第二十話(最終話) 未来へのロード
〔次郎、うまく操れそうか?〕
「セロファンが言っていた通り、多少はスイッチの位置とかが変わりました。ま、使いやすくなった事に変わりはありません。あるていどの操作は把握できていますよ。あと、生命エネルギーを吸収するとだけあって、いつもよりシートと密着している感じです。」
〔そうか…何回も言うが、お前の腕に全てが懸かっているんだ。幸運を祈るぞ。〕
少年、山田次郎は、巨人の頭部にいた。アシスティングは無事終了。今は位置を整えて、Gバスターを研究所に差し込んでいる状態なので、いつ作動しても大丈夫、という状況にあった。
「残り…5分ぐらいか…」
はっきりいうと、次郎は死という物をまだうまく理解していなかった。もちろん、不安もある。人生が5分の1ほどで終わるという後悔も、消えてなんかいない。
(でも…やるしかないんだ。今更戻ることなんて…)
この時になって、ふと彼はいろいろな事を思い浮かべた。
(今まで…ほんとに色々な事があったな…その事を考えると、普通の人間の一生より…アメシストで経験したこの14年間の方が、よっぽど深いもののはずだ。もう、悔いはない。)
そして出てきたのは、様々な人の顔。
(ジョン、どうしてるかな…長く会っていないけど…僕が死んだら日本にまた来るのか…。アンモニウマン…彼は、最高のサイエンサーだ。そして博士に廉…みんな…みんな…)
その時、なぜか像が浮かんだのはセロファンだった。彼は話しかけてきた。
〔やあ、少年。〕
〔あなたは…やっぱり、僕を殺すことになるのですね。〕
〔私が君を殺す?ふざけた事を言うな。今回の件に私が関わっているとでも言うのか?〕
〔…そういう訳じゃありませんが…〕
〔思い出すことだな。〕
〔何をですか?〕
〔私が…君に言ったことをだよ。きっと役に立つはずだ。〕
そこでセロファンは消えていった。彼は次郎の想像にしか過ぎなかったのである。だが、次郎はその数秒の出来事を忘れはしなかった。
「さぁ…仕事を始めよう。」
次郎は外にいる人たちに連絡を送った。もう決心はできている。彼はグリップを握った。光の発生はかなり自動化されているらしく、ボタン一つで発射できる。
「これで終わるんだ。この世界を…守って見せる!!」
彼の指はスイッチを押した。だが、その瞬間予想もしなかった出来事が起きたのだ。
〔じ、次郎!発射を止めろ!サイエンサーだ!!〕
突然、ガギグゲゴに衝撃が加わった。しかし、時は既に遅し。光はそのまま発せられた。
「やらせはせん…やらせはせんぞぉ!!」
発生したサイエンサーは他でもない、イットリウマンであった。おそらく、基地から脱走してきたのだろう。そして彼の肩の上には、レイク・ザーズの姿が。
イットリウマンの対応は廉が受けた。ガギグゲゴが怪物に腕を向ける。
「こんな愚かな生物たちなど…死に至って当たり前ではないのかね!ええ!?」
しがみつきながらレイクは言い放す。
「私には、勝利しかありえないのだよ!!」
「そんな理想…現実にさせるかあぁぁぁ!!」
ガギグゲゴから光が発射された。イットリウマンは爆発したのだ。同時にレイクも吹き飛んだ。
「先輩、体は無事で?」
サイエンサー退治が終わると、すぐに廉が次郎のもとに駆けつけた。彼が見る限り、コックピット内の次郎の体は、セロファンの死体ほど見苦しい物ではなかった。しかし、中身は違った。
「廉…お願いがある…」
「そんなことより、早くここを出て体を…」
「だめだ…だめなんだ…光が…外れて…しまった…。だから…もう一度…」
途切れ途切れであったが、彼の言いたい事はよく廉に伝わった。
「…分かりました。先輩、今度こそ僕にやらせてください。」
「…いや…このまま…やるんだ…」
「え?」
次郎のその言葉は、廉の心臓にグサリと突き刺さった。
「そんな…そんな事したら、先輩の体はますます…」
「いいから…時間が無い…早く…!」
「……」
その時には、廉はなりゆきでガギグゲゴに乗ってしまっていた。もう、後戻りはできないのだ。彼は涙を必死にこらえながら、標準を機械へと合わした。時間もあと残りわずかしかない。
(先輩…あなたって人は…)
スイッチに指が近づいてくる。彼の後方には、ぐったりとした次郎の姿があった。
(ありがとう…僕、やっと分かったよ…。どうして先輩がここのパイロットとしてふさわしいのかを…第一話のサブタイトルの意味を…。あなたは…最高の人間だ…)
彼がふと見てみると、装置のモニターのタイマーが、秒読みに入っていた。
(終わらせてやる…終わらせてやる!!)
その瞬間、廉の指は動いた。
「射威認虞・紅羅ッ写亞あぁぁぁぁぁぁぁ!!」
あれから一時間が経った。アメシスト内の医務室では、ベッドの上に次郎が横たわっている。
「次郎の状態はどうなんだ?」
「さっきも言いましたでしょう。ゴッド・ガギグゲゴの影響のせいか、次郎君の体に見えない何か…オーラのようなものが取りまいていて、今時点だと診察ができないんだ。」
「…やっぱり…ひたすら祈るしかないのか…」
そんな中で、人一倍落ち込んでいたのは、やはり廉であった。
「…僕があの時、代わっていれば…先輩は…」
「廉、もう過ぎた事は悔やむな。大丈夫…次郎は無事だ。絶対にな。」
「…とり返しのつかないこと…取り返しのつかないことをしてしまった…僕は…」
その時であった。次郎の体が、少しばかり動いた。
「…!?」
それからはまったくの予想外の出来事であった。なんと次郎は、何事もなかったかのように起き上がったのだ。
「…えぇと…こういう時はなんて言えばいいんだ?」
「おま…次郎!!」
「先輩!!」
「みんな?」
次郎の甦りに、辺りは騒然とした。
「…どうなってんだ?」
そしてなぜか、雰囲気を壊すかのように、昔日のあの男が部屋へと走ってきた。
「…RCさん!?なぜに今!?」
「忘れたのか?前、私がメールで言っていた事を。」
「…もしかして…間に合わないかもしれないけど、一応はガギグゲゴの改良のためにロシアからわざわざ駆けつけた、とか?」
息をぜぇはぁさせながらRCは答えた。
「その通りだ。」
(僕らはヒーローなんかじゃない。どんなに社会に貢献したとしても、決してその一部が公に現れる事はない。でも、たった一ついえることができる。この世界を保っているのは、一人ではない。必ず、裏で支えている『誰か』がいる。その誰かの事を…忘れては駄目だ。)
後々になり、次郎はよくそう思う。
(僕が死ななかったのは、奇跡でも偶然でもない。僕は…信じたんだ。仲間を、そしてある男の言葉を。彼は言っていた。『君は死から遠い存在にある。』と。だから僕は…)
彼は健在であった。 |