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#07:セレブパーティ【指輪の過去編・夏樹視点】

今回は指輪の見せる過去のお話。

夏樹26歳の9月の終わり頃のお話。

「この指輪なのね。真の所有者にしかはめられない不思議な指輪は」

 舞子の興奮した声に我に返った。舞子は、私の右手の薬指にはめた指輪をじっくりと見つめている。


「シンプルなのに、何か惹きつけられるわね」

 そんな感想を指輪から目を離さずに呟く。



 ここは、上条邸。舞子の部屋の中で、初めて舞子に指輪を披露した。舞子と友達になって三年になるが、舞子が上条電機のお嬢様だと言うのを知ったのは一年程前。私がお金持ちと絶対結婚しないと母と約束していると告白したものだから、舞子は自分の事を言い出しにくかったのだと思う。


「夏樹、今までなかなか言えなかったんだけれど……、お金持ちかどうかわからないんだけれど……、父は上条電機の社長なの。で、でも、私はお嬢様とかのつもりはなくて、その……今まで通り友達でいてくれるかな?」

 驚いた。こんなに身近に社長令嬢がいるなんて。ちっとも威張らず、控えめな彼女をお嬢様だなんて思いもしなかった。恐る恐る告白する舞子の気持ちを考えると、私はずいぶんお金持ちを非難するような事を言って来たのかも知れない。


「もちろん。社長令嬢と友達にならないって約束してないもの」

 私がわざと明るい声で返すと、舞子の顔が花開いたように明るい嬉しそうな笑顔になった。



 舞子が社長令嬢である事をカミングアウトした事は、私達の友情をより強いものにしたと思う。彼女になら、自分をさらけ出そうとお互いが思い、私達はいろいろな事を告白し合った。

 たとえば、舞子は親の勧めた人とお見合いして結婚するつもりだとか、恋愛は絶対しないとか、舞子の決意は聞いていて悲しくなるような事だった。けれど、自分の運命を潔く受け入れている事に強さも感じた。

 私の方は、今の両親の養子である事や、本当の両親がなぜ結婚できなかったかとか、不思議な指輪の話もその時にしたと思う。


 私と舞子が二十六歳になった九月の終わり、いよいよ舞子のお婿さん探しが始まった。

 舞子の父親は、何もかも親の考えを押し付けるのではなく、舞子に考える余地も残してくれた。候補を何人か選んでパーティーで紹介し、一番気に入った人とお見合いする事になっている。

 いよいよそのパーティーが近付いて来たある日、舞子は一緒にお婿さん候補を見て欲しいと、私をパーティーに誘った。そんなセレブの集まるパーティーに、庶民の私が参加できるはずもないと断ったのだけど、パーティー衣装は用意するから一生のお願いと泣きつかれてしまった。本来なら私など参加できるはずもないセレブパーティーだけれど、舞子の父親の顔で私の分も招待状を用意してくれた。


 パーティーの当日、舞子にパーティー用のドレスを借りるため、午後の早い時間から舞子の家を訪れた。その時初めて、母の形見の指輪をして出かけ、舞子に披露したのだった。

 舞子は、綺麗な淡いクリーム色のシンプルなひざ丈のドレス。私は、濃いブルーのひざ下丈のドレス。美容師さんに来てもらって、髪の毛のセットやメイクもしてもらった。

 パーティーは午後六時からで、ホテルの大きな会場で行われる。時間が近づき、舞子の家の車で送ってもらう。舞子は緊張しているせいかどこか上の空のような、心ここにあらずと言った感じだし、私も舞子の緊張がうつったのか、どこか落ち着かない気持ちで会場に到着した。


 会場に着いて受付を済ますと、既に到着していた舞子の父親に挨拶に行った。


「今日は、こんな素敵なパーティーのご招待状を頂き、ありがとうございます」


「いやいや、気にしなくていいよ。夏樹ちゃん、いつも舞子の相手をしてくれてすまないね。今日ゆっくり楽しんでいきなさい」

 舞子の父親は優しい笑顔でそう語った。


「ほら、心配する事無いでしょ。夏樹はお父様のお気に入りだもの」

 フフフと笑って舞子は言い切る。けれど場違い感がぬぐえない私は、舞子が父親に我儘を言ったんじゃないかと思ってしまった。しかし、父親としては普段我儘なんて殆ど言わない舞子に、多少の我儘ぐらい言って欲しいのかも知れない。


「それにね、お父様ったら、夏樹ちゃんのお婿さんもお世話したいな、なんて言っていたわよ」

 め、めっそうもない。大会社の社長さんに、お見合いのお世話なんてさせられない。


「フフフ、わかっているわよ。夏樹はちゃんと自分で見つけられるから、余計なおせっかいしないでと言ったわよ」

 驚いて戸惑っている私に舞子はニッコリと笑って言った。

 自分でなんて、それも自信ないけれど。


「とにかく、このホテルのお料理はおいしいらしいから、行ってみよう?」

 舞子は、まずは花より団子とばかり、お料理やデザートの並んだテーブルへ私を誘った。

 私達は飲み物のグラスを受け取り、私にとっては見た事も無い豪華なお料理に目が眩むばかりだった。少し味見をしてみると、やはり美味しい。

「これが、セレブの味か」と呟くと、舞子が噴き出した。


「夏樹、そんなに意識しなくてもいいよ。みんなおんなじ人間なんだから」


「いやいや、やっぱり私にとっては違う世界だよ。でも、舞子のお陰でひと時でもこんな世界を覗けて嬉しいよ。ところでさ、ここではあまり私の名前を呼ばないで欲しいの。こんなセレブの集まるところだと、余計に危ないかも。誰かに名前を聞かれても、言わないでくれる?」

 私はここへ来て思い出した。そう、こんなセレブの集まる所なら、実の父やその周りの人達がいるかもしれない事を。今では姓も違うから、そうそうはバレないと思うけれど、母に言わせると私は若い頃の母にそっくりなのだと言う。


「あ、例の実の父親の事だね。わかった、気をつけるよ。でも、それでいいの? 本当はお父さんと会いたいのじゃないの?」

 舞子は心配そうな顔をして、私の顔を覗き込んだ。私は頭を振って言った。


「向こうは私の存在さえ知らないし、もしかしたら母の事を恨んでいるかもしれない。それに、母との約束だから」


「なつ…、あ、あなたがそれで納得しているのなら、何も言わないけど。まあ、そんな事忘れて、今日は楽しもうよ、ねっ」

 舞子はそう言うと、始まったばかりだからお料理はもう少し後にして、グラスを持ったまま部屋全体が見渡せる壁際へ移動した。

 私達は、集まっている人たちを観察しながら、今日のお婿さん候補の事について話した。


「ねぇ、舞子。紹介してもらうお婿さん候補って、事前に写真とかその人のデータとか見たの?」


「ううん。変に先入観を持たないために、父が見せてくれなかったの。今日逢って、ビビビと感じた人とお見合いすればいいからなんて父は言うのよ」

 なんだか、昔のアイドルが結婚相手と初めて会った時に感じた、と言っていたのと同じ事を言ってるのが可笑しい。


「ビビビか。本当に運命の人に逢ったら、ビビビって感じるのかなぁ?」

 そのアイドルは数年後に離婚したと思ったけど、ビビビも当てにならないかも。


「何人紹介してもらうの?」


「5人だって。でも、今日ビビビと感じる人がいなかったら、無理に決めなくてもいいって。なんだか、いつまでも決められない気もする。いっそ、お父様が決めて下さった方が、いいかもなぁ。それに、こちらが気に入っても、向こうがその気にならなきゃ意味が無いしね。難しいよ。これで、これからの人生が決まっちゃうかと思うと……」

 遠い目をして途方に暮れている舞子は、女の私から見ても綺麗だと思う。大きな目に筋の通った細めの鼻、品の良い口。全体のバランスも良く、こんな場で見ると、本当にお嬢様だなぁって思う。今日はコンタクトだけれど、普段の会社での彼女は眼鏡をかけて長めの髪は後ろで一つにくくり、華やかさを抑えているので、お嬢様だと言う事を忘れてしまう。


 しばらくお喋りしていると、舞子の父親がやって来て、いよいよお婿さん候補を紹介してくれるらしい。


「それじゃあ、とりあえず行ってくるね。後で紹介してもらった人を教えるから、待っていてね」


「うん。リラックスして笑顔でね」

 私は舞子の幸せを願って、遠ざかる後姿を見送った。




2018.1.25推敲、改稿済み。

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