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同居人の彼女は3歳年下の許嫁 作者:一歩

同人誌版その1

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女の子が恥ずかしい姿を見せるのは信頼の証です

 僕と梓は許嫁で、一緒に暮らすようになってから一年くらいが過ぎている。それが長いか短いかは人それぞれだが、僕にとってみれば遠慮も余所余所しさも取っ払うのに十分な期間だった。

 それは梢にとってもそうらしい。

 最初の頃こそ僕に対しては言いたいことも言えず、困ったような表情を浮かべるだけで、何を話しても当たり障りのない反応しかしてこなかった。ところが、今ではすっかり打ち解けて、遠慮や他人行儀なところがずいぶんと薄れている。

 例えば──そう、僕の部屋でベッドに寝転がり、パンツ丸出しで本を読むことにもまったく抵抗を感じなくなっていたりとかね。

「ボクサーショーツかよ!」
「……何ですか?」

 血涙を流さんばかりの絶叫に、本を読んでいた梓が胡乱な目付きで睨み返してきた。
 だが、僕の方こそ「なんですか?」と問いたい。問い詰めたい。

「おまえさあ、もうちょっとさあ、下着姿で現れるなら、こう……グッと来るようなの着て来いよ」

 だってほら、見てください。チェック柄のローライズですよ。足の付け根まで隠れちゃってるんですよ。お尻の曲線が云々と言う人がいるかもしれないけれどさあ、僕にとってはパンチ不足なんだよ。

 色気もへったくれもありゃしねえ。

「グッと来る下着ってなんですか。あれですか? ボーダー柄の縞々パンツとかそういうのですか? それともスケスケなレース?」
「えっ、そういうの持ってんの?」
「ありません」

 にわかに興味を示した僕に、梓はぴしゃりと言い捨てた。

「だいたいお兄さん、私がどんなパンツ履いてても興味ないでしょ?」
「い、いやあ? そんなことはないぞ」

 自分で否定しといてなんだが、声が上ずってしまった。

「やっぱりほら、可愛い下着だったらそれなりに反応しますよ。ええ、もちろん」
「とか言って、いざえっちぃことするときに私が可愛い下着を着ていても、特にコメントもなく脱がしそうですよね」
「ん、んー……」
 少しそうなった場合の状況を想像してみた。




 梓はかなり真面目で、遊びや興味本位で性行為はしないと常日頃から宣言しているような貞淑な女である。となれば、そういう行為に僕らが及ぶ状況というのは新婚初夜とかそういう日になってしまうのかもしれない。

 ある種、厳粛な儀式めいた秘め事になるだろう。

 そういう状況で──だ。お互い初めてで、薄暗い部屋の中、愛を囁き感情も昂ぶり、一枚一枚服を脱がせて行く。
 そんな中、僕はこう言うのである。

「梓……今日のパンツは可愛いね」

 ──と。




「お兄さん、何を笑ってるんですか?」

 僕があまりにもあんまりなシュール映像を脳内で再生して笑いを堪えていると、梓から非難めいたツッコミが飛んできた。

「確かに、いざそういう状況になったら特に何も言わずに脱がせるかもしれない」
「ですよね」

 我が意を得たりとばかりに頷く梓。

「私、思うんですけど、大多数の男の人って結局はパンツが好きなわけじゃなくて、薄布一枚を隔てた先にある女性の……その……アレがあるとわかっているから、パンツが見えて喜ぶ──というか、興奮するんじゃないですか?」

 さすがの梓でも、僕に対して女性器の呼称をあけすけに言うことには抵抗があるようだ。

「で、お兄さんはどちらかと言うと、そういう妄想とかイメージとかで補わなくちゃいけないことには、興奮よりも先に苛々するタイプですよね? 白黒ハッキリさせたいって言うか、見せるならハッキリ見せろ! って」

 うん、まぁ、確かにそれは否定しない──が、しかしちょっと待ってもらいたい。

「そうじゃなくて、別にパンツを見た僕の精神状態がどうこうって話じゃないんだよ」
「あれ?」
「僕が言いたいのは、一五歳の女の子が、そんなパンツ丸出しでフラフラしてるのはどうなんだ──ってことだよ。ちょっとだらしないぞ」
「異議あり! です」

 ベッドの上でちょこんと正座した梓が、ピッと垂直に手を上げた。
 ちなみに上に着ているのはキャミソール一枚で、どうやらノーブラらしい。

「私だって、赤の他人にパンツ見られることには抵抗ありますよ。ていうか、見られたくありません。こんな格好でダラダラしてるのなんて、お兄さんの前だけです」
「……お、おう」

 それは……なんだろう、僕的には喜ぶべき許嫁の言葉と受け取るべきなんだろうか。

「いいですか、お兄さん。女の子が本来他人に見せたくない姿を晒しているのは、その相手に全幅の信頼を寄せている証拠でもあるんですよ? 特に相手が異性であるのなら尚更です。それでも見せると言うのなら、それは『この人だったら大丈夫』っていう……なんだろ? 安心感? から来る愛情表現だと思ってください」
「安心感? 愛情表現?」

 安心できるからパンツを見せるのか。そういう風に考えると、ちょっと頭悪そうだなって思うんだけど。

「今の私の格好を見てくださいよ。下はパンツ一枚に、上はおっぱいが見えそうなノースリーブです。貞操を守る防御力は皆無に等しいですよね? 腕力で勝る男性に襲われたら抵抗なんてできません。おまけに脱がすのも楽ちんです。そのことを自覚した上で、私はお兄さんの前でなら『この格好で大丈夫』と思ってるんですよ?」

 妙な信頼の言葉を贈られてしまった。

「……それは逆に、僕のことを『男として見てない』と言われてるようにも受け取れるんだが」

 軽くプライドを傷つけられたような気持ちを抱いた僕の感想を、梓は「何を言ってるんですか」と、きっぱり否定してくれた。

「私は、お兄さんのことを一人の男性として見てますよ。それはもう、残りの人生を誰かと一緒に過ごすなら、お兄さんじゃなきゃ嫌って思うほど大好きです」
「ん、んー……そ、そっか……」

 にっこり笑顔で熱烈な愛の告白をされては、さすがの僕でもちょっと照れる。

「だからですね、今はまだちょっと年齢的なことで無理ですけど、私はお兄さんが相手ならどんなに恥ずかしいことでも応じますし、頑張っちゃいます。だから、下着姿くらい別に平気なんです」
「おおう……」

 皆さん、聞きましたか! これが将来、僕の嫁になる女の子ですよ!
 いやあ……やむにやまれぬ事情から許嫁になった梓だけど、僕は素晴らしく出来た女の子を手に入れたんじゃないだろうか。割と本気でそう思う。

「ただ……お兄さんが『見苦しい』と言うのなら、今度からちゃんと隠しますけど」
「そのままでオッケー!」
「はい、じゃあ、この話は以上ってことで」

 と言って、梓はゴロンとベッドの上に寝そべって、再び本を読み始めた。先ほどまで見せていたいじらしい態度もどこへやら──といった具合である。

 もしかして、単に言い様に言いくるめられただけなんじゃなか、これ?

 足をぱたぱたさせながら、パンツ丸出しのままベッドに寝転がる梓を見て、僕はなんとなくそう思った。
本編は、2015年8月に開催されるコミックマーケット88で頒布予定の新刊に収録する予定です。
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