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そしてふたりでワルツを 作者:カミユ

外伝

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幕間二   仮面の王族、相見える

メイン:トーマス、ヘルトゥ ジャンル:本編補足

第四話   第一楽章:ちくはぐなシンフォニー(2) の幕間。
トーマスとヘルトゥの謁見でふたりが感じたこと。

以前、本編として差し込んでいたものです。改稿に伴い、幕間として下げました。
 舞踏会を目前に控え慌ただしく準備が進むオフィーリア城内を、ひとりの男が歩いていた。
 腰まで伸びた薄紫の髪をなびかせ、案内役の使用人の後ろを悠々と進む姿が様になっている。

 国内ではあまり見かけない服装で、ゆったりとした布を纏い、腰元を帯でしめている。帯には畳まれた扇子が差し込まれていた。
 ともすると女性に見紛うような、切れ長の涼やかな目をした美しい人だ。

「こちらが謁見室でございます」
「どうもありがとう」
 ここまで案内してくれた使用人によく通る声で礼儀正しくお礼を言い、男は赤い絨毯の上を行く。


 正面の王座に座っているのは、まだ若く二十代前半らしき青年で、目元を覆う豪奢な夜会マスクを着けている。
 マスクごしでも分かるほどの端整な顔立ちに黄金の月のような色の髪を輝かせ、ほどよい筋肉に長くてしなやかな四肢を備えた、完璧と言っても差し支えない姿だ。


「お初にお目にかかります。私の名はセルゲレン・ヘルトゥ。東の国の王族でございます」

 薄紫の髪の男はうやうやしく腰を折り、なるほど王族らしく物怖じしないはっきりとした口調で王座の青年へ挨拶をした。

「ようこそおいでくださいました。僕はトーマス・ファン・ビセンテ・ラ・セルダ。王である父が病に伏せっておりますゆえ、代わりにご用件を伺いましょう。どうぞ楽になさってください」

 そう言われ顔を上げたヘルトゥは、あくまで自然にみえる仕草でトーマスを観察する。眼前の眉目秀麗な王子は、姿だけでなく対応までもがわざとらしいほど理想的だ。

「恐縮でございます。私は見聞を広めるため世界を周遊しており、数日前にこの国へ参りました。国の文化にも大変興味がございます。つきましては、今後しばらく滞在する許可をいただきたく」
「もちろん構いませんとも。どうぞお気の済むまで。城内に客間を用意させましょう」

 トーマスが片手を挙げて使用人を呼ぼうとするのを、ヘルトゥは遮った。

「いえ。せっかくですが、この国の人の暮らしを間近で感じたいので、街に宿を取ってあるのです」
「なるほど。差し出がましいことをしました。お許しください」

 王子の対応に、「食えない男だな」とヘルトゥは警戒を強めた。
 相手の口元は対面してから一瞬たりとも崩すこと無く笑みをたたえ続けている。まるで貼り付けたようだ。徹底された態度に、同じ王族として両手を上げて褒め称えたくなる。
 客室を用意するのも純粋な好意からなのか、他国の人間を監視下に置きたいからなのかがまるで読めない。

 王族にうまれた者にとって、相手の心を読むこと、駆け引きを有利に進めることは、国同士のやりとりのみならず自身が生きていくための必須スキルである。失脚を狙う陰謀・暗殺の危機・国民の反乱。様々な事柄から身を守るためには、常に人の心を読まねばならない。
 自分もその術には長けているほうだが、このトーマスという男も引けをとらないようだ。

 終始にこやかに話すふたりのあいだには、傍目には分からないピリピリとした緊張感が漂っていた。

「そちらのマスクにはどのような意味があるのですか? この国の正装でしょうか?」

 素顔を隠しているのには、何か理由があるのかもしれない。
 相手が素直に弱みを見せるとは思えないが、一端でも掴めれば今後この国で有利になるだろう。主導権を握るべくヘルトゥはたずねた。

 しかし、何のためらいもなくトーマスはあっさりとマスクを取り去った。

「失礼。これは僕のただの趣味、ファッションなのです。お気に障ったなら外しましょう」

 そこにあらわれたさわやかな笑顔は変わらず、その素顔すら仮面なのではないかと疑いたくなるほどだった。

 一方のヘルトゥも内心で考えていることはおくびにも出さず、こちらもやわらかな笑顔をくずさぬよう注意しながら、もうひとつ付け足す。

「気に障るなどとはとんでもない、ただの好奇心からです。マスクといえば、近く仮面舞踏会を開かれるとか。後学のためにそちらにも参加させていただきたいのですがよろしいか?」

 文化を学びたいといっての滞在の許可をもらったのだ。この申し出が断られることはないだろう。というのも計算のうちだ。

「もちろん構いません。僕が主催するはじめての舞踏会です。ぜひとも楽しんでいただきたい」
「ありがとうございます。では、参加させていただきます」

 実は今回謁見を申し入れたのは、この舞踏会への参加許可をもらうことが一番の目的だった。
 気の向くままに旅をして世界各地を巡りたまたまこの国についた日、舞踏会の噂を耳にした。楽しそうなのでぜひとも参加してみたいが、あいにく招待状が無い。そこで仕方なく許可をもらいに来たというわけ。
 これで目的は果たした。もう用はない。

「それでは、お時間をどうもありがとうございました。本日はこれにてお暇させていただきます。近日、舞踏会でご挨拶できればと存じます」

 来たときと同じように深々とお辞儀をして、別れの挨拶を済ます。

「お待ちしております」

 という返事を持って、謁見は終了となった。

 この日、短時間のにこやかな腹の探り合いの結果、ヘルトゥはトーマスに「あまりかかわりたくない相手だ」という印象を持った。
 だが舞踏会への参加は決定した。さて、どこかで女の子でもナンパしてお供を探そうか。旅行は楽しいほうが良い。

 薄紫の髪は鼻歌とともに夜の街へ消えていく。


END(To be continued 第一楽章:ちくはぐなシンフォニー)
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