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#62:最後のグルメの会【指輪の過去編・夏樹視点】

更新がまた遅れていて、すいません。

悩みな悩んで書いていると、とても長くなってしまって

それでもって、まだ書こうと思っているところまで到達できていないのですが……

とりあえず、切りの好さそうなところで切ってみました。

少し今までより短いと思います。

どうぞよろしくお願いします。


今回も指輪の見せる過去のお話で、夏樹視点です。

 愛のある結婚か。


 私は先日のスイーツの会の時の、浅沼さんの話を思い出していた。

 あの日、浅沼さんはとても饒舌で機嫌が良く、私の話は出来なかった。

 夏樹ちゃんはその後どう? と聞いてくれたけれど、浅沼さんの嬉しそうな顔を見ると、話せる内容ではなかった。


 実は、舞子から祐樹さんが婚約すると聞いた翌週の週末、私は見てしまったのだ。

 その日は玲子おばさん夫婦に送るクリスマスプレゼントを探すため、ショッピングモールへ出かけていた。私がいろんなお店を気ままに覗きながら回っていると、引かれる様に向けた目線の先に、一組の男女がいた。最初は、モデルさんかと思ったぐらい、美男美女の二人に目が釘付けになった。長身の男性の腕に品のある美しさの女性が手を絡ませ、何か話しながら歩いてゆく。

 あんなに美しいカップルがいるのだと、うっとりと溜息さえついた。

 私から離れた場所だったので、こちらには気づかれなかったけれど。私は気づいてしまった。その長身の男性が祐樹さんだという事に。

 何故、すぐに気づかなかったのだろう? それは、いつもと違う髪形……少し長くなった前髪をワックスで後に流して固めている。そして、見慣れないスーツ姿。誰でも虜にしてしまいそうな綺麗な笑顔。

 そして、二人が出てきたお店は、宝飾店だった。


 私の祐樹さんを感知するセンサーは、高性能だと思う。今までも何度か女性と一緒にいる祐樹さんを見かけた。きっと、彼女が婚約者なんだね。婚約指輪を見に来たに違いない。

 これだけ突きつけられたら、もう疑う余地もない。

 今度こそ本当に諦めるのだと、想いは告げずに彼に笑顔でおめでとうと言うのだと……。

 浅沼さんに話してしまうと涙がこぼれそうで、やはりすべてが終わってから話そうと固く決心した。


 それでも、私と彼との最後のグルメの会は、私の部屋で手料理を食べて貰おうと決めている。

 最後の最後だから、メシ友だから、許して欲しい。

 だけど、手料理なんて彼は嫌がるだろうか?

 自分の部屋へ呼ぶなんて無謀だろうか?

 変に誤解されてしまうだろうか?


 もしかすると、最後のグルメの会の前に断りの連絡が来るかも知れない。だって、婚約するのなら、メシ友と食事している場合じゃないでしょう? それなのに、約束の第二土曜日が近づいても断りの連絡は無かった。だから、こちらから私のマンションの最寄り駅を待ち合わせ場所に、時間を指定してメールしておいた。彼からはその後、了解と一言メールが返ってきた。


 いよいよ、私の最後の夢舞台。彼の中に少しでも良い風に記憶に残ったら嬉しいな。

 一番悩んだのがメニューだった。最初はフレンチとかイタリアンとか洋食系のコースっぽい料理にしようかと思ったけれど、そんな料理はいくらでも美味しいものを外で食べているだろう。それなら、家庭料理の定番メニューで行こうと決めたのだった。結局自信があるのは普段食べている家庭料理だから。

 家庭料理の王道の肉じゃが、根野菜のきんぴら、ほうれん草の胡麻和え、カレイの煮つけ、豚肉の生姜焼き、ポテトサラダ、お豆腐とワカメのみそ汁、カブの漬物、そして炊きたてのご飯。

 早起きをして、彼と待ち合わせの午前11時までに生姜焼き以外のものは作って置いた。生姜焼きは彼が来てから焼いて出した方が美味しいと思って、付け汁に豚肉をつけた状態で置いておいた。

 十二月で、クリスマスが近いと言うのに、全然季節感の無いメニューだけれど、自分のよく作る得意なものにした。これが私だから、背伸びする必要は無いよね。

 驚くかな?

 引いてしまうかな?

 手料理は遠慮するって言われたら、どうしよう?


 祈るような気持ちで駅前まで歩いていくと、遠目に壁にもたれて携帯を見ている祐樹さんの姿を見つけた。一歩一歩彼に近づいて行く。彼は携帯に眼を落したまま、顔を上げない。

 彼までの距離は約50m。私は足を止めて彼を見つめた。長身の、恐らく180cm以上は有るかと思える身長。長めの足が癪に障る。ジーンズにタートルネックのセータ、その上からダウンジャケットを羽織っている。シンプルなファッションなのに、彼が立っているだけでどこか人を引き付けるオーラを感じさせる。これも恋する瞳のせいなのかな?

 彼の姿を見るのも今日が最後かも知れない。だから、しっかり目に焼き付ける。

 今日が最後の舞台。気を抜かずに最後まできっちり演じ抜こう。彼のメシ友と言う役どころを。


「祐樹さん、お待たせ。」

 私は精一杯の笑顔で声をかけた。私の声に気付いて顔を上げた彼の眼は、一瞬眩しそうに目を細めた。 そして、いつもの穏やかな優しい表情へと変わった。


「あ、俺も今来たところだから」

 そう言ってニッコリ笑うと、携帯をジャケットのポケットへ入れた。少し長くなった前髪が目にかかり、右手で無造作にかき上げる。その仕草が妙に色っぽい。

 私は見てはいけないものを見てしまったようでドキドキし、思わず目を逸らした。

 ああ、私なんかに無駄にフェロモンを撒き散らさないでよ。

 心の中で悪態を吐きながら「こちらだから」と歩き出す。


「こっちの方にお店あったっけ?」

 先に歩きだした私に、難なく追いついて並んだ彼が呟いた。

 なんだか並んで歩くのが辛い。

 すれ違う女性が祐樹さんに目を奪われるのが分かる。


「看板も出してない、隠れ家的なとこかな?」

 私も彼の顔を見ずにボソリと言う。


 「へぇ~」と彼は、そんなところよく知っているねと言わんばかりの少し驚いた風で、こちらを覗きこむように見て言った。

 しばらく黙ったまま歩いて行くと「あれ?」と彼が声を上げた。


「こっちって、夏樹のマンションの方だよね?」


「ええ、そう。」

 覚えていたかと思っていると、「近く?」と訊いてくるので、「まあ、そうですね」と返した。


「この前、あまり外食はしないって言っていたけど、自宅近くのそんな隠れ家的なお店はしっかりチェックしているんだ」

 なんて答えたらいいか分からず、適当に「まあ、一応」と答えておいた。


「ふ~ん。誰かに連れって貰ったの? 看板も出てなかったら、気付かないだろ?」


「え?」

 そんな突っ込みをされると思って無くて、頭が真っ白になった。答えはどこにもない。どうする? もう本当の事言ってしまう?

 あまり勿体付けると、かえって本当の事が言えなくなりそうで、言ってしまおうと覚悟を決めたのは、もうマンションの前だった。


「あの、違うの。私あまり外食をしないのは本当で、だから、案内できるお店が無くて……。それで今日は、手料理を食べて貰おうと思って……」


「手料理? 誰の?」


「わ、私の……」


「どこで?」


「私の部屋で……」


「………」


「………」


 ああ、やっぱり、引くよね。いきなり手料理を食べてって言っても……。いくらメシ友でも、外で食べるからこそで。


「夏樹、俺みたいな女ったらしを部屋へ入れていいの?」

 しばらく沈黙の後、祐樹さんは低い声でボソリと訊いた。その声に背中がゾクッとする。


「え? いや、あの……女ったらしって……。祐樹さんの事は信頼しているから、大丈夫です」

 なんだか祐樹さんの顔を見る事が出来ず、私の視線は定まらないまま泳いでいる。

 するといきなり笑い出した彼。


「夏樹、今すごく不安になっただろ?」


「やっ、そんな事無い! 信頼している。とても信頼していますから……」


「ぷっ、動揺まるわかり。まっ、そんなに信頼してもらったら、その信頼に答えなきゃな。それに夏樹の手料理も食べたいし……なっ」

 ニッと笑うと彼は私の顔を覗き込んだ。

 ちょっと、その整った顔を近づけないでくださいよ。


 思わず仰け反った私はバランスを崩し、後ろにこけそうになった。しかし、寸での所で彼に腕を掴まれ、こけずに済んだ。

「何やっているんだよ」って、また笑われて……。


 なんだか意識しすぎて、ドキドキして、まともに顔も見られない。

 完璧なメシ友を演じるんじゃなかったの?

 ちょっと、落ち着け私!

 それでも、先月のグルメの会の時とは違い、機嫌の良さそうないつもの彼で、ホッとしている私が居た。


 



2018.1.31推敲、改稿済み。

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