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#13:スイーツな再会(前編)【指輪の過去編・夏樹視点】

今回も引き続き指輪の見せる過去のお話です。

26歳の夏樹と舞子、舞子のお見合い前日です。

 舞子とカフェの前で別れた師走の午後四時過ぎ、もう陽は傾きかけ冬の夕暮れを醸し出していた。

 なんだか中途半端な時間で、夕食には早いが、少し小腹がすいている。何か甘いものでもと思いながら、さっき舞子と逢っていた時は紅茶しか飲まなかった事を思い出した。

 舞子のお見合いの前祝にケーキでも買って帰ろうかなと、近くにあるケーキ屋さんを思い出した。

 ケーキを買うだけの事なのに、何か名目が無いと買えない自分が可笑しい。時々、自分へのご褒美に、このお店へケーキを買いに寄る。このお店のケーキは季節ごとにケーキが変わり、種類も豊富だったので、雑誌などにも取り上げられ、なかなかの有名店だった。

 会社からの帰り道にあり、一階がケーキショップで二階が喫茶コーナーになっていて、一階で売っているケーキも二階で食べる事が出来る。土曜日の夕暮れ、客足が途絶えた頃なのか、いつもたくさんの人がいる店内が、今日は二人だけだった。

 年配の女性客は、ケーキを頼み終えたのか、箱に入れてもらうのを待っているようだった。もう一人の中年の紳士は腰を曲げてケーキの入ったショーケースを覗き込んでいる。何やら、熱心に一つ一つのケーキについて尋ねている様子に、中年紳士とケーキの取り合わせのギャップが可笑しくて、ついクスッと笑ってしまった。そんな私に気づいたのか、その紳士が振り返った。その顔を見た時、どこかでお会いしたようなと思っていると、向こうもそう思ったようで、暫し思案をした後、思い出したように話しかけてきた。


「君は佐藤君じゃないかな?」

 そう言われて、思い出した。あのパーティでぶつかった社長さんだ。


 (たしか、浅沼さんだったっけ)


「はい。あの、浅沼さんでしたよね」

 すると、その男性は整った顔を崩して優しく微笑みながら、頷いた。


「そう言えば、連絡をくれなかったね。ずっと気になっていたんだよ。そちらの連絡先を聞かなかったのは、私の失敗だったと反省していたんだよ。こんなところで逢えるなんて思ってなかったけど、丁度良かった。でも、恥ずかしい姿を見られてしまったね」

 浅沼さんは恥ずかしそうに、照れながら言った。


「いえ、あの時はお互いさまでしたから、クリーニング代など頂く訳にはいきませんから」


「いやいや、ぶつかったのはこちらだからね。そうだ、クリーニング代の代わりと言ってはなんだけど、急がないのだったらここの二階の喫茶コーナーで、スイーツでも御馳走させてくれないかな? 私は内緒だけれど、甘いものに目が無くてね、本当はここの喫茶でしか食べられないスイーツを食べてみたいと思っていたんだが、こんなおじさんが一人で食べるのに抵抗があってね。君と一緒なら恥ずかしくないと思うんだけれど、ダメかな?」

 目の前で照れながら話す紳士の姿が、あまりに可愛らしく見えて、また思わず笑いをもらしそうになった。クリーニング代と言われると抵抗があったけれど、こんなに可愛らしくお願いされてしまうと頷かずにいられない。

 私は笑顔で「ご一緒させて頂きます。」と答えていた。


 浅沼さんは、先程までケーキの説明をしてくれていた店員さんに「また、後で来ます」と言って、私を促して二階へ上がった。

 このお店の喫茶コーナーは、お店でしか食べられないスイーツメニューがあり、毎月内容が変わるそのメニューは、このお店の人気メニューらしい。今月は、イチゴのミルフィーユにアイスクリームとイチゴが盛りつけられたデザートプレートだった。

 そのデザートプレートを目の前にした浅沼さんの、何とも言えない嬉しそうな顔を見た時、この人は本当に社長さんなんだろうかと思ってしまった。


「やはり、いいねぇ。毎月食べに来たいぐらいだよ。テイクアウトのケーキと違って、豪華で新鮮と言う感じだし、盛り付けも凝っているね。本当は他にも食べに行きたいお店があるんだが、なかなか誘う人がいなくてね」


「奥様をお誘いになったらいかがですか?」


「そうなんだよ。彼女が甘い物が好きだったら、毎週でも誘うんだけどな。残念ながら、彼女は甘いものが苦手なんだ。子供も息子だけだしね。まあ、男二人で甘い物を食べに行くのもちょっと抵抗があるんだが。息子も妻に似たのか甘い物が苦手でね」

 苦笑しながらも、おいしそうに目の前のスイーツを口に運んでいる。


 それにしても、このイチゴは完熟でとてもおいしい。アイスクリームも濃厚でイチゴの酸味ととてもマッチしていた。メインのミルフィーユはパイ部分がパリパリで、間のイチゴやクリームとのバランスも良かった。


「おいしいですね。」と笑顔を浅沼さんに向けると、嬉しそうに「そうだろ」と返ってきた。

 私の父の年代と言っても可笑しくない浅沼さんのあまりに無防備な甘い表情に、親近感と興味が湧いた。


「一番好きな甘いものは何ですか?」

 私は相手が社長さんである事も、父親ほどの年齢である事も忘れ、只々好奇心のままに質問をしていた。


「一番かい? 難しいなぁ。ケーキもクッキーもプリンもチョコレートもお饅頭も大好きで、一番を決められないねぇ。それが悩みの種でね、ケーキ屋さんに来ると、いつも迷ってしまってなかなか決められないんだよ」

 のんびりと嬉しそうに話す浅沼さんが、先程ショーケースの中を説明を聞きながら熱心に見詰めていたのを思い出した。


「先ほども、決められなくて悩んでいらっしゃったのですか?」


「いや、恥ずかしいなぁ。めったに自分では買いに来ないのだけど、こうやって目の前にたくさんのケーキを見てしまうと、迷ってしまってね」

 嬉しそうに、迷ってしまうって言われても……、その可愛らしさにギャップ萌だ。

 私がクスクス笑っていると、浅沼さんは楽しそうに話を続けた。


「雑誌やインターネットでおいしいスイーツのお店やお取り寄せの記事を見かけると、テイクアウトできるものは妻やお手伝いさんに買って来てもらうんだよ。でも、お店でしか食べられないのは、なかなか行く機会が無くてね。佐藤君は、甘い物を食べに行ったり、買ってきたりはよくする方なの?」


「もちろん、女の子ですから甘いものに目が無いんですけど、食べに行ったり買って来たりは自分にご褒美をあげたい時だけです。経済的にそんなに何度も食べに行ったり、買ってきたり出来ないので、自分でお菓子を作ったりするんですよ」


「お菓子を手作りするのかい? いいねぇ」


「そんな、簡単なものしか作れません。クッキーとかシュークリームとか簡単なケーキとか。母がお菓子作りが得意だったので、子供の頃から一緒に作っていたんです。だから、いつの間にか一人でも作れるようになっただけですよ」


「実はね、私は子供の頃から甘い物が好きだったわけではないんだよ。小さい頃は虫歯になるからとあまり甘いものは与えてもらえなくてね。それこそ、誕生日とクリスマスのケーキぐらいで。でも、独身時代に付き合っていた人がとてもお菓子作りの得意な人で、彼女の作るお菓子を食べて甘い物が好きになったんだよ。それが今まで続いているのだから、元々甘いものは好きだったんだろうね。食べる機会が無かっただけで」


「すごい人ですね。嗜好の味覚を決定づけるお菓子を手作りするなんて。その人と結婚されていたら、浅沼さんきっと凄く太っていたんじゃないですか?」

 私がそう言った時、浅沼さんは少し悲しい顔をした。


「そうだね。彼女との結婚を考えた事もあったんだけど、いろいろあってね。今頃彼女は、どこかでケーキ屋さんでもしているかも知れないね」

 そう言って、浅沼さんは寂しく笑った。

 私は地雷を踏んでしまったのかも知れないと思って、すぐに「ごめんなさい」と謝った。


「いや、良いんだよ。若い頃の思い出です。それより、その彼女が作ってくれたクッキーが忘れられなくてね。似たのを見かけると買ったり、注文したりするのだが、なかなかあの味には出逢えないんだよ。今でも夢に見るくらいでね」


「え?彼女の事を夢に見るのじゃなくて、クッキーの夢ですか?」

 私は驚いて聞き返すと、また笑ってしまった。

 浅沼さんは情けない顔をして「可笑しいかい?」と聞いてくる。

 可笑しいですよ。クッキーの夢だなんて。もしかして、クッキーモンスターが出てくるとか?

 私は心の中で突っ込みまくりながら、笑って首を振った。


「いえいえ、それほどおいしいクッキーだったのですね。どんなクッキーなんですか? 私も食べてみたいです」


「見かけは普通の手作りクッキーなんだけど、味が何とも言えないバランスのおいしさでね。何を入れているのか聞いた事があったのだけど、企業秘密だと言って教えてくれなかったよ」

 私は浅沼さんの話に笑ってばかりいたけれど、いつの間にか二人の目の前のデザートプレートの皿の上は綺麗に無くなっていた。


2018.1.27推敲、改稿済み。

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