#09:最低な出会い【指輪の過去編・夏樹視点】
今回も指輪の見せる過去のお話です。
引き続き、夏樹26歳の9月の終わり頃のお話。
「失礼。おひとりですか?」
一瞬自分に言われたとは思わず、キョロキョロと見回してしまった。目の前に立ったその人は、クスッと笑うと手に持ったグラスの一つを差し出した。そこでようやく自分に言われたのだと気づき、目の前の男性を見上げる。
(さ、さっきの人だ!)
私が先程見惚れていた人が目の前で、ニッコリ笑っている。
「ありがとうございます。」
驚いて震えそうになる手を出し、なんとかグラスを受け取り、お礼を言う。
「少しお話してもいいですか?」
(えっ?)
予想外の展開に心がついて行かない。頬が熱を持つのを感じる。きっと、顔は赤くなっているだろう。
どうにか、俯き加減で「はい」と言った。
男の人に話しかけられたぐらいで焦る自分に活を入れる。
「君はこんなパーティーは初めて?」
(ああ、きっと場違いな奴って思われているんだろうな)
「はい」
「一人で来たの?」
「いえ、友達に誘われて……」
「もしかして、上条電機のお嬢様がお友達?」
(え?どうしてそれを……)
驚いて見上げた私に、ニッコリと笑う彼。
「さっき、彼女とお話しているのを見かけたから」
「舞子を知っているの?」
「今日は彼女が主人公のようだね。友達から教えてもらったよ」
(もしかして、この人もお婿さん候補?)
「あ、あなたは、舞子のお見合い予定の方?」
突然目の前の彼がクックと笑いだす。
彼の端正な顔立ちは笑うととても親しみを感じていい感じだ。もともと、整った顔立ちだけれど、どこか優しげで人好きのする顔だと思う。その上に笑顔は、こちらの緊張を解す癒し効果があった。
「やはりそうですね。あなたは彼女のお婿さん候補を見にいらっしゃったのでしょう?」
(うっ、バレてる)
「どうしてそれを……」
「僕もそうなんですよ。友達がお婿さん候補でね。お相手の女性がどんな方か、見に来たのです」
「そうなんですか……」
私は心の中でホッとしていた。そんな自分に気づいて、慌てた。なぜ彼が舞子のお見合い候補じゃなくて安心しているんだと自分に突っ込む。
「それで、彼女は上条電機の社長のイスを餌にしないと、お婿さんの来ても無いような人なの?」
「えっ? どういう意味?」
「だから、男遊びが激しいとか、金遣いが荒いとか……。見かけではわからない悪い条件があるのかい?」
私はその言葉を聞いて、頭に血が上った。そんな風に舞子の事を見ていたのか、と思うと怒りが湧き起こった。この人を少しでも素敵だなんて思った自分にも腹が立った。
私は両手をきつく握り、彼の目を睨んだ。
「見くびらないでください。彼女ほど素晴らしい女性はいません。知的で控えめで努力の人なんです。いつも周りの人に気配りの出来る優しい女性です。お嬢様でありながら、決してそれをひけらかさない。そして、自分の運命を潔く受け入れて、長女として跡取りとして、このお見合いを受け入れているんです。社長の椅子なんて、素晴らしい彼女のほんのオマケみたいなものです」
目の前の彼は驚いた顔をした後、またクツクツと笑っている。
「いいねぇ。そんなに素晴らしい女性なんだ。君は友達思いなんだね」
(なに? この人。私の事、バカにしている? 友達だから大げさに自慢していると思っているんだ)
なんだか無性に悔しくなって、普段自分が言わないような事を口にしていた。
「馬鹿にしないでください! あなたのお友達は、自分の事を棚に上げて、社長の椅子に目が眩んでいるんじゃないですか? 条件次第で婿になってもいいぞと見下しているんでしょ! だから、そんな考えしかできないんですよ! そんな人、舞子の相手には相応しくありません。最低です!」
私は、目の前の男を睨んだまま、肩を怒らせ言い放っていた。
2018.1.26推敲、改稿済み。