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3話 新たな世界での目覚め

3話


新たな世界での目覚め





(……俺はマクロを起動したまま寝たはずだ。どうして初めからスタートしているだ?


 というか、なんだこの違和感は。肌寒いし、手はひりひりするし、足はこすれて痛い)


もうほとんど気付いていた。だが気付きたくなかった。


(……ゲームに、トリップ……ってか? そんな馬鹿な)


実は何度もシステムウィンドウを開こうとしているのだ。


右手を四角に動かす動作を繰り返すが、やはりウィンドウは出ない。


ばかな。ばかな。


ありえない、ありえないだろ。


ログアウト所かアイテムウィンドウすら開けない。ゲーム会社側のミスでログアウトできないってことだろ?


誰かそう言ってくれ!


――自分の手を撫で、壁に触れる。


余りにリアルな質感、こんなもの、現状の技術では表現できない。



目の前が、真っ暗になった。



いつまでも錯乱していられない。


(兎に角、現状を調べなければ、自分の持ち物と、"ステータスはどうなっている")


そう考えた瞬間、脳裏に自分のステータス画面が浮かんだ。



スティル

Lv:2


武器熟練度

刀剣スキル0 熟練度75 刀剣スキル1まであと25

長柄スキル0 熟練度2 長柄スキル1まであと98

短剣スキル0 熟練度2 短剣スキル1まであと98

鈍器スキル0 熟練度2 鈍器スキル1まであと98

斧スキル0 熟練度2 斧スキル1まであと98

鞭スキル0 熟練度2 鞭スキル1まであと98

爪スキル0 熟練度2 爪スキル1まであと98

射手スキル0 熟練度2 射手スキル1まであと98

素手スキル0 熟練度2 素手スキル1まであと98


称号

武芸一通り素人:素人ながら一通り素振り程度は行える[全ステ微+]




(とりあえず、レベルと称号と熟練度は持ち越しか……しかし意味が無い! 


俺称号獲得もレベル上げも熟練度上げもほとんどしてない!


こんなことなら普通にプレイしておくべきだった……ん、そういえば)


はたと気付いた。マクロはどうなっているのだろうと。


マクロ出ろ、開けプログラムと念じていると、開いてしまったのだ。マクロ画面。


(まじか……システムウィンドウは開かないのにマクロは開くのか)


兎に角、ないよりいいだろうと頭を切り替え、雑魚寝していた部屋で自分の荷物の入った――と記憶にある――ずた袋を取りに行く。


穴の空いた壁に、不用意に手を突っ込むと針が突き出るような罠を仕掛けた奥にずた袋は入っていた。


盗難対策だ。


ここは孤児院であり、無防備に放置すれば1分後にはその場から消えていると記憶が言っている。



(中身は……84G。


 記憶の中のスティル君(自分)がこつこつと貯めたものだという記憶がある。


 アイテムまで引き継がれることはなかったようだ。


 しかしレベルと熟練度とスキルは引き継がれている。真面目にプレイしていたらどれだけ楽だったろうか。


 ……確か2日目の時点で最高Lvは20程度だった筈だ。――もしも他にトリップしている奴がいたら、大きく引き離されているな――っとと、まだゲーム脳が残っているようだ。


 今この状況で、引き離されようがされまいがどうでもいいことだ)



今できることをしよう、と行動を開始する。


とりあえず、貰えるものを貰っておこう。


院長室の扉をノックする。


「お入りなさい」


「失礼します。準備ができたので一度街に出ますが、孤児院の雑魚寝部屋で寝泊まりをしたいのですが」


「ええ、構いません。家賃は月5000G、食事は1回に付き50Gです。……卒院祝いです。先立つものが必要でしょう。


 1000G餞別にあげましょう。それから、この中からどれか1つ選びなさい」


ずらっと揃えられる武器、初心者用の各種武器だ。


ゲームでは剣を貰い、熟練度も一番高いが、正直まともに戦闘が行える気がしない。とりあえず、剣なんかで戦うよりもリーチの長い槍を貰うべきだろうと思い、槍を手に取った。


「槍ですね、意外でした。あなたは剣が好きだったように思えたのですが。


 この証明書をもって訓練施設へ行きなさい。一通り武器の基礎を学べるでしょう」


「はい、ありがとうございました」


「……本当に、成長したのね。見違えたわ」


そんな言葉を背に受け部屋を出る。NPCはAIで動いているわけではないようだ、と思いながら。







ひとまず、自分の記憶とスティルの記憶を整理するために、街の広場へ行った。


通貨のこと、センタータウンのこと、仕事のこと、武器のこと、世界のこと。


そして自分のこと。


これからどうなるのか、これからどうするのか。


悶々と思い悩んでいると、同じ孤児院出身らしき少女が、肉屋の店先で必死に頭を下げている。



「仕方ねえな。


 とりあえず、一週間使ってみて、使えそうなら使うことにするぞ」


「……! はい!ありがとうございます! 頑張ります!」



成程、記憶では俺と同じ年。


彼女も15まで残ることにしたのであろう。


そして残る場合、ああやって働かねばならないということか。



――街を何となしに歩く。


手をにぎにぎと握りしめ、無意味に体をなでる。


ああ、間違いなくこの体は自分の物だ。


ログアウトなんて当てになるものか。


俺はこれからどうなる、どうすればいいんだ、一生このまま……?


また頭が恐慌に捕われようとしたそんな時だ。



「おい、ふざけるな! 運営っ、でてこいやあ!」


がしゃん、と武器屋の店先の看板を蹴飛ばす、今の自分と同じくらいの背格好の少年。


「おい、お前何してやがるっ」


「うるせえっ、NPCは黙ってろ! ぶっ殺すぞ!」


「ちっ、この餓鬼……どこの孤児院のやつだ! クソガキがっ」


武器屋の店員に思いっきり殴り飛ばされる少年。


「い、いてえ!いってええよ!なんだよこれ……なんだよ……。


 てっめえふざけんなよ! 運営!なんだよおおおおこれえええああぁっあぁあ……うああぁ」


地に伏せた少年は、そのままぼろぼろ泣き始めた。


「ちっ、なにいってやがるんだこいつあ?


 さっきも同じようなガキがぎゃあぎゃあ騒いでやがったし……気でも狂ってんのか?」


こんな境遇に立っているのは俺だけではないのかもしれない。


同じ境遇で取りみだしている人間を見ると、なんだか妙に落ちついてきた。



――しばらく街を歩いてみると、同じような境遇なのだろう少年少女達が一固まりになって話し合っているところがちらほら見られた。


周りをNPCとでも割り切っているのだろう。


俺はチートなどの制作に忙しく、攻略wikiなどは目を通していたが、まともにプレイなんかしていなかった。


そこが彼らと違う視点も持っている原因なのかもしれない。



(人の目をまったく気にしてないな、あれに近づいたらこれからこの街に溶け込むのが大変そうだ……)



と、ひとまず遠巻きに、関わり合いにならないことにした。


とりあえず中世レベルの世界なら、あちらの世界で身につけた計算能力や書類の整理の慣れで食っていけるかもしれない。


この世界の通貨や文字をスティルの記憶から掘り起こしながら、大きい店から順番に雇用先を探そうと歩きだした。



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