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同居人の彼女は3歳年下の許嫁 作者:一歩

同人誌版その1

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5/16

今どきの女子ってガツガツしてますよ?

「うにゃーっ!」
 猫がいた。
 いや、猫じゃないけど。
 猫っぽい鳴き声を上げる変人が、学校から帰宅して自室を開けたらベッドの上で僕を待ちかまえていた。
「……どうしたんだよ、梓」
 変人じゃなくて恋人でした。
「愛をください! 優しくして! 甘えさせろーっ! ふにゃーっ!」
 ははぁ~ん、なるほどなるほど。
 どうやら今日の梓さん、ストレス過多でキレデレモードに突入しているらしい。
 こうなると、仮に僕の方が拒否っても満足するまで強引に甘えてくるので、従わざるを得ないのである。
「何をしてほしいんだよ」
「はぐみーぷりーず!」
 両手を広げ、ものっそいベタな日本語発音の英語で要求された。
「ああもう……ほら」
「んーっ!」
 鞄を置いて手を広げると、待ちわびていたかのように梓が飛びついてくる。首に両手を絡め、頬に頬をすり寄らせ、隙間をなくそうとするようにぎゅーっと密着してきた。
 まさにじゃれつく甘え猫のようである。
「はぁ~……やっぱりお兄さんの温もりを感じることが一番落ち着きます」
「そういえば僕らが親しくなったのも、こういうことが切っ掛けだったなぁ」
 出会ったばかりのことを思い出して呟けば、梓は「ええ」と頷いた。
「それから私、ホントにイライラしたときはこうしなくちゃ落ち着かなくなりました」
 いつの間にか、僕は梓に妙な刷り込みをしていたらしい。
「ほら、もういいだろ。そろそろ着替えたいんだけど」
「んー……もう少し」
 と言いつつも、かれこれ五分くらいは密着され続けているわけで、そろそろ離れて欲しい気分になってきた。
 かと言って、力任せに引き離すわけにもいかない。
「……ぺろ」
「ふゃん!」
 物は試しに耳を舐めてみたら、梓から今まで聞いたことのない黄色い悲鳴が上がった。
「ちょっ、ちょっと、もぉーっ! やめてください!」
「なるほど、耳が弱いのか」
「~~~~~~っ!」
 僕の指摘に、梓は耳まで真っ赤になった。


「で、イライラの原因はやっぱり昨日のこと?」
 制服から部屋着に着替えた僕はベッドの縁に腰を落ち着け、改めて梓の話に耳を傾けることにした。
「ええ、まぁ……」
 頷く梓は、今もまだデレ部分が抜けきらないらしくて背後からしがみついてきている。耳を舐められたことを警戒してるらしい。
「やっぱり、クラス中で僕とのことが噂になってたり?」
「いえ、それはなかったんですけど……」
 なんだか少し言いにくそうに、梓は僕の頭の上に顎を置いて、今日学校であったことを話てくれた。

■ □ ■ □ ■

 朝、梓が引きずられるような重い気分で学校へ行ったときは、特にこれといって騒がれることもなかった。一時間目が終わった休み時間も変化はなかったし、二時間目、三時間目と過ぎても何もない。
 もしかして、梢がいろいろ察して誰にも話してくれていないのか──とホッと胸をなで下ろした矢先に裏切られた。
「んでんで? 許嫁ってどういうことなの梓ちゃん!」
「──ッ!?」
 どうやら「見なかったこと」にしてくれたわけではなく、長く話せる昼休みまでグッと我慢していたようだ。
「梓ちゃんが去年に転校してきたのは、つまりあの許嫁さんと一緒に暮らすため? やっぱりそういうものって生まれたときから決められちゃってるの? この歳で将来の相手が決まっちゃってるって、いろいろ大変じゃない? ねえねえどうなの!?」
「ちょちょちょっ、ちょっと待って!」
 芸能リポーターのインタビューみたいにぐいぐい迫ってくる梢を押し止め、ふと周囲に目を向ければ、教室に残っていたクラスメートたちの視線が集中していた。
 たちまち梓の顔が真っ赤になった。
「こっ、こっち! こっち来て!」
 さすがに教室で話すようなことではない。梓は梢の手を取って教室を飛び出し、ひとまず屋上へ駆け込んだ。
 梓の通っている中学校では、屋上の開放が基本的に行っていない。生徒は立ち入り禁止とされている。扉はしっかり施錠されているし、鍵がなければ開けられない。
 ただ、屋上に出る手前までなら話は別だ。人は滅多に来ないし、秘密の話をするのに打って付けである。
「こっ、梢ちゃん……教室でその話をするのはホントやめて……!」
 ゼェハァと肩で息をしながら梓が声を絞り出すように懇願すれば、当の梢は「だから誰にも話してないわよ」と肩をすくめた。
 実際、今までなんの騒ぎにもなっていないのだから、〝誰にも話してない〟という梢の主張に疑いはない。ただ、教室で颯太のことを聞いてくれば秘密にしてないのと同然──ということに、なんだか気付いてないようだ。
「でも別に、隠すようなことでもないと思うけどなぁ。だって許嫁なんでしょ? 将来、結婚しちゃうわけでしょ? 普通よりもすっごく真面目なお付き合いをしてるってことじゃん。親公認で」
「そ、それは……」
「それとも、その〝許嫁〟って言うのは梓ちゃん的に不本意なものなの? 嫌だけど仕方なく~……みたいな?」
「違うわよ! そんなことはないわ」
 ややイジワルな梢の質問に、梓は強く反発した。
「私にとって、お兄──その、颯太さん以上の人なんていないわ。抜け殻になってた私を立ち直らせてくれて、変に同情することもなく、妙な気遣いもせずに傍にいてくれるのはあの人だけなの。だから将来、誰かと家庭を作るなら私はあの人がいい。あの人じゃなきゃ嫌なの」
「……どんだけベタ惚れしてんのよ」
「えっ? あ……その、えっと……」
 梢の苦笑混じりのツッコミに、梓は自分の発言を省みて真っ赤になった。
「まったく、梓ちゃんは可愛いなぁ!」
「うぅ……」
 梢にグリグリ撫でくり回されて、梓はますます縮こまった。上手い具合に弄ばれているように感じるのは、決して気のせいではないだろう。
「うん、まぁ、なんとなく二人の馴れ初めはわかったわ。で? で? そのラブラブっぷりはどこまで行ってるの? 最後までヤッちゃった?」
「ぶっ!」
 あまりにもあんまりなストレート発言に手を使ったジェスチャーまで付けられて、梓は口からいろんなものが吹き出しそうになった。
「しっ、してません! するわけないでしょ!」
「またまたご冗談を」
「ホントに何もしてないってば!」
「そうなの? クラスの彼氏持ちの何人かはすでに経験済みらしいけど」
「………………」
 いったい誰のことだと頭の中で選別しそうになったが、梓は考えるのをやめた。真偽の定かでない噂話で躍っても仕方がない。
「余所は余所だってば。うちはそんなこと……別に、何も」
「えぇっ、うっそだぁ!」
 やんわり否定してみたが、あっさり看破された。
「エッチまでいかなくてもさ、あたしたちの年齢で何もない方が逆に不自然だと思うけど?」
「ま、まぁ……そう、かも……だけど」
「……ほほう」
 言葉を曖昧に濁す梓を前に、梢はニヤリと笑みを浮かべた。
「じゃあ、エッチはまだとして……キスくらいは済ませてるわよね? おっぱいも触らせてあげてたりとか?」
「お……おぅ……?」
 梢としてはからかい半分の妄想混じりで言ってるのだが、そこまでだったら実は済ませている。梓にしてみると、いちいちその時のシチュエーションが脳裏に浮かんで気が気ではない。
「い、いいじゃない別に! 私とお兄さんがどこまで進んでるとかなんて!」
「えっ、何? 彼氏さんのこと〝お兄さん〟とか呼んでるの!?」
「うわああああっ!」
 必死に誤魔化し続けたけれど、口を開く度に窮地に陥ってるような気がしてきた。
「やっぱりこれは、いろいろ話を聞かせてもらわなくちゃ!」
「なんで梢ちゃんに報告しなきゃいけないの!?」
「だってぇ、あたしは彼氏なんていないし。やっぱり経験者からいろいろ話を聞きたいじゃん」
「他の娘に聞いてよ!」
「梓ちゃんのパターンが、他で聞けない一番のレアケースじゃない。みんなには黙っておくからさぁ、代わりにいろいろ教えてよ」
「あぁん、もう!」
 ぐいぐい迫る梢を前に、梓はそろそろ泣きたくなってきた。

■ □ ■ □ ■

「──と、いうことがありまして……」
「そ、そうかぁ……」
 なんだか大変だなぁ──と、正直思う。
「梢ちゃん、そんな悪い子じゃないんですけど……こういう話には食い付きが良すぎて」
「まぁ、そういう年頃だもんなぁ」
 恋愛やエッチな話ってのは、平気な人はどんだけ下ネタだろうと平気だけど、苦手な人はとことん苦手だからなぁ。それでいて、梓くらいの歳にもなれば知識ばかりが膨らんで、けれど実体験はなかなか耳にすることもできず、好奇心ばかりが刺激されたりするもんだ。
 僕だって、クラスメートの恋愛話やエロい話を聞き出したり聞かされたりしてるし、やっぱり知りたいと思うもん。
 だからまぁ、しつこく聞いてくる梢ちゃんのことを、あんまり悪くは言えなかったりする。その気持ちがわかるから。
「それで……ですね? あの、ここからが本題なんですけど……」
「えっ、今までは前振り?」
 まだなんかあるのか……?
「今度、梢ちゃんが家まで遊びに来たい──って……」
「えぇっ!?」
 それはつまり、僕のことを改めて友達に紹介したい──と? なんだかいきなり過ぎる展開だな。
「あ、いえ、そうですよね。ダメですよね。明日、きっぱり断っておきます」
「ああ、いや……」
 ちょっと驚いたけど、よくよく考えれば梓と一緒に暮らすようになってから、友達を連れてきたことは一度もなかったような気がする。少なくとも、僕が家にいるときに梓の友達が遊びに来たことはなかったはずだ。
 理由はどうあれ、友達が来てくれるというのなら良いことだと思う。
「いいよ、別に。連れてくればいいじゃん」
「えっ、いいんですか? でも……その、たぶんお兄さん、オモチャにされますよ……?」
「……え?」
「相手はイケイケでガツガツな女子中学生ですから、私でもフォローしきれませんけど……でも、ありがとうございます。それでは明日、よろしくお願いしますね、お兄さん」
「お、おう……」
 なんだか妙に脅されてる気がするけれど、梓の頼みでもあるわけだし……うん、頑張ろう。
本編は、2015年8月に開催されるコミックマーケット88で頒布予定の新刊に収録する予定です。
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