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そしてふたりでワルツを 作者:カミユ

外伝

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外伝三   ゲツトマ冒険記( 原住民の地 編)

メイン:ゲツエイ、トーマス ジャンル:ギャグ

 目を覚ましたトーマスの視界にうつるのは、木、木、木。
 右も、左も、前も後ろも、どこもかしこも木ばかり。

「くそっ。腹が減った……」
 背後の大木にからだを預け、悲鳴を上げる胃腸を押さえて途方にくれる。

 ゲツエイに抱えられて城から逃げ出したあと、検問がはられる前にすばやく国境をこえた。

 南は砂漠。
 砂嵐が吹き止めば、視界を遮るものは何もない。身を隠すには適さない。

 東は海。ふたりでの航海は少々勇気がいる。転覆の恐れもある。

 残るは北と西。
 北はそこそこの友好国で、顔が割れている。

 結果、西の山岳地帯へ逃げるしか手はなかった。

 険しい岩山を(主にゲツエイがトーマスを抱えて)越え、先に広がる未開の地へ。
 数日かけて、今朝やっと辿り着いたのがこの密林だった。

「おい。ゲツエイ、居るか」
 自分でも驚くくらい弱々しい声が出る。

 呼ぶと、頭上からゲツエイが逆さに顔を出した。樹の幹に膝をかけてぶら下がっている。

 なぜこいつはこんなに元気なのかと不思議に思ったが、ぶら下がった彼が飛んできた毒々しい色の羽虫を素早く掴んで口に入れたのを見て、きくのをやめた。

「何か食べるものを……出来れば果物か木の実を探してきてくれ」

 頷いたゲツエイは体を揺らし反動をつけると、一回転して地に降りた。
 その背中を見送って、再び目を閉じる。
 起きているといろいろなことを思い出して、イライラが止まらないからだ。


*


 揺り起こされて目を開けると、大量の食料があった。
 人ひとりでは抱えきれないくらいの量の桃やリンゴ、見たことないけれど美味しそうな木の実。食べられるのか分からない不思議な色をしたものもある。

「よくやった。下がっていい……あ、いや、ちょっと待て」
 トーマスは木の実の皮らしき部分を剥くと、ゲツエイに向けて差し出した。
「一口かじってみろ」

 ゲツエイは差し出されるままに、いくつかの種類の果物と木の実を腹におさめた。

「毒は無いようだな」

 そうして、自分も口にする。
 決して美味しいとは言えないものもなかにはあったが、数日ぶりの食事が五臓六腑に染み渡る感覚というのは今までに味わったことがないもので新鮮だった。


 じゅうぶんな量の食べものを腹いっぱいにおさめ、これからどうするかということを考え始めた矢先。

 ふたりの周りの木々が騒々しい音をたてて揺れ始めた。

「な、なんだ?」
 風も無いのに一斉に枝を振り乱す木々。不可思議な現象は恐怖そのもの。

「ゲツエイ、俺を守れ!」
 指示を出すと、ゲツエイはすぐさま前に立ち、周囲を警戒しはじめる。

 しばらくザワザワと木々は動き続け、静かになったとき。


 ふたりを取り囲むように、たくさんの人間が立っていた。


 百には満たない。

 霧のように現れた彼らは、肌も髪も黒く――裸だった。
 下半身のみ、葉っぱを束ねた腰ミノのようなもので隠している。

 手には、棒の先端に石をくくりつけた槍らしきものと、木で出来た丸い盾のようなものを持つ。
 頭には木彫のお面のようなものをくくりつけ、けばけばしい色の羽根で装飾をしている。
 この辺りに暮らす民族なのだろうか。

 そのうちの一人、ひときわ装飾が派手な老人が一歩進み出て、一言。


「フンババ!」


「なっ……にを、言っているんだ……?」

「フガフガ! フヌ! ンババア!」

 なんだかよく分からないが、何かを必死で伝えようとしている……ように見える。
 困惑して動けないでいると、ゲツエイが一歩、前へ出た。

「おい、何をするつもりだ!? 殺るのか!?」

 トーマスの心配をよそに、身振り手振りで相手との意思の疎通をはかりはじめた。

「フンバー! フンババア!」

 民族風の男が足を地面にうちつけながら鼻息荒く何やらまくしたてる。
 ゲツエイはそれに対し、自分たちが来た方向や散らばった木の実のカスなど、指を指したり飛び跳ねたりしてからだじゅう全てで表現する。

「おい。お前、こいつらの言っていることが分かるのか?」

 ゲツエイは振り向くと、頷いて、おもむろにトーマスを担ぎ上げた。

「わっ、何だ!? おい、どこへ行く、おい!」

 状況がまったく読み込めないままのトーマスを肩に乗せて、ゲツエイは民族達と一緒に密林を走りはじめた。

*

 大きな篝火が煌々と燃え盛り、四方に配置されたやぐらの上からは野生的なリズムで太鼓が鳴り響く。
 篝火の周りを回りながら踊る民族達を、トーマスは一段高いところから眺めていた。

 目の前にはたくさんの肉や野菜やジュース。もちろん無添加。
 新鮮なそれらを遠慮無く頬張る。

 頭には、木彫のお面。
 かっこいいとは到底言えないが、差し出されたので受け取った。貢物だろう。

「いやぁ、どうなることかと思ったが、こういうのも悪く無いな」

 民族達から精一杯のもてなしをうけてふんぞりかえる。
 歓迎される理由は分からないが、気分は良い。

「俺様の王たるオーラはやはり隠し切れないようだ。言葉も通じない奴らにこうまで崇められるとは」


 ご機嫌な宴は夜まで続き、そろそろ見ているだけというのにも疲れはじめた。
 眠さから目をこすると、察した民族が、柔らかい葉っぱをふんだんに盛り寝床を作ってくれる。
 横になるとすぐに意識は夢の淵へおちていった。


*


 炎は消えて、あたりは真っ暗になり、夜に鳴く鳥が活動を開始して。
 自然の香りに包まれて眠るトーマスと、少し離れたところで丸くなるゲツエイ。

――そこからさらに離れたところから、ふたりを眺める複数の影。


 民族は、眠っていなかった。
 それぞれ武器を手に、輪になり小さな声で話をしている。

『起きてな! ゲツエイ! 危険が迫ってる!』

 蜘蛛に耳の中から話しかけられ、ゲツエイは目を覚ました。

『あいつら、君達を食べるつもり! 油断させる為に歓迎してるふりをしてたんな! 今、どうやって殺すか相談してる!』

 蜘蛛の通訳で事態を把握したゲツエイは起き上がり、民族の居る方角を気配で感じ取る。
 そして、疾駆。

『行け! ゲツエイ! 殺られる前に、殺ってしまえ!』


 ひとつ、首が飛ぶ。血しぶきを上げて。
 ふたつ、四肢を失う。骨からスッパリと。
 みっつ、内臓が破裂する。皮膚を突き破って。

 暗闇で、ひとり、またひとり。

 獲物が目覚めたことにすら気づいていない民族は、次々と仲間が死んでいく謎の現象に、恐れおののいた。

『ンバア!』

 雄叫びをあげて、やみくもに槍を振り回す。
 パニックが感染し、振り回した槍が仲間同士傷つけ合う。
 ゲツエイはその合間をぬって、着実に、生き残った民族の命を奪い去っていく。
 地を蹴り、宙を舞い、笑いながら。

 最後の一人を右手の鉤爪で貫いて、死体の山に放り投げる。
 その山にむかって、幾度目かの――。

 全て終わってから、再び寝床に丸まった。
 おいしい食事、適度な運動、性の処理。

 いたれりつくせりだなあ。幸せな気持ちで眠りにつく。
 よい夢が見られそうだ。



*


「ゲエッ! なんだこれ!」

 今日も宴でもてなされるだろうと思って目覚めたトーマスは、あたりの惨状を見て肩を落とした。
 このままこいつらの王になってやるのも悪くないな、などと脳内会議まで開いたのに。

 死体の山に近づいて、山頂にある白い液体を見て、何が起こったのかを察する。

「おーい、ゲツエイ」

 すでに起きだして物陰に潜んでいた従者を呼ぶ。

「なんで殺しちゃったんだよ。こいつらうまく使えばあのクソみたいな国に復讐できたかもしれないのに」

 ゲツエイは弁明するでもなく、ただ立ってじっと見つめてくるだけ。

 トーマスはひとつため息をつき、

「はあ、まあいい。別の国に行くぞ。どこへ行ったって俺様は王になれる。お前もそう思うだろ?」

 ゲツエイはただ、頷いた。

 そしてふたりは歩き出す。
 新たな、安息の地を求めて――。

END

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