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この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

イケメン憎しの劣怒男または怨鬼ブサイガンの冒険 

作者:海老
物事が上手く運ばない怒りにまかせてやった

 俺のコンプレックスは美形に産まれなかったことだ。
 イケメンという言葉が憎い。
 お前はイケてるメンズ。
 俺はキモいメンズ。
 何がメンズだ馬鹿野郎。メンスの匂い嗅ぎ分けっぞ。


 今年も蒸し暑い梅雨が始まった。
 濃い草いきれと、飛び交う蟲たちの季節だ。
 しとしとと降りしきる小雨が、肌に当たり冷たい。だけど、蒸し暑さは失せない。
 愛華は走っている。
 長い長い廊下を走っている。
 なんでこんなことになったのか。
 息を切らせて走る学舎の廊下。
 一体どれだけの距離を走っただろうか。
 外の景色は小雨が覆い隠していて、見慣れ学校の廊下はまっすぐに延々と続いている。
「まってぇ、まってぇ」
 後ろから聞こえる声は、この廊下に愛華を追い込んだ存在だ。
 愛華は走る、アレに捕まったらどんな目にあうか。
 走らないと。
「無駄だよぉ」
 と、壁から声がした。
「うるっ、さいっ」
 壁に埋まった女子生徒はへらへらと笑う。蔑みとも羨望とも取れない、壊れた笑みだ。
 この長い廊下はどこまで続くのだろう。
 小泉愛華は目立つ女子生徒だった。
 高校生には見えない大人びた美形。
 俗に言うギャルに分類される生徒で、学校内での序列では一握りの最上層にいる。
 だから、こんな目に合う意味が分からない。
「まってぇ、まってぇ」
「誰が、待つかっ。キモ松っ、こんなことしてダダじゃおかねえからなっ」
 背後に叫ぶと呼吸が乱れて咳きこみそうになる。
 長い長い終わりの無い廊下。
 後ろから迫ってくるのは、
 小松ノブオ。通称キモ松。
 チビのオタク。空気が読めないアホで、オタク共からも避けられているクズ男。
 キモい絵ばっかかいてるオタクで、愛華をモデルに描かせたらアニメ風にしたから、裸で走らせて泣かせたキモ男だ。
 男連中には手を出させないようにして、愛華のグループで奴隷にしていた。
「ひひひ、小泉愛華さーん。ぼくは、キミが好きだ。大好きなんだ。なのはちゃんとフェイトちゃん以上の女性はキミだけなんだ」
 誰だよっそれ。どうせアニメキャラだろ。
 愛華は言いたかったけど我慢した。声は存外に近いところから聞こえていたからだ。
 走る。走る。
 キモ松だけにはヤらせない。
「無理だってぇ」
「エリっ、うっせぇ」
 壁にはめ込まれて動けない友達のエリ。ズッ友って言ってただろ馬鹿女っ。
 愛華のグループにいた女たちは壁に埋め込まれていて、虚ろな顔で壊れていた。大股開きにさせられていて、足の付け根にはなめくじのようなものが這っていた。
 あああ、犯されたんだ。キモ松にやられたらああなる。
 嫌だ。
 嫌だ。
 足が動かない。
 動いて。
 動いて。
「小泉さん、ぼくはこんなにキミが大好きなんだ」
 その場にへたりこんで、振り向いた愛華はキモ松を見た。
「ひっ、くんなっ、くんなっ」
 身長150センチのキモ松は、今や身長2メートル。
 その体は人型だけど、なめくじのような質感で、粘液を垂らして迫ってくる。その股間にそそり立つ男根だけは、エロ動画で見たビビるような巨根に勝るとも劣らない。
 頭だけは、アンバランスにも人のままで、キモ松の情けない顔が張り付いている。
「あの日、ぼくにご褒美だっていってパンツ見せてくれたよね。それから、臭いも嗅がせてくれた。その後でなめくじを食べさせられたけど、あれは愛情表現ってボクは分かってるんだ」
 あれはイジメだ。そんな感情は無い。
「ゆ、許して、お願い。だから来ないで」
 ああ、あの時もこんな小雨が降っていた。
 暑くてイライラしてたから、そんなことをしたんだ。
「許してほしいのはぼくだよ。お互いを分かり合う時間はたっぷりあるから、たくさんお話しよう」
「く、くるなっ」
 蠕動するキモ松の指は巨大ななめくじで、触覚が愛華を見る。
 大きな破裂音が鳴った。
 キモ松の腕が弾けて飛び散る。
 愛華の顔にかかったそれは、小さななめくじで、悲鳴を上げて振り払う。
「誰だっ」
「ふぅぅぅ、面倒な結界張ってくれたせいで、遅刻しちまった」
 足元はゴム底がリノリウムの床を踏みしめるキュッという音だった。
 愛華は声を出せない。
 そこにいたのは、拳銃を持った男だ。
 夏だというのに分厚いレインコートを着ていて、顔にはガスマスク。
「なんだお前は」
「俺の名は」
 ガスマスクの男は言いながら拳銃の引き金を引いた。オートマチックの銃は轟音を響かせて鉛玉を射出。そして、キモ松の顔面に吸い込まれた。
劣怒男レッドマンだ。覚えとけ」
「ひ、ひっ、な、な、なに、あんた、なに」
 レッドマンと名乗った怪人は、愛華に銃を向けた。
「劣怒男だ。お前を助けるかどうか決める。イケメンとキモメン、イケメンが好きなのは仕方ない。だが、ブサイクにも生きる希望はあると思うか?」
「あ、ある。あるある、あるよ。男は顔じゃないから」
 愛華のそれはご機嫌取りだ。
「ふぅぅぅぅ、いいか、俺は嘘つきと口の臭いヤツと動物や子供好き以外をロクデナシ扱いする女が大嫌いだ。お前はどっちだ。金のあるブサイクと、金の無いイケメンどっちを選ぶ」
「金っ、金ええぇ。金無いと無理」
「よし、お前は正直者だ。だけど、金があるイケメンと金があるブサイクならどうだ」
 レッドマンはしゃがみこんで拳銃を愛華の額に突き付ける。
「ひ、ひいい」
「さあ、答えろ。五秒だ。いくぞ、いぃち、にぃぃぃ」
「イケメンだよっ。金があったらイケメンっ。それで性格よかったら最高っ」
「おいいいいい。ブサイクは性格審査は除外かっ」
 レッドマンは怒り狂ったが、銃口を離して立ち上がる。
「クソッタレめ。ブザイクは生きるためのハードルが高すぎる」
「ひっひぃぃ、で、でも、そういうの好きなコもいるからっ」
「どんなっ」
 首だけを曲げてガスマスクが愛華を見つめる。
「三組の水谷さんとか、ゴリマッチョがいいって」
「おうっ、ファッキン、今から目指すのはマッチョか。いいこと教えてくれたぜ。お前は生かしてやる」
 レッドマンは銃口を壁に向けた。
 壁に埋め込まれたエリカが小さく悲鳴。でも、すぐに笑顔に変わった。
「撃って。もうこんなのイヤだから、撃って」
「そう言われると撃つ気をなくすぜ。いいか、俺はヒーローなんて好きでやってねえし、ヒーローでもねえ。どっちかっつーと悪役だ、分かるか?」
 何を言っているんだ、コイツは。
 化け物になったキモ松の次はキ●ガイだ。
「いいから撃ってよ。こんなのもうやだあああああ」
 エリカが叫ぶ。
「俺もやだああああああああああああああああああああ」
 負けじとレッドマンも叫ぶ。
 愛華はへたりこんだまま後ろに下がる。何をされるか分かったもんじゃない。
「おかあさん、もうやだぁ、おかあさんたすけて」
「お前はお母さんがいるのか」
「おかあさあああああん」
「そうか。仕方ねえなあもうっ。いいかあ、お前の身体から劣怨菜レオナを抜いてやる。失敗したら死ぬけど恨むなよ」
 レッドマンは手袋を外すとエリカの股座を開く。
「やだっやだあああ」
「別にレイプする訳じゃねえっ。俺は愛のあるセックス以外は認めないんだ。いいか、男ってのは心だ。ブサイクはみんなレイプ魔だと決めつけるのは女のイヤな所だぞ」
 レッドマンの手が動いて、エリカの大切な所から引き抜かれた。
 その手には、小さな人参のようなものが握られていた。
「これは劣怨菜レオナ。怨心獣や怨心鬼が強くなるために喰う劣怨魔界レオマカイの植物だ。よかったな、こいつが育ってたら人間畑にされてたところだ。これをどうするかって? 決まってる家に帰ってからバター焼きにして食うんだ。おい、聞いてんのか?」
 エリカは白目を剥いて気絶していた。
 レッドマンはふんと鼻で笑うと、愛華に近寄って髪の毛を掴んで立ちあがらせた。
「で、お前はコイツにやられたのか?」
「やられてないっ、やられてないから」
「あー、嘘言うなよ。あいつに畑にされてたら、あいつと同じバケモノになるぞ。別に俺は困らないけどな。次は俺みたいな優しいのが来るとは限らねえ」
「や、やだ、殺さないで」
「男は顔じゃねえ、いいな。忘れたらお前に鉛玉喰らわすぞ」
 レッドマンは愛華を離すと、壁に埋め込まれた他の女たちの頭を銃で撃ちぬいた。そして、エリカにしたのと同じように劣怨菜を取り出していく。
「五つか。まあまあだな」
 レッドマンは少し楽しそうに言う。
 愛華は過呼吸になりそうになりながら、それを見ていた。
 腰が抜けて動けない。
「よし、もういいや。じゃあな」
「ま、待って、ここから、出られない」
「結界の中だからな。俺は術を使えるから出られるが、お前は出られない」
「い、いや、助けて」
「ああ? 財布出せ」
「へ」
「ふうううう、金さ。マネーだよ」
 ポケットにある財布を出すと、レッドマンはひったくって中から札だけを抜いて愛華に返した。
「八千円……。おい、お前の命の値段だ」
「それはボクの金だああああああ」
 その声は、倒れていたキモ松が発したものだ。
 跳ねるように立ちあがったキモ松はなめくじで出来た肉体でレッドマンに肉薄する。そして、その腹にパンチを一発。
「ぎぇっ」
 変な悲鳴を上げてレッドマンはその体を吹っ飛ばされる。
「くそくそくそくそ、なんだあいつ。ぼくの邪魔してえぇぇ。小泉愛華さん、好きだ。こここでぼくと一つになろう」
「ひっ、ひいい、た、助けて、誰かっ、誰か」
 キモ松の顔は、半分がなめくじと化していた。銃弾にえぐらたれ部分が、大きくて七色に輝くなめくじに変わっているのだ。
「無理さ。さあ、ぼくを作ったのはキミだよ。行こう、ぼくらの魔界へ」
「いてえだろおおおおがああああああ」
 声と共に一瞬で戻って来たのはレッドマンだ。
 人間を越えた速度でキモ松の懐に飛び込むと、腹にキック。そして、隠し持っていたらしい釘抜き付きのハンマーを顔面に叩きつける。
「クソ雑魚があっ、俺の顔がっ、もっとブサイクになったらどうしてくれんだよ。お前は畑にしようと思ってたけどもういい。手前は今ここで死ね」
「貴様、人間じゃないのか」
「今更気づいてんじゃねえぞクソカスレイプ魔がっ。オラっ、死ねや」
 至近距離で拳銃が火を噴く。
 またしても頭を吹き飛ばされたキモ松はよろめいた。そして、レッドマンは同じように膝を撃ち抜いて、ひざまづかせる。
「いただきます」
 レッドマンは手を合わせて言うと、キモ松の頭に手を突っ込んだ。そして、取り出したのはキラキラと輝く芋蟲だ。ガスマスクの口元が怪物めいた口へと変化して、それを放り込む。
 牙だらけの口が芋虫を咀嚼する音が響いた。
「ふうううう、クソ不味い。おいっ、そこの陰険ギャル、親御さんにはナイショだぜ?」
 愛華が何か言う前に、壁が、床が、どろどろと腐るように崩れていく。
 レッドマンは背を向けて歩き出す。



 警察の人がやって来て愛華は保護された。
 生きていたのは病院へ搬送されるエリカと、愛華だけ。
 愛華のグループにいたギャルたちはみんな頭を銃で撃ち抜かれて死んでいて、キモ松の死体は怪物のままだった。
 警察に連れていかれて、シャワーを浴びさせてもらった後にやって来たのは、和服を着た少女と婦人警官。
「何を見ましたか?」
 和服の少女はまるでお人形さんみたいなのに、声だけは大人だった。
「なにって……」
 あんなこと言ったらおかしくなったと思われる。
「魔界の者を倒した者のことを教えて下さい」
 婦人警官は黙っていて、愛華は全てをそのまま話した。
 もう限界だったのだ。あれは一体なんなのか。何もかもが狂っていて、分からない。







 変身するのはいいんだけど、衣装は自前だ。
 物陰で着替えている今が一番シマらない瞬間だ。
 ハロー、俺はレッドマン。
 人間ネームは坂本涼介。
 どこにでもいる高校二十年生。
 ひょんなことからコンプレックスを刺激して魔物に変化させる劣怨魔界の奴らと関わって、それ以来戦いの日々を余儀なくされている男さ。
『お前、また勝手にやりよったな』
 俺の肩にのって、耳元で叫ぶのは小さな弁天様。名前はそのまま弁天。
 俺にしか見えなくて物理干渉もできないけど、色々と助けてくれる俺のマスコットさ。
『誰がマスコットや。アホンダラ』
 ふううう、関西弁の女って性的に興奮するけど、弁天オナホールは出来ないんだ。
『うわっ、その発想キモいしコワい』
「そう言うなよ。美少女フィギュアで体の一部が硬くなるなんて日常茶飯事さ。お前のUSBスロット、限界まで拡張してやろうか?」
『最低』
「へへへ、だけどな、今日の怨心鬼はぶっ殺したぞ。怨蟲も食ったしな。これでまた強くなった」
『……お前、人間に戻るつもりやないんか?』
「そんなもん無理に決まってんだろ。今更どうしろってんだよ」
 ガスマスクは体の中に収納されて、その素顔が明らかになる。
 ブサイクだ。
 なんというか、顔が悪い。かといって突き抜けてもいなし、どこにでもいる程度のブサイクである。
『お前、ほんまにヒーローも悪役もでけん顔しとるな。ビーバップってほど怖くもないし、ああブサイクに産まれてんなっていう』
「弁天ちゃん、だから俺は努力してカッコイイキャラ付けしてるんだぜ?」
『やめとき、ほんま。痛々しいから、な』
「ふううう、こればっかりはイケメンに負けないとこ見せてやる」
『イケメンはそんなんせえへんからイケメンやねん。自分に自信無さすぎるやろ』
「そんなことないっ」
『うわっ、キレ方めんどくさ』
 レインコートは鞄に詰めて、どこにでもいる学ランのブサイク少年の出来上がりだ。
「そんなこと、無いんだっ」
『あ、ごめん。でも、普通にしてたらいつか彼女できるって』
「この年頃の女は、中身なんか見ないっ。……見ないんだよ」
『その感じはカッコイイけど、内容は最低やな』
「いつまで、いつまで俺は十七歳を続けたらいいんだ」
『人間戻るために怨鬼を殺そう、な。いつかいける。いつか、多分』
 始まりは十七歳の夏の日だ。
 いつも、思い出す。
 忘れたことは無い。



 珍獣だって恋をする。
 里中美津子さんに、俺は告白した。もちろん、体育館の裏でだ。
 ごく普通にふられたらよかったのに、里中さんは俺を指差してゲラゲラ笑いながら「マジでウケるんですけどー」と叫んだ。
 イケメン共よ、想像できるか。
 普通にごめんなさい、好きな人いるから。とか言ってくれたらいいのに、それだぜ?
「あんたみたいなブサイクは無理無理。銅気くんがいるのに、あんたなんか目に入らないって」
 俺の中で絶望とか怒りとか劣等感とかが爆発したんだ。
 その時、魔界の扉が開いた。
 今でも覚えている。
『力が欲しいか……。憎いイケメンを根絶やしにする力が』
 立ちつくしたまま、蝉の声が響き渡り、二つ折りの携帯電話で友達に「マジキモかったよ」とか言いながら去っていく里中美津子さんの後ろ姿。
 俺はその声に応えた。
「欲しいっ」
『よかろう。貴様の劣等感は我ら劣怨魔界の戦士になるに相応しい』
 虚空から現れたのは蟲だ。
 そいつは俺の右目を突き破って体内に侵入する。
 肉体の変異により、俺は怨敵イケメンを殲滅するための怨鬼へと転生したのだ。
『はははは人間界からイケメンを根絶やしにせよ、貴様は今から怨鬼ブサイガンと名乗るがいい』
 憎しみに支配された俺は、同級生でザニーズ事務所に所属している新進気鋭のアイドル銅気どうき鋼一こういちを殺害するため校舎へ向かおうとした。
 その後は里中だ。
 レイプしてぶっ殺してやる。
 そう思った時、向こうから銅気鋼一が近づいてくる。
「まさか、この学校で怨鬼が現れるなんて」
「イケメエエエン、てめえのせいでええぇぇぇ、ブサイクの怒りを受けろ」
 俺は肉体を変質させた。
 ブサイクな顔をさらに醜悪な化物に変えて、キレイな顔をぶっ壊すべくパンチを繰り出す。
 銅気はその一撃を無防備に受けて、フェンス体育館の壁に激突した。
「へへへ、もっと楽しんで殺せばよかったぜ」
「キミの恨みはそれで晴れたか」
「なっ、まだ生きてやがんのか」
 銅気は立ち上がる。血まみれだというのに、そのイケメンぶりは衰えてもいない。むしろ、ワイルドさが加わっている。
「人の美醜は顔形だけではないっ」
「うるせえっ、お前に何が分かるっ」
 そうだ。お前らは心まで清く生きていける。だが、俺のようなブサイク者に、女子はっ、世界は、あまりにも厳しい。
「分からない。だけど、キミが間違っていることだけは分かる」
 この瞬間。俺は灼熱の憎しみを得た。
 装甲は紅く染まり、力がふつふつとわき立つ。憎悪と嫉妬の力だ。
「もういい、俺は人間なんてやめてやる。俺は怨鬼ブサイガンだ」
 凄まじい怨念は、俺に力の使い方を教えてくれた。
 全身を怪物と化した俺は、その両手に憎しみの剣を生成して、銅気に迫った。
「キミの憎しみだけを、僕は斬る。変身ッ」
 あまりにも眩しい輝きが銅気より放たれた。
「なっ、なんだこの暖かい光は」
「パンドラの箱に最後に残った希望の光だっ。怨鬼ブサイガンっ」
 光が止むと同時に現れたのは、白銀に輝く装甲に覆われた戦士だった。
「な、何者」
「希神装甲エルピセス、ここに参上。キミの哀しみを封印する」
 分かる。
 こいつは敵だ。イケメンに加えて、変身ヒーローだと。許せるものか。
「しゃあああああ」
 憎しみの剣で斬りかかれば、エルピセスは光り輝く剣で受け止める。
「気に入らんぞっ、イケメンがぁっ」
「顔の形だけで人は決まらない」
「決まるぞっ、エルピセスぅっ」
 体が剣の使い方を教えてくれる。
 俺たちは斬りあった。互いの身体に刃が通り、火花が散った。
 痛みは憎しみをさらに激しくさせる。
「キミを愛する者はいるっ」
「おらんわぁっ、誰が俺を愛するというのだ。これほどの醜さを持っていて、そのような者がっ」
「いるさ。僕がキミの友達になって証明してみせるっ」
「ふざけるなっ。お前たちイケメンはイケメンとだけつるむ。そしてぇっ、俺たちを見下すのだ」
「僕は友達をそんなことで選ばない」
「ははははは、ならば、どうして怨鬼の俺を友としようというのだ」
「あまりにも、キミが、怨鬼ブサイガン、キミが哀しいからだ」
「抜かせえぇぇぇぇ」
 憎しみの剣がエルピセスの腹を切り裂いた。一際強く火花が散る。
「とうっ」
 距離を取るエルピセス。
「どうした、それが友達の距離か?」
 俺に満ちる力は、この世のブサイクたちの憎しみだ。
 分かる。ありとあらゆるブサイクに産まれた者たちの怨念が俺の力となる。
 恋愛弱者たちの憎しみこそが、俺の力だ。
「怨鬼ブサイガン、人は誰しも希望を持っている。キミの中にもあるはずだ」
「そんなものは捨てた。エルピセス、お前のおかげでな」
「ならば、呼び起こそう。この一撃に遍く世にある希望をのせて」
 そうか、決着の時か。
「ならば、俺はこの刃に世界に満ちる憎悪を込める。ブサイク共よ、俺こそがお前たちの希望となろう。オオオオオオオ」
 力が満ちる。
 感じるぞ。
 この世で尽きぬ怒りを持つ者たちの怨嗟を。
 顔だけで悩み、憎み、苦しんだ者たちの怨念が。
「怨鬼ブサイガンの渾身の一撃を見よ。怨念良顔滅殺剣ジェラシーソニックブレード
 憎しみで巨大化した剣を一閃。
 剣から放たれた憎しみの刃は虚空を斬り裂いて飛ぶ。
「キミの憎しみは、僕と、そして人の良き思いで斬る。僕の剣に名前は無い。それは、希望そのものだからだ。いけえええええ」
 その光はあまりにも暖かかった。
 俺の憎しみは光に飲み込まれて霧散し、視界を埋め尽くす光は俺を焼く。
「やっぱりイケメンにゃ勝てなかったかよ。悪い夢、いや、いい夢だったぜ」
 俺の肉体を構成していた怨鬼装甲が爆ぜた。
 そして……。
 目を開けて最初に見えたのは白い天井だ。
「ここは……」
「保健室だよ、坂本くん」
「エルピセス、いや、銅気鋼一」
 爽やかに微笑むイケメンがいた。
「どうして、俺は」
「キミの怨念だけを斬った。友達になるって約束しただろ」
「なんでだっ。俺は、お前を殺そうと」
「だけど、坂本くんは人質を取ることもできたのに、一人で正々堂々戦った。キミは憎しみだけの人じゃない」
 あの時、逃げることもできた。だけど、俺の力となったブサイクたちの想いを背負った時、俺は逃げることをやめた。
 くそっ、イケメンめ。それを理解したってのかよ。
「キミは自分の意思で怨鬼となった。だから、完全には人に戻せなかった。だけど、キミが道を誤るとは思えない」
「そ、そんなんじゃねえ」
「誇り高いからさ。剣を交えたら分かる。ね、手をグーにして」
 言われるままに握り拳を作ると、銅気も握り拳を作って、拳と拳をこつんとやった。
「これで、もう友達だよ。涼介」
「銅気、お前」
「鋼一、鋼一でいいよ。友達なんだしさ」
 俺は負けた。
 やっぱりイケメンには勝てなかったよ。
 だけど、俺は涙を流した。
「怨鬼は涙を流さない」
 希望を与える戦士、エルピセス。
 それからの俺は鋼一と共に怨鬼と戦う道を選んだ。
 裏切りの怨鬼ブサイガン。いや、鋼一の名付けてくれた劣怒男レッドマンとして。




『長い回想やなあ』
「そう言うなよ。あれから二十年だぜ、たまに思い出さないとやってらんねえ」
 鋼一と違って、怨鬼の俺は年をとらない。
 家にもいられなくなって、今は怨鬼を倒したり復讐代行をして飯を食っているチンピラだ。
『鋼一に頼って正義のヒーロー組織に入れてもらおうや』
「友達にたかれるかっ。俺はそれに、汚れすぎた」
 何をしたかって?
 鋼一の代わりに汚い仕事をやって、俺たちはよく衝突した。ま、青春の殴り合いってヤツさ。
 レインコートと武器の入った鞄を背負って、俺は学校から抜け出す。
 そろそろ警察が来るころだ。
『んで、今日はどうすんねん』
「家に帰って寝るだけってのはつまんねえ、映画をレンタルだ」
『ええな、車でタイムスリップするアレ見たい。スリーがええねん、スリーが』
 何回目だよ。
 映画とヘビメタ好きの手乗り弁天とは、鋼一との共闘の後に出会った。
 特に今は思い出したくもないエピソードだ。
 隠しておいた自転車にまたがってレンタル屋に。
 色々と借りてレジ前で売ってるグミを買って、さあ帰ろうという時に、スポットライト。いや、車のハイビームに囲まれた。
「レッドマン、……涼介おじ様、迎えにきました」
「くそっ。俺はなんにもしてねえぜ、蝶子ちゃん」
 スポットライトから現れたのは和服の少女だ。
 我が親友である銅気鋼一の一人娘、銅気蝶子。
「言い訳はよろしい。お父様も怒っています。落ち着かれたらどうなのですか、おじ様」
『どないすんねん。映画見られへんやん』
「ふうぅぅぅ、鋼一に言っとけ。俺は正義の味方じゃないってな」
 久しぶりに本気の変身だ。
 怨鬼ブサイガンの姿を取って、高く高く跳ぶ。
 さっきのキモ松から得た力でこれくらいならやれる。
『……またガス欠なるぞ。ほんま頼むで』
「年頃のガキからは逃げるに限るぜ」
 俺は走り、逃げる。
 家に帰り着いたら鋼一が待っていて、二十年ぶりにエルピオスと戦うハメになるなんて、この時は思ってもいなかった。

なんだこれは

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