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#26:恋人設定解除(前編)【指輪の過去編・夏樹視点】

更新が遅れていてすいません。

やっと更新できました。

今回も指輪の見せる過去のお話です。どうぞよろしくお願いします。

「私たちの恋人設定、解除しませんか?」

 私達は足を止めてしばし見つめ合った。私は真っ直ぐ彼の顔を見上げた。彼は驚きを押し隠したような表情で私の顔を見下ろす。


「わかった」

 そう一言言うと、彼はまた前を向いて歩きだした。


 (え? それだけ?)


 あまりの呆気なさに、気が抜けた。しばし動けずに遠ざかる彼の後ろ姿を見つめていた。


 (はん、引き留める価値もないか。誘う時は一生懸命だったくせに)


 自分の心の中の矛盾にも気付かず、声に出さずに悪態を吐く。

 彼が立ち止まって振り返ったので、急いで追いかけた。近づくと彼は笑顔を見せた。


「お腹すかない? 何か食べに行こうか?」

 その言葉に驚いて彼の顔を見上げると、あの屈託のない笑顔。


 (えっ? どうしてそんな笑顔をするの? もしかして、清々しているとか?)


「今、お腹すいてないの。もう、話終わったから、帰るわね」

 なんだかまたイライラして、素直になれずに彼の誘いを断った。


「だったら、送ってくよ。最後だし。車、駅の駐車場に置いているんだ」


「最後?」


「そっ、恋人同士じゃなくなるんだったら、最後だろ?」


「あのね、恋人同士はフリだけ。今までだって、送ってもらった事無いし。何も始まってないのに最後も無いでしょ」

 私のイライラはますます膨れ上がる。私の言葉に彼はクッと笑って、「夏樹はやっぱり面白いな」と呟いた。

 

(もう、何なのこの人! まったくもって、さっぱり分からない)

 

 私がキッと睨むと、彼は声を出して笑いだした。


「ごめん、ごめん。夏樹があんまり可愛いから、虐めたくなっただけ」

 可愛いですと?! そんな言葉をさらりと言えるなんて、やっぱり女たらしだわ。

 そうやって女をその気にさせて、冷たい言葉で突き放すんだから。


「また、バカにして。私はあなたの玩具じゃないの!!」


「悪い、悪い。馬鹿にしている訳じゃないよ。本当の事言っただけさ」

 悪びれず笑顔でそう言う彼の顔が見られなくて、私は頬をふくらませて顔をそむけた。


「こんな所に立っていたら通行人の迷惑になるから、移動しよう」

 私達は、駅の入口正面に立ったまま話していた。私が怒って少し大きな声で言い返していたので、傍を通る人たちが怪訝な顔でジロリと見つめていった。祐樹さんは移動しようと言いながら、私の手首を掴むとスタスタと歩きだした。


「どこに行くの?」


「駐車場。車置いているって言っただろ?」


「私、電車で帰るから……」

 これ以上祐樹さんに近づいてはいけないと心の中で警報音が鳴り響く。きっと悲しい想いをすると、嫌な予感が心を覆い尽くす。今なら間に合う筈、本気で好きになる前に、この人から遠ざからねば。


「却下。最後だから送ってく。恋人としての最後の礼儀だろ」

 掴まれた手首を振りほどこうと腕を動かすのだけど、硬くつかんだ手はビクともしない。


「だから、恋人じゃないって」

 いったいこの人は何を考えているんだろう? いつも、女性にこんな態度を取っているんだろうか?

 最後、最後って……、なんだか悲しい響き。でも、恋人のフリを止めると言う事は、定期的に会っていた会合もなくなると言う事で、後は舞子達の結婚式に会うぐらいだろう。

 今日みたいに偶然に会えたとしても、もう声はかけないし、かけられる事もない。連絡を取り合う事も、無いだろう。本当に最後なんだ。こうして二人でいる事は。

 そう考えたら、堪らない気持ちになった。今だけ、もう少し祐樹さんと一緒にいてもいいのだろうか。そう、最初で最後の思い出に。


「やっぱり、送ってもらえますか?」

 そう言うと、祐樹さんは少しだけ眉を上げて驚いた表情をしたけれど、すぐにニッコリと笑った。


「そうやって最初から素直になればいいのに」



 祐樹さんの後をついて、駅の立体駐車場に停めた車の所まで来た。

 この車、見覚えがあった。車には詳しくないから車種は分からないけれど、以前見かけた、女性を乗せていた車だ。彼は慣れた手つきで助手席のドアを開けると、どうぞと言って乗るように勧めた。私が乗り込むと彼はドアを閉めて運転席側に回って乗り込んだ。彼は座席に座ると、シートベルトも閉めないまま私の方を向き直った。


「それで理由はなんだい?」


 (はぁ? いきなり何?)


 間の抜けた顔で見つめ返すと、「恋人関係を止めたい理由」と返ってきた。

 違うでしょ! 恋人のフリを止めるだけ。あなたの言い方だと、本当の恋人同士の別れの会話じゃないの。


「恋人のフリを止めたいのは、舞子にこれ以上嘘を吐きたくないから」

 私はワザと『恋人のフリ』を強調して言ってみた。


「ふ~ん。それは、恋人のフリをしようと決めた時から分かっていた事でしょう? 舞子さんの気持ちが不安定な時に、俺達が別れたって言って心配をかける気?」


「舞子には最初からフリをしていただけだと話すからいいの」


「そんなに嫌だった? 俺と恋人同士のフリをしているのは」


「そうじゃないけど、舞子にいろいろ聞かれるのが嫌なの。あなたみたいに恋愛経験が豊富な人ならどうってことないのかも知れないけど、あまり恋愛経験のない私にはハードルが高いの」


「へぇ、俺は恋愛経験が豊富なんだ?」


「そうでしょ? いつ見ても女性と一緒じゃない? それも毎回違う人だし」


「…………」


 (ほら、何も言えないじゃない! 私は何度も見ているんだから)


「へぇ、女性と二人でいたら、恋愛経験豊富と言う事になるんだ? そう言う君は男友達と二人きりになる事はなかったのかい?」


「大学時代は男友達もいたけど、二人きりになる事は避けていたの。周りの人にも本人にも誤解されるのが嫌だったから」


「ずいぶん自意識過剰で硬いんだな。自分はモテるって自惚れていたんじゃないのかい?」

 彼の嫌味な攻撃に私はすっかり頭に血が上った。


「そ、それは、祐樹さん、あなたの事でしょう! いつも自信満々で、女性は全て自分を振り向くって思っているんじゃないんですか? 次から次へといろんな女の人とデートして、あんな冷たい態度で突き放して。あなたみたいな人を女たらしって言うんです。その内女性に呪い殺されますよ!」

 私は運転席の彼の方を向いて、彼の方を指差し、顔を真っ赤にして叫んでいた。

 その途端彼は眉を上げ、目を見開いた。しかし、すぐに俯くとクックックッと笑いを抑えたような声を出し始め、最後には顔を上げて大笑いしだした。

 私って、また彼のからかいの作戦に嵌まってしまった訳?


2018.1.28推敲、改稿済み。

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