挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
―とある姫様と領主の実記―CRAZY CONFLICT 作者:漣 出雲

第一章 †夜に昇る宴†

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

7/59



「藪から熊とはこの事ね」
「姫様、藪から棒かと思われます」


急がし忙しと、王室に似合わぬ風景が、辺り一面に広がっていた。

ベッドの上には散乱した服の山。山。山。
それほど高価な服ではないにしろ、あまりにもずさんな放り出し方。
その山の中から、せっせと必要な服を選び出しているのは、他でもない、聖レィセリオスの女王ティナ様。

一方で、共に寝具に座し、こちらも散乱した宝石少々と装飾品の類をせっせと分別をしているのはニキィ・アスタル。赤茶色の髪を肩まで切り揃え、その青い双眸を不安げにティナへ向けた彼女は、ティナと年を同じくした専属の侍女。
父が城の重役となっているので、彼女もまた幼い頃からクリスティーン家に侍女として仕える身であった。

夜も深い。
それなのに、眠る様子を全く見せないティナはニキィと共に疲労困憊していた。


それもその筈。
――魔族への輿入れが、急遽“明日”へと変更されたのだ!


「先方が、嫁ぎ出の日を早めろと仰ってきましたので」等という一大速報をカステルから突然持ちこまれたのだから、城の者一同、慌てないはずも無い。

特に当人のティナはこうしてニキィと共に、明日の出発に向けての準備をちゃくちゃくと進めているのだ。二人とも、寝巻きのままで。

「ただでさえ、魔族なんていうめっきり謎の生き物の所に嫁ぎに行くのに、それなのによ。それに加えて輿入れの日まで急に早まるなんて信じられない!明日よ?明日!!どれだけ急いで私と結婚したいわけ?!」
「ですから深夜に及んでお手伝いさせて頂いているではありませんか」
「うん、ありがとう。本当に助かるわニキィ」

ティナは手にした服を、カゴの右へ左へ飛ばす。
それを見つめている侍女は、ベッドの上の宝石類を勤しんで分別し続けた。

「宝石類は本当に置いていかれるので?」
「多分荷物になるだろうし、殆どが母上のお下がりだしね。自分が買ってもらって気に入ったのを一つ二つ持って行けば気が済むものよ」

勿体無い、と、普段あまり笑う表情を見せないニキィが微笑んだ。

ティナは、本当に装飾品に疎い。加えて、それらに対する栄華欲もない。
ともすれば、城下の庶民の娘とさして大差ないのではないか――
そんなティナの人格が、ニキィはとても好きだった。
反面、ティナが急に嫁ぎに出ると聞いた時のショックと言ったら言いようが無い。

当然と言えば当然。
婚姻の話すら突然だった上に、その親愛なる姫君の婚姻者が、人にあらず!
何が悲しくて、愛する主を死地に送りださなければいけないのか。

「大丈夫よ、ニキィ。愛馬のアナスタシアも連れて行くし――何が無くてもあの子が居れば平気だもの」

ティナはそう笑った。

「姫様、向こう方へ嫁ぎ出た後は、たまにはこちらに帰って来てくださいね。アナスタシアと共に」

不意にニキィが呟いた。
寂しさと、それから名残惜しさをこの上無く含んだ喋り方で。
ティナは下を俯きながら喋るニキィの頭にぽんと小さな掌を添えながら、寂しそうに微笑んだ。

「そうね、それが許されるなら、帰って来たい。でも、それが許されるかどうかは――あちらとの都合の兼ね合いが、」
「――ティナ様!」

バン、と扉を開く音に言葉が途切れる。
勝って知ったる姫の部屋と、慌てて入ってきたのはカステル・ジニア。

ところ構わず飛び入ってきたカステルは、息を切らすと同じに――部屋の光景に、突如数秒固まった。

無理もない。
歳若い乙女の寝巻き姿(二人分)のみならず、下着に下着、散乱の最中。

咄嗟に顔を赤らめ口で何やら弁解をもごもごと言いながら、彼は二、三歩後ずさりをした。

「いや……ご衣類の整頓中でしたか、これは、失礼を、……」
「あら。カステルが下着の山に反応してる。若いわー!」
「臣下にあるまじき反応ですね」
「姫様!!アスタル!!」
「もう、そんなに怒らないでってば――……で、どうしたの?そんな慌てちゃって」

笑い涙を指で拭いながら、ティナは、顔を真っ赤にしながらも何かを言いたそうなカステルに問い掛けた。

「先方からこのようなものが」

咳払いをしたカステルは、手元に握っていた少し大きめの封筒を、ティナに差し出す。

「先程、速達で届きました」
「先方?――ああ、私の旦那様ね」

半ばやけを含んだ引きつった表情でティナは封筒を受け取る。

彼女の頭の中からは、最早、理想の旦那像などは吹き飛んでいた。
あるのは、体中毛むくじゃらで牙をむき、服と呼べる服も着ていない、まさに猛獣とも呼び名を付けれるような形相の魔獣のイメージのみ。
ここまで衝撃続きなら、あとはもうどうにでもなれといった状態。
どんとこい魔族。どんとこい毛むくじゃら。

「開けて良いの?」
「どうぞ」

カステル・ジニアはいつも通りの落ちついた様子になり、ティナの問いに一言一言きちんと返す。

「何でしょう?」
「何だろうね……明日出発だというのに……こんな夜中に」

横から呟くニキィ。
ティナは膝元の下着の山をぱんぱんと床に払い落としながら、ぱきっと封蝋を割った。
金具を何とか外して紐止めも解き、中に弦紐で結ばれた用紙を取り出す。
入っていたのは、ゆうに十数枚はあるだろう羊皮紙の束。
それほどびっしりと書きこみがあったわけではなかったが、ティナは紐解いたそれを訝しげな表情で目を通し始めた。

先ほどまで盛りあがっていた部屋は、一転、静かな雰囲気へと変貌。

そんな中で、ティナは特技の斜読みを駆使し、ざぁっと大まかな内容を確認する。

「何か、あちらでの礼儀やら生活様式やらが細かく丁寧に書かれてる」ティナは呟く。「魔族って、夜中にこっそり生活しているイメージがあったけど――御伽話の中だけだったようね」

――ていうか、家とかあるんだ。巣だと思ってた。

あえてそんな感想は言わず。
はらりはらりと紙を捲って行くティナ。
黙々と目を通していた彼女は、ふとその手と視線の流れを一点に止めた。


「ぇ……え!?」

やぶける!といわんばかりの力で用紙を掴み、驚きを隠さず叫ぶティナ。
いきなり真ん丸くなった瞳。紅潮する頬。
何やら、彼女の動揺を誘う要項でも書かれていたらしい。

「カステルこれ見て!これ!」
「姫様、お言葉が乱れてきてます。きちんとなさるようあれほど――」
「それどころじゃないの!ここ!」

ベッドから飛びあがり数メートル先に立っていたカステルに飛びつくように訴えるティナ。
身長が低い姫様にとまどう臣下は、部屋の乱雑さとティナの興奮した様子に半ば呆れる。呆れながらも、ティナが必死に指をさす用紙の先に視線を落とした。

どうやら題目からして、その紙には向こう先の一族その他が記載されていたらしかった。
そして、目を凝らしたカステルの目に飛び込んできたのは。


『城主一名、親族七名、執事長一名、メイド23名、


               コック40名、掃除人27名、―――――妾56名、………』



たちまちカステルの表情が険しくなる。


「!…これは……っ」
「いくらなんでも多すぎるわよ!!」

ティナが顔を上げた。


「コックが40人もいるなんて!」


――姫様、驚くところが違います。
心のなかで、表情乏しいメイドは気が滅入った声を出した。



+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ