挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ウラノDLで猫が啼く 作者:あゆ森たろ
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

1/7

1.ウラノDLで猫が啼く

「ここから出して……」
 暗闇の中で、声が聞こえる。
 小学生ぐらいの女の子の、かすれた声。疲れきった様な、もはや諦めているかの様な、心配な声。
(あなたは……?)
 アリサは静かに、様子をうかがった。とはいえ、夢の中なのだと分かっていたから余裕はあった。
(あなたは、何? 誰なの?)
 聞き返すが、返事が無い。

 その時、目の前が明るくなってきた。自分の体は見えないが、視界いっぱいに広がっていく世界。
 淡いライトが全体を照らし、花畑となった。手前が菜の花畑だろうか、奥の山斜面は水仙だろうか、遠くに見える湖の群生地に淡紅色で咲いているのはハスの花だろうか、あとはポピー? チューリップ? ヒマワリ? 視野が壮大すぎて、分からない。
 空が段々と広がっていく。
 澄んだ青空だ、白い雲がポコポコと可愛く転がっていた。
 吸うと空気をおいしく感じる。アリサは気分がよくなって、一歩だけ前に進んだ……つもりだった。
 突然、つまずく。「うきゃあ!」小さいが穴に落ちた様だった。「うう~……」
 何が起こったのかが分からず顔を上げると、くすくす、という笑い声とともにサッと影が去った。「!?」アリサは立ち上がり、小さな穴から脱出した。それでともかく追いかけようと花畑へかき分け入って行くと、数十メートル先に「何か」が居た――。
「あいつ、何!?」
 視力はいい方のアリサだったが、たぶんクマだよね、と自分に言い聞かせる。そう、アリサが見たのは茶色いクマ、二足歩行で、ぬいぐるみに思えるが、水色のオーバーオールを着て首に赤いスカーフを巻いたクマ。アリサが自信を持って言えない理由は、その顔にあった。
 顔が無い、のっぺらぼうである。
 アリサを見ていた、いや、アリサの方に向いて立っていた。
「……気味悪ぅ」
 思った事をすぐ口に出し、嫌な顔をした。聞こえたのかどうなのか、謎のクマ(仮)はニヤぁ~と笑う。突如、何も無い顔に口だけが出現したのだ、アリサは驚いた。
 そして、また、いきなりだが、黒い羽が生えて、裂けた顔から「目」が出現した。
 その「目」は赤く充血しアリサを真っぐにとらえている。
「悪魔だ!」
 指さして叫ぶ。黒い羽は蝙蝠こうもりの羽の様だ。頭のクマ耳だけは可愛いが、他がとんでもない化け物だ。
 だがそのアクマ(悪魔)は、背を向いて飛んで離れていく。青空の彼方に――。やがて小さくなって、消えていく。
(あれは……)

 観覧車がある……。

 目を凝らしてアリサが見つけたのは、白い観覧車だった。何処にでも在りそうな、特徴も無い観覧車である。
 お花畑に、観覧車。ではここは、ひょっとして……?

 答える前に、アリサは起きたのである。


 *


 夏休みの真っ最中。
 時折に激しい雷雨がくる事もあるが、日中は快晴! と吠える事が多い日が続く。朝方に雨は降ったが、アリサが学校へ行く頃には痕跡こんせき微塵みじんも感じさせないほどに地面などは乾いていた。
 10時からはプール教室。お昼前には終わる。アリサは友達の優衣ゆういと並んで昇降口の階段に座っていた。
 水着の入ったバッグは2人とも横へ放り出して、おしゃべりに夢中になっていた。
「それでさぁ、お姉が来て何て言ったと思う?」「何て?」
「それ、ナマコだよって」「ナマコーッ!!」
 きゃっきゃっきゃっきゃっと、はしゃいでいると突然ふと、アリサが思い出して話し始めた。
「ナマコで思い出したんだけど……」
 神妙しんみょうになった顔を不安そうに優衣がうかがった。「どうしたの?」
 アリサがボソ、っとつぶやく。「クマの夢を見てね……」あろう事か、優衣に珍妙なイメージが浮かぶ。クマがナマコを抱いている。「ナマコは……?」
 どう考えても両者が結びつかなかった。せいぜいくま〇ンが……やめておこう。
「始めは、どっかのお花畑だったんだけどさ……」
 アリサは顛末てんまつをすべて伝えた。第1章から最終章まで、クマとの出会いから別れまでを。
「フウン……。気になる夢だよね、それ」
 聞いた優衣は首をかしげる。れた長い髪をいた。
「クマが居る遊園地って何処にあるんだろ? 知らないし」
 しばらく考えていた2人だったが、やがて遊園地、から優衣が思いついた様に言った。
「そういえば。昔、ジェットコースターの事故がもとで、廃園になったっていう遊園地なかったっけ?」
 まだ小学生の2人が「昔」とはいっても最近だろう。アリサは懸命に思い出そうとする。「ううーん、あったっけ……?」
 ちょうどその時、横を数人の男子が通りがかった。階段を下りてくる。
「遊園地の事故?」
「何なに、何の話? ってか深野ふかの、良かったな合格」
「う、ありがと」
 来たのはクラスメイト、沢田に藤川に新井。スポ根、メガネ、普通。だが熱血というほどでもなく、インテリぶっているでもなく、居るのか居ないのか気配が無い存在というわけではない、3人。
 アリサをめてくれたのは、藤川だった。歯並びが綺麗きれいである。ニカッと笑い、親指を立てていた。
 恥ずかしさで頭をきながら、20メートルを泳げる様になって万歳、とアリサは嬉しさで体がかゆくなる。今度は25メートルに挑戦だ、目標が新たに生まれた。
「深野アリサ、頑張ります」
「うむ。沈まぬよう」
 笑い転げていると、横で沢田が踊り出す。藤川はスマホをいじり出し、新井は笑顔で見ていた。
「ほら見て。深野」「え?」
「検索してみた」
 差し出されたスマホの画面をアリサはのぞいた。「“遊園地”“廃園”」と検索されたそれには、ズラリと結果が並んでいる。
 一覧のトップには、『廃墟ドリーム~潰れた遊園地まとめ~』と表題タイトルが出ていた。
「ここの、『ウラノ』ってとこ見て」
 藤川が示したのは、『ウラノドリームランド』の項とやらで、内容を皆に聞こえる様に読み上げた。
「昭和59年に開園、バブル期に入り平成になって、目玉である珍種【スノーバキア】を目当てに多くの来場者で大いに賑わっていたが」
 バブル期?
 まだ小学5年生の彼らには不明な言葉が耳を通過する。泡?
「他のレジャー施設の建設との競争、バブル崩壊後におとずれた不況のあおりを受け、続く経営者の謎の死亡が決定打となって、閉園」
 痛い事情だが藤川はスラスラと難なく読み、
「廃園となった当園は買主がつかず、現在も放置されたまま、立ち入り禁止区域となっている……だってさ」
 と、スマホから目を離して周囲を見た。
 皆が、顔を見合わせる。事の発端であったアリサが、口を開いた。
「それで……そこが何? 藤川くん」
「ニュースで見た覚えがあるんだけど、確か……ウラノ、って、ジェットコースターの落下事故が起きて、それで経営者が自殺したんじゃなかったかな……」
 また皆は顔を見合わせた。アリサは背筋がゾクッとした。
「画像が載ってる。ほら」
 藤川がフリックしてアリサに見せてくれたのは、園内の風景だった。「ああ!」声を上げた。
(この観覧車に似てる! あと、花畑だ……!)
 自分の夢の記憶と合点がいったらしい。ここに違いない、他ではないと確信した。
「クマは居ないかな? クマ」
「クマ……ねぇ」
 悩まし気な顔で眉をひそめて。検索で“クマ”と追加で入力してみるが、残念ながらこれぞと思わしき詳細や画像などは出てはこなかった。
「一度も行った事なんか無いのに、どうして夢に出てきたんだろう……」
 最後、観覧車が見えたので、アリサは遊園地に違いないと思い込んだ。だが今に思うと果たして本当に花畑のある「遊園地」だったのか。
「そういう事ってよくある事なんじゃないか? 昔に何処かで聞いたり見た事が、ごちゃまぜになって出てきたのかも」
 かけていたメガネを光らせて、藤川は画面に集中していた。
「もともと脳は物事を秩序づけて理解する傾向があるという。何の関連性もないような記憶が浮上してきても、それらを適当に結び合わせて、つじつま合わせをするのだ、って学者が書いてるよ。ほらね」
 アリサは口をとがらせて空をチラ見した。もう昼の12時を過ぎている。太陽が高く、髪もすっかりと乾いていて、お腹がすいていた。
(ほんとに、そうなのかな……)
 両ひざを抱えながら、話題が途絶えて黙ってしまったアリサと、一同。突破したのはさっきまで踊っていた沢田だった。この中で一番、日に焼けている。
「じゃあさ」
「うん?」
「行ってみないか、そこ」
 足で砂を蹴った。と同時に「へ?」と2、3人が沢田に注目する。
 ぴうぅ、と口笛を吹き一回転した。「父ちゃんに頼んでやるよ。きっと連れてってくれる」と言い放った。「近そうだしー」
 確かに、遊園地の住所までを探してみると案外近くだった様でアリサも藤川もその他も驚いた。「本気かあ」「行くのー」「怖くないかそりゃ」「怖いっていうか、入れんの?」「でも行けたら面白そう」……次々に言いたい事を言っている。
 アリサは正直なところ、好奇心が勝った。
(行ってみたい、かも……)
 怖いけどあのクマ、気になる。
 気になる気になる気になる。
 気になる気になる気になる気になる木になるならない、きになる、キニナル。検索すると文化放送で存在した。フ〇テレビで放送していた情報バラエティ番組については「スパイスTV どーも☆キニナル!」の項をご覧下さい。きになる。
「帰ろっか、そろそろ」「だねー。お腹ペッコペコ」
 くしゅん、と優衣がくしゃみをした。先に立ち上がってアリサは男子に「んじゃ、この辺で……」と言いながらバイバイ、と手を振る。「あ、深野」「ふえ?」呼ばれて反射的に返した。
「番号教えて。電話。スマホ持ってないよね」
 藤川が言うと「ぐ。ございません」とアリサは肩をすくめた。持っていませんよへえへえ、と、藤川が持っていたスマホをなかばうらやましそうに見た。
「家にかけるから。教えて。俺のも教えておくから」
 強引だなーと思いながら、実はちょっとアリサはまんざらでもなかった様である。照れを隠しながら、間違えない様に番号を伝える。「じゃ、ね」
 遠くでせみが鳴いている。じゃわじゃわじゃわじゃわ……生息場所が不明だが、島もカレーも関係は無い。蝉の鳴き声が辺りに響いている。
 チリリーン。
 鈴の音が何処からか。近くではある様だった。

 にゃお。

 白いものが、道路を渡って通っていった。



後書き あゆまんじゅう。こちら
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ