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Episode11 帰還

 数分後、アリスは俺の胸に埋めてた顔を離して、自分の服の裾で涙を拭く。

 俺は身体を起こして、身体についた土を落とすとアリスが顔を赤らめながら俺を見る。


「あの……色々すいませんでした」


 そう言ってアリスは俺に頭を下げる。


「俺が気に食わないと思ったから色々言っただけだ。別に謝らなくても、納得して理解してくれればそれでいい」


「いいえ、私がしていたことはルークさんを不快にさせてしまいました。私はルークさんを不快な気持ちにさせてしまったことに対しては謝らせてください。それと──」


「……?」


「ルークさんの言葉は私に大事なことを気づかせてくれました。あの言葉は私に対しての言葉じゃなかったかもしれないけれど……私がどれだけ愚かなことをしているか、やってはいけないことをしているか教えてくれて──


 ──ありがとうございました」


 俺に感謝を伝えたアリスの顔は、さきほどまでのアリスとは違い、はっきりとした自分という意思をもっているように感じた。

 俺はアリスの言った言葉に対して、少し驚きながらもアリスの言葉に安心感と小さな満足感を得ると、小さく微笑みながらアリスの目を見る。


「ああ、その言葉を俺に伝えられるくらい自分を受け入れることが出来たなら……上出来だな」


 俺はそういうと再び森の出口へと歩き始める。

 その時のアリスの顔がりんごのように赤く染まっていたことは、俺はまだ知らなかった。



 ◇



 森を抜けて街に着いた俺達は、討伐したゴブリンについて報告する為に冒険者組合(ギルド)を目指していた。

 その最中、アリスがとんでもない発言をする。


「私、冒険者組合(ギルド)に入るのは初めてなので緊張します」


「………………は?」


 こいつは何を言ってるんだ。

 冒険者になる為には冒険者組合(ギルド)で冒険者登録をしなければなれない。冒険者組合(ギルド)に入ったことがないなんてありえる筈が……まさか。


「アリスって冒険証ギルドカードって持ってるか?」


冒険証ギルドカード?私は冒険者ではないので持ってはいないのですが……」


 衝撃だった。

 サーニャの森で魔獣を倒したり、俺にパートナーになってくださいと言っていたアリスが冒険者じゃないだと!?

 よく考えれば、アリスは自分が冒険者とは一言も言ってはいなかったし、街に入るときも王国の身分証を提示していた。冒険者はDランク未満でも身分証と一緒に提示義務があるのにだ。


「はぁ……冒険者組合(ギルド)でアリスの冒険者登録もしないとな」


 そう呟きながら歩いていると、俺達はいつの間にか冒険者組合(ギルド)前に到着していた。


「ここが冒険者組合(ギルド)……少し緊張します」


「ここでゴブリン討伐の報告とアリスの冒険者登録をするんだが……一つ聞いていいか」


「……?」


「アリスがローレンに入るときに使った身分証って偽装なんだよな、もしかして偽名を使ってたりしないよな?」


「いいえ、私はドジなところがあるから実名を変えるのは危険ってお兄様に言われたので、偽名ではなく本名ですよ?……ってなんで身分証が偽装って知ってるんですか!?まだルークさんにはこのこと話していないと思うんですが……?」


 いや、アリスの事情を知っていれば誰でも想像できると思うぞ……


「わかった、それなら冒険証ギルドカードもアリスで登録できるな」


 俺はアリスの言葉を無視して一人納得すると、俺は冒険者組合(ギルド)の扉を開けて中に入ると、アリスも「待ってくださいよ~」と言いながら俺の後を着いてくる。

 俺は冒険者組合(ギルド)の中を見渡すと、カウンターに座っているミリアを見つけたのでミリアの元へと歩いて行く。


「魔獣を何体か狩ってきたんだが、報告はここでいいんだよな?」


「はい、魔獣討伐ですね。冒険証ギルドカードを提示して……ってルークさん!?」


「いま気づいたのか……」


「ルークさん、おかえりなさい。初めての魔獣狩り、どうでしたか?」


「死ぬかと思ったな」


 そう言いながらポーチに手を入れて魔石を取り出す。


「死ぬって……大袈裟ですね。支部長ギルドマスターとあんなに戦える方が死ぬほどなんて……ってええ!!?」


 俺が提出した魔石を見てミリアは驚きの声をあげる。


「この魔石、脅威度1や2の大きさと質ではありませんよ!?このレベルの魔獣を狩る為にはサーニャの森の深層まで行かなくてはいけませんよね、初めての魔獣狩りで深層にまで行ったんですか!」


「いや、深層に行ってねぇよ。中層にさえ入っていたか微妙なところだと思うぞ」


「中層近くでこんな大きさと質の魔石をもつ魔獣が出る訳ないじゃないですか!」


「いや出たぞ。30mくらい遠くから弓矢を正確に当てるハイゴブリン、ゴブリンシールダーの盾を持つゴブリンナイト、3人組で行動するゴブリンソーサラーと2体のゴブリンソルジャーとかな」


「な、なんですかそれ!ハイゴブリンの射手が当てられる距離なんてせいぜい15mが限界ですし、ゴブリンシールダーの盾持ちゴブリンナイトなんて推定脅威度5じゃないですか。それに脅威度5の魔獣が3体なんて……!ってゴブリンソーサラーの魔石はどうしたんですか?」


「いや、俺が倒したわけじゃないからな。提出してもカウントされないだろ?」


「え?ルークさんが倒したわけじゃないんなら誰が倒したんですか?」


「こいつ」


 そう言って俺は少し横に動くと後ろからアリスの姿が見える。


「誰ですかこの人は?」


「名前はアリスって言って……ええっとな、さっき言ってた3人組で行動するゴブリンソーサラーと2体のゴブリンソルジャーはアリスが戦っていた魔獣なんだよ。でも一人じゃ倒すのは厳しそうだなと思った俺が助けに入って、俺とアリスで役割分担して倒した。そのあと、アリスから色々話を聞いてみると冒険者登録していないなくて、魔獣とかのことがよくわからないらしい。だから俺が色々教えてやろうと思ってここまで連れてきたんだが……」


 本当の中に嘘を入れてそれっぽくしたが、厳しいか……?


「へぇ、そうなんですか。それじゃあ、これからパーティーとして行動するんですか?」


 ふぅ……大丈夫っぽいな。


「パーティーは2人でも登録出来るのか?」


「はい、下限2人で上限6人で登録できます。他にもパーティーには色々メリットやデメリットがあるのですが……その説明は後にしましょうか」


 ミリアはパーティーについての説明をやめて、俺が提出した魔石を俺に返却すると、ミリアはカウンターから出る。


「ルークさん、アリスさん、突然ですが私と共に支部長室まで来てくれないでしょうか?ルークさんが中層近くで脅威度5の魔獣を複数倒したというのは、サーニャの森に何らかの異変が起きているということなので」


 確かにな、サーニャの森の深層以外は脅威度Cとなっているのだ。そんな場所に脅威度5の深層クラスが複数現れたら問題だろう。


「わかった、同行しよう。俺達は魔獣が出現した場所や状況なんかを説明すればいいんだろ?」


「はい、そうしてくれると嬉しいです」


 俺はちらっとアリスを見ると、アリスも納得したのか頷いて肯定の意思を見せる。


 ミリアは俺とアリスが同意したのを確認すると、冒険者登録の時に通った訓練場に続く道を歩いていく。俺はミリアが途中で曲がったり、他の部屋に入ると思ったら、そのまま真っ直ぐ進んでいき訓練場の中に入る。


「は?なんで訓練場なんだ」


「ルークさんは一度見たでしょう。別の扉から支部長ギルドマスターが入ってくるのを」


「そういえば……ってもしかして、支部長室って」


「はい。訓練場にある、そこの扉の先に」


 そう言ってミリアは訓練場の俺達が入った扉とは別の扉を指さして言う。


 どんだけ鍛錬が好きなんだよ...


 俺はそんなことを思いながら訓練場にある扉を開けるとそこには、支部長室に繋がる一直線の廊下が存在していた。支部長室に繋がる廊下の壁には様々な武器が飾られていて、毎日手入れしているのか埃一つ発見出来なかった。

 俺達は、壁に飾られている武器を眺めながら廊下を歩いて行くと、あっという間に支部長室の前に到着する。ミリアは支部長室の扉をノックする。


組合ギルド職員のミリアです、緊急の報告があってきました」


 ──おお、いいぞ入ってくれ。


 扉の中から支部長ギルドマスターの声が聞こえ、ミリアは扉を静かに開けて支部長室に入る。


 そこには、何本かの大剣と数十冊の本が飾られており、部屋の奥に支部長ギルドマスターが座る大きな机と高級そうな椅子があり、部屋の中心に客と話す為の机と椅子が4脚置いてあった。


「む?少年も一緒なのかね。それと君は……まぁいいだろう、座りたまえ」


 そう言われて俺とアリス、ミリアは椅子に座る。


「それで、何があったか話してくれるかね」


「ああ、これは俺がサーニャの森に魔獣狩りの為に行ったことから始まるんだが───」


 支部長ギルドマスターには魔獣に関してのことと、アリスのことはうまく隠して魔獣に襲われていたところを助けたということだけ伝える。


「そうか。もうそこまで危険な状態になっていたとは……」


「危険な状態……?それはどういうことだ」


「これはミリアも知っていることだとは思うが私は昨日、男性職員を森に魔獣調査に送ったことは知っているな」


「はい、それは聞きましたが……それってもしかして」


「ああ、サーニャの森だ。サーニャの森に異常に脅威度の高い魔獣が中層に出ているという噂があったのでな、調査に出したのだが……」


「何かあったんですか?」


「何も無かったのだ」


「は?」「え?」「…?」


 俺達は支部長ギルドマスターの言葉に首を傾げる。


「それは……どういうことだ?」


「魔獣が中層に出てきているということは真実だったが、それ以外の異常は特に見られなかったのだ。もちろん、魔獣の異常発生や王種の出現などもな。そういった報告を冒険者組合(ギルド)本部にしたところ、本部からサーニャの森の探索禁止が言い渡された。そして極めて特殊な状態だということで、ランクAパーティー3組とランクAAパーティーを1組を7日後に本部から送るという通達もきている。到着は15日後になるそうだ」


「15日後ですか……」


「ああ、そういう事だ。……っとそれにしても少年は口調が変わっているな、雰囲気も変わったと見える。昨日の今日でここまで変わるとはな、何かあったのか?」


「いいや、ただしっかりした目標が出来て決心がついたということだけだよ」


「そうか……まぁ、それは良いことだ。しっかり目標をもつというのはな」


 すると、支部長ギルドマスターは突然机の引き出しから2枚の紙を取り出す。


「アリス……っと言ったかね」


「はい」


「少年からの話によると、アリスは冒険者登録とパーティー申請をする為にここにきたそうだが……一ついいかね?」


 そう言って支部ギルドマスターは俺を見る。


「ゴブリンソーサラーを倒したと言っていたな、それは本当かね」


「ああ、本当だ。アリスはゴブリンソーサラーを1人で倒している」


「そうか……ならこれをやろう」


 そう言って支部長ギルドマスターが差し出した紙は、冒険者登録とパーティー申請用の紙だった。


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