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そしてふたりでワルツを 作者:カミユ

本編

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第十六話   ☆昼下がりの嵐と幻

***

 税によって国民の懐がだんだん寒くなるのと反比例して、気温は徐々に高まりつつある初夏。

 ヘルトゥはホテルの部屋を引き払い、スラムで出会った女性の家に世話になっていた。

 女性の家、と言っても家の主はもう老齢。
 腰を痛めて立ち往生していたところを、たまたま通りがかったヘルトゥが助けたのが縁という、いたって健全なお付き合い。
 女性の夫はすでに亡く、男手があると助かるとして、滞在は歓待された。


 停滞する空気をときどき突風が攫っていく、晴れた日の午後。
 ヘルトゥが散歩から戻ると、家のどまんなかに、見慣れない青年が鬼の形相で立っていた。

「金が返せないたぁどういうことだ」

 青年が足蹴にしているのはモスグリーンのローテーブル。
 床には乱雑に割れた食器が白、黒、赤とまばらに飛び散って。

「おいおい、乱暴はよさないか」
「は? なんだお前」

 慌てて止めに入ると、青年は今にも噛みつかん勢いで牙を剥く。逆立つ銀髪、飢えた獣か狂犬か。

「私の名前はセルゲレン・ヘルトゥ。こちらの家にしばらく前から厄介になっているんだ」 
「金が無いだと言いながら、こんな得体の知れない奴囲ってんのかよ! そんなことする余裕あるなら働けよババア!」

 差し出した右手は流されて、青年は標的を老婆にチェンジ。

「まあまあ。君、少し落ち着きたまえ。奥さん、一体これはどういうことなんです?」

 荒れ狂う嵐は押え込むのも一苦労。
 老婆は縮こまり、決まりが悪そうに蚊の鳴く声で、

「内職の仕事が減って、生活費が足りなくなったので少し前にお金をマリクさんに借りたんです」

「今日が返済の期限だ。きっちり返ってくるまで帰らねえ」
「ふむ、ではマリク君」
「あ? なんだよ」

「こうしよう。私が彼女の借金を代わりに返す。それでどうだい?」
 提案すると、はじかれたように、老婆の白い目玉がくるくる回転(スピン)する。
「そんな! そこまでしていただくわけには」

「そうは言ってもね。こんな場面を見てしまっては、無視などできないよ。それに、お世話になっているお礼も兼ねているんだから気にしないでいい。マリク君もそれでいいかい?」
「俺は金が返ってくりゃ文句はねえよ」
「それじゃ交渉成立だ」

 息巻く銀狼への餌としてヘルトゥが懐から取り出したのは、光り輝く一枚のコイン。丸い縁取りのなかで、お腹をすかせた虎のシンボルが装飾の檻にとらわれている。

「純金か」
「あいにく現金は持ちあわせていないのだが、それを換金すればそこそこの金額になるだろう。ところで……」

 さて、ここからがヘルトゥのターン。
 城で賭けた結果はまだ見えず、降りる(サレンダー)にはまだ早い。ならばカードを追加(ヒット)するのみ。テーブルを指で叩く。

「君が首から下げているその指輪、とても高価なものに見える。君の収入で買えるものでは無さそうだ。それに指輪に彫られている文字……『カミィに祝福を』。カミィというのはこの国の后の名前だろう? 何か関係があるのかい?」
「うるせーな。俺が何持ってようがお前に関係ねーだろ」

「失礼。確かに私に直接は関係ないね。彼女がいかに辛い目にあっていようと」
「何!? どういうことだ?!」

 ブラフをしかけると、マリクは予想以上の食いつきをみせた。望まれるまま手札をオープン。数カ月前に城で見た光景を伝える。

「はっきりと本人から聞いたわけではないが……あの様子だとおそらく、王から不当な扱いを受けているんじゃないかと、私の目には映ったね」
「クソっ!」

 聞き終わるが早いか、マリクは家から飛び出した。
 ヒットで引いたカードはどうやらジャック。トリックスターに期待しよう。

「ありがとうございます。ヘルトゥさん。ここまでしていただけるなんて、なんとお礼を言っていいか」
 借金取りが出て行って、老婆の表情にも明るさが戻り。

「気にしないでください。お役に立てて光栄です。どうも長いあいだお世話になりました」
「出ていくおつもりなんですか? いつまででも居てくださっても結構なのですよ」
「申し訳ないが、もう決めたことですから」

 質素な(ハウス)、儲けはじゅうぶん頂いた。次はどこへ行こうか。ゲームの結果が見えるまで、どこかで歌でも歌おうか。
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