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同居人の彼女は3歳年下の許嫁 作者:一歩

同人誌版その2

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魔法使いと天然ちゃん

「さて問題です。この文章の空欄を埋めてください」

 そう言って、僕の目の前に問題文の書かれた用紙を差し出したのは、同じ文芸部の部員、御陵碧だった。

 御陵碧。

 その名を聞いて、僕がどこの誰のことを言ってるのかわかる人は、まずもって一人もいないだろうと断言できる。
 そりゃあ、だって、僕は彼女のことを、普段は北川先輩や後輩の富岡しずるのアシスタントをしているという情報のみをお伝えするに留まり、具体的な話をまだしていないからである。

「なんだよ、急に。宿題か何かか?」

 碧と僕は学年こそ同じだが、教室は違う。だから、てっきり碧が僕に宿題を押しつけようとしているのかと思いつつも用紙を受け取ってみたのだが──。

『問一 ちん○ん(ヒント:あたしにもください)
 問二 ま○こ(ヒント:開きます)
 問三 ○っくす(ヒント:ちゃんと装着しないとね!)』

「小学生か!」

 ──速効で丸めてゴミ箱に投げ捨てた。

「あぁん、何するんだよぅ。せっかく考えたのに」
「いやいや碧さん、こんな下ネタは小学生のうちに卒業するレベルだよ」
「えぇー……男の子って進んでるなぁ。ちなみに答えはわかってる?」

「一問目は『賃金ちんぎん』、二問目は『まなこ』、三問目は『ソックス』だろ?」

「すげぇ! 久遠寺くんは天才だな!」

 純真無垢なキラキラお目々で誉められても、ちっとも嬉しくないのは何故だろう──と、まぁ、こんな感じで。

 御陵碧という同級生は、なんだか頭の中がお花畑みたいな、どこかぽわぽわした女の子である。見た目も相応に幼く、私服だと小学生にも見間違われることがあるそうだ。
 だがしかし、彼女にも他人より抜きん出た特技がある。いや、才能と言った方がいいのだろうか。

 それはずば抜けた集中力だ。

 もちろん、北川先輩や富岡のアシスタントをするだけあって、絵を描く技術的な腕はある。けれどそれは、この文芸部に入部してから身に付けたスキルであって、長年の研鑽で積み上げたものではなかった。
 そんな短期間で二人のアシスタントを同時にこなせるだけの技術を身に付けられたのは、彼女の集中力があってこそだろう。
 碧がひとたび集中すれば、それはもう、何時間でも継続する。名前を呼んでも反応しなくなるし、席を立つこともない。肩を叩いてようやく気付く、といった具合である。

 人間の集中力は平均すれば五〇分、長い人でも九〇分と言われているが、碧の場合はさらに倍の一八〇分──つまり、放課後の部活動の間は保つことがわかっている。もしかすると、もっと保つかもしれない。
 そうして集中しているときの彼女は、吸収力も半端ない。絵を描く技術もそうだが、どうやらそれ以外にも適用されるらしく、こう見えて、学業の方でも優秀な成績を収めているのである。

 ……ちょっと残念な下ネタクイズなんて作るけど、本当だぞ。

「なーなー、ところで久遠寺くん」
「なんだよ」
「風の噂でキミに許嫁がいると聞いたんだけど、本当かなぁ?」
「ん?」

 北川先輩に続き、碧までそんな話を振ってくるとは……ちょっと意外。前にも話したことがあるように〝聞かれたら答える〟ってスタンスだから、聞かれなければ自分から率先して話すことはないけど……碧が興味を持つことこそ意外だった。

「その話だったら、本当だよ」
「わぁ~お、本当だったのかぁ。なんだぁ、ちぇーっ」

 ちぇー? ちぇーってなんだ。なんで僕に許嫁がいると、碧がそんな悔しがるというか残念がるというか、そんな態度を見せるんだ。
 これはもしやあれか、「実は……」とか言い出したりする告白フラグだったりするのか──って、北川先輩のとき、こういう妄想で失敗したんだよな。先走らずに、まずは事実確認をしっかり行わなければ。

「僕に許嫁がいると、何が〝ちぇー〟なんだよ」
「だってさぁ……久遠寺くん、もうヤっちゃってるんでしょ?」
「は?」
「だから」

 碧は人差し指と中指の間から親指を抜き出した握り拳を僕に見せた。

「ヤっちゃってる?」
「はしたないなぁ」
「あれれ? これってそうなの?」
「少なくとも、女の子がするジェスチャーじゃないとは思うよ」
「そうなのかぁ。久遠寺くんは物知りだなぁ」

 別に物知りというほどなんでも知ってるわけではないのだが……まぁ、ここで常識的なツッコミはやめておこう。埒が明かない。

「じゃあ、ズバリ聞くけど。久遠寺くん、許嫁さんとセックスしちゃってるんでしょぉ?」
「ストレートすぎんだろ!」

 しかも、見た目小学生と間違えられる碧が口にしてるもんだから背徳感が半端ねぇな!

「女の子がそんな単語を口にしちゃいけません!」
「えぇ~っ、これも駄目なのかぁ?」
「駄目だろ。もうなんか、いろいろダメダメだ!」
「じゃあ、性交って言えばいい?」
「よくありません! おまえの言いたいことはわかったから、もういいよ!」

 これだからこいつは……。無自覚でこっちがドキドキするようなことを口走っちゃうから、会話するだけで疲れるよ。

「言っておくが、僕と梓──許嫁との付き合いは健全だよ。おまえが考えてるようなことは、まだしてない」
「おぉ、そうなのかぁ。それは良かった!」

 良かった? 僕と梓がエッチなことをしてなくて、なんで碧が『良かった』なんて台詞を吐いて、満面の笑みを浮かべるんだろう。

「なんだか要領を得ないなぁ。さっきから何を言いたいんだ?」

 主題が見えないふわふわした会話に僕が首を捻って問い質すと、碧は「だって」と口を開いた。

「男の人は三〇歳まで童貞だったら魔法使いになれるんだろ?」
「ふぁ!?」
「すげぇよなぁ、男の人って! 女は三〇歳まで処女でも魔法使いにはなれないもんな!」
「いやいやいや、待て待て待て」

 突っ込み所が多すぎて、どこから手を加えればいいのかわからなくなってきた。

「まず最初に言っておくが、現代社会において魔法というものは存在しない!」
「えぇっ!?」

 そこで驚くのかぁ……!

「だいたいおまえ、魔法って言ってテンション上がってるけど、どういうのを想像してたんだ?」
「手から炎や雷がバンバン出るようなヤツ!」
「ねぇよ!」

 なんでそんな、子供が憧れのヒーローを目の前にしたとき見たいに目をキラキラ輝かせているんだ。夢を打ち砕くようで申し訳ないが、現実は非情であることをそろそろ理解していただきたい。

「だいたい、おまえの話が事実だとしたら、そういうことができる奴がせめて一人くらいはいるはずだぞ。テレビに出演しててもおかしくない。けど、僕は見たことがない。おまえもそうだろ? 実際はいないってことじゃないか」
「そういう人たちは政府に身柄を拘束されて管理されてるんじゃないのかぁ?」

「三〇歳まで童貞だったくらいで国に拉致監禁されてたまるか!」

「あれだろぉ? 冷戦時代の米軍にあったサイキック部隊の進化版みたいなもんだろ」
「童貞増やして国防に割り当てるなら、少子化問題を解決して国力を回復させるべきだと、キミは思わないのかね」
「難しい問題だなぁ」
「難しくないからね!?」
「むぅ」

 間髪容れない僕のツッコミに、碧は不服そうに唇を尖らせた。

「久遠寺くんは否定ばっかだなぁ。そこまで言うなら証明してみろよ」
「悪魔の証明を求めないでくれ」
「久遠寺くんが三〇歳まで童貞なら、はっきりするぞ!」
「その前に結婚してるわ!」

 それまでは、どんだけ梓からお預けを食らわされているかはわからないけど……少なくとも、僕が三〇歳まで童貞ってのはないと思う。

「おやおや。じゃあ、久遠寺くんは高校を卒業したら即結婚?」
「いや、そうとも限らないかな。いちおう僕は大学への進学を予定してるから……五年後……いや、梓も大学まで行く予定だとして、三歳差だから……早くて八年後? 少なくとも三〇歳前には結婚してるな、うん」
「ほうほう、なるほどなるほど……つまりそれまでは〝猶予〟があるわけだ……」
「猶予? なんの?」
「えへへー、なんでもなーい」

 にへっと笑って誤魔化す碧は、そろそろ帰るかとばかりに自分の鞄を手に取った。

「ともかく、久遠寺くんは魔法使いにならないってことかぁ」
「ならねぇよ。なってたまるか!」
「むぅ……そこまで拒否るとは、よっぽどなりたくないんだね」
「そりゃそうだ」

 碧が言うところの手から炎や雷をバンバン出せる魔法使いだったら話は別だが、俗称での魔法使いはなんとしてでも回避したい所存であります。

「そうだよねぇ。許嫁もいるしなぁ」

 はぁ~あ、となんの溜め息かよくわからない吐息をこぼして、碧は「今日は帰ろっと」と自分の鞄を手に取った。

「まぁ、いざとなったらボクが魔法使い回避に協力してあげるよ」
「は?」

 それがどういう意味なのか、果たしてこの天然なお嬢さんは理解してるんだろうか。

「えへへ~。じゃ、また明日ねぇ」

 僕があれこれ言う前に、碧はひらひらと手を振って帰って行ってしまった。
 ホントに碧が何を考えているのか、ちょっと僕には手に負えない。
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