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#42:プロポーズ?【現在編→指輪の過去編・夏樹視点】

今回は現在編から始まり、途中で指輪の見せる過去へ飛びます。

夏樹視点。

35歳から27歳へトリップ。

「これでいいのよ」

 私はいつの間にか心の中で繰り返していた言葉を、口に出して言っていた。それは、まるで自分に言い聞かせるように。

 知らない間に頬を伝う涙に、自分が泣いている事を知る。

 どれだけ泣けば、忘れられるの?


 さっきシャワーを浴びる時に外した指輪を、寝転びながら見つめた。

 本当に私を幸せに導いてくれるの?

 そのヒントはトリップの先にあるのだろうか?

 トリップが現実に追いついた時、全ての答えはそこにあるのだろうか?


 今はこの指輪が指し示す方向へ進んでみよう。この指輪が連れて行ってくれる現実へ向かって進んでみよう。

 心も体も身動きが取れなくなった私は、この不思議な指輪に運命を任せようと、再び右手薬指に指輪をはめていった。



     *****


 そこは映画館の中だった。正面の映像はエンドロールを流している。

 周りで出て行こうと立ち上がる人たちの、ザワザワとした雑音も気にならないぐらい、映画の世界に入り込んだまま、まだボーとしている。無意識に、チェーンに通して首からかけた指輪を服越しに握っていた。

 今人気になっている恋愛映画、やはり前評判通りとても感動した。健也君(高田君)は少しだけ嫌な顔したけれど、私がどうしても見たいと言ったら、付き合ってくれた。


「そろそろ行こうか?」

 場内の灯りがついた頃、健也君が声をかけてきた。私は健也君の顔を見上げると、夢見心地の笑顔を返した。

 二人して出口に向かって歩きながら、私はうっとりとした溜息を吐いた。そんな私をニヤニヤと笑いながら見つめる健也君は「良かったみたいだな」と言った。


「ええ、素敵だった。あんなに一途に一人の人を愛せるなんて……。そんな人に巡り合えるなんて奇跡だよねぇ」

 独り言のように言うと、隣からボソリと呟いた言葉に驚いた。


「俺が夏樹に出会えたのは、奇跡だったのかもな」

 私は思わず健也君の顔を見上げた。彼も丁度こちらを見たその顔は、今までに無い甘い笑顔だった。

 その時、心の中でチクリと痛みが走った。私は恥ずかしさと、さっき感じた罪悪感に顔をそらした。何も返す言葉がなくて、黙ったまま歩いて行った。


 忘れていた。いや、無意識に気にしない様にしていたのかも知れない。彼の想いを。

 いつの間にか一緒にいる事に慣れたけれど、それはどちらかと言うと、仲の良い友達みたいな感覚で、今まで舞子がいてくれた所に、スッポリと健也君が納まったような感じでいたのかもしれない。

 だから、急にこんな甘い雰囲気をかもし出されると、戸惑ってしまう。彼の想いと同じだけを返せない事に、罪悪感を覚えてしまう。


 シネマコンプレックスのロビーまで戻って来ると、健也君は「トイレへ行ってくるからここで待っていて」と行ってしまった。傍にあったベンチに座って、ぼんやりとシアターの入口へ入っていく人や出てくる人を見ていた。その時……。


(どうしてこんなところで、また逢うかな)


 私の目に映ったのは、シアターから出て来た美男美女のカップル。二人とも背が高くて人目を引くその容姿に、目が惹きつけられた。男の方は、言うまでもなく例の彼で、やっぱり素敵だなって思ってしまった自分に嫌悪する。こちらの視線に気づいた彼と一瞬目が合った。思わず反らしたが、時すでに遅し。一緒にいた女性に何か言うと、女性をそこに残したままこちらへやって来た。ニヤニヤと笑いながら。


「誰かと思ったら、夏樹さんじゃないか?」


(白々しい……)


「お久しぶりです、杉本さん。婚約者の方とデートですか?」


「彼女は友達だよ」


「もうすぐ結婚を控えた方が、女友達と腕を組んで映画なんか見に来ていてもいいんですか?」

 私はイライラし出した。この男はもうすぐ結婚すると言うのに、まだ複数の女性との付き合いを止めていなかったのか。

祐樹さんは、私の険のある言い方に少し怯んだが、急にニヤリと笑った。


「ふ~ん。気になる?」


「はぁ? 誰が?! 私は人として常識を言っただけです」

 彼は例のごとくクックッと笑い、私を馬鹿にする。


「常識ねぇ。どんな常識だか? 少なくとも君には迷惑をかけてないと思うけど?」

 なんだか腹が立った自分が馬鹿らしくなった。どうして私はこんな人に惹かれてしまうのだろう?


「そうですね。さっきの言葉は取り消します」

 腹が立って思いのまま言葉をぶつけた自分が嫌になって、彼から目を逸らした。


「どうしたんだい? 夏樹らしくもない。何時ものようにもっと言い返したら?」


 (私らしくないって、どういう事?)


 戦意を失くした私が物足りないのか、笑いながら発破をかけてくる彼を恨めしげに睨んだ。


「まあ、いいか。それより、夏樹は彼とデートなのかい?」


「そうよ! 楽しいデート中なのに、あなたなんかに会うなんて……」

 精一杯反抗的な態度で答えると、彼はまた機嫌よく笑っている。祐樹さんって、もしかしてMなの?  私が悪態を吐く度に嬉しそうに笑う気がする。

 クックッと笑いながら彼の視線が私の後方で止まった。


「アイツが夏樹の彼なのか?」

 驚いて振り返ると、少し離れた所でこちらを睨んだまま立ち止っている健也君がいた。


「夏樹……」


「健也君……」

 お互い呟くように相手の名前を言うと、健也君はゆっくりと私たちの方へ近づいて来た。


「なかなか感じのよさそうな奴じゃないか。良かったな、夏樹」

 祐樹さんの言葉にまたそちらの方を見ると、とても優しい笑顔の彼が近づく健也君に会釈し「じゃあな」と離れて行った。その後ろ姿をぼんやり見ていると、こちらを睨む彼女の眼差し。


 (あ、修羅場の時の女性だ)


 あの時は冷たく追い返していたのに、今も彼女を待たせて違う女性に声をかけるって、どうよ?

 だけど、こんな風に女性に自分勝手な態度を取る祐樹さんが、時折見せる優しい笑顔にやっぱり胸はキュンとなってしまう。なんだか自分が情けない。


「夏樹」

 頭上から聞こえた声に顔を上げると、そこには不機嫌な顔の健也君がいた。健也君の存在を忘れて考え込んでいた自分に、また、自己嫌悪。


「さっきの奴、誰?」


「あ、あのね、舞子の婚約者のお友達なの。舞子達が初めてのデートの時恥ずかしいからって彼と私がそれぞれに付き添いしたの。その時に紹介されて」

 私のしどろもどろの説明は、どこか言い訳じみている。


「ふ~ん、そっか」

 気のない返事の健也君が、私と祐樹さんを見てどう思ったのかなんて、考えるのも怖かった。


 三月の午後四時過ぎは、まだまだ明るかった。日差しももう春のそれになっている。

 映画館を出た私達は、夕食の時間まではまだあるから、ゆっくり歩いていこうと健也君が私の手を握って歩き出した。

 滅多に手を繋ぐ事などしない彼が、いつもなら手を繋いでも良いかと聞く彼が、何も言わずに私の手を強く握ったのに驚いた。でも、心のどこかで負い目があって、何も言えない。


 今日はホテルのレストランを予約してあるのだと言う。


「健也君の誕生日だったっけ?それとも他に何かあるの?」

レストランの予約なんてクリスマス以来だ。何のイベントでも、記念日でも無い筈。


「たまには良いだろ?」

 そう言って恥かしげに笑った健也君に、さっきのシネコンで見せた不機嫌さを感じられなくなって、安堵した。

 あれからずっと、気になっていたのだ。


 たどり着いたホテルのレストランは、とても高級そうなレストランで、個室へと案内された。お料理はコース料理だと言う。


「ねぇ、なんなの? たまにはっていうレベルじゃないじゃない。何かのお祝い? それとも、宝くじが当たったとか?」

 健也君はただ可笑しそうに笑うだけで、何も言わない。


「もう~、言ってくれれば、もう少しましな格好してきたのに」

 自分のカジュアルな服装を見て、ため息を吐いた。


「ここは別にドレスコードなんて無いから、気にしなくていいよ」


 (もう、自分はきちんとしたジャケットを着ているクセに!)


 私は健也君をひと睨みすると、また小さく息を吐いた。そして、窓の外へ目をやると、窓いっぱいにオレンジ色の風景が広がった。夕日が沈んだ後の名残の光が、都会のビル群を温かく包んでいる。


 お料理は美味しかった。次から次へと出されるお料理の素材や作り方について、楽しくおしゃべりしていると、健也君は相槌を打ちながら、優しい笑顔で私を見つめていた。その事に気づいていたけれど、気付かないふりをして、ますます饒舌になっていく。

 今、お喋りを止めたら、なぜか困ったことになるような気がして、私のテンションはそんな予感に後押しされてどんどんと上がっていった。


「夏樹」

 最後のデザートを食べ終えた頃、健也君は私のお喋りを止めるように、静かに名前を呼んだ。

 私は来る時が来たと変な予感に、緊張のためドキドキとしながら、お喋りを止めて首を少し傾けて健也君を見つめ返した。


「実は……、転勤することになった」


「え? どこへ?」


「イギリス」

 健也君は入社当初から海外支社への転勤を希望していた。そのために海外支社の多いこの会社に入社したのだと話していた。


「良かったじゃない! 夢がかなったね」

 私のリアクションに、彼は少しがっかりとした顔をした。


「夏樹、わかっている? 最低三年は戻れない。おそらく、イギリスの後も他の国を回る事になるだろう」

 このまま何年も逢えなくなる、って事? 私たちのこの付き合いは、ここでおしまいって言う事? それで、この豪華なディナー?

 一人逡巡していると、健也君はテーブルに置いていた私の手を握った。


「夏樹、付いてきてくれないか? 本当はもっと時間をかけて君の気持をしっかりと掴みたかったけれど、時間が足りなかった。でも、一緒に行ってくれたら、絶対に大切にする」


 (え? それって……プロポーズ?)



2018.1.29推敲、改稿済み。

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