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同居人の彼女は3歳年下の許嫁 作者:一歩

同人誌版その2

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8/16

恋する心は複雑怪奇

冬コミが受かってましたので、それに合わせて連載再開です。
「時に我が可愛い後輩よ。キミにひとつ、頼みがある」

 とある週末の金曜日。帰り支度を整えた僕に文芸部部長の北川先輩が、妙にかしこまった態度で話し掛けてきた。

「なんですか、急に改まって」

 いちおう反応は示したけれど、「頼みがある」と前置きされたこともあって、僕はこの時点であまり乗り気じゃなかった。
 今日は金曜日の放課後で、明日は土曜日である。そんな明日は、校正が終わってない圭輔の原稿に赤字を入れることに一日を費やすことになりそうなので、あまり〝休み〟って気分じゃないのだ。
 そこへ北川先輩の、改まった態度での〝頼み〟ときたもんだ。どうしたって乗り気になれないだろう。

「面倒なことなら、他の人に頼んでくださいよ。僕は忙しいんで」
「いやいや。私の知る限り、こんな願いを叶えてくれるのはキミしかいないと確信している。何より、他のメンツには知られたくないんだ」
「はぁ?」

 だから放課後の、それもみんなが帰った後に切り出してきたってわけか。
 ……ますます厄介事のような気がしてきた。

「久遠寺くん」

 なんだなんだ?
 居住まいを正し、僕のことを真っ直ぐ見つめる北川先輩の眼差しが、何故にそんな潤んでいるんだ?

「頼む……この私を女にしてくれ!」
「………………」

 えーっと……待て待て。それはつまり、どういうことだ?
 ちょうど僕くらいの思春期まっさかりなチェリーボーイ(笑)が、持て余すリビドーを抑えきれず、たまに話すだけの女子に「俺を男にしてくれ!」と言って股間を膨らませるのと同じ話でいいのか?

 なるほど、そうか……一八禁マンガなんて描いてるけれど、先輩は処女だったんだー……って、感心するのではなく。

 北川先輩は、つまりその、初体験の相手に僕を選んだ……ってことだな。同年代のクラスメイト男子でも、同じ部の圭輔でもなく、この僕を。
 まぁ……なんだ。女性が自らの純血を捧げる相手に選んでくれたのだから、男としては光栄なことなのは間違いない。

 だが、少し待ってほしい。

「……先輩、申し出は嬉しいんですが、前に話したように僕には許嫁がいるんですよ」
「無論、承知している。だからこそキミしかいないと、私は言っているのだ」
「ほ、ほほぉう……」

 それはつまり……あれか。北川先輩の趣味としては略奪愛がお好みだと?
 なるほど、それなら確かに彼女なしの圭輔では対象にならない。いや、単なる彼女持ちでも、この歳だ、将来まで誓い合っているカップルも稀だろうさ。
 それに比べて、僕と梓の関係は確かに同年代のカップルより深い関係と言えるだろう。

 であれば、〝奪う〟ことに快感を覚えてしまうような性癖なら、僕は手頃な獲物と言えるかもしれない。

「先輩……残念ですが、僕は梓を捨てるつもりはありません。確かに先輩は魅力的な女性だと認めはしますが、それと僕が梓に抱く想いは別の話です。あいつを裏切ることなんて、僕にはできません」
「ふむ、やはりそうか。面と向かってドヤ顔で言われると、さすがの私も小っ恥ずかしくなるが……だからこそ、私の見る目は間違ってはいなかったとも言える。やはりキミにしか頼めない! 一度だけでいいんだ!」
「先輩……そこまで僕を……」

 年上の、それも部活でお世話になっている先輩にそこまで言われてしまえば、僕とて心がぐらついてしまう。
 確かに僕は、梓を捨てるつもりはない。生涯を添い遂げるのは、あいつしかいないんだ。

 だがしかし、魅力的な女性から「一度だけでいい」と言われて、なおも断り続けられる男がいるだろうか。

 むしろ、ここで頑なに拒み続けることは、翻って相手に失礼だ。

「……わかりました、そこまで言うのなら」
「おおっ、引き受けてくれるのか!」

 すまん、梓。これも、常日頃からお世話になっている先輩のためを思えばこそなんだ。決して浮気しようとか、そんな気持ちなんて僕には微塵もないんだ!

「でも、一度だけですからね」
「もちろん、それは約束しよう」
「じゃあ、ええっと……今すぐにでも、ここで」
「……ん? ここで? キミはいったい何を──って、うぉわっ!? ちょっ、こらっ、貴様!? まっ──」

 ここに来て言葉数が多くなった北川先輩を黙らせるように、僕は強く抱き締めた。


■ □ ■ □ ■


「つまり……お兄さんが粗相をした、と?」

 その日の夜、僕は目を丸くしている梓に事情聴取を受ける羽目に陥っていた。
 帰り際に部室で起きたことがバレた──というのは、間違いではない。いくらなんでも露見するのが早すぎだろうと思われるかもしれないが、僕以外の当事者も同席しているのだから、むしろバレない方がおかしいと言うものである。

「だから私は、一度でいいからデートというものを高校生のうちに体験しておきたかっただけなんだ!」

 梓を前に、バンッ! とテーブルを叩く勢いで熱弁を振るう北川先輩の頼みとは、つまりそういうことだったらしい。

 この二人──つまり梓と北川先輩は、今日この時がお互い初対面であり、最初はもちろんお互いの自己紹介から始まったわけだが、それが終わると早速この有り様だ。

「なのにこの男ときたら、何を勘違いしたのかいきなり盛って襲ってきたんだぞ! 危うく貞操を奪われるところだったんだ」
「それで北川さんが、襲ってきたお兄さんを返り討ちにしたものの、少々やりすぎたと思って家まで送り届けてくれた──という認識でいいんでしょうか?」
「そういうことだ」

「待った!」

 我が意を得たりとばかりに大仰に頷く北川先輩ではあるけれど、僕も黙っちゃいられない。今の話は、あまりにも要約し過ぎじゃないか!

「そもそもの発端は、他の部員がいなくなった部室で先輩が『女にしてくれ!』ってセリフに端を発するんだ! そんなことを言われたら、誰だって勘違いするに決まってる!」
「異議あり!」

 僕の反論に、しかし北川先輩も負けじと言い返してきた。

「私は確かにそう言ったが、だからと言って『誰だって勘違いする』と言うのは根拠に乏しいぞ! まずは『どういう意味だ』と確認するのが筋というものじゃあないか!」
「なるほど、確かに『誰だって』と言うのは、いささか極論が過ぎるかもしれない。しかし! ならば先輩、僕が先輩に『男にしてください』と言い出したら、まずは何を想像しますか? 正直に答えていただきましょう!」

「知らん!」

「それは思考の停止ですよ! 自らの非を認めるのが嫌だから、考えることを放棄して意固地になり、自分は悪くないと自己の正当性を守ろうとしているだけじゃないですか! さあ、先輩。僕が真剣な眼差しで『男にしてください』と迫った時、あなたは何を自分に求められているのか、答えていただきましょう!」
「そ、それは……」
「それは?」

 万事休すとばかりに表情を強張らせる北川先輩に、僕は追及の手を弱めることなく問い詰めた。
 何を想像したのか、そんなものは悔しそうに表情を歪め、それでいて頬を赤らめる姿を前にすれば答えずともわかると言うもの。

「さあ、先輩。その薄紅色の唇で、たった今頭に浮かんだことを言葉にして吐き出してくださいよ。さあ、遠慮せずに」
「せっ……」
「せ……なんですか? 最後までちゃんと言ってください」

 僕の追及に、北川先輩は喉をゴクリと鳴らして、ついにその言葉を吐き出した。

「せっ……西武鉄道で秩父まで……」
「なんで!?」

 意味がわかんねぇよ! なんで西武鉄道で秩父まで行けば一人前の男になれるんだ!?

「聖地巡礼、みたいな?」
「あー……それかぁ~……」

 確かに男が欲望をぶちまけるときは、心が叫び出しそうな感じはするけれど。

「……で、三文芝居はおしまいですか?」

 そんな僕と北川先輩のやりとりに、梓が冷めた目と声で割って入ってきた。

「す、すいません……」
「まったく……」

 溜め息には鉛くらいの重さがあるんです、と言わんばかりに重苦しい溜め息を、梓は深くゆっくり吐き出した。

「私、これでも受験生でして、お兄さんたちが通う高校を第一志望に勉強中なんです。意外と偏差値が高くて四苦八苦してるところなんですよ」
「そうなのか。私は今三年生だから、キミが入学する時には卒業しているな。残念だ」
「ええ、まぁ。それは確かに残念ではあるんですが……今、改めて確信しました。勉強ができるイコール頭がいいってわけじゃないんですね」
「おい、久遠寺くん! キミの許嫁は辛辣に過ぎやしないか!?」

 さすが北川先輩、そこに気付いてしまったか。

「こういうタイプが、僕だけに素直で従順になってくれるのがイイんじゃないですか!」
「やめなさい」

 拳を握りしめて力説する僕の頭を、梓が間髪容れずに引っぱたいた。

「まったく……お兄さんの、その何事にもプラスに捉えてポジティブな考え方はなんなんですか。いったいどこの世界に、お兄さんを相手に純血を捧げようとする物好きがいると言うんですか」

 その言葉に、僕は無言無表情のまま梓を指した。

「……いいですか、これからはくれぐれも慎重な判断で行動してくださいね」

「棚上げした……」
「自分のことを棚上げにしたぞ……」

 僕と北川先輩のツッコミを、梓はわざとらしい咳払いで黙らせた。

「しかし、なんでまた北川さんは、お兄さんとデートがしたかったんですか?」
「………………」

 おおっと。これは梓の奴、いきなりぶっ込んで来たなぁ。
 梓は僕の許嫁で、そのことは北川先輩も承知している。その上で、北川先輩は僕をデートに誘ったのだから、これは客観的に見ても〝他人のオトコに手を出す泥棒猫〟って構図じゃないですか。
 それを踏まえた上で、梓から「なんでウチの人をデートに誘ったの?」なんてことを訊かれても、北川先輩だって「いやいや実は──」などと臆面もなく語れるはずもない。

「いやいや実は──」
「語っちゃうんだ!?」

 びっくりだよ! どんだけ自分に非がないと思ってんだ、この人!?

「そこは本来、言いにくそうに言葉を濁すもんじゃないんですか!?」
「何故だ。理由を語らなければ真実はわからないだろう」

 すげぇな、この強メンタル。僕には真似できない強さだ。

「まぁ、ともかく。私は四月生まれで、すでに一八歳の乙女なのだ。この世に生まれて一八年、それが平均的な日本人の一生に比べてまだまだ短い時間だと言うことは重々承知しているが、しかし〝若さ〟という点においてはどれだけ長く生きようとも今しかない。にもかかわらず──だ」

 北川先輩は、そこでグッと自分の手を握りしめた。

「私は今しかない若さの真っ只中にあって、この時にしか味わえない女性ならではの特権を一度として行使したことがない!」

「……はぁ?」

 北川先輩の熱弁に、どうも話が見えてこないとばかりに梓が首を傾げた。逆に僕なんかは、今のセリフはエロい話にしか聞こえないわけだが、これまでの経緯からそうじゃないことはわかってる。
 なので、やっぱり僕も北川先輩の真意が見えてこない。

「だからっ! 一度でいいから、私も男の人にチヤホヤされるデートを体験してみたいのだ!」

「……はぁ」

 きっぱり宣言する北川先輩の言葉に、梓の返した「はぁ」は言外に「それで?」と問い掛けていた。僕もまったく同じ気分である。

「ああ、もう! だから、わからないかね!? 私はかれこれ一八年間生きてきたが、いまだかつて男性とお付き合いしたことがないのだ。異性と二人きりでどこかに出掛け、きゃっきゃうふふの楽しい一時を体験したことがない! だから、その相手を久遠寺くんにお願いしたんだ」
「いやいや待って待って」

 さしもの梓も、北川先輩の話に丁寧語を使えなくなっている。

「北川さんがデートしたいのはわかりました。というか、最初からわかってます。私がお聞きしたいのは、どうしてその相手にお兄さんを選んだか──ということなんですけれど」
「それはもちろん、キミがいるからだ」
「……私、ですか?」

 北川先輩に指さされ、梓はきょとんと目を丸くした。

「自慢ではないが、私はあまり友人が多い方ではない。異性の知り合いともなれば、片手で数える程度だろう。その中で、実際に彼女あるいはそれに類する関係性の異性を持つ者は久遠寺くんしかいないのだ。であれば、実戦経験のある久遠寺くんこそ、初めてデートなる代物を体験する私をスムーズにエスコートしてくれそうじゃないか」
「スムーズにエスコート……? お兄さんが、ですか? えー……」

 それって人選ミスじゃない? と暗に語る梓の眼差しが僕にドシュドシュっと突き刺さってくるが、口では特に何も言わなかった。
 何故ならば、北川先輩が「それに──」と話を続けたからだ。

「繰り返しになるが、私は男性とお付き合いをしたことはない。何故かと言えば、実のところ、そういうことに興味がないからだ」
「興味ないんですか?」
「まったくない──と言えば嘘になる。ただ、今の私はマンガを描くことが楽しくて、異性とのお付き合いは二の次なのだ。ただ、これはこれで問題がある」
「と言うと?」
「恋する乙女の気持ちがわからない」

 北川先輩の端的な一言に、梓は不思議そうに小首を傾げた。

「つまり、作中の登場人物が抱く恋心が、果たして正しいのか間違っているのか、どう描いてもしっくり来ないのだよ。それは、私の中で確固たる芯がないからだ。もちろん間違っていてもマンガとして面白ければいいのだが、間違うにしても正解を知っておかなければ、正しく間違えられないだろう?」
「ああ……だから、北川さんがおっしゃるところの『男の人にチヤホヤ』されて『きゃっきゃうふふの楽しい一時』のデートがしたい、と言うことなんですね。つまり……フィクションとして描くためにも」
「その通り!」

 話が通じてよかったとばかりに満面の笑みを浮かべて大仰に頷く北川先輩ではあるが、対する梓は難しい問題が解けずに困っているような表情で眉間を押さえた。

「そういうわけだ、磯崎梓くん! どうかこの私に、キミの許嫁とデートさせてくれ!」

 平身低頭というよりも、もはや断る理由がないだろうと言わんばかりに北川先輩が僕の許嫁に申し出た。
 果たして梓の返答は──。

「残念ですが、お断りします」

 ──迷う素振りも見せない即答だった。
 まぁ、当然と言えば当然の反応である。

「なっ……何故だ!? 私は別に、キミから久遠寺くんを略奪するつもりはなぞ!? 少しくらい貸してくれてもいいじゃないか!」
「理由は二つ」

 そうだろう、そうだろう。いくら梓でも、許嫁の僕が他の誰かとデートするのを快諾するわけがない……って、二つ? 理由、二つもあるの? ここはシンプルに、「私の彼氏を取らないで!」でいいじゃん!

「一つは、北川さんの主張に反することになるからです。と言うのも、お兄さんとデートするのは、要約すれば『恋心を知るため』ですよね? だとすれば順番が逆です。恋心を抱く相手と二人で外出し、そこで気持ちを確認、あるいは深めることがデートであって、デートすれば恋心が生まれるわけじゃありませんよね?」

「ちょっと待て、梓! なんだよその反論は!?」

 これにはさすがの僕もツッコミを入れざるを得なかった。何しろ梓の反論は、感情的なものではなく、理路整然と筋が通った理由あっての否定だったからだ。

「僕を取られたくないって気持ちでいいじゃん!」
「しゃっらーっぷ」

 何故にカタコト英語で黙らせる……?

「そして、もう一つの理由。これが最大の問題なんですが……」

 僕の異議申し立てを一言で却下したはずなのに、梓は僕をじとーっと睨んで言葉を続けた。

「少なくとも私、お兄さんとデートらしいデートってしたことないんです」

 ………………ん?

「北川さんのおっしゃる『スムーズなエスコート』以前の問題で、デートをしたことのないお兄さんに、デートのプランニングができるかどうかは未知数なんですよ」
「ちょっ、ちょっと待ったーっ!」

 いやホント、ちょっと待ってくれ。マジで待って。
 デートしたことがない? はっはっは、何をおっしゃいますか梓さん。僕らはもう、今まで幾度となくデートなんてしてるじゃないですか。

「この前、駅前のモールに二人で行っただろ? ほら、おまえの友だちの梢ちゃんとバッタリ出くわした時の」
「あれをデートとおっしゃいますか、お兄さん」
「えっ、違うの?」
「広義の意味ならデートかもしれませんが、おそらくこの場で北川さんがおっしゃってるデートとは掛け離れたものなんじゃないでしょうか?」

 そ、そうなのか……? まぁ、そういうことなら前回の無目的デートはなしにするけど。

「じゃあ、その前に二人で出掛けた時は……」
「夕飯の買い物でしたね」
「その前は──」
「私の買い物で荷物持ちをしてくれたんでしたっけ」
「……そ、その前は……?」
「お義父さんとお義母さんも交えての外食でした。ええと、これ以上は時間の無駄なので私から言いますが、大抵、お兄さんとお出かけするときは、夕飯なりなんなりの買い物があったり、暇を持て余した末の外出でしたからね」
「………………」

 い、言われてみれば……確かに……僕と梓は、そういう目的なり暇つぶしを兼ねてのお出かけばっかりのような気がする。それを〝デートじゃない〟とされてしまえば、僕と梓はデートをしたことがないようだ。

「久遠寺くん、キミは……さすがに、ちょっと……どうなんだ、それは?」

 この事実に、さすがの北川先輩も僕のことを呆れと非難が入り混じった目を向けてきた。

「そういうことですので、北川さん。大変申し訳ないですが、お兄さんをお貸しすることはできません」

 梓の感情論抜きで語られた正論を前に、僕はぐうの音も出ない。

「……いや、ちょっと待ってくれ」

 だが、それでも北川先輩は食い下がった。

「ならばこうしよう。キミたち、明日にでも本格的なデートでもしてきたまえ」
「は?」
「そして、そこに私も同行させてもらう!」
「はぁ!?」

 まったく意味がわからない。いやいや、ホントに何を言い出してんだこの人?

「磯崎くんの指摘によれば、デートしたところで恋心は理解できないらしい。しかし、私は自身の創作のためにも恋心というものを理解しておきたい。そのためにも、恋人同士のイベントであるデートはやはり外せないと思うわけだ。では、どうする?」
「どうするって……」

 むしろ、何をしたいんだこの人は。

「答えは一つ。デート未経験の二人に密着取材するしかない!」
「どういう理屈だそれ!?」

 いったいどこの世界に同伴者ありで初デートを行う奴がいるって言うんだ!?

「ないですよ、そんなもん。梓だって嫌だろ、そんな監視されるようなデートなんて」
「……それは……」

 あれあれ? なんでそこで考え込んじゃってるんですか梓さん? 今の北川先輩からの提案に、どういう思考の末に一考の価値があるって思った!?

「約束しよう、磯崎くん」

 何故か考え込んでしまった梓を見て、ここが勝負所と感じ取ったのか、北川先輩が畳み掛けるように言葉をぶつけた。

「この私が学校の先輩ならびに所属している部活の部長としての権限を駆使して、久遠寺くんにちゃんとしたデートのプランニングをさせる! その代わり、キミには是非、僕にデートの感想や恋心についてレクチャーしてもらいたい!」
「乗った!」
「乗るなよ!」

 間髪容れずに北川先輩からの提案に乗っかった梓に、僕は脊髄反射で突っ込んだ。
 なんでおまえら、ああもう北川先輩にも〝おまえ〟って言っちゃうけど、なんでおまえら、そんな固く握手を交わしてるんだ!? そんな提案に乗るくらいなら、カチカチ山の泥船に乗った方がまだ安心できるぞ。

「そうと決まれば善は急げだ。久遠寺くん、喜びたまえ。キミたちの初デートは明日に決定だ! ちゃんとデートコースを考えておくように!」
「お兄さん。私、楽しみにしてますね」
「えぇ~……」

 どうやらこの泥船、沈むとわかっていても乗船拒否はできないようだ。
本編は、2015年12月に開催されるコミックマーケット89で頒布予定の新刊に収録する予定です。
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