。細く、長い、ウネウネと動く舌がある。そんな生々しい口からは涎が滴り落ちている。
 作り物じゃない着ぐるみが、ソーセージを貪り食っている。

 なんだ……なんなんだ、これは……。
 俺は目の前の光景に絶句した。
 こいつらは人じゃないのか……。人が着ぐるみを着ているんじゃないのか……?
 俺の思い違い。人ではない。
 じゃあ、もしかして、この遊園地にいる着ぐるみ全て……、

「どうしたんですかー? 食べないんですかー?」

 いつの間にかウサギが俺の目の前にいた。ソーセージを渡しに来ていた。

「う、うわぁぁあああああ!!」

 俺はびっくりして、恐怖して、その場から後ずさる。
 恐怖で焦っていたことで、途中でつまずき、尻餅をついてしまった。その反動でポロンと……暑くて首を開けていたことも災いして……着ぐるみの頭の部分が地面に落ちた。

「おやおやー?」

 ウサギが不思議そうに顔を傾げる。周りでソーセージを食べていた着ぐるみも一斉にこちらを向く。
 ギョロギョロと動いていた目玉、それが全て俺の方を向く。
 い、いやだ……やめてくれ……。

「おかしいですねー? なんでここに人間がいるんでしょうー?」

 やめろ……やめてくれ……。死にたくない……。
 近寄るな……俺に近寄ってくるな……。

「まー、いーでしょう! 一人分の材料費が浮いたと考えれば!」

 やめろ……近寄るな……。
 嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だやめろ離せ嫌だ嫌だ死にたくない食われたくない……。

「さあー! レッツゴー!」

「うわぁぁぁあああああああああああ!!!!」


 ーーーーー


 裏野ドリームランド。

 数年前に廃園になったこの遊園地には奇妙な噂が存在する。

 曰く、『毎月月末の深夜、遊園地に大量の着ぐるみの群れが出現する。着ぐるみ達はおいしそうに食べ物を食べている』だそうだ。

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