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#40:迷探偵?舞子【現在編・舞子視点】

今回は現在編、上条舞子視点です。

舞子の迷探偵ぶりをお楽しみ下さい。

(どういう風に切り出そうかな?)


 私、上条舞子(かみじょうまいこ)は、国産ワンボックスカーを運転しながら、一人これからの作戦について考えていた。

 それにしても、昨夜夏樹から聞いた不思議な指輪やトリップの話は本当に驚いた。確かに、何か不思議な力が働いているようだ。それでも、そのせいで夏樹が考え込んでいるのは気になったが……。


 人一倍周りを気にして本心を押し隠す夏樹にいつもやきもきさせられるのは慣れっこだが、もうちょっと自分の気持ちに素直になってもいいと思うのよね。どう見たってあの二人は相思相愛なのに。祐樹さんのご両親だって反対はしてないのに、あの爺が邪魔するから。

 もうずいぶんな歳だろうと思うけれど、この間私たち夫婦が駆り出されたパーティで、久々に見かけた祐樹さんのお祖父様は、以前に比べると少し落ちたかもしれないが、相変わらずのカリスマ的なオーラがあった。あのオーラに未だに心酔している取締役たちが、あの祖父さんの権力を許しているらしい。

 会長である祖父さん派と、温厚な社長派に社内では分かれているという。親子で何やっているのだか。それでは社内も落ち着かないだろう。


 夏樹も実母のお願いをそのまま人生訓のように捉えて、愛し合う二人の結婚を諦めなくてもいいのに。でも、夏樹は頑固だ。こうと決めたら、決して曲げない。そこが長所でもあるけれど、融通が利かないところは短所だ。


 (もうこれは、舞子さんが何とかしないといけませんよね)

 心の中で呟いてニヤリと笑顔を浮かべた。


 昨日から子供たちを預かってもらっている圭吾さんの実家へ向かいながら、今後の作戦を頭の中で繰り返す。

 夏樹から圭吾さんのお義父様が、夏樹の母親と関係があるかも知れないと聞いた時は、とても驚いた。でも、夏樹の父親が、お義父様じゃなくて、良かった。願わくは、夏樹の父親は、夏樹の母親を忘れられず独身と貫いている人である事を望む。もしも、結婚していたら、たとえ独身時代にできた子供であっても、奥様には嫌な思いをさせてしまうだろう。

 とにかく、父親の特定が先決だ。誰か分かってから、その人の家庭事情を考えて、夏樹の存在を言う、言わないは、後から考えよう。


 これから、お義父様に会うのだから、夏樹の母親の事を探るのに丁度良い。そう思って急きょ作戦を立てたのだった。

 夏樹の母親の事もそうだけれど、父親の条件に当てはまるような社長さんがいるかどうかも、お義父様に尋ねてみよう。本来なら実家の父に聞くのだけれど、遠慮のない分こちらの事情を話さないと、教えてはくれないだろう。お義父様なら、多少遠慮がある分、先に理由は言えないけれど教えて欲しいとお願いすれば、教えてくれるかもしれない。


 圭吾の実家である高藤家の駐車場に車を停めると、裏口から母屋へ入っていった。裏口といっても、普通の家の玄関ほどの広さがある。

「こんにちは」と元気よく入っていくと、遠くのほうからバタバタと足音が聞こえる。私の姿を見るなり、「ママー」と我が家のお嬢様とお坊ちゃんが駆けて来た。その後を義母がゆっくりと追いかけてきた。


「舞子さん、ごめんなさいね。急にお客様が来る事になって」


「いえ、こちらこそ、子ども達の上に圭吾さんまでお世話になって、すいませんでした」


「そんな事はいいのよ。お友達とはゆっくりおしゃべりできた?」


「はい、お蔭様で、友達と楽しいひと時を過ごせました」


「よかったわ。こちらも、おチビさん達と楽しく過ごせたから、お互い様よ。それより、ランチはここで食べて行ってね。お客様がいらっしゃるのは、午後の三時ぐらいだから」


「わぁ、ありがとうございます。芳江さんのお料理、大好きなんです」


「だったら、彼女にそう言ってあげて。喜ぶと思うから」


「はい、そうします。ところで、お義父様はいらっしゃいますか?」


「ええ、書斎にいると思うけれど、何か御用がおありなの?」


「はい、少しお聞きしたい事と言うかお願いしたい事がありまして、もうしばらく子どもたちをお願いしても良いでしょうか?」


「それはかまわないわ。主人も舞子さんのお願いなら喜んで聞くと思うわよ」

 そう言って義母はニッコリと笑って、子ども達を連れて又リビングの方へ歩いていった。


 書斎のドアをノックすると、「どうぞ」と声が返り、ゆっくりとドアを開けた。

「こんにちは、お義父様。昨日から子ども達や主人までお世話になりまして、ありがとうございます」


「いやいや、お友達が来てくれていたらしいね。こちらの都合で、早々に迎えに越させて悪かったね」


「いえ、いいんです。昨夜ゆっくりとお話できましたから。本当に助かりました」


「そんなに気にしなくていいよ。孫が来てくれるのは楽しみの一つだからね。それより、僕に何か用があったんじゃないのかね?」

 お義父様はいつも自分の事を僕と言う。それが、どこか可愛らしくて、圭吾さんに感じている安心感を、いつもお義父様にも感じる。お義父様の穏やかな雰囲気は、私の今日の使命を忘れさせそうになる。


「あ、はい。そうでした。あの、お願いというか、お聞きしたい事がありまして」


「僕に聞きたい事? 僕のわかる事なら答えてあげられると思うけど……、難しい事かい?」


「いえ、そうじゃないんです。ただ、私がお聞きする事について、疑問に思っても詮索しないで欲しいんです」

 こんな勝手なお願いを聞いてくれるだろうか? こういう時こそおねだり上手なお嫁さんを演じなくては。


「それはどういう事かね?」


「ですから、どうしてこんな事を聞くのかとか、誰に頼まれたのかとか、疑問に思っても聞かないで欲しいんです」


「誰かに頼まれたのかね?」


「はい、知人を通じて頼まれまして。でも、けしてお義父様にご迷惑をお掛け致しませんので。駄目でしょうか?」

 私は上目づかいで、お願いオーラを全開にして、お義父様の反応を待った。


「質問を聞いてみない事には、何とも言えないけれど……。まあ今回は舞子さんの顔を立てて、僕にわかる事なら、協力しようかな」

 そう言って笑った顔は、圭吾さんと同じ優しい笑顔だった。


「ありがとうございます」

 私も笑顔で頭を下げた。

 私は、計画通りなんとか入り口部分は突破できたと安堵した。

 さあ、これからお義父様が、どんな顔するか。楽しみだわ。

 舞子は心の中でニヤリと笑ったのだった。



「あの、ある人を探しているんですが、今から言う条件に合うような人をご存知でしたら、教えて欲しいのですが……」


「人探しをしているのかね? 僕の知っている人だったらいいけれど」


「ご存じだったらで、いいんです。その人は、恐らく大きな会社の社長さんをされていると思います。そして年齢は、お義父様と同じぐらいで、結婚しているかどうかは分かりません。ただ、もし子供がいるとしたら、私と圭吾さんより年下の34歳以下の年齢の人だと思います。それから、その人は【まさき】と言う名前です。どういう漢字を書くのかは分からないけど。どなたか思い当たる方はいらっしゃいますか?」


「まさき、と言ったかな? う~ん。子供は圭吾と同い年では駄目なんだよね?」


「はい、子供がいたら、私たちより年下らしいです」

 私はそこのところを力を入れて話した。すると、お義父様は立ち上がって、棚から名刺ファイルを持ってきて、又椅子に座った。う~んと唸りながら、パラパラと名刺ファイルを捲って行く。そして、ふと手を止めて、一枚の名刺を抜き出し、黙って私に渡した。


『トーエイ石油株式会社 代表取締役社長 藤栄政樹』

 私は名刺を心の中で読み上げ、「とうえいまさき」と口に出して呟いた。そして、お義父様の方へ顔を上げた。


「彼は、たしか僕と同い年ぐらいのはずだ。結婚していたかどうかは分からないが、今は独身だったと思う。子供はいないらしくて、甥を養子に迎えて、後を継がせると聞いている。彼だったらその条件に合うんじゃないのかな?」


「そうですね。合いそうです。この名刺、お借りしてもよろしいですか?」


「ああ、その名刺はあげるよ。他にもあったと思うから」


「あの、お義父様はこの方とお知り合いですか?」


「まあ、顔を合わせばあいさつぐらいはする程度かな」


「じゃあ、この方の若いころの事はご存じないですか?」


「若い頃?」


「ええ、二十代の頃の事です」


「よく知らないなぁ。何か昔の事でも調べているの?」


「お義父様、すいません。今は何もお答えできなくて……」


「ああ、そうだったね。詮索しない約束だったね」

 私は申し訳なくて頭を下げた。しかし、もう一つ質問しなくちゃいけないのだ。今度こそ大きな爆弾になるかも知れない。でも、その前に……。


「お義父様、その名刺ファイル見せてもらってもいいですか?」

 お義父様は「どうぞ」と名刺ファイルを渡してくれた。私は順番に『まさき』と言う名の名刺がないか一つ一つ見ていった。見つけるたびに、お義父様に「この方は?」と聞いてみたが、どれもやはり条件に当てはまらない人ばかりだった。何人目かを聞いた時、「それは、祐樹君のお父さんだよ」と言われ、そう言えば下の名前まで知らなかったなと思った。

 祐樹さんのお父さんも「雅樹」なんだ。それに、「き」は樹木の樹だし……。夏樹の樹は父親の名前から取った物だと言っていたっけ? まあ、祐樹さんのお父さんは、対象外だけどね。

 全て見終わって名刺ファイルをお義父様に返し、もう一度居住まいを正して、お義父様を見た。


「あの、もう一つ質問いいですか?」

 お義父様は、笑って頷いてくれた。


「あの、御堂夏子という人をご存知ですか?」

 一瞬お義父様は、魂の抜けたような呆けた顔をした。


「どうして、その名前を……?」


「ご存知なんですね?」

 お義父様は少し考えてから、ゆっくり頷いた。


「その人が僕の知っている御堂夏子さんなら、昔、ウチの会社に勤めていたよ」

 え?

 今度はこちらが驚く番だ。

 想像していなかった答えを貰って、この後どう質問しようか考えてしまった。


「あの、お義父様は、お話されたことがあるんですか?」


「ああ、同期入社なんだよ。だから、まあ、同期としてお喋りぐらいはしていたな」


「そ、そうですか……」

 どうしよう。もう一歩進んだ質問をしてもいいだろうか?

 これ以上突っ込むと、変に勘ぐられるだろうか?

 一人逡巡していると、お義父様の方から口を開いた。


「どうして…と聞いちゃいけなかったんだよね。でも、もしかして、さっき聞いた『まさき』と言う名前の人と、御堂夏子さんとは関係あるの?」

 私はとても驚いた顔をしたと思う。私の表情は、雄弁にお義父様に答えを伝えただろう。そして、私の表情を見たお義父様は、少し困惑した顔をした。


「それにしても、舞子さんは探偵かい?」

 そう言ってお義父様は、私に聞きたいのを諦めたように、溜息を吐きながら呟いた。





2018.1.29推敲、改稿済み。

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