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同居人の彼女は3歳年下の許嫁 作者:一歩

同人誌版その2

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にわか知識は危険がいっぱい

 なんだかあちこちでおっさん臭いと言われる僕だが、これでも歴とした高校二年生の一七歳であり、日中はもちろん学校へ通っている。だから、いつも家に帰る時間は夜の七時ごろになってしまうわけだ。
「夜の七時?」と、帰宅時間が遅く感じる人がいるかもしれないが、それもそのはず、これでも僕は部活動へ真面目に取り組んでいるからだ。だってうちの高校、部活に所属してるだけで内申点がよくなるんだから仕方がない。
 そんな僕が所属しているのは文芸部である。それも、かなり活動が盛んな文芸部だ。
 伝え聞くところに因れば、余所の学校の文芸部はあまり活動らしい活動をしてないところも多いらしい。けれどうちの高校だと、部員の数こそ自分を含めて五人と少ないものの、それぞれ何かしらの文芸的創作活動に精を出している。
 かといって、僕に文学的才能があるとは限らない。スポーツにしろ、文芸にしろ、僕はプレイヤーよりもオーディエンス向きな性格だからだ。
 となると活動が盛んな文芸部で僕はある種のお荷物……と、思われるかもしれないが、案外そうでもないらしい。
「久遠寺くん、チェックをお願い」
「うぃっす」
 文芸部の部長である北川恵美子先輩が、眉間に皺を寄せながら差し出してきた原稿用紙を受け取って、僕はざっと目を通した。
「……んー……と、全体的なことを言うと、前振りがちょっと長すぎです。三ページくらいでまとめた方がいいですね。それと、生々しさが足りない感じもあるかなぁ。女性向けならいいかもですけど、モノローグで引っ張るのは如何なものかと」
「むぅ……そ、そうか……」
「具体的には、ここを削ってここのコマを見せコマとして大きめに。で、このモノローグはいらないんで、ヒロインの心情は絵で見せる感じにすれば……どうでしょうか」
 赤ペンを手に僕が修正案を加えてみると、北川先輩は「ふむ……」と唸った。
「確かにこっちの方がテンポがいいかな」
「あとは特に問題ないかと。各コマの構図はいいですし、捨てコマの見せ方も巧みですから、それだけにキメ絵が際立ってると思います。余韻もありますし」
「そ、そうか。うん、よし。では、これで直してみる」
「颯太、こっちもチェック頼む」
 北川先輩が終わったと思えば、同学年で古くからの友人でもある作家志望の一宮圭輔からの初稿も上がってきた──と、まぁこんな感じで。
 活動が盛んな文芸部で、絵も描けなければ物語をゼロから作れない僕のやってることは、他の部員の創作物の監修──いわゆる編集的な役割だった。
 おかげで部長の北川先輩の原稿のみならず、他の部員が書き上げたものは一通り目を通している。マンガもあれば小説もあり、一枚絵のイラストもあるもんだから、忙しいときはかなり忙しくなるのだ。
 幸いにも今日は部長と圭輔しかおらず、イラストを描いている一年の富岡しずるはモチーフ探しで図書館へ、部長と富岡のアシスタントをしている御陵碧は作業がないのでお休みしている。
「そういえば久遠寺くん」
 圭輔の小説を読みながら気になる個所をチェックしていると、何かを思いだしたかのような声で北川先輩に声を掛けられた。
「昨日は部活を休んだみたいだが、何かあったのかね?」
「え? いや、別にたいしたことは……ちょっと家の用事があっただけで」
「ふむ、そうか。私はてっきり、編集作業の負担がキミに集中している現状に嫌気が差したのかと危惧していたのだが、そうでないなら安心したよ」
「もしかしてあれか?」
 と、北川先輩が納得したところへ声を被せて来たのは圭輔だった。
「前に話してた許嫁の子と、何かあったのか?」
 梓のことを知っている圭輔がそんなことを言い出した。
 そういえば、こいつとは古い付き合いだけど梓と会わせたことはなかったっけ。
「別にケンカとかじゃねえよ。単に梓の友達が、僕に『会いたい』って言っててさ」
 大雑把に昨日のことを説明して、僕は原稿のチェックを進めようとした──の、だが。
「許嫁だとぉう!」
 もの凄い勢いで北川部長が食い付いてきた。
「なんだその話は!? わたしは聞いてないぞ!」
「あれ? そうでしたっけ?」
 僕としては梓との関係を隠すつもりはないので、聞かれれば話すけれど聞かれなければ話さない──というスタンスでいる。
 ああ……だから北川先輩は知らなかったのかもしれない。
「今の話は本当なのか? キミには……その、許嫁がいる──と?」
「ええ、まぁ」
「ほう……ほうほう、ほっほぉ~う」
 フクロウの鳴き真似みたいな声を出した北川先輩は、今までペンを走らせていたラフ用紙を伏せて、代わりにメモ帳を開いた。
「その話、詳しく聞かせてもらおうか!」
 はは~ん、なるほどなるほど。この人の魂胆は丸見えだね。
「マンガのネタにされそうなんで、嫌です」
 僕がそう言えば、北川部長は「何を言う!」と声を荒らげた。
「私はルポマンガを描いてるわけじゃないんだ。聞いた話をそのまま使うわけないだろ。安心したまえ、面白おかしく脚色するから!」
「面白おかしくって言うか、先輩が描いてるのは十八禁マンガっすよね?」
「訂正しよう。エロく生々しく脚色する」
「結局、話のネタにするってことじゃないですか」
 ちなみに北川先輩は四月生まれらしいので、年齢的に言えば十八歳になっている。「エロ解禁だーっ!」と四月に喜んでいた姿は、なんというかちょっと……人間が持つ業の深さを垣間見た気分になった。
「なんで僕が、先輩のマンガのために実生活を切り売りしなくちゃいけないんですか」
「それが出来た編集者ってもんだろ?」
「え? 何? 先輩と颯太ってデキてんの? ひゅ~う」
「ひゅ~う、じゃねえよ」
 ここぞとばかりに割って入ってきた圭輔のつまらないボケに対して、手刀を食らわせる形でツッコミを入れれば、先輩は「しかし、それでいいのか?」と、妙に真面目くさった態度で問い掛けてきた。
「許嫁というのは、つまり子供の意見を余所に親同士が自分たちの都合で結婚させることだろう? そんな話をよく受け入れたものだな」
 そういう感想は、やはり北川先輩でも抱くようだ。昨日は同じようなことを圭輔にも言われたことがある。
「そういや颯太、許嫁の娘と付き合うことになったとき、前に『自分には将来に夢や目標がないから』ってことを理由にしてたよな」
 そのことは圭輔も覚えていたらしい。前に僕が言った台詞を大雑把ながらも口にした。
「妙な言い分だな。その心は?」
「いや、その……そんな面白い話じゃないっすよ」
 そうやって改めて問われると、答えるこっちが妙に恥ずかしい。
「なんだ、歯切れが悪いな。こういうときはポンポンっと答えるのが礼儀だろう。ほれほれ、お姉さんに言ってみなさい」
 人の額に人差し指をぐりぐり押しつけて、妙な迫力のある笑顔で迫られては口を噤むわけにもいかない。
「だからほら、なんて言うか……僕はこれといった夢も目標もないわけで、せいぜい人並みな人生を送れればいいと思ってるわけですよ」
「……本人を前に敢えて言わせてもらうが……つまんない男だな、キミは」
「ほっといてください」
 僕だってわかってるんだよ。どうせ僕は人生を諾々と消費して生きていくだけだって。
 そして、それがちょっと寂しい人生だってこともさ。
 ちゃ~んと理解してるんだ。
 でもね……やはり生きていく上で、人生に張り合いってものが欲しいと思ったりもしたんだよ。したんだけど、結局、そういうものが見つからなかったんだ。
 何かをしても夢中になれず、強く深く興味を持つことと出会えなかった。
 だから僕はいろいろ諦めて、かといって今の世の中に深く絶望してるわけでもないから死ぬつもりもなく、時の流れに身を任せて生きていこうと思っていたんだ。
「そこへ梓が──許嫁が現れたわけですよ」
 両親が言うには梓が遠縁の親戚であり、すべてのものを失ってうちで引き取ることになったこと。さらに、「権利順では」という前置きをした上で、僕が梓の許嫁であることも教えられた。
「どうする?」と、親は僕に判断を委ねた。
 梓を養子として迎え入れ、兄妹になるか。
 それとも許嫁として将来を約束するか。
「そのときに思ったんです」
「何を?」
「夢や目標もなく、諾々と人生を消費するだけなら、梓のために使おう──って。だから僕は、梓との関係を受け入れたわけです」
「それはなかなか……いや、うん。キミはなんか凄いな」
「え? どのあたりが?」
 僕が首を傾げると、北川先輩はなんとも言えない表情を浮かべた。
「自覚がないとこが、また凄いというか……なぁ?」
「そうっすね……いや、颯太すげぇわ。マジで」
 何やら圭輔までもが北川先輩に同意している。
 なんだろう、この妙な疎外感……。
「しかし、それならそれで──」
 僕が釈然としない気分を胸に抱いていると、北川先輩が口端を吊り上げて顔を近付けてきた。
「──話を聞く限りでは、キミと許嫁ちゃんの関係は親公認なんだろう? であれば、毎晩毎晩お盛んなんだろうねぇ」
 なんの笑みかと思ったら、もの凄くゲスい笑みだった。
「あのですね……脳内でどんな想像を巡らせているか知りませんけど、先輩が期待するようなことは何もしてないですよ?」
「別に照れることはないぞ? この歳で、相手がいて、おまけに一つ屋根の下で暮らして居るとなれば毎晩のようにヤッちゃって当然じゃないか。なのに『何もない』とか言われても、誰が信用するって言うんだ」
「やっぱりそう思いますよねぇ……」
「……まさか、本当に何もしてないのか?」
 気落ちした僕の態度から察してくれたのか、北川先輩が若干頬を引きつらせて確認してきた。
「してなくはないですけど……」
「なんだ、歯切れが悪いな。結局キミは、まだ童貞くんってことでいいのか?」
「ぅぐ……っ」
 いや、そうだけど。そうなんだけど、女性の先輩からストレートに〝童貞野郎〟とか言われちゃった日には、言葉を詰まらせるってもんだ。
「おいおい……マジかよ。いくらなんでも、それは不健全過ぎるぞ。相手がいないならいざ知らず、将来を誓い合ったパートナーがいるキミが童貞となれば、一宮くんなんてオナホにさえ拒否られるレベルになってしまうじゃないか」
「どんなレベルっすか、それ!?」
「なんでそういうことになってるのか、話してごらんなさい」
 ツッコむ圭輔をまるっと無視した北川先輩からの追及が、ますます激しさを増してくる。こうなると、そのうち部長権限とか言い出して無理やりにでも僕の口を割ろうとしたり、家にまで押しかけてきたりしそうだ。
 ──そうなると、梓に会わせることになっちゃうなぁ……。
 別に梓を僕の友人知人に会わせたくないわけじゃないけれど、北川先輩だけはちょっと刺激が強すぎる。主にエロ方面の意味で。
 となれば、今日ここで僕と梓の間に最終的な肉体関係がまだである理由を、ちゃんと説明しておいた方がいいのかもしれない。
「単に、僕らには僕らのタイミングってのがあるんですよ。梓も『遊びでえっちぃことはしない』って言ってますから、その意見を尊重してるんです」
「遊びでしない──って、それじゃ何か? エッチするときは子供を作ることが前提ってことかい? それはまた……生真面目な彼女さんだなぁ」
 それは僕もちょっと思うことだけど、それで北川先輩が納得して、この話が終わるなら黙って聞き流そう──と、思ったのだが。
「しかし久遠寺くん、キミはそれでいいのかい?」
 なんだか挑戦的なことを言い出した。
「彼女の意見を尊重する姿勢は立派だが、本音を言えばオトナの階段を上りたいと思っているんじゃないのかい?」
「そりゃあ……まぁ」
 健全な男子として、「エッチしたい?」と聞かれてノーと言える奴は、そういうことによっぽどのトラウマがある奴くらいだろう。
「そこでだ。私から、そんな悶々としているキミにとっておきのアドバイスをしてやろう」
 そうして北川先輩が耳打ちしてくれた〝とっておきのアドバイス〟とやらは、なるほどど思えるアイディアだった。


「あ、お兄さん。お帰りなさい」
 北川先輩から画期的なアイディアを授かった僕が家に帰ると、両親はまだ帰宅しておらず、梓が台所に立って夕飯の準備をしていた。
「母さんは?」
「今日も遅くなるそうです。さっき、電話がありました」
 となると、夜の九時くらいまでは二人きりでいられるということだな。
 これこそまさにチャンスかもしれない。さっそく、北川先輩から伝授されたアイディアを実行すべきタイミングだ。
「夕飯は先に食べてていいそうですから、もう少し待っててくださいね」
「それよりも梓、ひとつ聞きたいことがあるんだが」
「はい?」
「おまえ、〝菊門〟って言葉の意味を知ってるか?」
「………………」
 梓の表情が、笑顔のままで固まった──ということは、言葉の意味を理解していると見て間違いない。
「いやな? 今日、先輩から『前がダメなら後ろがあるじゃん』とアドバイスを受けて、やり方をいろいろと──ぐはっ!」
 僕が皆まで言う前に、梓が投げつけた木ベラが額に突き刺さらんばかりにヒットした。
「おっ、おまっ、いきなり何を……」
「お兄さん、そこへ座りなさい」
 反論する僕のセリフを右から左へ、据わった目をした梓に厳命された。

 その後、僕は梓から小一時間ほど休むことなくこっぴどく説教を受けた。
コミックマーケット88で、三日目(8月16日)、スペースは西し-41bにてプロローグから第6部「いざという時は~」まで+かなりカゲキな書き下ろしを含む同人誌を頒布します。

詳しくは当ブログ( http://ninohaji.blog.shinobi.jp/ )でご確認いただけたら幸いです。

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