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6話 そして0話に至る

次の次、8話にはサウスタウンの迷宮都市につきます。


やっと女の子成分が出ましたが、残念ながらこのキャラは当分出ません。たぶんヒロインでもありません。感想次第ではどうにかなるかもしれませんけど。


女に振り回される主人公ってあまり好きじゃないんですよね。




6話


そして0話に至る





(大量大量……小破程度なら修理もできるし、大破した武器や防具も材料として鍛冶屋に持ち込めば売れる。


 なによりも、魔法書だ。しかも地図系の魔法書、大迷宮では必需品、さらに侵略戦では斥候としても大活躍。本当に彼らには感謝感謝だな。

 

 サウスタウンに向かう3日前にこんな幸運に恵まれるとは、ついてる)


ランク3の迷宮で、そこそこのレベルの冒険者の身ぐるみを剥いで街に戻った俺は、目立たないようにそそくさと自分の拠点(ホーム)にしている住居兼倉庫へ向かった。


迷宮内部での戦闘行為は国では罰則はないものの、派手にやり過ぎれば冒険者ギルド、迷宮ギルドで賞金首にされてしまう。


いまだ孤児の自分だ。即刻死刑か、最前線で捨て駒にされるのがオチだろう。


まだビッグ1にも行ってないのに、そんなことはごめん被る。



(サウスタウンに行ったら、速攻で国務館に走って5万G返済しよう。社会的弱者でいるなんてまっぴらごめんだ。)



そう、国に借金を負ったままの孤児は所詮社会的弱者。


争いや諍いがあったら、余程善悪が明確でない限りまず間違いなく罪を被らされてしまう。



戦利品を部屋の片隅に放り投げ、魔法書を開く。

先に破損した武具を鍛冶屋に持っていった方が時間の節約になりはするのだが、高価な魔法書を持ち歩く気にはなれない。


……5年間の訓練漬けという名のマクロ生活と称号の効果で、俺はこのレベルでは驚くほどの非常に優れたステータスを持っている。




この5年間、生活の9割はマクロを起動していたのではないだろうか……もはやマクロは体の機能の一つと言っても過言ではない。


このひたむきな訓練の過程で、鍛練により獲得できる称号のほとんどを獲得してきた。


生憎と格下以外との戦闘は数えるほどしかなかったので、レベルはたったの21でしかない。


せいぜい新人冒険者か一兵卒程度のレベルでしかないが、ステータスはおそらくレベル40程度はあるだろう。


ああ、しかしHPとMPは訓練された人間の物程度しかないのだから、無茶はできない。


この魔法書を会得するのに約2日はかかるだろう。丁度サウスタウンに向かう前日だ、体を休める意味でも丁度良かった。





そしてその日がやって来た。


新年が明けた日。

15歳になった日。


サウスタウンへ向かう日。



「スティル、いるか」


「はい、スティルです」


「では証明の入れ墨をかざしたまえ」



この世界は入れ墨で自己を証明する。


一般人は主に腕にするが、冒険者や兵士は腕を失うことも多い。


よって胴体や首につけることが専らとなっている。


首や胴が無くなったら、ほとんど死んじゃうしね。


……まあそれでも死ななかったり蘇らせたりすることもあるんだけど、まだその次元に至るまでは遠過ぎて関係ないね。



「確認した。兵士と冒険者どちら希望か」


「冒険者で、お願いします」


「本当にそれでいいんだな。お前は優れた能力を持っていると聞いている。


 確かに迷宮で功績を立てて兵役を免れるのも手だが、この書類通りの能力なら、兵士でものし上がれるだろう。


 兵役を受ければ順当に成り上がることができる。それは知っているな?」


「はい、構いません。もし軍に所属するとしても、叩き上げで即戦力として入ることを希望しています」


「ほう、まあよいだろう。では迷宮行きの車に乗れ」


「わかりました。それで、少し相談があるのですが……」



ちゃりん、と数枚の銀貨を握らせる。



「荷物を別口で詰み込みたいのです。中袋2つ分、融通して頂けませんか?」



サウスタウンまで数日かかる。狭い車内だが、手癖の悪い者も勿論いるだろう。


盗られたことを騒ぎたてても、もし兵士の気分を損ねればもっと事態は悪化しかねない。



「ふむ、まあ、私の荷物スペースが空いていないこともないな」


「ありがとうございます。それでこちらなのですが、なかなか良質な鋼鉄でできた長剣でございます。


 しかし少々荷物が多いので、是非あなたのような立派な戦士の方の、予備の武器にでも加えて頂ければ、と」



良質な鋼鉄というのは本当だ。

俺の集めた武器の中でも、最上品の一つだろう。


もったいなくはあるが、これは必要物資だ。


もし預けた武器を、これは私の物である。と言われれば、孤児の身分である自分がどうこうできる問題ではなくなってしまう。


同じように、中身を漁られて目ぼしい物を持っていかれても文句は言える立場にないのだ。


ならば先んじて、最も良い装備の1つを与えておけばこれ以上の損害を被る確率はぐっと減るだろう。



「ふむ、ほうほう、なかなか良い剣ではないか。どこで手に入れたなど野暮なことは言うまい。


 お前の荷物は一欠けもなく戻ってくることだろう。……お前、なかなか見どころのあるな。


 普段はサウスタウンでは北区域の兵役所で中隊長をしているナタイカだ。もしなにか面倒なことがあったら話を聞いてもいいぞ」



よし、金払いのいい奴とでも思われたのだろう。


向こうからコネを作らせて貰えるとはありがたい。



「ありがとうございます。お酒でも交えながら相談させて頂くことがあるやもしれません。


 お酒と言えば、良質な蒸留酒をこの間手に入れまして、是非ご賞味頂ければと。


 では、よろしくお願いします」


「うむ、うむ、任せておけ。馬車は揺れるぞ、この毛布を持っていくがよい。


 飯だがな、育ち盛りには少々少ないだろう。精のつく物を別口で用意させておこう。配給では私の名前を出すがいい」



兵士の満面の笑みで送りだされる。


予想以上に気に入られたようだ、俺も笑みを隠せない。






横一列に十数台の馬車が並んでおり、孤児が全員集まり次第出発する様だ。


といってもこの馬車すべてが孤児が乗るものではない。


安全のため、貴重な"人手"を無駄にしないために兵士が護衛に付いており、その兵士を最大限有効に使うために物資の輸送も兼ねているため、おそらく半分ほどは物資を詰め込んだ馬車だろう。


20人ほどが肩を触れ合うほどに押し込められた大型の馬車に乗り込む。


すでに18人は乗りこんでおり、俺と後一人乗りこむと満員になる。



今日この日、センタータウンの各街から一斉に孤児達がサウスタウンに送られる。


その数、数百人……正確な数は知らない。


数百人と入っても一斉に到着するわけではなく、100人規模の集団が次々到着し、あまり時間をかけず即時解散するのだろうから、さっさと動けばそこまで混雑はしないだろう。



ちなみにこの車、ウォーホースという軍用の馬が引いている。


『隷属の首輪』というアイテムをつけた魔物を利用した高速車両や飛行手段もあるようだが、孤児戦士の輸送にそんなものを使うわけもない。


ちなみに、人間版の隷属の首輪も存在する。


犯罪者や口減らしに売られた子供、食べていけなくて身売りをした者が奴隷階級として存在するのだ。


その中には国の保護を洩れた孤児、はたまた誘拐……所謂犯罪行為で奴隷階級に堕とされた者もいる。


と思考をあらぬところに飛ばしていると、こちらを見てひそひそと話している奴らがいた。


確かあいつらは、センタータウンの同じ区内の孤児だったはずだ。


その内何人かは、定期討伐隊でも幾度か顔を合わせたこともある。


奇抜な言動や行動が多く、1人になるのを恐れるようにいつも複数人数で行動している15人ほどのグループだ。


そのくせ周りに仲間がいると態度がでかく横柄になる、典型的な群れだ。


排他的な空気を醸し出してはいるものの、雰囲気は生ぬるい。


下手に近づくと絶対に割を食うと、なるべく距離を取っていたので実態はよくわからないが、遠目に見る限り、この集団は現実世界からトリップした者のグループの1つかもしれないと睨んでいた。



「なあ、お前スティルってやつだろ。お前も迷宮行きか。同士キタコレ」


「確か、なかなかの強者だった。討伐隊でも小隊長しておったしな。……もしや拙者の獅子爆散琥桜拳にも耐えられるかもしれんな」


「はいはい厨二病乙。なあなあちょっと装備見してくれよ、しっつれーい」



一番軽薄そうな、剃り込みをいれた坊主頭の男が、何の断りも無しに外套(でかいコートみたいなもの)をめくり上げてくる。



「うわでも、強いって言う割に装備しょっぼくね?武器は鋳鉄にしても、防具しょぼ皮だぜしょぼ皮。これじゃやばいっしょ、常識的に考えて」



あちらについたら二束三文で売り払うつもりのカモフラージュの装備だ。

念のため、3日前手に入れたばかりの良質な鋼鉄の短槍に縮小の柄頭をつけて隠し持っている。




「――なあなあ、そんなことよりさ、ネトゲってわかるか?あと、wiki(うぃき)とかさ」




…………決定だ。こいつら向こうの世界からのトリッパー、だな。


いやまあ、先程の会話だけでもろわかりだったわけだが。



にしても、稼ぐ手段の少ないセンタータウン出身にしてはそこそこいい装備を揃えているな。まあ、現時点では、という注釈はつくが。


数人は鋼鉄の剣を持っているが、その他は鋳鉄の武器などを所持している。


随分と質に開きがあるな。

おそらく、多少レベルを上げていた奴がでかい顔をして良い装備を独占しているのだろう。


主に稼ぐのは高レベルの奴だろうから文句も言えまい。



「ああ、そんなに装備をそろえる余裕がなくてね。君たちは凄いね、いい武器だ。


 それと、ねとげ?う……なんだって?


 聞き覚えがないな。冒険者の専門用語か?」



数組の冒険者から強奪した鋼鉄の各種武具に、一つだけ、火属性のエンチャントされたナイフも持っているが勿論言うはずがない。


これ見よがしに装備を見せびらかしているが、こいつらの場合徒党を組んでいるから、装備をちょろまかされることはほぼないだろう。


ネトゲね。wikiにもたびたびお世話になっていたよ。


だが、正直こいつらに関わってもろくなことになりそうにない。

迂闊な行動が多すぎるし、言動がこの世界を舐め切っている。



「なんだMOBかよ……」


「おいっ、いやなんでもない、知らないならいいんだ。すまないね」



いい具合に、俺をNPC(ノンプレイヤーキャラクター)と誤解してくれたようだ。


わざわざ嘘をついたのは、正直プレイヤーとして生きる利点が少ないからだ。


確かに先行でレベルを上げた奴もいるだろうが、この世界で見ればたかが2~3日で上げたレベルもゲーム知識も、大した影響力はない。


第一、軟弱な精神の現代人より、こちらの世界の戦士の方がよっぽど頼りになる。


それにしても居心地が悪い。なにしろ、20人乗りの馬車の内15人がグループを組んでいるのだ。


俺を含め4人は居づらそうにしていた。






―――その時、馬車の幌がめくれ、最後の一人が乗りこんできた。


絶世の、と言うほどではないが、かなりの存在感を放つ美少女だった。


美しい金髪に、差しこむ日光が綺麗に映えている。



「狭いわね。もうちょっと詰めなさいよ」



ふてぶてしい、傲慢な態度。

腹立たしい気持ちが沸き上がるが、力が乗った強制力のある声に、現代人15人は思わず場所を空けていた。






その光景を見ながら、確信を得ていた。


――ああ、やっぱりいた。


――――主人公補正を持った、選ばれし者。




俺の――憎悪の――羨望の――対象。







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