#12:お見合い前日【指輪の過去編・夏樹視点】
今回は指輪の見せる過去のお話です。
夏樹、26歳の12月の初め頃。
「またその指輪しているんだ」
舞子のその声に我に返った。
「うん。母に言われた事思い出したんだ。この指輪をしていると幸せに導いてくれるって。普段はチェーンに通して首からかけているんだけど、やっぱり指にしている方が効果があるんだって」
私は就職や引っ越しでバタバタしていた後、指輪の事をすっかり忘れていた。けれど、二ヶ月前のパーティの前に思い出し、身につけるようになった。あの時、素敵な人とも出会えたのも、指輪の効力か。と言っても、あの後彼から連絡は無い。もちろん、こちらから連絡する筈も無い。
十二月最初の土曜日、明日のお見合いで落ち着かない舞子に誘われ、いつものカフェで向き合っている。お婿さん候補を紹介されたパーティから二ヶ月が過ぎ、どうにかお見合いまで漕ぎ着けた。
十日程前、舞子と私は目の前にはお婿さん候補の写真と釣り書きが並べ、思案に暮れていた。
舞子はこの二ヶ月程、ずっと悩んでいたのだ。ちょっと逢って話したぐらいで、この人と決めるなんて無理な話だと思う。一人に決めてお見合いしたら、舞子の方からは断れないのだと言う。こちらからお願いしたお見合いだからだそうだ。
それなのに、舞子の父親は年内にお見合いできるように早く決めろと急かした。
一人目セレブAは、父親の経営する会社の専務をしていて、次男、三十歳。180cm以上はあると思われるスマートな長身で、甘いマスク、女性をエスコートする時の自然な物腰。きっと、女の扱いには慣れているのだろう。
二人目セレブBは、父親の経営する会社で父親の秘書をしていて、次男、二十八歳。まあまあイケメンで、質の良いスーツをセンス良く着こなして、それなりに礼儀正しくふるまっているが、女性を見る視線が値踏みするように頭の先から足の先まで舐めるように移動していくのを自分に向けられた時、ゾゾーとしたのは言うまでも無い。
三人目セレブCは、大学院の博士課程の学生であり、三男、二十五歳。インテリっぽい外見と眼鏡の奥の冷たい瞳に見られると、雪女に見つめられたように心の奥まで凍りついたような気がした。口の端を少し上げて笑う顔に、言い知れぬ怖さを感じるのだった。
四人目セレブDは、父親の会社とは別の会社で営業主任をしていて、次男、二十七歳。いたって普通の外見で、社長のご子息などと言うセレブにはとても見えなかった。スーツも普通のものだし、物腰もいたって普通。今回の候補の中で、一番親近感を感じた人だった。
五人目セレブEは、父親の会社の研究室で主任をしていて、次男、二十六歳。長身でスラリとした体格なのに少し猫背気味で、スーツを着なれていないのか、スーツ姿がやぼったく、全体にあか抜けないようなパッとしない感じ。この人もセレブな感じは無い。この人がきっと、パーティの時声をかけて来た杉本さんの言っていた友達なのだろう。
パーティの時、私が舞子と一緒にいる時に声をかけて来た候補の人は紹介してもらってあいさつ程度の言葉を交わした。それ以外の人は遠目に教えてもらっただけだったが、見た目のイメージと紹介してもらった時の印象はこんなものだった。
舞子にその印象を話すと、舞子も同じように感じたらしい。五人の写真を見比べて、ため息吐く舞子に一つ提案をした。
「とにかく、この人だけは嫌と言う人をまず除いてみたら?」
すると舞子は、セレブBとCの写真を横に除けた。それを見ていて、やっぱりと思ってしまった。
「ねぇ、夏樹だったらどの人が良い?」
そんな、私の好みを言ってみても違うだろ。だから、私が舞子の立場だったら、また、社長としてもやれそうな人と言う観点から考えてみた。
「そうねぇ、私が舞子だったら、セレブAかDかな?」
「え? 夏樹がパーティの時に会ったと言う人の友達のセレブEはダメなの?」
私は杉本さんから聞いたセレブEの話も、あの時舞子にしておいた。
それにしても、ダメなのってどういう意味? 外されたのが嫌だとか?
舞子の表情を窺っていると、目が泳いでいる。
「なに? セレブEを薦めて欲しかったの? なんだか彼はあか抜けないと言うかパッとしなくて、舞子が勿体ない気がして」
「勿体ないって、そんな事ない。みなさん素敵な人ばかりで私には勿体ない人ばかりだよ」
「舞子、もしかしてセレブEが気になっているとか?」
それなら、何も悩まなくてもいいじゃないと心の中で突っ込む。
「うーん。みなさんと話した時、それぞれのお仕事やお勉強の話を聞いたのだけど、さらりと流されてしまって、でも、セレブEこと高藤さんだけは自分の研究の話になると目がキラキラ輝いて嬉しそうに話して下さったのが、印象的で……。それに、そのお友達の話を聞いて、納得できたと言うか。いい人なんだなって思ったから」
(もう、心の中では決めているんじゃないの?)
舞子は誰かに後押しして欲しいだけなのだろう。だって、一生の選択だもの。自分一人の想いだけでは選びきれなかったのだろう。
「舞子が良いと思う人なら、大賛成だよ。自分の感じた素直な気持ちを信じてみたら?」
「でも、あちらから断られたらどうしよう」
「舞子を断るなんて、そんな事無いよ! 大丈夫、自信持って、ねっ」
そんな風に舞子の気持が決まって、父親に報告すると、急げとばかりにあっと言う間にお見合いの日を設定された。
「いよいよだね。猫かぶらずに正直に自分を出した方がいいよ。後から騙したなんて言われかねないから」
「うん……」
なんだか、心ここに在らずの舞子の緊張ぶりを見ていると、私まで緊張してくる。たった一度会っただけの人と、もしかしたらこれから一生一緒にいるかもしれない。今この選択が未来の運命さえ左右するのだから。
「リラックス、リラックス。今日は早く寝て。明日は振袖着るんでしょ?」
「うん……」
もう、本当に! なにも力になってあげられない自分にも、目の前の腑抜けな舞子にも、イライラしてしまう。
「ねぇ、舞子、何が不安なの?」
私は分かっていたけれど、あえて聞いてみた。自分の気持ちを話す事で、落ち着く事もあるから。
「うん。高藤さん、お見合いの話、どう思ったのかなって、不安になるの。自分が選ばれると思ってなかったとか、嫌だとか、戸惑っているんじゃないのかな?」
「なあに? 今頃。嫌だと思ったら、始めから断っているわよ。大丈夫だから」
力強く言う私の言葉に、舞子は安心したのか緊張がゆるんで笑顔を見せた。
「そうだよね。嫌だったら断るよね」
「そうそう」
私も舞子の笑顔にホッとして、笑顔で返した。
「ごめんね、急に誘って。でも、ありがとう。夏樹のお陰で落ち着いたから」
舞子の落ち着いた後ろ姿を見送りながら、私は心の中で明日は頑張れとエールを送っていた。
2018.1.27推敲、改稿済み。