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Episode15 運命の分岐点

 私は冒険者組合(ギルド)を出ると、街を出てサーニャの森に走って行く。


 私がいましている行動は間違ってるってことは自分でもわかってる。

 1人でサーニャの滝に向かっても着く前に死んでしまうかもしれないことも、着いたとしても事実が変わることはないということも。


 でも私はサーニャの滝にいってお姉様を救うと決心していままで頑張ってきた。

 たった十数日のことだったけど、自分なりに全力で努力して頑張ってきたんだ。

 それが否定されるなんて私は絶対に──


「──嫌っ……」


 私はサーニャの森の中に1人で入っていく。

 隣にルークがいない事に寂しさを感じながら、ここまで手伝ってくれたルークに罪悪感を感じながらサーニャの森の深層へと足を踏み入れて行った。



 ◇



 どれだけ走ったのだろうか。

 何処に滝があるのかわからずにひたすら真っ直ぐに走っていたのでもう戻ることも出来ない。

 数回ほど魔獣に接触したけれど、正面から戦うことはしないで上手く避けながら進んでいたおかげで、幸いなことにかすり傷一つもしないで済んでいる。

 私はサーニャの滝を目指して、奥へ奥へと走り続ける。

 すると、視界が明るくなっていって、無限とあるような木々が徐々に減っていることに気づく。私はこの先にサーニャの滝があることを期待して、走る速度を上げる。


 もしかしたら……


 そんな期待をもって、私は森を抜ける。


「ここは……」


 だが、私が着いた場所にはサーニャの滝はなかった。それはサーニャの滝がなくなっていたという意味でない。

 私は間違いなくサーニャの滝の下層を抜けて深層に向かっていた。それは勘違いではなく、紛れもない事実だった……が、サーニャの森の深層にはサーニャの滝にももう一つ、別の場所が存在する。それは落ちたら最後、二度と戻れないと言われていて、そこには数々の財宝や脅威度OVERクラスの魔獣が存在しているという場所。


「常闇の…谷」


 私の目の前に広がっていたのは、森がこれ以上広がるのを妨げるように一直線に存在していた巨大な谷だった。

 下はどこまでも続いていると思わせるほど深く真っ暗に染まっていて、地平線の彼方まで続いているのではないかと思わせるほどの直線に続いている谷だった。


 そんな時だった、後ろから気配を感じたのだ。


 私はすぐに魔法弓を取り出して、気配がする方向に魔法弓を構える。

 魔力錬成で"光の矢"を錬成して、"光の矢"をすぐに撃つことの出来る体勢になると気配の正体が出てくるのを待ち構える。


 そして森の中から人影のようなものが見え──


「こんな所にいたのか、アリス」


 森から出てきたのは魔獣ではなく、ここにいるはずの無いルークの姿だった。



 ◇



「探したぞ、まさか常闇の谷にまで行ってるとは思わなかった」


 俺は最初、アリスを連れ戻す、それだけを考えて森の中を走り回っていた。

 自分はどうしてアリスをこんなに必死になってまで探し回っているんだ、もしアリスを見つけたらなんて声をかけようか、アリスにはどんな態度で接したらいいいんだろう。

 考えることはたくさんあった筈なのに、いつもなら複数のことを同時に考えるなんて簡単にこなすことが出来るのに、アリスがいなくなった途端、アリスを連れ戻すそれだけしか考えていなかった、考えようとしなかった、考えることが出来なかった。

 だがそれはアリスを見つけるまでのことだった。

 アリスを見つけた瞬間、座り込んでしまいそうになるほど身体の力が抜けて、アリスが組合ギルドから出て行った時の不安、アリスを絶対に見つけようと探し回っている時の必死さが、アリスが無事だったことへの安心感に一瞬で上書きされ、いままで考えることが出来なかずに保留となっていたことが一気に頭の中に押し寄せてくる。

 だから俺、魔法弓を構えて警戒しているアリスを見て、冷静にいつも通りにアリスに声をかけた。いつもなら俺の姿が魔獣に見えるくらい寂しかったのかと冗談を言っていた筈だろう。だが、俺はそれが出来ないほどにアリスのことを心配していたのだ。


 だが、そのことをアリスが理解することもなく俺に問いかける。


「どうして……」


「ん?」


「どうして私を追ってきたんですか?」


 それは俺にとって予想外の出来事だった。

 アリスが俺に対して行った質問がではない。アリスは俺に八つ当たりをするように、声を荒げながら俺に何故追ってきたんだと言うと思っていたからだ。


「お前は俺のパートナーだ。放っておくにも、放っておけないだろ?それが理由だよ」


「……本当のことを言っていください」


「……!」


 俺はアリスの言葉に息をのむ。


「私はルークさんがどんな気持ちで私に接しているんだろうってずっと疑問に思ってきました。本当にただの善意で私に力を貸しているんだろうか、何か裏があるんじゃないかって。でも、それはやっぱり私の勘違いで本当に善意で私に力を貸しているんだってわかりました。それがわかってしまったから、私は支部長ギルドマスターのサーニャの滝がないという一言を、私は受け止めきれませんでした。ルークさんが私の為に手を貸してくれた時間を否定された、意味のない時間と言われてしまったようで……でも、ここまで私のことを追ってきてくれたルークさんを見たら、そんな気持ちも吹き飛んでしまいました。この15日間は意味があったんだって」


「なんで、そう思った」


「だって私に抱く気持ちが善意だけだったら、危険をおかしてまで私のことを探しに来てくれる訳がないと思いますから。この15日間は、ルークさんが私を善意以外の気持ちを私に抱いてくれました。それと……私にある気持ちを抱かせてくれました」


 そこまで言うと、アリスは小さく息を吐いてゆっくりと息を吸う。アリスは今まで見たことがないような真剣な目で俺を見る。


「私は……私はっ、ルークさんのことが──」


 それは突然だった。

 俺の背中に弓矢で射抜かれたような鋭い痛みがはしると、背中から血が吹き出す。


「ル、ルークさん!!」


 アリスは俺の元へと近づいて俺の身体を支える。

 俺は攻撃をしたと思われるものの正体を確認する為に、後ろを確認する。


「な……!」


 俺は目を疑った。

 そこには最低でも100体は超えている数のゴブリンやハイゴブリンの数々に、数十体いると思われるゴブリンナイトやゴブリンマジシャンなどの上位種。

 俺を射抜いたと思われる弓を構えたゴブリンアーチャーにゴブリン達に守られるように近づいてくる3つの影。


「まさか……!」


 俺は自分を射抜いたゴブリンアーチャーではなく、ゴブリン達に守られるように近づいてくる3つの影に視界が吸い寄せられる。

 3つの影の正体、それはゴブリンの王種で脅威度7のゴブリンキングとゴブリンクイーン、そして脅威度8の王種の中の王種──


「ゴブリンエンペラーか……!」



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