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作:石田杞憂


『あるきこりが斧を川に落としてしまい嘆いていると、

ヘルメス神が現れて川に潜り、金の斧を拾ってきて、

きこりが落としたのはこの金の斧かと尋ねた。

きこりが違うと答えると、ヘルメスは次に銀の斧を拾ってきたが、

きこりはそれも違うと答えた。最後に失くした斧を拾ってくると、

きこりはそれが自分の斧だと答えた。 ヘルメスはきこりの正直に感心して、三本すべてをきこりに与えた。

それを知った他のきこりは、わざと斧を川に落とした。

ヘルメスが金の斧を拾って同じように尋ねると、

そのきこりはそれが自分の斧だと答えた。ヘルメスは呆れて何も渡さずに去り、

恥知らずなきこりは自分の斧をも失った。』


出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』






そして、あろうことに今僕の前に神がいる。
ここは家から少し離れた沼。観光名所の一つ。
たまたま、ふらっと、僕はこの沼にきて、
たまたま、ぼちゃんと、斧を落とした。古く錆びたやつだ。

「貴方が落としたのはこの金色の斧ですか?それともこの銀色の斧ですか?」
例に漏れず神は言った。
「いや、どちらでもない。俺の斧は今貴様の頭に突き刺さっているのだ」
頭から血を流した神――女神は柔らかく微笑し、言った。
「……いたいです」
血がぼたぼたと、いやドバドバと噴出していた。あちゃー。
僕は右手で顔を隠し、指と指の隙間から女神をのぞき見た。
上目遣いに女神が僕を見つめている。
こころなしか頬を赤らめ、両方の人差し指をもじもじと擦りあわせていた。
可愛いけど怖い。
「責任、とってもらいますからね」
何のだよ。思わずツッコミを入れる。
当然とばかり、血などお構いなしに言った。
「もちろん、私をお嫁さんにするんです」
胸を張って、誇らしげな女神――推定一五歳。
「いやだ」
僕は無慈悲にオブジェクト。
「僕には許嫁がいる」
途端女神――はじめから何故か僕にはそうわかった、が驚愕したかのように目を見開いた。
「そ、それは、だ、誰ですっ!?データベースにはそんなこと一言も……」
「もちろん。嘘さ。今は、ね。許嫁はとうの昔に泡となって消えた」
「最後の含みが気になっちゃうじゃないですか!」
女神――好物は納豆、が即座に反応した。お、反応が早い。

いつの間にか女神は斧を頭から取り除いて片手に握っていた。傷はどこにも見あたらないあたり、やはり女神なんだろう。
「とにかくっ」
女神――コンプレックス胸、は僕の目をほじくるように見つめて言った。
「今日から貴方のお嫁さんですからっ」














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