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#88:祐樹の過去(3)出会い編【指輪の過去編・祐樹視点】

お待たせしました(^O^)/

引き続きの祐樹の過去、第三弾!

いよいよ、夏樹と出会うところです。

指輪が見せる過去でのお話で、祐樹視点になります。


 夏樹を傷つけるものは誰であろうが許さない。

 父親であろうが……いや、父親だから余計に……。

 でも……、今まで俺が一番夏樹を傷つけていたのかもな。

 そう思いながら、夏樹と出会った頃の自分を思い返していた。

 

 二十六歳の誕生日を迎える前の六月、俺は許嫁の西蓮寺美那子さんと正式な見合いをした。静かな料亭の一室で、お互いの両親と祖父を交えてのお見合いだった。お見合いなんて名ばかりで、祖父同士はもう結婚式の日取りまで決めかねないような上機嫌だった。向こうの両親も娘の卒業まで待たせて申し訳なかったと恐縮しているのを見て、俺、本当に結婚するのかな? なんて思っていた。俺の両親は祖父さんからあまり俺の許嫁について話を聞いていなかった所為か、どこか緊張した様な不機嫌とまで言わないが、無表情のままだった。するといきなり祖父さんが近いうちに俺の浅沼の跡取りとしてのお披露目と婚約発表のパーティをしようと言い出した。それを聞いた親父が、口を挟んだ。


「祐樹は今まで美那子さんと何度か会っているのかね?」


「今日で2度目だけど……」


「それなら、もうしばらく美那子さんとお付き合いしてから、結婚の事を考えた方が良いんじゃないのかな?」

 俺はその時、婚約者と別の女と二股かけていた親父に言われたくないよと心の中で悪態をついて、親父を睨んだ。祖父さんも自分の計画を潰すような事を言われ、その場の雰囲気が険悪なものになりそうになった時、お袋が声を上げた。


「二回会っただけでもう結婚なんて、大昔じゃあるまし……。若い人には若い人の付き合い方もありますから。それに、相手の事をよく知らないで結婚をするのは、不安ですよね? 美那子さん?」

 お袋が最後は美那子さんに向かって、優しく笑って尋ねる様に言った。美那子さんは一瞬お袋の顔を見て、又すぐに俯くと小さな声で「はい」と返事をしたのだった。


「そうね、少しお付き合いしてお互いの人となりをわかってからの方がいいかも知れないわね」

 美那子さんの母親もお袋に同調したので、二人の婚約はしばらくお付き合いしてからと言う事になった。


 その日、お見合いの後で親父が俺に言った。

「私は祐樹が誰と結婚したいと言おうが、反対はしないつもりだ。そのかわり、会社のためとか会長に言われたからとか言う理由なら、反対だよ。祐樹は本当に愛する人と結婚して欲しいんだよ。美那子さんの事、本当に愛せる自信が出来てからでも結婚は遅くないと思うよ」

 あの頃の俺は、親父の言葉を素直に聞く耳を持っていなかった。親父の言葉に益々腹を立てた俺は、心の中のイライラを親父に向かってぶつけていた。


「父さんだって、自分の本当に結婚したい人を辞めて、愛しても無いお袋と結婚したくせに」

 今まで心の中で思ってはいても、口に出した事の無い思いをぶつけると、親父は驚いた顔をして「どうしてお前がその事を……」と言った。やっぱり真実なのかと親父の反応を見て確信すると、俺のイライラはエスカレートした。


「その上、父さんはその結婚したかった女とお袋を二股かけて、俺が出来たから仕方なくお袋と結婚したんだろ?」

 目の前の親父の顔は蒼白になった。そして、拳が堅く握られワナワナと震えている。


「お、おまえは何も知らないくせに、親父の言葉を鵜呑みするな。雛子とは仕方なく結婚した訳じゃない」

 それだけ言うと、もう出て行ってくれと書斎から追い出された。


 やはり、否定はしなかった。そりゃあ、いろいろな事情はあっただろうが、結婚を考えていた女性と付き合っていた頃に、お袋と関係をもったのはどうしようもない事実なんだから……。

 親父たちの入籍した日付と俺の誕生日から見ても、それは動かしようのない事実だった。

 それ以来、親父とはその話はしていない。親父たちの事情はきっと、俺に話す気は無いのだろう。俺と親父の間は、ますます溝が深くなって行った。


 そんな風にお見合いが終わり、お付き合いをと言われたが、美那子さんの無表情な瞳を思い出すと、誘う気も失せていた。なかなか動き出さない俺にしびれを切らした祖父さんが、勝手にレストランの予約をして、美那子さんを誘うように仕向け、仕方なくエスコートして出かけた。始終俯きがちの無表情な彼女と食事をしていても、何も楽しめないどころか、料理の味さえ分からなくなってしまう雰囲気に辟易としてしまった。こちらから話しかけても、小さく頷くぐらいの反応しか返らず、本当に結婚する気はあるのかと疑ってしまう程だった。でも、心のどこかで、もう女など愛さない俺にはお似合いの相手かもしれないなと苦笑していた。


 二十六歳になったある日、珍しく圭吾から相談があると持ちかけられた。話を聞いてみると、お見合い話があると言う。やれやれ、お前もかと思っていると、上条電機のお嬢さんのお婿さん候補五人の内の一人に選ばれて、圭吾の父親の命令でその候補としてパーティに出ないといけないと言う。そのお婿さんと言うのは上条電機の次期社長と言うオマケがついている。いや、オマケはお嫁さんの方で、次期社長候補探しがメインなのかもしれないが……。

 それにしても腹立たしい話だ。向こうは次期社長と言う餌をぶら下げて、五人を競馬の様に競わせるつもりなのか。相手は一人で、こちらは五分の一とは、どうにも見下げられている様な気がするのは俺だけか? 

 それに、その社長令嬢は、次期社長と言う餌をぶら下げないと結婚できない様な悪条件があるんじゃないのか? 

 たとえば、外見が酷いとか、素行が悪いとか……。そう、男遊びが派手とか、金遣いが荒いとか等々……。

 女性に対してトラウマを持つ圭吾は、只々動揺するばかりなので、俺がきちんと見極めてやると請け負った。


 そうして、二十六歳の九月の終わり、いろいろな業種の社長やその後継者が集う交流のパーティで圭吾のプレお見合い、お婿さん候補者選びが行われた。俺がそのパーティ会場のホテルに着くと、俺の前を歩く若い女性二人が受付に向かっていた。お互いを「まいこ」「なつき」と呼び合っているのを聞いて、もしかすると、片方の女性は上条電機のお嬢様の上条舞子かもしれないと思い、本人とそのお友達をよく観察しておいた。彼女たちに続いて受付をした時に、先ほどの女性は上条電機のお嬢様ですかと確認する事も忘れはしなかった。


 初めて見た上条舞子は、想像とは随分違い、清楚な日本美人だった。派手さは無いが、凛とした強さを感じた。とても男遊びしている様な女性には見えなかった。まあ、女は化けるからなっと自分の中で溜息を吐いた。その友達と言うのも、目立たないおとなしい感じの女性だった。優しい雰囲気の涼しげな表情の女性で、どこか品はあるのだけれど、お嬢様と言うより、感じの良い近所のお姉さんと言ったところか。


 圭吾と合流して、上条舞子を見た事を告げると、どんな女性だったか訊いて来たので、見た感想を話した。圭吾は、トラウマになった原因の女性の様な感じではない事を知り、少しホッとしていた。でも、女の本性は分からないからなと、釘をさすのは忘れなかった。

 その後、圭吾の父親に挨拶すると、親父も来ている事を教えられた。圭吾の父親と俺の父親は俺と圭吾のように幼馴染で親友だ。そんな繋がりで聞いたのか、圭吾の父親が「祐樹君、お見合いしたんだって?」と聞いて来た。はいと返事をすると、圭吾が「聞いてないぞ」と睨んできた。圭吾に話しそびれたかと思いながら「今聞いただろ?」と流す。俺にとってはお見合いなんてどうでもいい事だから、話しそびれたんだと心の中で言い訳をしていた。

 しかし、今まさにプレお見合いに挑もうと言う圭吾には聞き流せない事だったようで、「それで祐樹は、そのお見合いの相手と結婚するの?」と訊いて来た。俺はめんどくさくなって「そのつもりだ」と一言返すと、「相手の人どんな人?」と重ねて訊いてくる。「普通。西蓮寺財閥のお嬢さん」と言うと、少し驚いた顔をして「さすが、浅沼財閥の御曹司だね」と訳の分からない感嘆の声を上げた。俺がいい加減うんざりしているのに圭吾は空気を読めないのか、今日の自分の立場を忘れたいためのハイテンションなのか、続けて「祐樹はその人の事好きなの?」と益々苛立つような事を訊いて来た。


「あのな、俺は跡取りだから会社の利益になるような人と結婚する訳。愛とか恋とかは関係無い」

 そう、ピシャリと言うと、圭吾は驚いた顔をして、その後悲しそうな顔になった。


「祐樹はそれでいい訳?」とまだしつこく訊いてくるので、俺はこれで最後のつもりで「俺はそれで納得しているんだから、これ以上もう何も訊くな!」と言って締めくくった。

 

 もう俺はリアの時の様な思いはしたくないんだ。最初から心が無ければ、傷つく必要もないだろ。


 圭吾が上条舞子と引き逢わされるために呼ばれて行ってしまうと、俺は上条舞子の友達を探した。友達から彼女の事を訊き出そうと思っていたから……。どうすれば、本音が聞けるかと考えながら、ぼんやりと壁際に立つ「なつき」と言う名のその友達に近づいて行った。

 どこか場違いを自覚して耐えている様な彼女の表情を見て、こんな場に来るのは初めてなんだと分かった。友人のいない心細さなのか、二人でいた時より存在感が薄くなっている。まるで壁に溶け込んでしまいそうな感じだ。

 両手にグラスを持って近づき声をかけると、彼女は驚いて顔を上げ、俺を見て驚いた顔をするとポッと頬を染めた。会社の女子社員にニッコリ笑いかけると同じような反応を示すよなと心の中で苦笑しながら、この女も俺の外見に惑わされるタイプかと、そっと溜息を吐いた。

 グラスの一つを彼女に渡して話し始めると、最初は恥ずかしそうに返事をしていた彼女が、友達の上条舞子の話になると慌てだした。そんな彼女の様子を観察しながら、彼女は男に対して駆け引きできるタイプじゃなさそうだし、遠回しに訊いても鈍そうだと判断して、気になっていた事を直接ずばり訊いてみた。


「それで、彼女は上条電気の社長のイスを餌にしないと、お婿さんの来ても無いような人なの?」


「え? どういう意味?」


「だから……、男遊びが激しいとか、金遣いが荒いとか……。見かけではわからない悪い条件があるのかい?」

 そう言った途端に、彼女は怒りで顔を赤くした。考えている事が顔に出るタイプだなと思っていたら、さっきまでの恥ずかしそうな反応とは違い、怒りで顔を真っ赤にしたまま、怒鳴りつけるように俺に向かって言い放った。


「見くびらないでください!! 彼女ほど素晴らしい女性はいません。知的で控えめで努力の人なんです。いつも周りの人に気配りの出来る優しい女性です。お嬢様でありながら、決してそれをひけらかさない。そして、自分の運命を潔く受け入れて、長女として跡取りとして、このお見合いを受け入れているんです。社長のイスなんて、素晴らしい彼女のほんのオマケみたいなものです」

 俺は彼女の反応に驚いた。彼女の友達を思う気持ちにどこか相通じるものを感じながら、彼女の直情的な反応が可笑しくて、つい笑って、彼女をからかうような言葉を返してしまい、益々彼女の怒りに油を注いでしまった。


「馬鹿にしないでください! あなたのお友達は、自分の事を棚に上げて、社長の椅子に目が眩んでいるんじゃないですか? 条件次第で婿になってもいいぞと見下しているんでしょ! だから、そんな考えしかできないんですよ!! そんな人、舞子の相手には相応しくありません。最低です!」

 今度は彼女のあまりの剣幕に思わず怯んでしまい、素直に謝っている自分に、反対に驚いた。男の前では友情さえも裏切って色目を使う女もいるのに、自分の事のように友達を擁護して怒りを露わにしている彼女に、少し興味を持った。


 名刺を渡して自己紹介した後、彼女の名前を聞くと姓しか言わないので、「下の名前は?」と尋ねると「母から知らない人に、下の名前は言うなと言われているので……」等と、訳のわからない返事が返って来てまた驚いた。何だ、この女? 天然か? こんなリアクションは初めてだと思いながら、思わず笑うと、恥ずかし気に俯いた彼女に、俺の悪戯心が(あお)られた。


「それじゃあ、僕が君の名前を当ててみようか?」

 彼女の名前を知らない振りして、当てたら携帯番号を教えてと提案している自分に違和感を覚えながらも、自分から女性の携帯番号なんてめったに訊かないのに……。きっと、圭吾の事がある所為だなと自分を納得させ、名前を当てられて呆然とする彼女と携帯番号を交換したのだった。


 その時は面白い女だなと少し興味を持ったが、圭吾が正式にお見合いの相手として選ばれるまで、彼女の存在は俺の中から消え去っていた。


 

2018.2.4推敲、改稿済み。

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