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第四話「闇討ち決定。」



 後悔先に立たず。
 どれだけ悔やんでも時間は巻き戻せない。


 ならば隠して誤魔化して目指せ「ただの人」!
 殺されてたまるか。
 捕まってたまるか。
 そもそも生きてきた年数がそのまま経験(キャリア)なんだから、「ただの人」でいるのは簡単!


 あたしは数分間の混乱の後、そう結論した。
 それほど難しいことじゃないはずだ。
 実際、あたしは義妹と違って本当に「ただの人」。
 これからだってそのつもりだったから、きっと大丈夫。










 うっかり“闇”を使わなければ。









 ・・・・・・気をつけよう。










「お姉ちゃん?どこにいるの?」


 心細げな天音の声が、“表”から聞こえてはっとする。
 慌てて“裏側”から“表”の人目につかないところへ戻り、【目覚めの泉】を取り巻いている人々の隙間をすり抜けて天音のそばへ行く。
 これは天音の義姉をやっていると必然的に身につく、基本技能(スキル)だ。


「ごめんねー。まぶしかったからちょっと後ろに下がってたの。」
「まぶしかった?」
「すごい光だったよー。ところで、無事に終わったの?」
「うん。」


 天音はほんわりと微笑んでうなずいた。


「すっごく綺麗な女神さまがね、天の加護を与えますって言ってくれてね。仲間を集めて、きっと魔王を討ち滅ぼしてくださいって。」


 単純で純真な異世界の少女に、どこまで根深くこの厄介事を背負わせる気か。
 それでなくとも日本人は権威(おかみ)に弱いというのに。

 顔をしかめたあたしに気づかず、天音はきゅっと抱きついてくる。


「お姉ちゃん、わたし、がんばるね。この世界の人も、お姉ちゃんも、きっと守るから。」


 もとから超人だった天音は、「勇者」として能力補正とかその女神とかいうのから与えられた「天の加護」とかで、もっと超人になっていることだろう。
 そのへんのザコなんか、きっと足元にもおよばない。

 が。




 この優しい少女を「勇者」に仕立てたこの世界と、今すぐ家に連れ帰ってやれない自分を呪いたくなった。




 ・・・こうなったらもう、絶対に王様を闇討ちしてやる。
 元の世界へ帰る一分前くらいに。
 瞬殺で。

 天音に抱きつかれながら決意しているあたしに、王子が言った。


「では、リオさまもどうぞ。」
「・・・は?」


 すぐには意味がわからず、間の抜けた声で聞き返す。
 王子はあたしも【目覚めの泉】へ入らせようとしていた。


「あれほどの光を顕現(けんげん)なさったアマネさまの姉上でいらっしゃるリオさまなら、きっと何かの力がおありになるはずです。」
「いやー。それは無いだろうね。姉って言っても義理のだから。あたしら血のつながり無いのよ。」


 ああ、という納得顔で王子はうなずいた。
 そうだろう。
 まったく似てないからね。


「お姉ちゃんはお姉ちゃんよ!」


 なんか変なところで天音が怒っている。
 わかってるよ。君はあたしの超人な妹だ。
 ぽんぽんと頭をなでてやってそれをなだめながら、王子に言った。


「だからあたしはいーわ。それより王様が待ってるんじゃないの?天音のカクセーも終わったんだし。早よー行こ。」


 お姉ちゃんも入ってみればいいのに、と不満顔の天音を連れ、あっさりと同意した王子について歩いていく。




 いや、お姉ちゃんはもういいから。
 なんか黒いの使えるようになっちゃったから。
 【目覚めの泉】に入って、もしそれがバレちゃったら困ったことになりそうだしね?




 もちろん正直にそう言うことなどできず、石造りの神殿を出て回廊で結ばれた先にある豪奢な城へ向かった。


 あたしは田舎者のおのぼりさんのごとくきょろきょろと辺りを見回し、どうも視覚が変質しているようだ、と遅まきながら気づいた。
 あれが“魔力”とゆーやつだろうか。
 なんだか色付きの空気が所々に見えて、じーっと見つめていると魔法陣っぽいのや呪文っぽいのまで見えてくる。
 ・・・いや、見えても何なのかわかんないから、意味ないんだけどねー。


「陛下、勇者アマネさまと、姉君リオさまをお連れいたしました。」


 玉座に王を戴く謁見の間で、第一王子は隣に置いた天音を紹介し、ついでに後ろでぼーっとしているあたしも紹介した。


「・・・うむ。ご苦労。」


 たっぷりとした長いヒゲをたくわえた壮年の男は、城と同じように豪奢な衣装をまとって玉座から言った。
 赤い絨毯の敷かれた謁見の間はひろく、天井には華美なシャンデリアがきらきらと輝いている。


 とりあえず、生活費をたかるのにも慰謝料をぶんどるのにもためらいはなくなったな、と思う。
 そしてコイツが闇討ち相手かと、玉座の王をちらりと見て顔と体つきをしっかり記憶。
 瞬殺する前にヒゲ引っこ抜いてやろうかなと考えつつ、できるだけ気配を薄くしてつっ立っていた。


 まぁ、そんなに気にしなくても、天音がいるのだ。
 天然アイドルはどこまでいっても人々の視線と興味を一網打尽にしており、あたしの方にはかけらもこないからたぶん大丈夫。


 幼い頃から大人の相手をしてきているため、さして緊張した様子もなく堂々と王の言葉に答える天音の後ろ。
 王様の姿を記憶し終わってヒマなあたしが、その謁見が終わるまでしたのは、あくびを我慢することだけだった。



 舞台とか人物の描写がすごくてきとうですが、この先もこんな感じです。いちおう、イメージは中世ヨーロッパ。


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