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第二十話「スライムの前に。」


 お昼頃に戻ってきたレグルーザと一緒に、部屋でごはんを食べた。

 あたしは野菜のスープだけ飲んで、お腹がすいているらしいレグルーザが大量の肉料理をたいらげていくそばで、ごろごろしていた。


「静かだねー・・・」


 つぶやくと、レグルーザがぽふぽふと無言で頭を撫でてくれた。



 うう。

 泣きそー・・・



 元の世界で、あたしはひとりでいることが多かった。

 ひとりじゃないときは、だいたい天音狙いの人間に囲まれていたので、うっとーしくて早くひとりになりたいと思っていた。

 話す相手は天音やおかーさんやおとーさんがいたから、もうじゅうぶんだった。

 (あの人たち、キャラが濃いんだよー・・・。)


 だから。

 こんなふうに誰かと一緒にいて、いきなりもう会えないだろう別れに直面するなんて、両親の死以来、久しぶりのことだった。


 やんちゃで手のかかる子だったけど、とてもにぎやかだったぶん、いなくなって戻ってきたその静寂がこたえた。


 新しい家族の超人ぶりに振り回されて、いつの間にか忘れてたけど。



 そうだ。

 いないって、さびしいんだ。





 食事を終えると、レグルーザはまるまっているあたし(いちおう泣いてない)に、王都を出なければならなくなった、と言った。

 そしてあたしは、今回の事の顛末を聞いた。



 昨夜、優秀な傭兵を十数人集めての大がかりな作戦で、レグルーザたちは奴隷商人のオークションを一網打尽にした。

 捕えられていた獣人(シェイプシフター)は、無事救出。

 (ケガも無くて元気だったらしい。良かったねー。)

 しかし、そこには目的のひと以外の獣人も(しかもトラじゃない違う種族)捕えられていて、「これは人間と獣人の間で結ばれている条約への、重大な違反である」とかいう難しい話になったらしい。

 里の応援で来たという二人の獣人のうち、一人はもともとそーゆーのを人間に言うつもりで来ていたようで、救出劇の後、傭兵たちが捕まえた奴隷商人を引き取りに来た騎士団と、激しい議論になった。


 レグルーザはまず救出した同族のひとを安全な場所に保護し、彼をもう一人の応援のひとに任せて現場の様子を見に戻った。

 そこで捕縛された商人の一人からあたしたちのことを言われ、慌てて宿へ戻ってきたらしい。



 忙しかったねー。


 とりあえず二人とも無事だったので、ついでにラルアークを連れて行って同族のひとたちに引き渡し、また現場の様子を見に行って問題ないか確認してきた、とのこと。


 そんな状況なら、急いでラルアークを引き渡さなくてもよかったんじゃないの、と言ったら、あまりぐずぐずしていると厄介なことに巻き込まれる、という返事。

 レグルーザは帰るべき里を持たない獣人の傭兵としてかなり名が通っているらしく、騎士団と里のひとの議論に中立者として立ち合ってくれないか、というようなことをちらっと言われたらしい。


 なるほど。

 まごうことなき厄介事。


 そもそも里を持たないレグルーザは、彼らの議論する“条約”には守られない存在で、話し合いの結果がどうなろうとさほど関係ない。

 ラルアークを無事に引き渡した今、彼らに協力する義務も義理も無いし、興味も無い、ということだった。



 うん。

 あたしは即座に同意した。

 君はあたしの大事な助言者(アドバイザー)

 横取りされちゃたまらない。

 巻き込まれる前に、早よー行こ。





 レグルーザは『傭兵ギルド』の方にまだ用事があるのと、準備があるとかで、明日の朝に王都を出ることになった。


 忙しそうなレグルーザをいってらっしゃーいと見送った後、あたしは何もする気が起きなかったので、部屋でごろごろしながら【忘れられた禁書庫】の本を読んで、夜になると営業中のカジノをのぞいた。

 年齢制限でひっかかるかと思ったが、意外とすんなり入らせてもらえた。

 東洋人は若く見られるとよく聞くんだけど。

 あたしって、老けて見えるんだろーか・・・


 ・・・まあ、いいや。

 顔は変わらん。


 イカサマなしでべらぼうに強い人がいたので、ほほーと見物しながら違うテーブルで楽しく遊ばせてもらう。

 高級宿のカジノだけあって、使っているカードの絵柄がなかなか綺麗なので、見ているだけでもわりと満足だ。

 それでも勝ったり負けたりして、持ち金はちょびっと増えた。


 しばらく後、帰って来たレグルーザはあたしが部屋にいないことに気づいて探したらしく、カジノの真ん中で「こんなところで何をしている」と低い声で脅すように叱られ、襟首をつかまれて回収された。


 君はあたしのお父さんか。







 〈異世界十八日目〉







 宿を出て、レグルーザの騎獣が預けられているという『傭兵ギルド』の獣舎へ行く。

 徒歩での移動に何の疑問も持っていなかったので、途中、レグルーザから「馬車を使えなくてすまない」と謝られた時には、意味がよくわからなかった。


 馬車はバスみたいな交通機関で、国がやってるのもあれば、個人がやってるのもあるらしい。

 けれど、獣人はだいたいどの馬車でも、「馬が怯えるから」という理由で乗車を拒否される、ということがよくあるそうで。

 レグルーザを見て馬が怯えるというのは理解できたが、馬が平然としている草食系の獣人まで同じような理由で拒否されるというのだから、つまりは差別だ。

 そういうのがたくさんあるから、獣人が人間の街に来る時は、人の姿に変身して来るのが当たり前。

 そりゃー見かけんわ。



 でも、あれ?

 不思議に思ったあたしは、じゃあなんでラルアークとレグルーザは人型っぽい獣なの、と率直に訊いてみた。


 そしたら、ラルアークの理由は簡単。

 幼すぎてまだ完全な人の姿に変身できないから。

 (どうもこの世界の獣人は、獣の姿の方が基本形みたいだ。)


 レグルーザの方は、「俺は昔からこの姿だ」のひとこと。

 それ以上は言いたくなさそうだったので、うなずいて了解した。





 『傭兵ギルド』の獣舎はけっこー遠くて、あたしの足でマジメに歩いて行くと日が暮れそうだということになり(足が短くってごめんよー)、レグルーザに運んでもらった。

 黒い縞の入った銀色の毛並みにおおわれた、たくましい腕。

 その腕一本で、幼児がお父さんに抱かれるように持ち上げられた時は、なんともいえない複雑な気分になった。


 なんかあたし、ほんとに子どもみたいだよー・・・


 重いでしょ、ごめんね、といちおう言ってみたら、俺の槍よりも軽いから気にしないでいい、と答えられた。

 それってどんな槍よ?という話から、王都を出て向かう予定の街の話を聞く。


 レグルーザがこれから行こうとしているのは、イグゼクス王国の南部にある山あいの街で、近くに良質な鉱石が採れる鉱山があるため、鉱夫と鍛冶師が多く暮らすところなのだという。

 そこで今、レグルーザはいつも使っている愛用の槍を、修理に出しているのだとか。

 王都脱出のついでに、もうそろそろ修理を終えているはずの槍を取りに行くつもりらしい。


 事後承諾のような形になったがかまわないか、と訊かれたので、いいよーと答えた。

 召喚陣は送還できそうにないとか、前に召喚されてた二人の勇者の末路はかなりの予想外だったとか。

 すぐに帰れる見込みがなくなってきたので、そろそろ本格的に、この世界で身を守る術を整えなければならないと思っていたのだ。

 何かいい武器があれば調達しておきたい。



 そんな話をしている間に、街並みからだいぶ離れた場所にある獣舎へ着いた。

 レグルーザは馬とか犬?(馬と同じくらいおおきい)とかがいる木造の建物の前をいくつも通り過ぎて、奥の方にある草原のようなところを見おろす高台へ立った。


 そして、そーいえばどんな動物なのか聞いてなかったなー、と思っていたあたしを地面に下ろすと、緑の草原のなかで白く輝く一点を示して言った。



「リオ。あれが俺の騎獣、ホワイト・ドラゴンだ。」





 ドラゴンきた。


 スライムの前に。





 ファンタジーに必須の要素、第二弾。ようやく出てきました。『神槍』レグルーザはホワイト・ドラゴンまで所有する、わりとすごいひとなんです。が。お隣のリオちゃんはまったくおかまいなし。マイペースに我が道を行っちゃうので、レグルーザの方が振り回され気味。

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