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縁結びの観覧車

作者:円坂 了
 夜、観覧車は動いていない。当然だ。遊園地は廃園となりずいぶん経つ。電気も通っておらず、動くわけがない。
 だが、僕の目の前で、観覧車はぶるぶると蠢動した。出して、と声が聞こえた気がするが、すぐにおさまる。
 僕は、声の主たちを解放しにきたのだ。

 彼女とラブラブだったころ、遊園地の観覧車の中で甘いキスをした。裏野ドリームランドという地元の遊園地の目玉の一つとなっている観覧車だった。
 観覧車のゴンドラが頂点に達しそうになったとき、それまで向かい側に座ってきれいな景色に感嘆の声を上げていた彼女は、僕の隣に移動してきた。僕たちは見つめ合い、ゴンドラがゆっくりと頂点に差し掛かりそうなとき、彼女がすっと目を閉じた。僕は彼女に自然にキスしていた。

 この観覧車は縁結びの観覧車と呼ばれており、この観覧車のてっぺんでキスをすると永遠に結ばれるという都市伝説があることを、彼女が教えてくれた。

「これで私たちずっといっしょだね」

 彼女は言った。もちろん僕だって、その時は、そのつもりだった。

 あのとき、きっと観覧車の中に、何かが閉じ込められたのだと思う。観覧車の中に閉じ込められているのは、みんなの縁を切り離す何かだ。縁を切り離す何かがなくなったから、縁が切れなくなっている、それが縁結びなのだと僕は解釈している。

 たぶんだけど、人の縁なんてものは本当にただの偶然で、偶然の結果をもって縁と言っているに過ぎない。よりよい偶然を引き寄せるには、それなりの努力が必要なこともあるけれど、それを縁なんて言葉で片付けることは僕は反対だ。
 もちろん、縁という言葉を単純に否定したいわけじゃない。ご縁を大事にしましょうなんて態度を僕は大事だと思う、尊重する。ただ、それはこの偶然を大事にしましょうという意味であって、その繋がりを大事にするも無視するもその人たちの自由であるはずなのだ。
 ところがだ。縁結びという言葉、嫌な言葉だ。超自然的な何かに頼り、強制的な縁を結ぼうという意味だ。僕もこの縁結びの暴力的な性質には、こんなことになるまで気づくことができなかった。
 そう、暴力的なのだ。縁結びのご利益が成立してしまえば、たまたま偶然の縁があった相手と、その気もないのに、関係性を強制されてしまうかもしれないのだ。
 もちろん、結果として当人たちが幸せになっていれば、当人らからの不満はないかもしれない。
 だけど、いまの僕には、それを肯定することはできない。
 縁結びの観覧車は、いいムードでキスするような関係性のある二人の縁を結ぶということだから、当人たちの意思で縁を結んだとは言える。でもその後も二人の関係が同じように続くとは限らない。離れることだってありえるし、それは二人で決めることだ。

 この観覧車は本物だ。本物の縁結びの観覧車なのだ。
 僕は、その後も彼女との交際を続けた。僕が留学したとき、一旦彼女と別れた時もあった。しかし、帰国して運命的な出会いを果たし、僕らはまた付き合いはじめた。
 僕は彼女に、プロポーズして、結婚の約束をした。
 その矢先だ。彼女が交通事故にあったのは。
 彼女は亡くなった。
 問題はその後なのだ。死んだ後も、彼女は僕の前に居続けた。
 食事しているとき、仕事中、買い物しているとき、家でくつろいでいるとき、ふとしたときに、彼女はそこにいる。

「ずっといっしょよ。私たちは、永遠に結ばれているの」

 彼女はいつも同じ台詞を繰り返し、ただ、僕の傍にいるのだ。
 彼女と互いに触れることはできない。ただそこにいるだけだ。
 それが、もう、どうしても嫌になった。慣れることなどできない。
 僕には、新しく好きな人ができた。付き合いはじめたが、妙なすれ違いばかり起こり、挙げ句の果てに、その人がいるときにも、彼女は現れるのだ。その人も彼女を見た。

「あなたって、いつも前の彼女さんの影がちらつくの。もう無理。いっしょにはいられない」

 その人は僕の前から去っていった。

 僕も我慢できなくなり、貯金をはたいて、高名な霊媒師にお祓いを依頼した。しかし、お祓いしてもムダだった。霊媒師は僕に言った。

「全く効果がない。君達はいっしょにいるのが運命だから彼女を追い払うことも消滅させることもできない。彼女が消えるということは君が消えるということだ。二人が縁を結ぶ可能性と縁が切れる可能性は、本来は両立するものなのだが、君たちには、縁が切れる可能性が存在しない。新しい恋人と縁を結ぶこともできない。強力な縁結びの呪いでも受けているようだ。心当たりはないかい?」

 心当たりは、あった。あの観覧車のことだと確信した。
 霊媒師は言う。

「このままだと君達は死んでも離れることはできないよ。生まれ変わることもできず、二人でただ過ごすことになるだろう。ずっといっしょにいるという呪いのようなものだからね。原因がなくなるか、二人でそろって消滅するしかない。」

 霊媒師と相談して、様々な縁切り神社や御呪いを試したが無駄だった。霊媒師がいうには、縁が切れる可能性自体が消えているからしょうがないのだという。

 僕は、あの観覧車のてっぺんでキスをしたカップルたちのことを調べはじめた。インターネットの掲示板やSNSを駆使してだ。
 霊媒師も、僕と同じような相談がないか調べてくれた。

 縁結びの観覧車は地元では有名な話だったようで、おそらく何百組というカップルが、あの場所でキスをしていた。
 僕が連絡をとれた限りの数十組のカップルは、恐ろしいことに誰も別れていなかった。中には、互いに別れたいのになぜか離れられないというカップルもいた。互いに、であってしまうし、新しい恋人からも、浮気をしていると思われてしまうのだそうだ。

 そして、僕と同じように、死者に付きまとわれている男女が三名見つかった。
 そのうち一人は、狭山さんという女性は相手と永遠に一緒にいることに幸せを感じているようだったが、残り二人、田中さんと小林さんは、縁を切りたがっていた。

 僕らは霊媒師と相談し対策を立てた。
 結局は、縁結びの観覧車さえ無くなればいいのではないか、僕らはそう結論した。

 そして僕らは今、廃園となった裏野ドリームランドにいる。
 霊媒師と、僕と同じ縁結びの被害者仲間が二人、そして僕の四人に加えて、霊媒師の助手が五人。
 霊媒師の伝手で建築業者を手配した。
 違法に、観覧車を解体してしまおうという作戦なのだ。
 夜間に重機を搬入し、明るくなったら解体してすぐに撤収する。
 街を見下ろせる観覧車は、街からも見えるので、突然消えれば気づく人が出るかもしれないが、先に解体さえしてしまえば目的は達成される。

 朝日がさしてきた。さあ、解体を始めるぞというところで、サイレンの音。警察だ。まさかとは思ったが、パトカーは、裏野ドリームランドに停まる。
 中から二名の警察官が出てきた。
 そして、もう一人、狭山さんだ。狭山さんが情報をもらしたのだ。
 しかしなぜだ。狭山さんにはこの計画のことは話していなかったはず。

 そこで気づく。僕の彼女だ。今目の前にいる。彼女が狭山さんに伝えたのだ。僕以外にも声を伝えることができたのだ。

「おい、どうするよ。強行するかい。警察官二人くらいどうとでもなるぞ。後から捕まるかもしれんがね」

 霊媒師が心強い言葉をかけてくれる。僕は田中さんと小林住んと、目を合わせた。

「やりましょう」僕は答えた。

 彼女の行動が証明してくれている。彼女や狭山さんは、観覧車を解体されたくないのだ。だったら僕は僕らの仮説を信じ、解体を進めるまでだ。
 まだ彼女らの邪魔は入るかもしれないが、負けはしない。
 それに、今回失敗しても、生きている間に観覧車が壊せなくても、いつかは観覧車は朽ち果てて僕らは解放されると思うと、解放された気分だった。
 なにより、僕らには聞こえたのだから。観覧車の中から「出して」助けを求める自分たちの声を。僕らの縁切りの可能性が、ちゃんと元の場所に戻りたがっているのだから。外に出たがっているのだから。
 それに、彼女だって、縁結びの呪いに囚われているだけで、本当は僕から解放されたがっているのかもしれないのだから。

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