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#22:お見合い後の二人【指輪の過去編・夏樹視点】

今回は指輪の見せる過去のお話。

夏樹、舞子、27歳の9月の終わり頃。

 気づくと右手にはめた指輪を触っていた。

 それは最近よくやる癖。不安になったり、考え事をしたりしていると、無意識に触っている。


 セレブパーティから一年が過ぎた九月の終わりの土曜日午後、最近様子のおかしい舞子が気になって、舞子の家へ遊びに来ていた。勝手知ったる舞子の部屋へ入る。舞子は今、お茶の用意をしに台所へ行っている。お手伝いさんの手を煩わせるような事は、舞子はしない。


 私はどんな風に話を切り出そうかと、悩んでいた。

 単刀直入に聞いたら、きっと舞子は心配掛けまいとはぐらかすに違いない。それでも、私と舞子の仲だ。こちらが誠心誠意を表わせば、きっと答えてくれると信じている。私には言葉の駆け引きや遠回しな言い方、相手の気持ちをうまく引き出す会話術なんて言うのはとても無理だった。


 舞子の様子が何かおかしいと感じ始めたのはもう一ヶ月も前だろうか。周りの皆にはきっと変わりなく見えるその笑顔が、無理に作っているように感じたのが最初だった。私の思い過ごしかと、只今恋愛中の我が友を見るのだけれど、最初の頃に感じた恋の喜びを、抑えても抑えても滲み出るような初々しさは、今は無い。でも、それは今の状態に慣れたせいだと思っていた。



 舞子と高藤さんは去年の十二月の初め、お見合いをした。その後、異性に不慣れな二人は、ゆっくりなペースでお見合いから恋愛に移行していった。本来なら、結婚を前提としているお見合いなのだから、気に入ればすぐにでも婚約し、結婚へと進むのだが、今まで全く異性との交際と言うものをした事が無かった二人は、見合いのセオリーどおりに進める事を拒んだ。

 それは、お見合いから半年もたった頃、二人一緒に出かけていた食事の帰り、高藤さんが舞子の家まで送り届けた時の事だった。話をするため待っていた舞子の父親の「お茶でも飲んでいきなさい」の一言で、父親の前に二人揃って座った。父親の話は、そろそろ婚約をと言う事だった。その時、高藤さんは、真っ直ぐ舞子の父親の顔を見ると、何の戸惑いも無く宣言したのだった。


『私と舞子さんはまだお互いの事をよく知りません。このまま、婚約、結婚へと流されるように進んで行くのには抵抗があります。私は舞子さんと恋愛をして、お互いが結婚したいと思ってから、結婚しようと思います』


 その宣言に、父親のみならず舞子も驚いたのだから、事前打ち合わせは無かったのだろう。

 でも、後に舞子が「あの時の圭吾さんは本当にカッコ良かった」と言っていたのだから、同じような気持ちだったに違いない。

しかし、それをすんなり受け入れられないのが父親で。


『何を言っているんだ。お見合いをした時点で断らないと言う事は、結婚してもいいと言う事じゃないのかね。結婚してからお互いを知っていけばいいじゃないか』

 父親の反応はもっともで、舞子も高藤さんも一瞬怯んだらしい。


『お父様、私も圭吾さんも家のためにお見合いを受け入れました。だから、少しぐらいは我儘を聞いてもらってもいいのではないでしょうか? 結婚は一生の問題です。自分達が納得できる時期に結婚しても遅くはないと思います』

 父親は舞子に多少無理を言っていると言う自覚と、高藤さんに養子に来てもらい後を継いでもらうと言う負い目から、この時は二人の言い分を受け入れたらしい。


 そんな恋愛中の二人は、マイペースながらも上手くいっているものと信じていた。だけど、近頃の舞子はどうだろう。何となく幸せオーラが消えかかっているように思えてならない。



「夏樹、お待たせ」

 舞子は、紅茶と私がお土産に持って来たロールケーキを厚めに切ってお皿にのせたものを、目の前のテーブルに並べた。


「このロールケーキ、有名な白木屋さんのだよね。良く買えたね」

 ニッコリ笑って、舞子はテーブルを挟んだ向こう側のソファーに座った。


「うん。早く行って並んだの。早くいかないと売り切れちゃうしね。お土産って言う大義名分が無いとなかなか買えないから」


「夏樹は本当にスイーツのためなら頑張れるんだね」

 舞子は感心して言うと、早速ケーキの皿に手を伸ばした。



「やっぱり、美味し……」

 二人揃って呟くと、蕩ける様に笑い合った。


 さっきまで悶々と考えていた事なんて、スッポリと頭の中から抜け落ちてしまう。

 甘いものはどうしてこんなに幸せな気分にしてくれるのだろうか?

 こんな気分の時に真逆の気分を呼び起こしそうな話をするなんて……。辛いかも。

 でも、もしかしたら、親友の幸せが傾き始めているかもしれないのだ。自分一人で抱えて、我慢しているかもしれないのだ。ここで私が頑張らなくてどうする。そう、自分に発破をかけた。


「ねぇ、舞子」

 舞子がケーキを全部食べ終わったのを確認してから、声をかけた。


「うん?」

 まだ、表情に甘い余韻を残して、舞子が私の顔を見た。


「最近、高藤さんとはどうなの?」

 自分でも可笑しくなってしまうぐらい、直球のクエッション。


「うん? どうって?」

 舞子は最後の紅茶を飲みほしながら、質問を切り返す。


「逢ったりしているの?」


「私の誕生日にディナーに連れて行ってもらった」


 舞子の誕生日は九月二十日、その日は平日だったので、私から舞子へのお祝い食事会はその前の土曜日に済ませていた。


「そっか、もしかして、プレゼントは婚約指輪とか?」


「婚約なんて……。このネックレスを頂いたの」

 舞子は言いよどんだ後、首にかけたネックレスに触れた。それはプラチナチェーンに小さなダイヤモンドがついたものだった。


 舞子は、『婚約なんて……』の後に何が言いたかったのだろう? 誕生日のプレゼントの話なのに、なぜか喜びを感じない。


「ねぇ、舞子、最近心配事があるんじゃない?」


「え? どうしてそう思うの?」


「最近、舞子は心から笑っていない。それに、隠れてよく溜息を吐いている」


「……ははは、何言っているの?」


「私の眼は誤魔化せないよ。親友じゃない? 心配事があったら、話してよ。一緒に考える事は出来るから」


「夏樹、ありがとう。私ね、圭吾さんとのお付き合い、やめた方がいいかもしれないって思っているの」

 舞子の突然の告白に、私はただ唖然とするばかりだった。

 


2018.1.28推敲、改稿済み。

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