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#24:これって、修羅場?【指輪の過去編・夏樹視点】

こんにちは、いつも読んで下さりありがとうございます。

今回は指輪の見せる過去のお話。

夏樹、舞子、27歳の9月の終わり頃。

 お見合いの日に引き続き、杉本さん……いや、祐樹さんと恋人同士のフリをする事になった。

 これって、役得なのか? それとも、試練なのか?

 それにしても、祐樹さんって恋人設定が好きなのかしら?

 そこまでしなくてもいいのにとは思うのだけど、心のどこかで喜んでいる自分がいる事にも気付いている。

 舞子達の前限定と言う事なので、祐樹さんと二人でイチャイチャするフリは、その後機会が無かった。別にイチャイチャしなくても良いのだけど。


 でも、あの初デートの日の夜、舞子からの電話はちょっとした恐怖だった。

 とにかく、質問攻め。そして、私聞いてない、友達だと思っていたのに何も言ってくれなかったって怒られた。本当の話だったら、真っ先に舞子に言っているよ、と心の中で言い訳しながら、只々、ごめんなさいを繰り返した。相談もなしにこんな事始めた彼を恨むしかない。


 仮面恋人だけれど、たとえフリだとしても、デートの誘いぐらいはあるのかな、なんて期待していた自分がバカだった。私達は所詮、舞子と高藤さんの恋のサポーターだ。二人の結婚へ向けての応援団でしかない。そして、ボロが出ないように、ダブルデートの誘いはことごとく祐樹さんが潰していたらしい。


 只、一、二ヶ月に一回の割で舞子と高藤さんの様子を報告し合うための会合を持っていた。

 これはデートでは無いと言い聞かせなくても、会話にも雰囲気にも何の甘さもなく、いつもの如く意地悪にからかわれたり、いじられたりして笑われた。

 私を玩具にして楽しむための恋人設定ですかって言いたくなるくらい、いつも悔しい思いをしてしまう。でも、時折見せる彼の目尻に皺をよせた屈託のない笑顔に癒されるものだから、まあ、いいかと思わせられるのだ。


 そう言えば、私たちの仮初の恋人期間は期限がある。舞子達が正式に婚約したら、別れた事にするらしい。


 こんな私たちだから、舞子に祐樹さんとの交際について聞かれても、何も答える事が出来なくて、困ってしまうのだ。

 一応、うまくいっている事にしなくてはと思うのだけど、今の私からは幸せオーラは出ていないだろう。




「ねっ、夏樹達の付き合いって、どこまで進んでいるの?」

 舞子が恥ずかしそうに聞いたその意味を、最初はうまく理解できなかった。


「どこまでって?」


「だから、キスとかした?」

 聞いている本人が真っ赤な顔をして俯いたまま、声が消え入りそうだ。


「え?」

 私はその質問の意味を悟って、固まるしかなかった。


「ま、舞子達はどうなの?」

 こちらも頬を赤くしながら反対に聞き返すと、ますます赤くなる舞子の顔。


「圭吾さんは、恥ずかしがりだから。でも、杉本さんは女性に慣れているみたいだし……」

 

(女性に慣れている……。そうなのよね)


 仮初の恋人同士になってから今日までの約九ヵ月間の間に、二回女性と一緒にいる彼を見かけた。どちらも違う女性だった。舞子のお見合いの日にホテルで見かけた女性とも違った。

一度目は、信号で止まる車の中の二人。交差点で信号待ちをしていた時、何気なく見た隣の車道の一番先頭に止まっていた車の運転手が彼だった。隣に座る綺麗な女性と話をしていて、私には気付かなかったようだ。車は舞子のお見合いの時の車とは違っていた。


 二度目は、三ツ星レストランから出てくる二人。道路の反対側からみたのだけど、彼だとすぐわかった。お嬢様風の上品で綺麗な女性をエスコートしていた。そう、それはまさしくエスコートだった。お店から出て駐車場に止めた車までの間の慣れた仕草のエスコート。私の前では決して見せた事のない彼の姿だった。その彼を見た時、ただのサラリーマンだと言っていたけれど、『本当はお坊ちゃんじゃないの?』と疑ってしまう程、上品に見えた。


 その事は少しショックだったけれど、私が何か言える立場でも無い。彼の外観や雰囲気が女性を引き付けるのは身をもって感じているので、仕方ない事と受け止めていた。

 所詮私なんかに縁のある人じゃないのよと、言い聞かせてはいたけれど、今回のような恋人のフリをしている立場にとっては、舞子の質問はよけいに虚くさせた。



 最初に彼と話を合わせるため、お互いの簡単なプロフィールを話した。彼は他県の出身で、しがないサラリーマン家庭さと笑った。私は、今の養母、養父の事を本当の両親のように話した。彼が普通の家庭の出身と聞いて、内心嬉しかった。でも、彼と結婚する訳じゃないのに喜んでも仕方ない。



 私はなんとか舞子の質問をはぐらかして、話を舞子達の事の方へ戻した。


「舞子、やっぱり高藤さんとしっかり話し合わなくちゃダメだよ。高藤さんだって舞子との結婚を考えているだろうから、研究の事は踏ん切りついているんじゃないのかな? その点も含めて、しっかり言いたい事は言って、話し合って、それでも駄目な時に考える事だよ。付き合いをやめると言うのは」


「うん。わかっているんだけど、今の圭吾さんは忙しすぎて……。それ程入れ込んでいる研究の事を思うと、やっぱり私でいいのかなって思ってしまうの」


「彼以外の人と結婚するなんて考えてないんでしょ?」


「それは、もちろん」


「だったら、変な事考えず、彼を信じてなきゃ」


「うん。わかった。今度圭吾さんから電話があったら、話してみる」

 舞子も私に話す事で少しは気持ちが落ち着いたのか、表情が和らいだ。

 でも、高藤さんはどう思っているのだろう? 一度祐樹さんに連絡してみた方がいいかなと頭の片隅で考えていた。



 夕方前に舞子の家を出て、駅前まで来た時に秋物の洋服でも見ようと駅前の十階建ての商業施設に足を向けた。エントランスに入ると、中に併設されているシネマコンプレックスの公開されている映画のポスターが片側の壁に貼られていた。その前でそのポスターを見ている人の中に祐樹さんの姿を見つけた。


 (どうして、いつも見つけちゃうかな? それに、今日は珍しく一人みたい)


 さっきの舞子の事があったので、話をするチャンスだと思い話しかける事にした。


「こんにちは」

 斜め後ろから近づいて声をかけると、振り返った彼が驚いた顔をした。


「夏樹、どうして?」

 少しばつが悪そうな表情で、そう言いかけた彼を見た時、声をかけた事を後悔した。


 (私、全くの想定外の登場でしたでしょうか?)


 だけど、今更無かった事にも出来ず、彼のそんな表情に気付かないふりをして笑顔を貼り付けた。


「さっきまで舞子の家へ行っていたの。ちょっと舞子の様子が変だったから、祐樹さんに相談しようと思っていたの。ちょうど祐樹さんを見かけたから、声掛けたんだけど……。今は無理だよね?」


「そうか。うーん、大丈夫。ちょっと待っていてくれる? 時間作るから」

 さっきの戸惑った顔は姿を消し、いつもの爽やかスマイルで祐樹さんは答えた。

 その時、私たちの横から人が近づく気配を感じた。


「祐樹、お待たせ」

 思わず二人して声の方を見た。そこには、また見た事のない女性が、いつもの如く大人っぽくてセンスの良い綺麗な女性が立っていた。

 

(この女性で4人目だよね。いったい何人彼女いるの?)


「ああ、悪い。急用できたから、今日は帰ってくれる?」

 祐樹さんは近づいた女性に冷たく簡単にそう言った。

 その女性は驚いた顔をして、そして、私を睨むように見た。


 (怖い! これって、私が本当の恋人だったら、修羅場って奴じゃないの?)


2018.1.28推敲、改稿済み。

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