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comet.

作者: 三峰時雨

「っしょっと。」

 日付変更線を通り過ぎた頃。僕は背中に担いだリュックと一緒に屈折式天体望遠鏡を降り積もった雪の上に立て掛けた。

 山を登り、獣道をたどり、木に数メートル毎にしっかりと巻き付けてある赤いリボンと懐中電灯の明かりを頼りに進んでいく。

 しばらくあるくと開けた草原地帯になる。

 そこは僕だけが知ってる秘密の観測場所。ここで月や流星。時に人工衛星なんかも観測してたりする。

 ロケットの打ち上げなんかも軌道によっては見える可能性がある場合、大学をサボってまで晴れている中果てしない宇宙(そら)を飛ぶロケットを探してたりしている。

 

 今日来たのは月でも流星群でも

 はたまたロケットや人工衛星なんかでもない。

 去年春に発見されたバーバレット彗星を見にきた。

 右手に方位磁針、左手にスマホを持ち、インターネットの情報を元に望遠鏡の角度を合わせる。

「方位80度の角度52度……」 

 角度は計りにくいので経験と感覚で合わせた。

 小さなレンズに右目をくっつける。

 

「………あ、あったあったあった。これだ。」

 

 太陽にそこまで接近してないため闇に同化する星。とっても小さな尾を伸ばしていた。彗星とその尾を確認するのが精一杯だった。

 地上から肉眼で確認出来る等級(等星)は6等が限界である。

 なのでこれも6等前後だと思うのだが、これが太陽折り返しすると最大-3.8等まで明るさが上がるのではないかと予測されている。

 望遠鏡の接眼部分にデジカメのレンズをくっつけ、写真を何枚か撮る。

 天体現象というものは本当凄いものである。

 6等星程度の彗星にはしゃいでいたら、

 

 1人ちょこんと夜空を見て佇む少女がいた。

 

 その彼女は肩甲骨辺りまで伸ばした黒髪。黒いセーラー服を着ていて、膝上10cm程度までスカートを上げていた。

 身長は大体150cm台。自分より約20cm小さいことになる

 恐らく女子高生?

 何故…

 何故日付変更線を超えた丑の刻参りが近づく中1人でいるんだ?

 しかも夜中だし、それに僕ぐらいしか入る人いないのに

「…あのー。」

 とりあえず声を掛けてみる。

「あのー…。」

「ん?なんですか?」

「あ、う、…彗星……見えるんですけど、見ます?」

 そう言うと彼女はザクッザクッと音を鳴らしながらゆっくりと近づいてきた。

 僕は1歩、2歩と少し後退りする。

 彼女は望遠鏡の前に止まるとゆっくりとレンズの中を覗きこんだ。

「…これ?すっごい小さな尾。」

「あと数日すれば長くなると思うよ。」

 氷のコアのため太陽の熱などで溶けない限り長い尾は引かないだろう。

 ………

 

 無言が冷たい空気に乗って耳を通過していく。

 

「あ、あのさ。なんか西赤間高の制服っぽいけど、親心配してないの?」

「何で知ってるの…。」

 少女は不審者を見る目で見てきた。

 僕は「いや、母校だから」と返した。

 ふーんと言って少女は目をレンズに戻した。

 …普通疑わない?いや、母校なのは本当なんだけどさ…。

 少しして急に「親は心配しないよ。」と話した。

 いやいやいや、大丈夫じゃない気がするよ。青少年なんとか条令で絶対大丈夫じゃないだろ!!!

 いや、もし18歳だったら大丈夫なのか?今1月だし。

 とはいえども親心配するだろ!!

「とりあえず、もう夜中2時を回ってる。車で家まで送るから。」

 僕自信も明日は朝から講義がある。そろそろ帰って速攻布団に入らないと遅刻してしまう。

「…私を連れ去ろうとしてるんですか。」

「違う違う違う!!!とんだ誤解だ!!!!」

 確かに『車で送る』はヤバかったな。相手は女子高生だ。別に悪さの『わ』の字も無いのだが。

「心遣いありがと。でも私このままでいいから。」

「でも真夜中だし――」

「いいから。」

「あ…。分かった。気をつけて帰りなよ。」

 そういって僕は荷物を片付け、下山した。

 

 家についたのは3時前だった。

 彗星の確認も完了した。写真も撮影し、記録して明日、昼休みの時に記録を書こう。

 そう思いながら私は布団に潜った。

 

 ………

 ……

 …

 

 寝れない。

 あの少女が気がかりで寝れない。

 ちゃんと帰れただろうか?

 あの少女は一体何者なのか?

 誰かに襲われてないだろうか?

 自分自身熊に遭遇したことがあるから熊に遭遇してるかもしれない。

 心配でしょうがない。

 

 その日は結局眠れなかった。

 

 翌日。

 コックリコックリしながら午前中は講義を聞いていた。

 耳で聞き取るのが精一杯な状態。

 朝、リポD2本イッキ飲みしたがその作戦は無理だった。

 幸いにもバイトのシフトは今日入ってなかったので帰ったらゆっくり寝られる。

春人はるとどうした?でっかいクマ作っちゃって」

 食堂で昨日の彗星の記録を眠い目をゴシゴシ擦りながらノートパソコンに打ち込んでいたら青木に話しかけられた。

 青木は同じ大学1年生で同じ経済学部。そして僕と同じ天文研究会に所属している。

「…寝れなかった。」

「なんだ?彗星が楽しみすぎたか?」

 うん、違う。

「そういえば明日だよな。太陽周回するの。」

「ああ。」

 明日の午前11時28分に太陽を折り返し、太陽を離れて太陽系を脱出するようなルートを取る。非周期彗星なので今後絶対太陽系を訪れることはないだろう。

「ごめん…もうギブ。これ書いたら早退するわ。」

「え、お前が早退とか…。珍しい。」

 正直、会社だったら早退とかは無理だろうが、一応大学生。学生だけ使える特権をちょっと使い帰ることにした。

 多分、道の途中でぶっ倒れたりするよりかはましだろう。

 社会人の皆さん大変申し訳ございません。真に勝手ながら早退させていただきます。

 その後電車で思いっきり寝過ごしながら帰宅し、布団を取り出して横になったらすぐに深い眠りにつけた。

 

 目が覚めると眩しい日差しが入ってきた。時計を見ると7時前だった。あれからずっと寝ていたようだ。

 さっさと身支度や朝食を済ませそのまま家を出て、電車で大学へ向かった。

 講義は朝だけ。朝だけって楽だから嬉しい。

 大学についてノートを開いたらそこにはアラビア文字のような字が書かれていた。

 

 

 *

 

 

 午後8時。

 バイト先の店を出て上を見上げると長くきらびやかな青い尾を伸ばした彗星が夜空を漂っていた。バーバレット彗星という彗星は自らの位置の回りの星の光力を奪い、自らのコアから溶けたエネルギーを使い、力一杯存在をアピールしていた。

 バーバレット彗星は大彗星として記録に納められるだろう。

 その後一旦家に帰り、車でいつもの天体観測場所に。

 もしかしたらあの少女がいるかもしれない。

 獣道を慎重に進んでいくと開けたいつもの地面と無数の星達がお出迎えしてくれた。

 少女は長く綺麗な青い尾を伸ばした彗星をたたじっと見つめていた。

 少女が私の存在に気づくと雪深く積もった所を走ってきた。ただ、足を少々取られているのか、ゆっくりとしたスピードだった。

「先輩。こんばんは。」

 かわいい…

「こんばんは。」

「晴れてよかったですね。」

「まあね。」

 今日も含めて4日間、付近の天気は晴れ。降水確率も0%から10%と彗星観測するには好条件だった。

 

 バーバレット彗星はアメリカの天文学者『コークス・バーバレット』という方が去年の4月頃に見つけた衛星で、肉眼での観測可能時期は1月3日から14日まで、地球最接近は12日となっている。地球からの距離は最接近時0.904天文単位。計算上大彗星になるのではと期待されている。

「ねえ、あのさ、せっかくだから、名前教えてよ。僕は『如月春人きさらぎはると』」

 

「私は、信濃綾しなのあや』といいます。よろしくお願いします。」

 少しは警戒するかと思ったが、あっさりと答えてくれた。

 ブルーシートを引いて夜空見上げようと信濃さんを誘った。

 信濃さんがブルーシートの上に寝っ転がっるのを待って僕もブルーシートの上に寝っ転がった。

「綺麗ですよね。星って。それに彗星も重なるから少し違和感あるけれど、とても、素敵。」

「僕は東京のど真ん中から引っ越してきたんだけど、初めての夜を迎えたときこの夜空を見て引かれたんだ。」

「そうなんですね。」

 しばらく静かに夜空を見上げていて、一つ質問をしてみた。

「『天体』って好きですか?」

「私ですか?私は好きですよ。」

 同じ天体好きだった。嬉しい。

「私、2年前に市営天文台で見たペルセウス座流星群がきっかけで天体が好きになったんです。」

 

 市営天文台。基本月に2回の日曜日に23時まで解放している天文台だが天体ショーがある場合でも解放されるらしい。

「如月先輩は何がきっかけで好きにななったんですか?」

 僕…。僕かあ―――。

「僕は…。何でだろうね。気づいたら好きになっていた。」

 そういうと信濃さんは「へんなの。」と言いながらくすっと笑った。

「でも、僕は一つだけ言えるのがあって―――。」

 

「もともと空が好きだったんだ―――。」

 

「そのせいかもね。昼の空も夜の空も好きになったのは。この地域の環境っていうのもあるかもしれないけど。」

「そうなんですね。」

 僕たちは上に散りばめられた世界を眺めながら静かにこの彗星と光る星々を見守っていた。

「あの…先輩。」

「ん?」

「あの…正直こんなことしていいのかわからないんですけど、」

「…」

「手……繋いで……くれません………か?」

 それはあまりにも以外すぎる言葉だった。

 僕は勿論動揺してしまった。そりゃあ恋人でもなんでもない異性から急に『手を繋いでくれ』なんて言われたらあわててしまう。

 僕は少し考えた後ゆっくり、静かに、彼女の手に自分の手を絡めた。

「こ…こうでいいのか…?」

「うん。よく、母がこうしてくれたので。」

「そうなんだ。」

 (ほの)かに温かい手が絡めた右手から届く。

 僕達2人は彗星や星々を寝そべりながら見守っていながら、彗星や星々に見守られている気がした。

  僕は…気になる事を彼女に直接聞くことを今決断した。

「ねえ…」

 そう言って横を向くと信濃さんは静かな眠りに()いていた。

 …まあいいか。恐らく明日も会えると思うし。

 そう心の中で呟くと自分もゆっくりと目を(つぶ)った。

 

 

  *

 

 

「…んっ……ん。」

 目を開けると空が薄く色づいていた。

 星々は見えなくなり、ハーバレット彗星もかなり薄くなっていた。

 信濃さんは…まだ寝ているみたいだった。手はまだ繋がっていた。

 スマホを覗くと朝の6時半だった。日の出まで約30分はある。

 しかし…体が冷えた。このまま寝るのは流石にまずかったか。

 信濃さんの為にそのまま手を繋いでおいてあげたいが、今日はそういうわけにはいかない。

 今日はハーバレット彗星が近日点を通過する。いわゆるピークだ。

 しかも今日は月が新月ということで、空前絶後レベルでラッキーなのか、ご都合主義なのか…。

 そんな事はどうでもよく、今日に限っては野宿はどう足掻いても確定である。

 そのため家からテントを取ってこなくてはならない。

 信濃さんに絡めていた手をゆっくり離して、その代わりにメモ帳に『テントを取ってきます。すぐに戻ります。ブルーシートはそのままで大丈夫です。』と書いて信濃さんの手に忍ばせた。

 僕はそのまま一旦下山した。

 

 10時半頃。テントと機材程度のつもりが他にも色々詰め込んだ車をふもとに止め、あの開けた場所に行くのに30分かかるので正式に着いたのは11時頃になった。信濃さんは佇んでいた。

「信濃さん。おはよう。」

「おはようございます。」

「ごめんね。1人にさせてしまって。何もなかった?」

「…はい。大丈夫でしたよ。」

「で、今日学校は?」

「高3の3学期はほとんど家庭学習になるので、まあ、お休みになります。」

 そっか。僕もそういえば高3の3学期の時は休みだったなー。なんか懐かしいし、やり直したい…。

 楽しかった思い出もあれば、苦い思い出もある高校生活だったな。ハハハ…。

 そのあと車との往復を3回やり、全て持ち込んだ頃には13時を少し過ぎた頃だった

 先週この日のためだけに買った2つのカメラに三脚を付け、立て掛け、青空にレンズを向けた。14時半過ぎには撮影、録画を開始する予定だ。

 信濃さんが手伝ってくれたのでいつもより早くテントを張ることができた。

「お疲れ様。よし。お昼ご飯にしよう。」

「やったあ。お腹空いたなー。」

 とはいってもその昼ご飯は非常食兼登山食でよく売られている五目ご飯のアルファ米だ。

 水で戻してもいいのだが、時間が掛かるのでお湯で時短することにした。

 携帯ストーブで水を温めて、アルファ米の入った袋にお湯を入れ、口を塞ぎ約10分。

 口を開けると湯気と共にふっくらとした五目ご飯が匂いと一緒に目に入った。

 使い捨てのプラスチックスプーンを手に取り袋の中のお米を口のなかに運んだ。

 それと同時に前から「美味しい…。」という声が聞こえた。

「これって非常食ですよね。」

「うん。非常食。登山する人なんかは水入れて作ったりするね。」

 そう言うと

「私、非常食は乾パン以外は美味しくないと思ってました。それにその乾パンだって食べると喉が凄い渇きますし…」

 乾パンは喉が渇くから非常時には1度に大量に食べないほうがいいというのを聞いたことがある。非常時なんかになると水もかなり貴重になるし、非常食も数に限りがあるからだ。

 私的には乾パンや非常食のパンよりもこのような水入れて作るタイプのご飯がいいと思う。

 美味しく、そして少しは水分も同時に取れるから。

 だからとはいえ、非常食は全てが不味いわけではない。むしろ今はほとんど美味しく作られてると思う。

「ごちそうさまでした。」

 信濃さんが早くも食べ終わった。僕が食べるのが遅いのか、相手が早食なのか、

 もしくは美味しすぎて早く食べてしまったか、

 あるいはその他。

 と後半くだらない選択肢が頭の上に舞い降りた。

 私も食べ終わると時間が近づいていたのですぐに2台のカメラの撮影を開始した。

 

 ゆっくり。ゆっっくりと日が傾き、日は山に隠れ空が茜色に染まる。

 日没時間が過ぎて、時が経つにつれてバーバレット彗星が顔を出した。

 それに釣られるように星々も顔を見せ始めた。

 完全に明るさを失い、天空に無数の砂を散りばめた世界が現れた。

 二度と現れない今日の世界は物凄く寒かった。フード付きジャンパーを羽織り、フードを被って、さらに耳当てしても凍える寒さだった。

 かたやガスストーブ、方やたき火の火を使ってお米を炊いていた。

 毎年冬によくやること。火に手を近づけて暖を取ること。

 今日は1つ多い、2つの小さな底深鍋をじっくり見ながら暖を取っていた。手元の携帯観測機に表示された気温は3℃を下回っていた。これからもっと冷えるぞ…。毎年冬はいつものことだが氷点下まっしぐらである。

 白米を入れた小さな鍋がコトコトと言い出した。

 それを見ながらゆっくりと、徐々に火力を小さくしていく。

 泡が完全に噴かなくなったところで軍手を着けて火から上げてみる。

 蓋を開けるととても小さくて鮮やかな白いじゅうたんが顔を表した。

 今回もいい仕上がりだった。よかった。これを開ける瞬間はどうも緊張してしまう。

「信濃さん食べます?」

「いいんですか?」

「大丈夫ですよ。」

「すいません。なんかもらってばっかりで。」

「いえいえ。好きでやっているだけなので。…あ、容器熱いから注意して。慣れないと思うけど片方に軍手着けたほうがいいよ。」

 天に広がる黒いじゅうたんと所々に散りばめられた砂と何かを大きく払ったような一つの模様。

 私達を取り巻く、白色のじゅうたんは太陽の光を失っても白く輝いていた。

 周りは木々が生い茂っている。正直自然にできたとは思えないほど綺麗に並んでいた。

 光を得るためもう一度火を組み上げる。

 光に誘われたのか何か影が見えた。

 テントから懐中電灯を取りだし、その影に光を当てると奥の方に消えていった。だが、白い野生のウサギだったのは間違いなかった。

 ここは生物と自然のバランスがとてもいい場所だというのがここで野宿する度に再認識させられる。

 こういうところが再開発されて、人間に支配されて、どんどん無くなっていくのが正直悲しい。

「あの…如月さんでよかったですよね。少しいいですか?」

「ん?何?」

「私…実は―――」

「未来から来たんです。」

 あ、あー

「飛んだ冗談だね―――」

「冗談じゃなくて……本当なんです。」

 ―――

 え?

 おかしい…彼女の言っている事は完全に可笑しかった。

 未来過去に行くのは今の技術では完全に無理だ。たとえ仮にタイムマシーンが今この世に存在したとしても理論的に未来には行けるものの過去に行くのは不可能だ。つまり彼女は未来から来たとしても彼女が過去に戻ることは決してできないのである。過去に戻るとなればアインシュタインの相対性理論を完全にぶっ壊さなくてはならないのだ。

 

 ―――いや、待てよ、

 僕が何らかの影響で未来に……

 と思って携帯の日付を調べてみるが1月17日で間違ってなかった。

 つまり彼女から来たということになる。

 でもあまりにもおかしすぎる…。

「いや、いくらなんでもその理屈りくつはおかしすぎ―――」

「信じてくれないってのはわかってる!でも……恐らく私が…未来から過去に来た。」

 そう言いながら制服のスカートのポケットから小さな紙を取り出した。

「これ。レシートの日付見て。」

 そう言われて綺麗に折って畳まれたレシートを開く。

 そこには大きな駅にあるデパート名が店舗名と共に印字されていた。その日付を見ると―――

『2018年3月16日』と書かれていた。今からちょうど2ヶ月後の日付だった。

「それと、何故だかここから出ることができないんです。」

「ここからというと―――。」

「……この草原から…。この森から……。」

「……。」

「体全体がとても冷たくて目が覚めたんです。そしたらこんな所にいたんです。

 確かに最初は驚きましたし、パニックにもなりました。でもあたふたしてても何も起こらないからとりあえず下ってみることにしたんです。でも―――

 何度やってもここに戻ってきてしまうんです…。下っている感触はあるのに。」

「…。」

「それで私が途方に暮れている時に先輩が来たんです。」

「……。」

「私……どうなっちゃうんだろう。」

 そう言って信濃さんは膝からがくりと折れて泣き崩れた。

 自分は…体全体が小刻みに震えていた。

 それと同時にいくつかの恐怖心が僕の体を笑みを浮かべながら通り過ぎて行った。

 恐ろしかった……。

 怖かった……。

 今までのは全部演技で殺されるのではないか。そうも考えた。

 だんだんと耳から音が失われていく。

 そして目から入っていく色も失われていく。そんな感覚も覚えた。

 体が…どんどんと硬直していくのが自分でも分かった。

「ねえ。」

 その彼女の震える声でハッと目が覚める。

「私の話信じる?」

 ………

 ……

 …

「信じないよね。」

「いや、信じる。信じてみることにする。」

 正直これは物理的な意味でこの僕が食われるか否かの賭けだった。これも実は演技で……という形だ。

「ごめんなさい。もう疲れてしまいました。先寝させてもらってもいいですか。」

「あ、ああ……。」

 そう返すと信濃さんはテントの中に吸い込まれてしまった…。

 

 

  *

 

 

 あれから少したった。

 ブルーシートをテントから引っ張り出し、テントの明かりを消した。初めて見る信濃さんの寝顔姿は可愛く、それと同時に小悪魔にも見えた。まだ少し恐怖心が残っているんだと思う。

 冬の星空を見上げる。

 星座の点結びをしたいが、肉眼で確認できる星がま無数にるのでする気力が無くなる。むしろ出来ない。

 僕はただただじっと彗星を眺めていた。

 気づいたら2時を回っていた。

 彗星はさっきとは違うところにあった。彗星と地球の自転がしっかり活動している証拠だろう。

 明後日には観測が永遠に不可能になる。

 瞼が重い。

 2時はどんな人でも眠くなってしまう。

 僕は…そのまま………。

 

 顔の強い痛みと眩しさに目を覚ました。

 0度を優に下回る気温と眩しい太陽に起こされた。時刻は8時をとっくに過ぎていた。

 僕は頑張ってくれた2台のカメラの録画と撮影をストップさせ、中にしまう。

 信濃さんは中にいるのかと思い、テントのファスナーを開けて中を見た。

 しかし、

 影も形も見当たらなかった。

 どこか周りにいるのかと思い辺りを捜索したが見当たらなかった。

 出ようと試みたのか?置き手紙も置いたような感じも無かった。

 その場で一度ぐるりと回った。

 でも――

 自分の足跡しか無いのだ。

 おかしい。雪は降ってないはずだ。

 僕が起きた頃は顔は濡れていなかった。それはカメラも同様だった。

 念のためカメラで僕が寝ていた頃の映像を確認してみたが、雪雲どころか、雲らしき物も映ってはいなかった。

「信濃さん。信濃さあん!」

 いない。だからといって闇雲に動けば自分も遭難する。ここまでこれるのだってほんのたった数メートル間隔で自分が付けたリボンを頼りにしている。

 テントを畳み、とりあえず置き手紙だけ残し、下山しながら信濃さんを捜したが、声すらも聞こえなかった。

 まず、足跡が残ってないのかが気がかりだった。

 そのまま何の手掛かりも掴めないまま昨日乗った自分の車の前についてしまった。

 

 ちょっとしたとても小さな賑やかさが唐突に消えたその夜。

 朝はあんなに晴れていたのに雪が降っていた。

 あの場所に足を運んだが信濃さんは影も形も、そして手掛かりどころかそれらに関係するような痕跡も無かった。

 僕は次の日も登った。

 次の日も。次の日も。またその次の日も。

 1ヶ月毎日通った。

 しかし彼女に会うことも手掛かりを見つけることははもう無かった。

 

 

  ●

 

 

 ―――あれから3ヶ月。―――

 

 僕たち天文研究会一行は次の天体イベントに向けて準備を進めていた。

 天文研究会のイケメンリーダーはちょっと我が研究会に入りたいって言う子がいるからと言って外に出ているため留守にしていた。

 

 僕は1月に数日だけ会っていた人は顔も名前も全く思い出せなくなってしまっていた。

 

 小ぢんまりとした室内であーだこーだと話をしていたらリーダーがバンッとドアをおもいっきり開けて入ってきた。その音で皆一斉に静かになってしまった

「連れてきたよ。可愛い可愛いお姫様だ。」

 そう言うとリーダーがどうぞと声をかけた。

 そしてリーダー曰くお姫様が姿を表した。

 その子肩甲骨辺りまで伸ばしたロングヘアーで華やかながらも淡いチェスターコートで花柄のインナーを着た女子大生だった。

 

 

 その時僕は1月に会ったその子を思い出した――。

 

「信濃綾です。よろしくお願いします。」

 

 

 そして僕を見てにっこりと笑顔を見せた。

 


どうも。これを書き終えた時はがっつり試験期間中で小説を書いている場合ではない遠山けいです。

30作品以上書いて初めてボツにならずに完結した作品です。どれだけボツにしたのだか(震え声)

暇な時にちょこちょこ書いていたので1年かかるかと思いましたが、2ヶ月で終わりました。自分でも見込みが立ったときはちょっと驚きました。(笑)

一応舞台設定はあるものの、何年も前に行ったきり見ておらず、見に行くにも予算0円、運転免許無しでどのように250km先に行くのか…。私、これを書くのに数年前を思い出そうとして無理をしました。(設定自体無理がありますが。)尚、思い出せなかったです。はい。

ちなみにこれは2018年1月を考えて作りました。彗星もただの想像で、元から持っていたいらない知識の一部を詰め込んで作りました。いやはや、1人でアイデアを練り書き上げるのは大変です。終盤なんか雑すぎるし。

最後に、こんなつまらない作品を読んでくださりありがとうございます。まだまだ私、挑戦し続けます。ではまた会えることを願って。


遠山けい

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― 新着の感想 ―
[良い点] シンプルなボーイミーツガールものに分類されるお話で、肝となる出会う女の子が可愛く書けていたのも好印象でした。 星の説明や描写も興味を惹かれ、お話に食い込んでくるかと思ったら終わってしまった…
[良い点] 天体だいすきマンです! 目視で夜空を見上げるのもいいですが、望遠鏡のレンズ越しに映る天体映像もいいですよね。 全体的に読みやすい文章で、序盤から最後まで流れるように読めました。 夜空…
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