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5話 転機

やっと戦闘シーン

書き貯めが貯まって来たので予定より早めに投下。





5話


転機



ひたむきに強さを求めていた。


自分は生前こんなにも頑張れる人間だっただろうか、答えは否である。


ゲームの世界においてでさえ、チートやBOTを嬉々として使い人を出し抜くことに喜びを覚えていた。


何かを利用してのし上がれるのなら倫理観など無視することになんの躊躇も覚えなかった。


だが、この世界は前の世界とは明確に違うのだ。


努力はしなければ結果は出ず、前の世界では卑劣な手口でかすめ取っていた、莫大な資産を持つものは皆押し並べて強者ばかりである。


常に争いが生活の傍らにあり、剣を持たずに栄光を掴むものはほとんど皆無といっていい。


聖職者でさえ血を浴び肉を潰しながらその命の冥福を祈るのだ。




そしてもう一つ、この世界にはレベルがあった。熟練度があり、称号、スキル、ステータスがあった。


数値化された強さが、数値化された努力値が自分の行いの全てを映してくれるのだ。


ステータスの上げ方は、レベルアップで上げる方法以外に、普通に努力することでも上げることができた。


本を読むなどインテリな行動で知力が上がり、呪文を詠唱することでもほんの少しずつ上げることができる。

その際呪文が発動する必要はない。ただ勤勉な、たゆまぬ努力が知力に反映される。


筋トレをすれば力が上るし、素振りをすれば武器の熟練度を上げながら力、耐久力も上がる。


走れば持久力や敏捷が上がり、パズルをするなり鍵の解錠をすれば器用さが上がる。


勿論人間の枠内での話なので、無限に上がるわけではないが、これらが数値化されることで鍛練が飛躍的に楽しいものに変わった。



力が上がれば筋力が上がり、見た目によらぬ力が発揮できた。

大量の荷物を運べるし、鈍器の一撃で魔物の頭蓋を陥没させることもできる。


知力が上がれば頭の回転が速くなり、本の内容もすんなり頭に入って来た。

根本的におつむが良くなるかと言われればそうではないのだが……。


木彫りの人形など器用さが上がればあっという間にできる。


ステータスは生活に密着していた。日々実感することができる力。


――俺は強さの魅力に取りつかれていたといってもいいだろう。



毎日素振り(をするマクロを起動)をしながら呪文の詠唱を行う(マクロを起動する)。


走り込み(理想的なフォームのマクロを起動、方向転換をするときは一時的に停止)をしながら詠唱を(するマクロを起動)行いながら両手で南京錠のピッキング(するマクロを起動する)。


筋トレをしながら詠唱を行う(マクロを起動する)。


寝るときに全身の痛みで眠れないため、熟睡したときの寝がえりなどをマクロで記録し、マクロを起動。


マクロ起動中は痛みなど感じないので快適に眠ることができる。



――努力といっても、自動なのだが……。そこには目を瞑って欲しい。







そんなこんなで、この世界に立って"1年"が経っていた。


熟練度や称号もぼちぼち獲得し、ステータスの底上げは進んでいた……が。


時間が足りなかった。


生きていくにはお金が必要なのだ。


訓練の合間に命の危険が無い範囲で魔物の討伐隊に参加し、金払いが良ければ小間使いの真似ごとだってやった。


しかし、こんな煩わしいことなどせず、手っ取り早く稼いで15になるまでにとにかく鍛えたかったのだ。




転機はある日突然転がり込んできた。




■装備品

青銅の短槍

錬鉄のナイフ

粗末な木の弓


皮の軽鎧

皮の手袋

皮の足甲

3500G


その日、槍スキルが鍛練で上げることができる最大の3に到達した。


マクロを利用することにより、理想的なフォームで最高効率での熟練度貯めができたため、たった1年で槍スキルを3まで上げているが、実はこれは尋常な努力では得られないものだ。


鍛練で上げられる最大値であるスキルレベル3とは、前の世界では世界に名の知れる達人の技と同義だ。


この世界ではレベルアップの恩恵があるのでそこまで目立ちはしないが、前線で10年戦い続けた戦士でやっと、1つの武器スキルが3になる程度である。


11歳で、しかも生活費を稼ぎながらものの1年でスキルレベル3になるなど本来ありえないのだ。



ランク3の槍術で適当な魔物を試し切りしようと、ランニングがてら街から少し離れた盆地に行くと、そこには小迷宮が出現していた。


遠目に入口の紋章を見れば、おそらくランク1小迷宮。


余り大した強さの敵はいないであろうが、迷宮は迷宮。


11歳で体が育ち切っておらず、それが故HPが高くない自分には、敵に囲まれることを前提とした迷宮は例えランクが1でも荷が重いものだった。


(ちっ、あと2年……せめてあと1年は経たないと、迷宮に潜れるだけのHPには成長しないか。


 ……いやどちらにしろ、単独で潜るなど正気の沙汰じゃない。

 これはゲームじゃないんだ。死んだら、終わりだ。


 惜しいが仕方ない。ランク1程度のアイテムに命を賭けるわけにもいかないしな。ギルドに報告して報奨金を頂こう……ん、あれは)


その時、3人組の冒険者が迷宮に近づくのが見え、そっと身を隠した。


装備を見る限り駆け出しの冒険者であろう。


質の悪い鋳鉄製の剣やメイスと皮の鎧を装備して、その内一人は薬草の入った小筒を背負っていた。



(質の悪い鋳鉄製……って言っても、俺の槍は青銅製だからあれ以下なんだけどな。)



鋳鉄とは、炭素含有量が多い鉄のことである。

その質は固い、が脆く折れやすい性質を持っている。


他におおざっぱにいうと錬鉄、鋼鉄があるのだが、錬鉄は柔らかく加工がしやすいので主に防具や装飾品。また建築資材。


鋼鉄は硬く壊れにくい、最も武器に向いている鉄だ。


人間が鉄鉱石から作るものは、当然鋼鉄製に加工する。


しかし絶対数が追いつかないのでなかなか高値だ。


迷宮内で拾うことができる鉄製の武器は鋳鉄のものが多く、依然市場で出回るこれを所持するものは多い。


ちなみに青銅製の武器はもっと多い。鉄製の物に比べれば、重く、鈍く使いづらい。当然安価で手に入る。



(うわ、やめやめ。悲しくなってきた)



ランクの低い薬草採集の依頼でも受けていたら、ランク1迷宮を偶然発見といったところか。


くそ、これではギルドに報告しても報奨金は出ない。


腹立たしい感情を押さえ、彼らが迷宮に入るのを見送った、その時である。ふとした考えが浮かんだ。



(迷宮でコアアイテムを回収したら、低ランクの小迷宮なら1日も経てば迷宮は閉じる。


 ランク1なら半日で閉じてしまうだろう。)


(その際中に取り残されれば、アイテムも、そして死骸も閉じる地面に取り込まれてしまう。)


(死体や死んだ現場から、死んだ際の記憶や映像を見る魔法もあるが、それは死体や現場が無ければ意味がない……これは、一気に金を稼げるチャンス、か?)



逸る心を抑え、静かに冒険者たちの後をつけた。



「おいぃ、ここ完全ほやほやの沸きたてだな!たぶん沸いて2時間もたってねえよ」


「ついてるぜ相棒。薬草拾いなんて、俺にふさわしくないしけた依頼を持ってきたときぁイラついたが、行ってみるもんだな!おい!」


「ひひ、なんか知らんけど、ラッキー?ひひ」



(冒険者というより、チンピラ崩れだなこりゃ……)


一人は薬中か、酔っぱらいか。いかにも言動がおかしい。


いかにランク1とはいえど、あの装備を見る限りレベルも10代、よくて20前半だろう。


駆け出しがギャーギャー騒ぎながら無傷で落とせるほど、迷宮は甘くない。


これなら俺の思惑通り行くかもしれない。


彼らが入口付近の敵をあらかた倒して奥へ進んだのを見送ってから、静かに行動を開始した。



出口の扉に仕掛けをして、見えづらい位置に訓練用の南京錠を2つ設置。これでもし逃げようとしても壊すまで多少の時間を稼げる。


動物の罠用のワイヤーに、コガラヘビの牙から絞りとった麻痺毒を塗りつけ、丁度岩の陰になったところから目立たないように仕掛ける。


そこら辺に散らばっていた樽や木材の残骸を、行き止まりの斜面の上に適当に集めて盾兼遮蔽物とする。


矢数本と槍の穂先にも麻痺毒を塗り付けじっと機会を待った。





「けけ、沸きたてだけあってぜぇんぜん成長してない敵ばっか。ちょろかったなあ!おい!」


「そんなこといってさあぁ、盾ぼろぼろじゃん。利き手もボスのネズミにがっつり噛まれてやんの、ぷぷぷ」


「うるせえ黙ってろ!てめえこそ傷こそ大してねえが、弓ぶっ壊されやがって……弓代報酬から天引きすんぞ!」


「ひひ、しらんけど、いてえよ足。俺盾にしやがって、ひひ」


「ああ、帰ったら追加でクスリやるからよ、黙って盾しとけ」


「やった!兄貴流石!ひひ!」



満身創痍というほどではないが、二人は軽くない手傷を負って、弓も壊れてしまっているようだ。


遠距離攻撃の能力が残っていないとは、僥倖だ。


口が緊張でぱりぱりになって、手が痙攣している。


ぎゅ、ぎゅっと手握りしめ、口をそっと舐め、息をひそめる。



「にしてもよ、いかしてんなこのリング。敏捷+だってよ。」


「いくらで売れっかなあ、ひひ、クスリなんこぶんだあ?」


「ばかなこといってんじゃねえよ、てかきたねえ手で装備してんじゃねえよ、売り値下がるだろ、ボケッ」


「ああ?誰の手がきたねえだと?ぶっ殺すぞ手前!」


「てめえのマスかいてイカクセエ手がきたねえっていってんだよ、やんのかコラ」


「ひひ、いかくせえ、ひひ」



おいおい、なんか知らんが仲間割れしてるぞ。


迷宮の中でギャーギャーと、死にたいのかこいつら……まあ、好都合極まりないんだが。いいのかこれ。



「てめえもう我慢ならねえ。1発殴らねえと気が済まねえ」


「うぜえ野郎だな、やるなら後にしろ、仮にも迷宮だ……でぇっ」



うすらバカから距離を取ろうとバックステップしたうすらバカが、ワイヤーでざっくりアキレス腱を切った。


なんか知らんが大チャンスだなこれ。


『スナイプショット』


素早く麻痺毒をたっぷり塗り込んだ矢を放った。


「お、おいどうしたんだよ兄貴」


「ひひ、こけてぎゃっ、いてえ、いてえええ」


キチガイの左肩に命中。


二本三本と連続で放った。


「ぎっ、ひぎぃ、いてええええ」


「っ、てめええ、だれだこら、しねえええ!」


キチガイの右足の付け根にもう一本刺さり、一本は外れ、リングを装備したまだ元気なうすらバカ1が剣を持って走り込んでくる。


ちっ、全員無力化はできなかったか。


遮蔽物の木材と樽を蹴り落とし、うすらバカを怯ませたところにマクロ技と槍スキルを連続発動する。


「うわ、て、てめ」


「くらええええええええ!」


『偽・5段突き』「5段突き」


「あご、が、ごぇ」


(ぐう……)


毎度おなじみの、スキルによる二重のHP消費で体が軋む。


その甲斐あって、うすらバカは体中に10の突きが襲いかかりずたぼろになった。


麻痺毒、槍に塗る必要なかったな。これなら即死だろう。





――この瞬間、俺は戦場で言う人殺しの童貞を失ったわけだけど。


少し手が震えた。それくらい。


その震えも、マクロとスキルの勢いで押し殺した。


アニメみたいに異常にショックを受けることも、吐くことも、誰かに情けなく泣き言をはきたくなることもなかった。





「てめえ、こんなことしてタダで済むと思ってんのかっ!」


唖然と倒れ落ちる仲間を見ていたうすらバカ2は、使えない左足をひきずりながら立ちあがった。


キチガイは痛みで転がっている。当分復帰することはないだろう。


「そうだね、済まないかもねえ。ばれたら、だけどな」


弓に矢をつがえる。


麻痺毒のついた矢で、右足の皮鎧の隙間を撃つ。これで、近寄られることもないだろう。


「ぐあ、ってめ、卑怯」


「わるいね、念には念を入れるタイプなんだ、俺。ばいばい」


話しながらも手を止めることはない。


無駄に話す悪役がアクシデントに襲われるのが宿命なんて、わかりきってる。


確実に頭に3発矢を撃ちこみ終了。


毒が体に回ったのか、ひくひくとしか動かないキチガイにも頭に矢を撃ち、念のため全員槍でとどめを差していく。



「ふう……ふう、はぁっ」



口が、ふるふると震えている。

手がぴくぴくと震えている。

足もかくかくと震えている。



人を始めて殺して、落ちついて、実感した感想は、怖い、だった。



人ってこんな簡単に死ぬんだ。


3対1なのに、こんなになにもできないんだ。



――もし自分が逆の立場だったら


―――毒で動けなかったら


――――手の届かないところから一方的に殺されたら。



ひどく恐ろしかった。


こんなに簡単に、人を殺せる牙を、人間が持っているのが。


もしこの牙が自分に向けられたらと考えたら。


なんで漫画やアニメの主人公たちは、人を殺して落ち込むのだろう。落ち込めるのだろう。


勢いで、誤って殺した主人公など、特にそうだ。




――どうして、誰かの手で、自分の命が、『誤って』落とされることが、あるかもしれない、ということが、恐ろしいと、思わないのだろう



「は、はぁっ……は、ひ、はあっ」



やはり主人公は本能的に悟っているのだろうか、自分が命を落とすことはなく、一方的に奪う立場だと。

なぜなら、自分は主人公なのだから、ということを。



ずるい、ずるい。

ずるいずるいずるいずるいずるいずるい

ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい

ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい

ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい

ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい

ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい

ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい

ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい




自分の中に唐突に沸き出た感情が荒れ狂う。


まるで魂の根源に刻まれたかのような原始的な感情に、困惑する間も無く飲みこまれていく。


"主人公補正"を持つ者は明確に存在する。


その考えが、なぜかすんなりと脳内に入ってきた。




一方的に奪う力をもつ人間が。

一方的に奪う宿命を持った登場人物(メインキャスト)が。


そしてその両方をもっている主人公酷く、妬ましかった。





◇獲得品

鋳鉄の剣x2

鋳鉄のメイス

硬皮の鎧x2

青銅のプレートメイル

硬皮の籠手x2

錬鉄の籠手

硬皮の足甲x2

錬鉄の足甲

木の弓

木矢20本

薬草x12

回復薬弱x1


敏捷のリング[敏捷+]


12000G



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