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#45:お持ち帰り?【指輪の過去編・夏樹視点】

今回も指輪の見せる過去のお話で、夏樹視点。


夏樹と祐樹、27歳の6月第2日曜日。

舞子と圭吾の結婚式の翌日。

 朝の光にぼんやりと意識が覚醒しだした。

 ……ん……頭が痛い。この頭の痛みは……覚えがある。ああ、そうだ。二日酔いだ。

 だんだんとよみがえる記憶に、昨日は舞子の結婚式で、二次会の時に嬉しくてたくさんお酒を飲んだ事を思い出した。


 ああ、またやっちゃったか。それにしても、途中までしか記憶が無いが、誰が送ってきてくれたんだろう?

 そうして、もやがかかった眼が少しずつ晴れだすと、いつもと様子が違う事に気付いた。


 あれ、この掛け布団……夏用の薄い羽毛布団……私の家にあるものと違う。

 え?ここは、どこ?

 頭の中に嫌な想像が沸き起こった。


 私は飛び起きた。そして、自分の格好を確認した。

 ほっ、服は着ている。………だぁーーーフォーマルのワンピース皺くちゃだ!!!

 安心とショックで、ガックリとベッドに座り込んだ。


 それにしても、ここどこ?

 寝室のドアを開ければ、分かるかもしれないけれど……。知りたくない現実がありそうで、怖い。

 思い出せ! 昨夜最後まで一緒にいたのは? 会社の同僚たち?

 同期の彼女の部屋はワンルームだったよね。こんな風に寝室が独立していない。この寝室、結構な広さがあるから、もしかしたら既婚者の同僚の家かな?

 えっ、結婚している先輩? 家族と住んでいる後輩?


 もう一度部屋を良く見る。

 ベッドとサイドテーブルとクローゼット。何も無い殺風景な寝室。半開きになったクローゼットから覗いているのは、男物のスーツ?

 まさか……、見知らぬ男の人に、お持ち帰りされたなんて事。

 無い、無い、無い。絶対無い! ……と信じたい。

 きっと、既婚者の先輩だよ。

 このベッド……ダブルの広さはあるよね。でも、枕は一つしかない。

 夫婦の寝室なら、枕は二つあるのが普通じゃないのか?

 私は頭を抱えた。良からぬ妄想が頭の中を支配してゆく。


 その時、近づく足音が聞こえた。思わず息を止め緊張する。誰? ここの主か? はたまた……。

 ノックも無しにドアノブが回された。ゆっくりと開くドア。そこから覗いたその人の顔を見て、絶句した。


「あ、夏樹、起きた?」


「…………」

 眼を見開いたまま、祐樹さんを凝視した。これは夢か? はたまたうつつか?


「どうしたの? フリーズしちゃって」

 その人は可笑しそうに言った。


「ど、どうしてあなたがここに?」

 やっと反応を返せたのは疑問形。


「どうしてって、ここ俺の部屋だし……」


「!!!!!」

 どうして彼の部屋にいるの?

 もしかして、お持ち帰りされちゃった?

 彼のその他大勢の女友達の仲間入りをしちゃったの?


 私はびっくり眼のまま、思わず両手で自分の体を抱きしめた。その様子を見ていた祐樹さんは、眉を上げたかと思うと堪らずに笑い出した。


「もしかして、変な想像してない?」


「へ、へんなそうぞう?」


「俺が酔った夏樹をお持ち帰りして襲ったとか?」

 ぶんぶんと首を振った。


「まあ、お持ち帰りした事には間違いないけどな」

 ええっ?! お持ち帰り?!

 私がまた眼を見開いたまま固まっていると、彼はクックッと笑いだした。


「夏樹、よかったな。俺みたいな紳士にお持ち帰りされて。何もしてないよ。服だって着たままでしょ? 眠りこんでいる女性を襲うほど飢えてないよ」

 その言葉でやっとホッとして、体から緊張が解けた。でも、少し残念なような気持もあって……。

 飢えてない、か。……そうだよね、寄ってくる女性はたくさんいるだろうし……。お付き合いのある女性もたくさんいるみたいだし。

 今度は少し悲しくなったけど、気付かれたく無くて、わざと明るく言い返した。


「そ、そうなんだ。……あっ、それで、この高かったワンピースが皺くちゃになったんだ!」


「え? 脱がして欲しかった訳?」

 祐樹さんはクスクス笑いながら、聞き返した。


「ち、違います!」

 そんな風に聞き返されるとは思わなくて、私は頬が熱くなるのを感じながら、思わず叫んでいた。


 それにしても……、どうしてこんな事になっているのだろう?

 お持ち帰り? なぜ?


「……あの~、どうして私はここにいるんでしょう?」


「覚えてないの?」

 私は不安な気持ちで頷いた。


「じゃあ、俺に説教したことも覚えてない?」

 え? 説教? 何を言ったのだろう?

 頭の中はクエッションだらけで、ぐるぐる回っている。そして、追い討ちをかけるように祐樹さんはまた聞いてきた。


「もしかして、夏樹が俺に言った事全部、覚えてないとか?」

 え? 何を言ったのだろう?

 変な事、口走ったのだろうか?

 ますます不安になって、恐る恐る頷いた。すると、彼は徐に息を吐いた。


「覚えてないんだったら、言わない。」

 彼はまるで悪戯っ子のようにニヤリと笑って言った。


 え~~~~~??!!

 なんで???

「そんな……意地悪言わないでください。」


「夏樹の方が意地悪だろ?」


「ど、どうして私が意地悪なんですか?」


「散々言いたい事言って俺を翻弄しておいて、はい、忘れましたって、そっちの方が酷いだろ?」

 祐樹さんの責めるような言い方に、呆然となり血の気が引くのを感じた。

 私、何を言ったの?

 いくらお酒に酔っているとは言え、口から出るのは心の中にある言葉だろう。お酒に酔っていれば尚更普段抑えていた心のままに、言葉がこぼれ落ちたかもしれない。

 まさか……、この想いを告げてしまったのでは?

 まさか……。


 上目使いで彼の顔を見上げれば、余裕のありそうな澄ました顔で、ニッと笑われた。

 うっ、なんなのその笑顔は!

 お酒に酔ってれば忘れることぐらいよくある話じゃないの?

 それなのに、被害者ぶりながら勝ち誇ったような余裕の笑みは何?

 まるで私の弱みを握っているような余裕。やっぱり、告げてしまったのだろうか? この想いを。でも、お酒の上での事、知らぬ存ぜぬで押し通そう!

 そうそう、お酒に酔った上での話なんて、誰もが聞き流すのが暗黙の了解でしょ?


「祐樹さんこそ酷いです。お酒に酔った上での話を取り上げて、覚えていないと責めるなんて。聞き流す心の広さは無いんですか?!」

 相手の余裕に負けてしまわないように、こちらも責めるように切り返した。どうも彼の前だと、天邪鬼な私が目覚めるようだ。


「へぇ、そんなこと言っていいの? 俺は一応夏樹の恩人だと思うけど? 酔って寝込んだ君を別に俺は放置してきても良かったんだから……」


「そうしてくれたらよかったんです。会社の同僚たちもいたのだから。いつも、たたき起こされて帰らされているから……」


「へぇ、いつもなんだ? よく今まで無事に済んでいたな? それとも、お持ち帰りされるのを期待しているとか?」


「何言っているんですか!? そんなはずないでしょ! いつもタクシーでちゃんと帰っていました」


「そう? 昨夜はどんなに起こしても起きなくて、会社の子達も困っているみたいだったよ? みんな三次会に行きたそうだったから、俺が送るのを引き受けたんだけど、迷惑だった?」


「め、迷惑じゃないけど……。でも! 私の部屋へは送ってもらっていません!!」

 迷惑をかけたという負い目があるから、どんどん言い負かされそうになるのに腹が立って、こちらも小さなことに突っ込んで、強気に言い返してみる。


「夏樹のマンションの前までいったんだよ。でも、どれだけ起こしても起きないし、部屋番号も知らないし、鍵も勝手に探すわけにいかないから、仕方なく俺の部屋へ連れてきたんだろ? おまけにベッドまで譲ったと言うのに。なんでそうイライラしているんだ? 感謝こそすれ、怒られる謂れはないと思うけど?」


「………」

 私、そんなに寝込んでいたのか。

 そう言えば、今まで飲んだことないレベルの量を超えていたような。ああ、この人にこんなにも迷惑をかけていたなんて……。今すぐ穴を掘って埋まりたい。


「ごめんなさい。お世話になってありがとうございます」

 俯いてそう言うと、そっと上目使いで祐樹さんの顔を覗き見る。そこには、初めて見た時のあの素敵な笑顔の祐樹さんがいた。そして、いつの間にかベッドに座る私の前に立つと、私の頭をクシャクシャと撫で回した。


「わかればよろしい」

 さっきから彼の笑顔に見とれていた私に、またニッと笑い返す彼。頬が熱くなる。きっと私、赤くなっている。

 ああ、私はやっぱりこの想いを消せそうにない。

 踵を返して部屋から出て行こうとしている彼の後姿を見つめながら、小さく息を吐いた。




2018.1.30推敲、改稿済み。

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