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鏡のこちらの。

作者:quiet
 お。

 来たな、幸せ者。
 にくいねー、この。ま、とりあえず座れよ。ほらメニュー。俺はもう頼んでっから。

 で、どうよ。

 何が?って、そりゃお前。式のことだよ。昨日も打ち合わせだったんだろ?

 いやー、わかんねえもんだよな。お前高校のころは一番ぽやぽやしてたのにな、はは。まさかの結婚一番乗り。思わぬ伏兵だよ。ほんと人は見かけによらねえ――わははは。怒んなよ。いまだ独り身のさびしーおっさんのひがみだ。

 でもま、こうして身い固めるやつが同期で出てくるとよ、俺も結構いい歳になったもんだって実感するよ。……な。ご祝儀貧乏なんざもっと遠い未来の話だと思ってたんだけどよ。おうおう。お兄さんからの心遣いありがたく受け取っとけい、はは。

 今?

 あー、言ってなかったっけ。

 バイトだよ、バイト。

 いや別に? 結構割良いしな。塾講。三十くらいまでには正規雇用取らなきゃなんねーかな、とは思うけど。実家住みなら全然余裕余裕。普通に金貯まるしな。

 長くはねえよ。
 去年までは別の仕事してたからな。

 ……結構ぐいぐい聞いてくるな。別にいいけどよ。後でお前の話も聞かせろよ? 祝いに来て自分語りで終わっちまったら何しに来たんだって話になるからな。

 で、前のバイトか。
 遊園地だよ、遊園地。

 おい。おい。

 ……おいこら。

 笑いすぎだろいくらなんでも。お前、俺ほど遊園地が似合うおっさんは他にいねえからな。は? ……マジで言ってんのかお前。

 …………、

 ようこそ夢の遊園地、裏野ドリームランドへ!

 笑いすぎだろ! お前がやれっつったんだろーが! あーあー、そのまま笑い死んじまえ。……笑いすぎて泣いてんじゃねーか。

 あっそ。
 いやもういいだろこの話。興味津々かよ。

 しゃーねえなあ。

 院生の頃から始めて――、大体三年くらいやったかな。時給が良くてさ。千五百。そう。

 ダンサー。……いや嘘だかんな? お前一回ツボ入るとほんとめんどくせえの変わってねえのな……。

 夜間警備だよ。深夜手当込みだから千五百もらってたわけ。

 んー? きつくはなかった、かな。あの頃生活リズムガッタガタだった割に体力はあったかんな。今やるのはちょっと勘弁だけど。配置も良かったんだよな。カメラ監視。見てるだけでよかったからさ、つぶれてさえいなけりゃ今でも――。

 え?

 あ、なんだお前。知らなかったのかよ。

 つぶれたんだぜ、あそこ。つい最近。

 なんで、って言われてもな。

 経営難だったんじゃねえの。裏野だぜ、裏野。交通悪すぎだろ。詳しくは俺も知らねえけどさ。人が来なくて、老朽化で施設更新費をペイできなくなったから廃園、とかそんなとこじゃねえの。

 ああ、そりゃ確かに昔はな。
 ただ、真新しさが消えて忘れられ始めたってのもあるし、それにあのウワサも散々だったしなあ。

 あ、それも知らねえか。
 そりゃそうだわな。あんな辺鄙なとこにある遊園地のウワサなんざマニアじゃねえと知らねえよな。

 検索してみ。ワードは『U遊園地』。……なんかゆーゆーって、発音するとパンダかなんかの名前みてえだな。

 出た?

 そうそう。オカルト系のサイトで変に取り上げられてんだよ。あ、それ。七不思議。そんなんまで作られてんだぜ?

 ひでえウワサだよなあ、それ。『子供がいなくなる』『ジェットコースターで謎の事故』――こんなんあったら大問題だしよ。連日ニュースで大報道されるわ。

 『アクアツアーの不気味な生き物』――あそこの溜池普通に水抜いてメンテするから魚とかいねえし。『ドリームキャッスルの拷問部屋』――なんでこんなもん遊園地にあんだよ。大人の夜の遊園地ってか。『廻るメリーゴーラウンド』――メンテで夜中に廻すこともあるし、なんなら誰も乗ってなくても営業時間中は普通に廻ってるわ。

 だろ? ちょっと考えりゃわかると思うんだけどな。面白けりゃなんでもいいのかね、こういうの。

 なー。高校の頃の思い出もあったしよ。割にショックだわ。楽しかったよな、あのとき。
 変わらないものはないっつったらそれまでだけどよ。

 ……あー。
 なんか悪いな。折角久々に会ったのにいきなり愚痴っぽい話題になっちまって。

 え、この話まだ掘り下げんの? まあいいけど。

 つってもカメラ監視っつったらそれ以上のことは特にねえぞ。待機室みたいなところでスタンバってたまーにカメラ見るだけ。あ、いや、別に全部ってわけじゃねえよ。

 待機部屋って基本アトラクションごとにあんだわ。で、俺の担当はミラーハウス。覚えてねえ? よな。確かあのときも何が何だかわかんねえまま出てきてたような気がするし。

 まあでも監視バイトの中でもミラーハウスが輪をかけて適当でな。監視しようにも鏡のせいで何が何だか全然わかんねえの。わはははは。最初の業務説明のときも『まあ、うん、見といてくれればいいから……』とか、そんな感じだったし。

 さあ。
 いることに意味があんじゃねーの。アリバイ作りだよな。おかげでめーっちゃ楽だったけどな。普通に課題やったり飯とか食ったりてたわ。

 ん?
 ……あはは。

 怖いっつたらまあ、広くて暗い場所見ながら一人で部屋にいたらそれなりに怖いわな。つってもそれはどこも同じだと思うぜ? ミラーハウスはなんだかんだ狭い分まだマシだったんじゃねえかな。

 別に? それ以外はな。俺あんまり怖がらねえタイプだし。さっき言った通り、ドリームランドの妙なウワサとか全然信じてなかったしな。

 ……よく人の話聞いてんね、お前。そういうところがモテる秘訣か? 謙遜すんなって。後で教えてくれよ、センセ。

 別に信じてるわけじゃねえよ。ただその二つはコメントのしようがなかったから飛ばしただけだ。『観覧車から聞こえる声』とか言われても、これ廃園後のウワサだろ? 元になるような話の見当もつかねえんだよな。ミラーハウスの方は……。

 なあ。
 これさ。

 割に真剣に聞きたいんだけど。
 お前、このウワサ本当だったとして、怖いか?

 『ミラーハウスに入ったときと出てきたときで別人みたいに人が変わる』って。

 あ、そうなの。
 へー……。

 スワンプマンとかそういう話好きか? いや、知らねえなら別にそれでいいんだけどさ。

 この話ってさ、つまり見た目そっくりで中身別物の人間が入って行った人間の代わりに出てきたってことだろ? 鏡の中の自分と入れ替わっちゃった、みたいなさ。

 そんなの外から見てわかるわけなくねえ?

 考えてみてくれよ。ある日さ。いっつも昼飯にカレー食ってるやつが、麻婆豆腐にメニューを変えてんの。なんで? 別人? って思うか? 思わなくねえか?

 そんなら別にそんなに小さい話じゃなくてもいいよ。全然口調から何から何まで変わってもさ。だけど俺だって塾で中高生相手に喋ってんのと今お前に話しかけてる口調全然違うぜ? なんなら高校時代とだって違うしさ。けど俺が免許証でも見せたら疑う余地ねえだろ? 最近風邪っぽくて調子悪いとか言って誤魔化されたらさ。

 ……どんなとこが?

 記憶。
 記憶なあ。

 実際そんな昔のこと覚えてるか? 俺とクラス同じだったのって高校何年のときだった? 出席番号は? ドリームランドに行ったときのメンバーと季節は? 回ったアトラクションの順番は?

 しょうもねー話だっつーのはわかってんだけどさ。ただどーしてもよくわかんねえんだよな。見た目さえ同じなら中身がどうなってもわかんなくねえ? 

 何も鏡の中の自分と入れ替わるとかそんなファンタジーじゃなくてもさ。記憶喪失になったらそいつは別人なのかよ、とか思うわけ。表情の癖とかよく使う言葉とか、そういうとこである程度相手を認識してる部分はあるんだろうけどさ。結局見た目と身分証明さえできれば中身がどうなろうと傍から見りゃわかりっこねえって――。

 あ。

 ……わり。

 結婚控えてるやつに話すようなことじゃなかったよな、これ。口が滑っちまって……すまん。

 奢るからよ。元からそのつもりだったんだけどな! ほらほら、なんでも頼めよ。結構美味そうじゃねえか。お前抹茶アイスとか好きじゃなかったか? 腹壊さねえ程度ならいっくらでも頼んでいいぞ。

 な。
 ……おーい。

 マジ?

 そんなに嫌な話だったか、これ?
 いや本当悪かったって。そんなに機嫌悪くすんなよ――。

 て。

 お前。

 泣いてんの?

 いや。
 いやいやいやいや、悪かったって。ほんとすまん。そんな深刻な話じゃねーんだってこれ。ただほら、最近バイトの関係で哲学とかそういうのに目え通してて、それでちょっと頭良さげぶりたかっただけなんだって。だから本当、そんなにさ、

 おい。

 嘘だろ。



 今更思い出すなよ。

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