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第八十五話「ハーディンの誉れに乾杯。」




「我らが『神槍』にかんぱい!」
「新たなる星、『銀の魔女』にカンパーイ!」
「ハーディンの(ほま)れに乾杯!」

 遅めの昼食をとっていたら、早めの宴会場と化してしまった『傭兵ギルド』シャンダル支部の食堂。
 えんえんと乾杯し続ける傭兵達から「あんたも飲みなー!」と渡された酒杯を、一秒の間もなく向かいに座ったレグルーザに没収されながら、ひとつ質問した。

「レグルーザ、ハーディンて誰?」

 大トラは手にした酒を水のようにぐびっと飲んでから、教えてくれた。

「ハーディンは『傭兵ギルド』の紋章(エンブレム)、『双剣の狼』のことだ。
 『双剣の狼(ハーディン)』の誉れに乾杯というのは、“『傭兵ギルド』の栄誉をたたえる”という意味で使われる、傭兵達の宴会の決まり文句だな。
 『傭兵ギルド』の創設に関わった実在の獣人の名らしいが、詳しいことは知らん。オオカミの顔が横を向いているのは、ハーディンが隻眼だったからだという、真偽のわからん話を聞いたくらいだ。」

 あたしは魚と野菜のスープをもぐもぐ食べながら、「ふうん」と頷いた。
 ドクロマークの海賊旗を、ジョリー・ロジャーと呼ぶようなものかな。

 『傭兵ギルド』の創設の裏には二代目勇者がいるっぽいので、ハーディンというひとは彼の関係者かもしれないけど、まあいいや。
 それより魚がすごくおいしい。

 さすがは大河の上の都、どの料理の魚も新鮮で身がぷりぷりしてて、口の中でほわっと甘くほぐれる感じがたまらない。
 しかも交易の拠点になっているおかげか香辛料の種類が豊富で、味付けがバラエティにとんでいて、ついつい色々食べたくなる。
 そこにまた酔っぱらいのにーちゃんたちが、これも食えあれも食えといろんな料理の皿をもってきてくれるので、ひたすらにまぐまぐと口を動かしていた。

 うん。
 しあわせ。

 そうしてあたしがいろんな料理をおいしくいただいている間、レグルーザは支部の人に紹介された傭兵見習いの少年に買い物を頼んでお金を渡し、知り合いと思しき人とお酒を飲みながら情報交換。
 酔っぱらった傭兵たちから「『神槍』のアニキ、『闘技場』で勝負してくれっ!」と熱烈に誘われてモテモテだったけど、それをてきとうにあしらいながらサーレルオード公国の様子を聞いている。


 最近の公国はどうも大公家でもめ事が起きているらしく、それに便乗してあやしい地下組織が絶賛暗躍中だそうだ。

 それは『黒の塔』とは違う地下組織で、名前は『聖大公教団』。

 初代勇者な初代大公を“聖ザハト”と(あが)め、彼の残した物 (聖遺物と呼ばれてる)を集めて復活させようという集団だそうで。
 “聖遺物”を盗もうとしたり、彼を復活させるための器としてその血筋を受け継ぐ大公家の人を誘拐しようとしたり、死者復活の練習をしたりするのが主な活動内容。


 レグルーザたちが話す向かいで、もくもくと料理をたいらげながら小耳にはさみ、初代勇者の名前はザハトっていうのか、といまさら知った。
 興味なかったから、名前はスルーしてたなー。

 しかしまた、面倒くさそうな国だ。
 あたしが巻き込まれるようなことはないだろうけど、三代目勇者な天音は頭からつま先まで、一瞬でかぷっと飲み込まれそうな気がする。
 もしもの時にそなえて、あたしも情報収集していこう。


 満腹になったところで、食後のデザートにみずみずしい果物をいただいていると、お皿の回収にきた給仕のおねーさんに訊かれた。

「お二人も『幻影卿(げんえいきょう)』を捕まえにいらっしゃったんですか?」

 あたしは誰それ? と首をかしげ、レグルーザは「いや」と答えたけど、彼女の一言で周りの酔っぱらいたちがいっせいに騒ぎだした。

「あのヤロウいつまで待たせるつもりだ!」
「今回の予告状が出たのは六日前だろ? 長いときは十日くらい後で来たってんだから、のんきなヤツだぜ。」
「出たら俺が捕まえてやる!」
「アホかおまえ。『幻影卿』捕まえるにゃ、魔法使いが仲間にいねぇとムリだぞ。」
「そんなモン、やってみなけりゃわかんねぇだろ!」

 訳がわからないまま聞いているあたしの隣で、空の皿やコップを積み上げて回収したおねーさんが、ふっと笑って言った。

「まあみんな、ほどほどにやられてくるといいわ。」

 『傭兵ギルド』の一員のくせに賞金首の味方をするのか、と大ブーイングが起こったが、おねーさんは動じない。

「『幻影卿』はすてきな大怪盗よ。盗む相手は悪人だけ。貧しい人たちに富をわけ、誰も殺さず、傷つけようともしない。
 しかも騒ぎを起こすお詫びとして、舞台となった街の人たちにはみごとな幻影を見せて楽しませてくれる紳士。
 そんな彼と、彼の首にかかった高額賞金目当てのひとたちじゃ、どちらを応援するかなんて決まってるでしょ?」

 にっこり笑う顔は大迫力で、先まで「かならず捕まえてやる!」と息巻いていた男たちは、「俺たちはべつに悪人を守ろうとしてるわけじゃ」ともごもご言いながら視線をそらした。
 おねーさんすげー。
 そして解説ありがとうございます。

 なんとも、お約束満載(まんさい)の世界だなぁ・・・

 のんびり感心していると、おねーさんは「二階のお部屋の支度ができましたので、いつでもどうぞ」と言って、足取りかるく厨房の奥へと戻っていった。
 レグルーザに聞くと今日はここで休むというので、まだ明るいけど一回部屋で寝てくることにした。
 いっぱい食べてちょっと疲れたから、お昼寝。

 レグルーザはまだしばらくここにいるというので、わかれてひとり、二階に上がる。
 二つのベッドが置かれただけの殺風景な部屋に入ると、白魔女衣装を脱いで亜空間に放り込み、楽な服に着替えてベッドにもぐった。




 すとんと眠りに落ち、夢も見ないくらい熟睡してぱちっと目が覚めた。

 あたりは薄暗く、階下は騒がしい。
 そろそろ晩ごはんだとお腹がきゅーきゅー鳴いて教えてくれるので、また白魔女になって部屋を出た。

 今度は何を食べるかな~、と考えながら階段をおりていくと、ちょうど食堂で男達が歓声をあげるのにでくわした。
 彼らの中心にいるのは、からの杯を高々とかかげるレグルーザだ。
 ちょうど飲み比べで十二連勝したところだそうで、拍手喝采(かっさい)をあびるその姿に「なにやってんの君」とか思ったけど、まあたまには遊びたいよね。

 次は俺が挑戦する、いやおれが先だ、とにぎやかな彼らを遠巻きにカウンター席へ座り、奥のおねーさんに隣のおっちゃんが食べてるのと同じのくださいなと頼んだ。
 そうしてありついた晩ごはんをまたおいしくいただいていると、ふと耳元でしゃりんと涼やかな音がして。

 ふわりと幻想的な輝きをまとってあらわれたのは、白金の美女。

《 (うたげ)か。 》

 お酒の匂いにつられて人型になったと思しき、[幻月(げんげつ)の杖]に宿る月の精霊。
 ああ、こんなところで出てきたら・・・

「うおおぉぉぉぉ!」
「すげー美人!」
「一杯いかがっすかー!」

 むさくるしい男の群れの中に、いきなりこんな美女が登場すりゃそうなるわなー。
 と、納得の勢いであれよあれよと取り巻かれつつ、ゆったりとした足取りでなぜかレグルーザの前に座るルナねーさん。

 え。なに、挑戦するの?
 大トラvs月の精霊の飲み比べ?

 ・・・・・・うーむ。
 十二連勝後のレグルーザが不利かな。

 頭の中でルナの勝利に魚のフライ一個を賭けたところで、勝負開始。


「『双剣の狼(ハーディン)』の誉れに乾杯!」


 『傭兵ギルド』式の合図が叫ばれ、レグルーザとルナが酒杯を傾けた。



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