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#01:不思議なアンティークショップ【現在編・夏樹視点】

このお話は、現在と過去が入り乱れて進行します。

今回は現在です。

 誕生日当日、私はいつものように朝を迎え、会社に出社した。

 いつものようにパソコンに向かいの入力作業をしていると、何やら問題が起こったのか課長と入社2年目の社員が慌てている。先程かかっていた電話が発端のようだったが、入社2年目の彼が失敗をやらかしたようだった。

 頭の片隅で、その様子を気にしながら、手はキーボードの上から離れずにタイピングしていく。入社十三年目、この営業部に来てからもう五年経つベテランお局様だ。

 その時、いきなり名前を呼ばれた。


「佐藤君、君に頼みたい事があるんだが、ちょっと来てくれないか?」

 課長のご指名とあれば、行かないわけにはいかない。はいと返事して、課長のデスクの前まで行き、さっきから青ざめた顔をして立っている入社2年目の彼の隣に並んだ。


「兼井商事の見積書なんだが、中身が何箇所か間違っていたようで、今日の午前中に正しいものを届けて欲しいと連絡があった。しかし、今日の午前中はみんな予定があるし、伊藤君と中川君は留守番を頼みたいと思っている。佐藤君だったら、向こうで何か質問されても答えられると思うし、只の使い走りじゃない対応ができると見込んで頼みたいんだ。申し訳ないが、届けてくれないだろうか?」


「佐藤さん、すいません。よろしくお願いします。」

 隣に並ぶ彼も、直角に腰を曲げて頭を下げる。


「FAXで送る事はできないんですか?」


「それが、新商品のカタログと資料も一緒に届けて欲しいとの事なんだ。」

 そう言う事かと内心納得しながら、課長のお願いと言う命令に従う事になった。


「わかりました。」

 営業用の笑顔を貼り付けて答えると、隣の彼がますます腰を曲げて「ありがとうございます」と繰り返した。



 新しく作り直された見積書を持って会社を出たのが午前十時。片道約三十分と言う事なので、午前中に帰って来られるだろう。良く知らない場所だったので、最寄り駅からの詳しい地図を書いてもらった。


「この地図で行くと、さっきの所で曲がって間違いないんだけどな」


 私は早速、道に迷っていた。

 誰かに道を尋ねようかと思うのだけれど、誰も歩く人のいない裏通り。低いビルが並ぶ隙間に、小さな古ぼけたアンティークショップがあった。引き寄せられるように近づき、ショーウィンドウを覘く。

 古い西洋のアンティークドール、ミニチュアの家具、古ぼけたオルゴール。そして、片隅にビロードの布に覆われた小さな箱に入った指輪が置かれていた。

 赤と青と白の小さな宝石が三つ葉のような形になって、シンプルなプラチナのリングに乗っかっているだけの小さな指輪。


 (この指輪、失くした母の形見の指輪に似ている)


 そう思った途端、何かに操られるようにお店のドアを開けていた。

 チリンとドアについたベルが鳴った。そっと中に入ると、西洋のアンティークなアクセサリーや小物が並ぶ背の低いガラスケースが正面にあった。また、別の背の高いガラスケースにはいろいろなアンティークドールや雑貨、そして、無造作に置かれている西洋のアンティーク家具が目に入った。

 まるで現実味のない異空間に迷い込んだような、錯覚を覚えた。


 しばらくすると、奥から年齢不詳の紳士が現れた。紳士の髪は後ろに向けてなでつけられ、銀縁の眼鏡が冷たい雰囲気を醸し出している。

 私はその人を一目見た時から目が離せなくなった。しかし、すぐに冷たい空気を感じ、我に返った。


「いらっしゃいませ。」

 紳士は、低くよく通る声でゆっくりと言った。


「あの、すいません。ショーウィンドウの中にある指輪を見せていただけませんか?」

 おずおずと口にすると、紳士は「かしこまりました」とショーウィンドウに近づき、例の指輪を取り出すと、目の前に差し出した。

 私は黙ったまま指輪をケースごと受け取ると、指輪をケースから抜き取りケースを背の低いガラスケースの上に置いた。そして、ためらう事無く左手の薬指に指輪をはめていった。奥まで指輪をはめ込んだ瞬間、私の頭の中は真っ白になっていたのだった。


 その様子を見ていた紳士が、驚いて止めようと手を伸ばした事も、左手の薬指に指輪がはめられた瞬間、紳士は大きく目を開き、益々驚いた顔をした事も、私は何も気づきもしなかった。


2018.1.24推敲、改稿済み。

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