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#41:義父・高藤慎吾の妄想【現在編・慎吾視点】

今回は、圭吾の父親であり、舞子の義父の高藤慎吾視点でお送りします。

現在編です。

舞子が夏樹の母親の事を聞くために義父の書斎を訪れ、謎の質問をして去った後、慎吾が一人書斎で悶々としている様子です。

 さて、どうしたものか。

 上条舞子の義父である僕、高藤慎吾(たかふじしんご)は考えた。


 驚いた。

 心底、驚いた。

 全く思いもしない時に、思いもしない人から、思いもしない人の名前を聞くなんて。


 人生はなんて驚きに満ちているんだ。


 おっと、感動している場合じゃない。

 それにしても、どうして舞子さんが……。

 それが一番の疑問だ。知人を通じて頼まれたと言っていたが、どんな関係の知り合いなのか?

 それに、どうして舞子さんに頼んできたか?

 その上、どうして僕に質問する事になったのか?

 考え出すと、どんどん疑問は膨れ上がる。


 舞子さん、質問の理由は詮索するなって、酷いな。


 でも、一番気になるのは……。

 『御堂夏子』と来て『まさき』と来れば、考えられる『まさき』はアイツしかいないだろう。それなのに、圭吾と同い年の子供がいたらダメって言う条件はなんなんだ。


 本当にアイツは関係ないのか?


 もしも、舞子さんが探している『まさき』がアイツだったとしたら、誰が二人の事を知りたいのだろう?


 何が考えられる?


 『まさき』と言う名前の男は誰かわからなくて、『御堂夏子』の事は知っている人物が、今回の依頼をしたと考えられる。

 しかし、『御堂夏子』の昔の事は知らない人物。


 どんな人物が考えられる?


 親や兄弟なら昔の事も知っているだろう。

 じゃあ、昔を知らない人物なら……夫、もしくは恋人じゃないのだろうか?

 自分の妻、もしくは恋人の昔の恋人の事を知りたい時って、どんな時だ?

 自分の愛する人が、昔の恋人をまだ忘れずにいるのじゃないかと疑っている時、ではないのか?

 この人物は、もしかすると二人が今でも関係が有ると疑っているのではないのか?


 今でも、関係あるのか?


 アイツの前から『御堂夏子』が姿を消した時、アイツの取り乱し様は尋常ではなかった。自分が彼女を追い詰めたんだと自分を責め、彼女を探しに行くんだと当ても無いのに飛び出そうとして親父さんに止められ、閉じ込められて監視までついていた。

 僕が訪ねて行った時は、怒りの表情で「親父が彼女に何か言ったらしい」と吐き出し、会社なんか継ぐもんかと叫んだ。

 そんなアイツが二ヶ月後、婚約者と結婚すると言った時は驚いた。親父さんに脅しをかけられて、しぶしぶ結婚を決めたのかと思いきや、なんと、子供ができたからだと言う。出産予定日を聞いて、渋々答えたアイツの目が、こちらを見ようとせず泳いでいたのは、妊娠したと思われる時期のせいだろう。


 あんなに取り乱した『御堂夏子』の失踪の前に、アイツは婚約者と関係していた?


 その事に気付いた時、一途だと思っていた親友であるアイツへの見る目が変わった。アイツも普通の男だったんだ。その事は、僕を少しホッとさせた。

 アイツが『御堂夏子』と付き合っていた時に、婚約者との間に何があったのかは知らない。ただ、アイツと婚約者は幼馴染で、それこそ兄妹のようだった。アイツも婚約者は妹のようで大切な存在だとは言っていた。ただ、結婚相手にはどうしても思えないと……。


 婚約者に迫られてほだされたのか?


 何かあって流されてしまったのだろうとは思うけれど……避妊しなかったなんて、馬鹿だなとあの時は思った。

 あれ以来、アイツから『御堂夏子』の存在も名前さえも、感じた事も聞いた事も無かった。


 それなのに、なぜ今頃?


 どこかで再会したのか?

 あれから、行方を捜したのか?

 誰にも内緒で連絡を取り合っていたのか?


 いろいろと考えている内に、ある事に気付いた。それは、子供の年齢の事だ。『御堂夏子』が失踪した後にアイツが結婚して子供ができていたら、たしかに現在三十五歳の圭吾の年下になるだろう。まさか、『御堂夏子』と付き合っている時に、別の人を妊娠させていたなんて、誰も思いもしないだろうから。

それなら、アイツが今回の条件から外れているとは考えにくい。圭吾と同い年の子供がいるアイツは捜している『まさき』の対象内と言えるだろう。と言うより、舞子さんの捜している『まさき』はアイツ以外にないだろう。


 この事を舞子さんに言うべきか?

 聞かれていない事まで言う必要ないだろうな。


 捜している『まさき』がアイツの事だとわかった時、依頼者が何らかの攻撃をアイツに仕掛けないとも限らないのだし。アイツも目立つ存在だから、スキャンダルは少なからずも影響するだろう。


 この事をアイツに忠告しておいた方がいいだろうか?


 それに、今でも関係あるのかも気になる。僕に黙って連絡を取り合っていたのだとしたら、親友だと思っていたのに、ずいぶん水臭い。って、単なる好奇心かもしれないが。


 僕はその好奇心に負けて、アイツの携帯ナンバーを押していた。


「もしもし、雅樹、慎吾だけど」


「ああ、珍しいな、なにかあったのかい?」


「ちょっとな。それより、今忙しいか?電話していてもいいかな?」


「大丈夫だよ。今日は休日で自宅にいるから」


「今、奥さんは傍にいるのか?」


「今は書斎に一人でいる」


「そうか、最近どうだ? 忙しいのか?」


「まあまあだよ。お前の方こそ、どうなんだい? もう息子にすべて任せているのかい?」


「ああ、そろそろ全て任せて、悠々自適の生活でもしようかな、なんて考えているところさ」


「お前の息子たちが羨ましいよ。ウチは親父に翻弄されて、僕も息子も散々だよ」


「そうだったな。お前も結婚前には親父さんにいろいろと妨害されたんだったな」

 話がうまい方向へ流れ出したので、本題に入る前に過去の事を匂わせて、アイツの反応を見てみることにした。


「慎吾、何の事を言っているんだ? もう、三十年以上昔の事は忘れたよ」


「本当に忘れたのか? 御堂夏子の事も?」


「………………どうして、彼女の名が出てくる?」

 いきなりアイツの声が低くなった。声に苛立ちが少し混じったようだ。


「ああ、僕もどうして今頃? と思っているんだ。実はな、ある人から御堂夏子と言う人を知っているかって聞かれたんだ」


「誰がそんな事を聞いてきたんだい?」


「誰かは、今は言えない。その約束なんだ。でも、どうして今頃になって、僕なんかに聞くのだろうって疑問に思うだろ? だけど、質問の前にこの質問について疑問に思っても詮索しないで欲しいって言われて了解してしまったから、聞けないんだよ。その上に、ある人物を探しているから、もしも知っていたら教えて欲しいって言われて、その人物の条件と言うのが、大きな会社の社長をしているらしい、年齢は僕と同じぐらい、結婚しているかどうかは分からないが、もしも子供がいたら現在三十四歳以下だろう、それからその人の名前は【まさき】と言うらしい。どうだ? 心当たりがあるだろ?」


「それで、お前……僕の名前を教えたのかい?」


「まさか、お前の所の息子は、もう三十五歳だろ? 対象外なんだよ。他の条件は全てクリアしているのにな。って、御堂夏子ときたら、お前しか考えられないだろう? でも、条件が合わなかったから、他の奴を教えた」


「他の奴ってどう言う事だい?」


「条件に合いそうな【まさき】を考えていたら、トーエイ石油の社長を思い出して、名刺で確認したらやっぱり【まさき】だった。それで、彼の名刺を渡しておいた。別に嘘をついている訳じゃない。条件に合う人物を教えただけだ」


「確かにトーエイ石油の社長は、僕たちと同い年で条件に合うかもしれないけど……。あきらかに違う人物を紹介してよかったのかい?」


「違うかどうかは向こうが判断することだろう? それに、もしかしたら、人物が特定されたら依頼者は脅しとか攻撃とかしてくるかも知れないじゃないか。それだと、お前困るだろう?」


「どうして脅しや攻撃をしてくるって思うんだい?」


「僕もいろいろ考えたんだよ。質問してきた人は何も教えてくれないし、詮索するなって言われているから。もしかすると、御堂夏子の今の夫か恋人が、依頼者じゃないかと思うんだ。そいつが、御堂夏子は昔の恋人を忘れていないとか、今でも関係があるとか思い込んで、調べているんじゃないかと思うんだけど。昔の恋人が誰かなんて本人には聞けないだろう? だから、極秘に調べているんじゃないかって思ったんだけど……」


「慎吾、お前……、ドラマの見すぎじゃないのか?」


「何だよ、それ。ドラマみたいかも知れないけど、そう考えると辻褄が合うんだよ。現実は小説より奇なりって言うだろ? それより、お前今でも御堂夏子と連絡とか取っているのか?」


「何言っているんだ! 彼女が僕の前から姿を隠してから、一切の関係は無いよ。もう三十年以上前の話だ。忘れたよ」


「そうか……。御堂夏子の夫か恋人の勝手な妄想か」


「慎吾、僕は全てお前の勝手な妄想だと思うけどな。他に用が無いなら、もう切るよ。これ以上お前の妄想に巻き込まないでくれ」


「そうやって突っぱねても、この【まさき】はお前の事だからな! 用心しろよ! じゃあ、また」

 御堂夏子の話になると不機嫌になるあいつは、決して忘れてなんかいないだろう。でも、どうして御堂夏子の関係者があいつの事を捜しているんだ?


 ああ、もう! 舞子さんは、こんなに大きな謎を残して、僕にどうしろって言うんだ!!


2018.1.29推敲、改稿済み。

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