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#33:スイーツのお誘い【指輪の過去編・夏樹視点】

今回も指輪の見せる過去のお話で、夏樹視点。

夏樹、27歳の12月。

 舞子との電話を切ってしばらくすると、携帯が鳴った。時刻は午後十時半過ぎ。

 もしかして、高田君? そう思って、あわてて携帯を確認すると「浅沼さん」の表示。

 あ、きっとスイーツのお誘いだ。


 去年、舞子のお見合いの前日、セレブパーティで知り合った浅沼さんと再会した。その時、スイーツをごちそうになって、これからも時々一緒にスイーツを食べに行こうって誘われた。

 だけど、浅沼さんは社長さんだ。きっと、社交辞令だろう。そう思っていた。

 でも、心のどこかで期待もしていた。もう一度、浅沼さんと楽しいおしゃべりをしながら、美味しいスイーツを食べたいなって思っていた。

 やはり、思った通り半年以上連絡が無くって、もう忘れかけた頃に連絡をもらって驚いた。

 本気だったんだ。そんなに甘いものが食べたかったのかとクスッと笑ってしまった。


 それが前回のお誘いで、私の誕生日がある7月だった。浅沼さんは仕事がずっと忙しくて、外国へ行くことも多くて、なかなか休みが取れなかったそうだ。甘いモノ不足でキレそうだった、なんて告白していた。

 それでも私は、本当に御馳走になっていいのだろうかと心配になったけど、どんなスイーツを御馳走してくれるのかなとか、また浅沼さんにおいしいスイーツの話を聞けるという期待感でワクワクする気持ちの方が勝ってしまって、自分自身に少しは遠慮しなさいと、突っ込みを入れた程だった。


 前回の時は、夏スイーツの種類の多いお店に連れってもらった。かわいいグラスに入ったゆるゆるゼリーのジュレとかマンゴープリンとかジェラートとか、色も盛り付けもかわいいスイーツが何種類もあって、私も浅沼さんも迷いに迷って決められなくて、二人で笑ってしまった。

 どうして、浅沼さんはこんなかわいいスイーツのお店を知っているのかなぁと感心してしまう。お仕事忙しいのにちゃんとスイーツのアンテナを張って情報収集しているから凄い。


 その時、図々しくも自分の誕生日がもうすぐだと話してしまった。

 日にちと年齢を聞かれて、14日である事と27歳になる事を話すと、浅沼さんはとても驚いた。

 なんと、彼の息子さんと誕生日も年齢も同じだったのだ。私も驚いて、「すごい偶然ですね」と言うと「佐藤君に親しみを感じるのはそのせいかも知れないね」とニッコリ笑顔と共に返って来た。


 でも、よく考えたら、同じ年の息子がいると云う事は、私の母が妊娠した時には浅沼さんは結婚していた訳で、私の父親ではないって事だ。そんな事、期待してはいなかったけれど、浅沼さんは私にとって理想の父親NO.1だったので、ちょっと残念だった。

 そして、浅沼さんは誕生プレゼントの代りだと、そのお店の焼き菓子の詰め合わせをプレゼントしてくれた。私はまた、お土産付きで御馳走になってしまったのだった。


 あれからまた半年近く経っての浅沼さんからの電話、きっとスイーツのお誘いに違いない。この時期だと、クリスマスにちなんだスイーツかも。期待いっぱいで通話ボタンを押した。


「もしもし、佐藤君?」

 携帯なのに名前を確認するところが、浅沼さんらしいなと思うと頬が緩んだ。


「はい、お久しぶりです。浅沼さん」


「元気にしていたかい?」


「はい、とっても元気です。浅沼さんは、いかがですか?」


「それは良かった。私も忙しかったけれど、元気にしているよ。忙しくてなかなか甘いものを食べにけなくて悪かったね。又、半年も空いてしまったよ」


「とんでもないです。私なんかを誘っていただけるだけで嬉しいです。織姫に比べたら半年に1回は多いです」

 私が力んで答えると、電話の向こうからクスクス笑う声が聞こえてきた。


「佐藤君は本当に楽しい娘だね。じゃあ又、甘いものにお付き合いして頂けるかな?」


「もちろんです。喜んでお供させていただきます」


「なんだか佐藤君の言い方聞いていると、桃太郎の鬼退治のお供みたいだね」

 浅沼さんは笑いながら言った。


「私は猿ですか。じゃあ、きび団子を用意してくださいね」

 私もクスクス笑いながら答える。


「きび団子よりももっと良いものを御馳走しようと思っているんだ。期待してくれていていいよ」


「わぁ~、楽しみです」


「この時期にしか出さないスイーツだから、私も楽しみなんだよ。でも、ちょっと少女趣味な感じだから、君と一緒でも少し恥ずかしいところもあるんだが……」


「大丈夫です。浅沼さんも可愛いから」


「こんなおじさん捕まえて、からかわないでくれよ」

 私たちは電話の向こうとこちらで笑い合った。


「ところで、佐藤君。お願いがあるんだが……」


「なんでしょうか?」


「実はね、前回君と夏のスイーツを食べに行った時、知り合いに見られていたようで、後から言われたんだよ。それで、君の事を姪だと言っておいたんだが、よかっただろうか?」


「前にもそんなこと言っていらっしゃったから、構いませんよ。変に誤解される方が辛いです。でも、浅沼さんは社長さんだから、私と一緒にいて誤解されたり変に噂が流れたりとか、浅沼さんにとってマイナスな事があるようでしたら、残念ですがもう誘っていただかなくてもいいですから。私も諦めますから」

 それは、とても残念なことだけど。


「本当に男と女と言うだけで面倒臭い事だな。何もやましい事などしていないのにね」


「本当ですね」と答えながら、やはりこんなのは世間から見たら変な関係なのだろうか?と、浅沼さんに迷惑をかけているんじゃないだろうか? と、グルグルと考え続けていた。


「佐藤君? 大丈夫だよ。君の事は実の娘のように可愛がっている姪なんだと言っておいたからね」


「あの、御迷惑じゃないですか?」


「気にしなくていいよ。私も世間の目に負けて唯一の楽しみを捨てたくないからね」


「ありがとうございます。私もとても楽しみにしているので、駄目になったら残念です」


「それは嬉しいね。こちらこそ、佐藤君には感謝しているんだよ。それでね、姪だと云うのに君の事を佐藤君と読んでいたら変じゃないかと気づいたんだ。そう言えば下の名前を聞いていなかったなと思い当って。教えてくれるかな?」

 下の名前……母に言ってはいけないと言われてきた名前。だけど、もう姓も違うのだし、浅沼さんはお父さん候補から外れたから、大丈夫だよね。


「私の名は、夏樹と言います」


「なつき? どんな字を書くんだね?」


 (どんな字?)


 『あなたの名前はお母さんとお父さんの名前から一字ずつ取って付けているから……』

 一瞬、母の言葉が蘇った。私は首を振って、浮かんだ不安を振り払った。浅沼さんは関係ない人、大丈夫。


「季節の夏と樹木の樹と言う字で、なつきと読みます」

 浅沼さんが小さな声で「夏と樹木の樹」と呟くのが聞こえた。


「つかぬ事を聞くが、君のお母さんの名前は何と言うんだろうか?」

 え? 母の名?

 なぜ? もしかして……知っているとか? あの頃の父と母を知っているとか?

 もしもそうだとしたら、言ってはいけない。絶対に言ってはいけない。


「え? 母の名ですか? 母は佐藤玲子と言います。それが、何か?」

 私は、電話でよかったとつくづく思った。声だけなら、何とか平静を装えた。きっと表情まで見られていたら、ここまで冷静に答えられなかったかもしれない。


「いや、もしかしたら、君のお母さんが昔私の知っていた人かなと思ったものだから……」


「母は、ずっと長野にいて、旅行以外でこの都会に来た事が無いんです。昔でも、浅沼さんとお会いする機会は無いと思いますよ」


「そうだろうね。名前を聞いたら、全然知らない人だったよ」

 その言葉を聞いて、私はホッとした。玲子おばさん達が養子にしてくれて良かったと思った。

 でも、浅沼さんは、父と母の知り合いかもしれない。もしかしたら、父の友達とか? 仕事仲間とか? まだ、確信は無いけれど。

 でも、母の事、否定して納得してくれたから、心配する事ないよね。こんな事で、浅沼さんとの楽しい関係を切ってしまいたくなかった。


「それじゃあ、佐藤君の事はこれから何と呼べばいいかな? 何か希望はあるかい?」


「私、親戚のおじさんには、夏樹ちゃんって呼ばれています」

 親戚のおじさんと言うのはもちろん、佐藤のおじさんの事だが……。


「じゃあ、夏樹ちゃんと呼ばれる方が慣れていていいかな? それとも他に呼んでほしい言い方があるかな? 例えば、なっちゃんとかナッキーとか?」

 浅沼さんの言葉を聞いて、思わず笑ってしまった。どうしてこの人はこんなに笑いのツボをきちんと踏むのだろう?


「なんだかそれって、どこかで聞いた事あるような呼び名ですよね。でも、夏樹ちゃんでいいです」


「いい案だと思ったんだが……。そうか、では、夏樹ちゃんと呼ぶ事にするよ。それでは、夏樹ちゃん、この土日に空いていたら、お供願えないだろうか?」


「わかりました桃太郎様。土曜日は予定がありますので、日曜日にお供させて頂きます」

 こんな風に浅沼さんとは妙にウマが合って、いつも楽しい会話ができる人だった。

 明日の高田君との初デートより、日曜日の浅沼さんとのスイーツの会の方がずっと楽しみにしている自分に、私は一人苦笑した。


2018.1.28推敲、改稿済み。

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