表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/39

29話 後始末





29話

後始末







ひとまず身の安全は確保できたかとひと安心。


リッチからの戦利品を漁りオクラに放り投げる。


そしてその死骸が消えてしまわないように、その身を槍で持ち上げ地面から離した。



「おい凄いぞこれ! 金貨で何枚分の価値があるか……」



こうすることで、死骸を迷宮から持ち出すことは出来ないが、多少時間を稼げることが冒険者達の実験で分かっている。



「おいスティル、聞いてんのか?


 これだけの業物、売っても使っても良し。軍の重鎮に献上すればあっという間にエリート街道まっしぐら……」



もし迷宮から魔物の死骸を持ち出せ素材を集めることが出来れば、ゲートを利用して希少な素材を取り放題。


ということで、国を挙げて長年研究が繰り返されているのだ。


まあそんな都合のいい方法がそう簡単に見つかるはずもなく、しかし一部進展はあるらしい。


だが、方法が危険らしく一般公開はされていない。


いつかは知りたいものだ。



「なあスティル、これがあるってことは、そのユージから奪った地属性のナイフなんかは使わないんじゃないか?


 それでよ、へへ。俺が使ったほうがいいんじゃねえかなって、いや別に下心で言ってるんじゃねえんだぞ?


 あくまで効率面での話でな……」



一度試してみたかった能力の実験をしておこう。


まあまずできないことはわかりきっているわけだが。


リッチの死骸から左腕を剥ぎとり、自らの左腕の接合部分に宛てがう。



「融合……発動」



エラー。


エラー。


エラー。


エラー。



漠然と『できない』のは感じていたが、案の定細胞は微塵も変化せず、脳裏に浮かぶエラーの嵐。


下二つのエラーに意識を集中すると、



『対象器官は外部からのエネルギー供給で動いているため完全に取り込むことができません』


『細胞間の反発が強く長時間の接続はできません。』



というシステムメッセージ。


こういうシステマティックなメッセージはゲームと変わらないんだよな……。


やはり思ったとおり、迷宮内の魔物は全て迷宮のエネルギーで発生しているためか、取り入れることが出来ても時間が限定されているようだ。


そもそも魔物の器官は、永久的には取り入れられない可能性。


人間に近い魔物の器官のみ永久融合できる可能性。


人間を含む全ての生物の器官の融合は、一定時間しかできない可能性もあるが……システムメッセージ的にこの可能性は薄い、と思いたい。


でないと、一生俺の腕はこのままである可能性が高いからだ。


一番上の仮説だった場合、迷宮から魔物が溢れ出ることがあるのはどういうことなんだろうという疑問はあるが、今は脳裏に止めておくことにしよう。



「……。なにしてんだスティル?」


「なあオクラ、左腕、くれないか?」


「……っはあ!? いや、ちょっと待てやっと喋ったかと思ったらなにを」



ぎょっとした顔でわたわたと手足を振り乱している筋肉ダルマ。


……この野太い腕が俺の腕に……ちょっと嫌だな。



「ああ、その前に別の死体かなんかの腕で試してみるか。


 鮮度が高いほうがうまくいきそうな気はするが……。


 ひと通りやってみてだめだったら、オクラか荷物持ちのおっさんの腕で試してみることにしよう」


「ちょ、話が全然わかんねえし、腕!? なにが!?」


「ああ、今は忘れてくれ」


「忘れられるか! よくわからんが、考えなおしてくれ!


 とにかく腕をとるならおっさんの腕にしてくれよ! 俺は嫌だかんな!」


「やかましい。ほら、さっき渡した戦利品見せろ」



リッチの死骸を放り投げ、戦利品を受け取る。


数分とおかずに死体は消えるだろうが、念のため人目に付かないような岩壁の隅に蹴って詰めておく。




■獲得品

魔道師の首飾りⅢ[魔力++++][知力++++]

ヒートクリース(熱の刺突短剣)

魔石



「これは……」


「な! すげえレア物だろう!


 この首飾り、ユニーク物を除いた一般装飾品では、ほぼ最高級品じゃねえか!」



うひょおおと奇声を上げながら首飾りにキスをしている。



「この短剣、名前付きだな。大粒の宝石に刻印魔法まで施されてる」



ヒートクリース(熱の刺突短剣)。


ミスリル製の刃渡り30㎝程の波刃状の刺突用短剣で、柄に大粒の真っ赤なルビーが埋め込まれている。


宝石は属性石が凝縮した物と考えられており、非常に強い魔法の力が籠っている。


その宝石に刻印を刻み、決まった魔法を呪文無しで即時発動させるのが刻印魔法だ。


この短剣に籠められた魔法は『ヒートレイ(熱光線)』。



「ヒートレイの刻印。ヒート……火の魔法を熱に特化した物だな。


 宝石から直接熱線を放てるし、刃に通せば一瞬で刃を超高熱にすることができる。


 応用力の高いいい武器だ……最低でも500万は下らないな」



おそらく魔道師の首飾りⅢがユニークモンスターリッチのレアドロップで、ヒートクリースは100階層以上で出た"財宝"をリッチが所持していたものだろう。


"財宝"というと、人間が拾うためにある宝箱……のように思われるがそれは大きな間違いで、迷宮が魔物側に支給する装備なのだ。


"財宝"とは、特定のレベルや種族の魔物が開けられるように封印され、それ以外の者が開けようとすると罠が反応する……より強い魔物を生み出すためのシステムの一部なのだ。


それを、その特定の魔物が発見する前に人間が罠を解除して盗んだり、"財宝"持ちの魔物から強奪しているだけの話に過ぎない。


末恐ろしきは、なにもかもを利用する人間の悪知恵と性根だろう。



「補正だのなんだのはよくわからねえが、確かにすげえなあいつらは!


 いやまあ、俺からしてみればお前もいろんな意味でよくわからねえんだけどよ……」



オクラは不細工な顔を苦笑いで一杯にしている。



「ふん。俺は、地上に戻ったらたらふくいい肉いい酒いい女を買ってくれるご主人様だよ。


 それだけわかってれば十分だろう?」


「……くっ、ぐっふははは! ああ十分すぎるな! がっはっははは!」


「……あまりでかい声を出すなよ」




先程からオリシュ達の方に絶えず意識をやっていたが、そろそろ撤退を始めるようだ。


横目で見ている限り、先ほど生かしておいたユージを揺さぶり脅していたように見えた。


俺の勘が正しければ、無事エルフのキルエを奴隷から解放させられたことだろう。




「しっかしあいつ、オリシュって奴にはおでれーたぜ。

 

 あの年で光属性の魔力を使いこなすとはな……」



光属性と闇属性はお互いが弱点であり、純度が高ければそれは一撃必殺にもなりうるほどの可能性を秘めている。


その分、身につけるのには先天的な才能が必要だと言われており……。


プレイヤーであった俺達は、おそらくなんらかのイベントで身につけることができたのではないかと思っている。


あの理不尽な対高レベル無双は、おそらくそれが原因だろう。


幸い相手のリッチ、マインドフレイア、ソウルイーター、ソウルシーカーは純闇属性と言ってもいい程の闇属性だ。



「光の爆発……だったか?


 リッチをあそこまで瀕死にさせる攻撃だ。それだけとは考えにくいがな。


 案外隠された能力の発露とか、特殊覚醒称号とかそういうオチが待ってそうだ」









オリシュ達が満身創痍の体を引きずり、取るものも取れず撤退していったのを確認してから、ユージ達のいる石室前に慎重に足を運んだ。


マキの死体は持ち去られているため三人分の死体と、今にも死にそうなユージが転がっている。



(死体のマキを持って行って、生きているユージを置き去りとは……。


 まあ普通に考えれば、自分を嵌めようとした相手は助けないか)



マインドフレイアはどうなったか……と探ってみるが、死骸もドロップアイテムらしきものもないため、おそらく奴らが倒し切ってアイテムも持ち去ったのだろう。



「っかーもったいねえな!


 リッチであれだけ儲けたから、欲が出ちまうぜ!」



「ぎゃんぎゃん騒ぎたてるな。


 お前はいいかも知れんが、俺は隻腕だぞ。雑魚魔物相手でも面倒だ」



普通に生きていては、彼らに関わらなければ滅多に遭遇できない儲け話に、テンションが上がりっぱなしのオクラ。


リターンはでかいが、リスクもでかいからな……。



「お、スティルあったぞ」



魔除けの粉を振り撒きパラライバッドを追い払って落ち着いて探索し、一通りユージ一行の荷物と、ユージの切り飛ばされた左腕を見つけた。



「しかし、くっつくのか?


 他人の腕だろ?」


「俺の腕はぐちゃぐちゃになって踏みしだかれてしまっているから、仕方がないだろう。


 この腕でだめなら次はあっちの、ユージの仲間の腕。それでだめなら荷物持ちのおっさんかお前の腕だからな」



にやり、とオクラを見やると、ぶるりと背筋を震わせ青い顔をしている。


奴隷は『命令』されれば断ることができないのだから、仕方があるまい。


眼を瞑り、融合を発動する。



「まあそうならないよう祈っていろ……。


 融合……発動」






[融合]発動。


"人間/ヒューマン"の"左腕"を取り込みました。



――左肩の付け根が歪に変形し、自分の腕に比べてややサイズの大きい腕の根元を包み込んだ。



[変異]発動。


取り込んだ器官をオリジナルの体に合わせて縮小。


器官に合わせて体内の骨、筋肉、神経を一部変異。



[体内操作]発動。


体内の細胞を取り込んだ器官に適合。



取り込んだ器官の保存状態――概ね良好。


クリア。



器官"人間/ヒューマン"の"左腕"を完全に取り込みました。


現在の融合体、『"記号"の"マクロ" 使用メモリ50%』、『"人間/ヒューマン"の"左腕" 使用メモリ5%』


"人間/ヒューマン"の"左腕"は一時的にメモリを5%使用しますが、類似性が高いため、器官が完全に適合後使用メモリは0%になります。







――左半身に引き攣るような痛みが走る。


眼を開ければ、間違いなく左手は繋がっていた。


多少違和感はあるものの、問題なく動かせる。


ぐー、ぱーを繰り返し、左手に槍を持ち構える。



『五段突き』



問題なく眼前に五つの線が生まれるが、左胸に鈍い痛みが走る。



「ど、どうだったんだ? 成功か?」



オクラが恐る恐る質問してくる。


自分の腕が取られるかもしれないという恐怖があるのだろう。



「腕は問題ない……が」


「が?」


「吸収器官を繋いでいた左胸、心臓辺りに鈍い痛みがあるな。


 ソウルイーターとの融合で無理をしたせいか……なるべく早く地上に戻って、養生するとしよう」


「ほっ、ほんとに良かった……」



随分とほっとしているようだが、腕を奪うなら安い奴隷でも買って試せばいい話なので、オクラの腕を奪うというのは冗談だったんだが……。


本人も喜んでいるようだし、黙っておこう。



瀕死状態で置いて行かれたユージの様子を見るに、もう助かりようがない。


おそらくソウルイーターとソウルシーカーの攻撃を受けたのだろう、体の至る所に穴があき、魂の力は俺が吸収したためこいつの下に戻ることはなかった。


体も魂もボロボロというやつだ。


こいつらの荷物に一つだけあった非常に高価なリターン(帰還)のマジックストーンを使い、非常に高価な治療費を払って高位な聖職者や治癒術師に頼めばまた別であろうが、いくら80レベルでレアスキル持ちとはいえ隻腕だ。


割に合うはずがない。


なによりここで起こった真実を――特に俺の介入を――知っているため、下手に売ることもできない。



(残念だが、ここで死んでもらうしかないな)



そう、これ以外の選択肢は無い。


なかなか悪知恵は働くようだし役に立ちそうだったので、少し惜しい……が仕方あるまい。



ふと思い立ち、右手の爪先にぐっと力を込め、



「[体内操作]……」



案の定できた、鋭く硬く伸びた爪で、ユージの喉を切り裂こうと手を伸ばし……。



「……ん」



ユージの首筋の、刺青が眼に入る。


そうだ忘れていたが、こいつは現代人の奴隷を多数買っていたはずだ。


奴隷や財産の譲渡は、口頭と簡単な手順で可能だ。


刺青の細部を見るに、他の奴隷の解放はされていないようだ。


……このままだとユージの奴隷は国が所有することになってしまう。


所有権を譲らせたいが、今からしゃべれる程度まで回復させられるか?



――物は試しと、元に戻した右手をユージの首筋の刺青に這わせ、念じる。



「融合……発動」





[融合]発動。


"人間/ヒューマン"の"刺青"を取り込みます。



――ユージの刺青が歪み、こちらの右手の指先に集まろうとする動きを見せる。


エラー。


個人識別魔法がかけられています。



[変異]発動。


名称"ユージ"の細胞とオリジナルの細胞の類似させます。


エラー。


個人識別魔法がかけられています。



――ちっ、エラーが減らない……ならば。



[適合]発動。


"ユージ"の情報に"スティル"の情報を適合させます。




――クリア。


"人間/ヒューマン"の"刺青"を取り込むことができます。



「よしっ」



ユージの刺青を良く見て、戸籍などの余計な情報を取り込まないように注意して、奴隷の所有権と倉庫に預けたアイテムなどの所有権のみを綺麗に取り込んだ。



「なっ、おいまさか、刺青……取り込んだのか!?」


「まさかほんとにできるとは……くっくく……。


 昔、殺した冒険者の刺青の移植ができないかと試行錯誤して、刺青についても勉強したのが役に立ったな。


 譲渡を行った形で綺麗に取り込んだから、ばれることはないだろう」


「くっ……ぐっはは、がっはっはっは!


 ほんとになんでもできる野郎だなお前は! 最ッ高のご主人様だぜ!」



今なら、こいつの不細工な愉悦に染まった顔も、愛嬌があるように見える。



「ああ……気分がいい。最高の気分だ。


 とっとと帰って、こいつらの財産を御拝見させて頂こう」








■獲得品

魔道師の首飾りⅢ[魔力++++][知力++++]

ヒートクリース(熱の刺突短剣)

リッチの巨大な魔石


半壊した水属性の槍  銘不明 銀+少量のミスリル銀製 要修理 恐らく上位水属性 高い技量が必要な玄人好みの水属性がメインウェポンだったことから、ユージはなかなかの技量の持ち主だということが伺える。


アースマインゴーシュ 上位地属性 銀製 盾短剣 防御に優れた地属性で、防御に優れたマインゴーシュという短剣。拳を守るようにカップが付いており、槍を持ちながらでも装着できる手甲のように改造されている。


ゲイルレイピア    上位風属性 銀製 素早さと汎用性に優れた風属性。刺突に特化した武器で、片手で扱うことができる。


ライトニングシミター 上位雷属性 銀製 素早さ、威力、汎用性に優れているが扱いが難しい雷属性。1m程の片刃の曲刀。断ち切る剣術に優れ、三日月刀とも呼ばれる。

           こちらも扱いが難しいため、このシミターの持ち主のプレイヤースキルはかなり高かったようだ。


アースバトルアクス  上位地属性 銀+黒鉄製 防御に優れ、ある程度重さを変えることができる地属性。180cm程はある巨大なアクス。


マジックストーン:ディメンションウォールx1、リターンx1

各種薬

32万G




武器は各種80万~100万G程度。

特殊覚醒称号で稼ぎ、レベルの低い"補正持ち"にちょっかいをかけたりして、80レベル台にしてはかなりの稼ぎを得ていたようです。

半壊したユージの武器はミスリルを使っているので一番高そうだが、主軸からいかれているので材料に戻すほうがましかもってレベルです。


ディメンションウォールは10万G程度。

リターンは登録したところに最大六人でワープできる貴重な石なので、なんとその額100万G超。

これは"補正持ち"にちょっかいをかけて手に入れたものです。

奴隷にはなかなかできませんでしたが、ストーキングを続ければ成果を奪うだけなら割とできるのです。

"補正持ち"がどの程度の力を持っているのかは、後々明らかにされるのでお楽しみに。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ