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26話 覚醒






26話

覚醒









■オリシュ





「『ブレイブハート』! これで精神異常はある程度は緩和されるわっ!」




クーシャの教会産の補助魔法――補助魔法は、消費物ではない秘伝の魔法書から身につけることができるものが多い――が僕たちの体を優しく包み、その身に魔の力を宿らせる。



「っよし、いける!」



力が漲り、活力が沸き上がる……クーシャの心のような温かい光に、大抵の呪いなんか弾き返せる気がした。



「皆を癒して……『ネイチャーキュア(自然治癒)』。


 自然治癒は、皆さんの体を徐々に回復させていきます。頑張りましょう!」



「サンキューな!」


「ありがとニュウ、これでまだまだ戦える!」



役場で国保有の奴隷になっていたニュウ。


サウスタウンで昔から有名な、特殊覚醒称号"占星術師"持ちの老婆に見てもらった所、彼女は癒し手としての能力が秀でているとのことだった。


故に迷宮で手に入れた物や、高価ではあったが購入して、回復の魔法書をいくつか買い与えた。


高いかとも思ったが、たまたま露店で運に恵まれ、相場よりだいぶ安く有意義な買い物ができたためその場でも後悔などしていなかったが……。



今になって本当にいい出費だったと思う。


やはり僕は、皆に支えられて戦っている……。


彼らに出会えて、本当に良かった。




「おおっ、『シールドバッシュ』!」



恐ろしい速度と重さの触手の攻撃を、「ヒーターシールド」という、凧のような逆三角形の盾で敵の攻撃を弾き、防ぎ。


「ファルシオン」という曲刃で幅広重厚、半月に近い程曲線を描い幅広い剣で、巧みにそらし斬り飛ばすナイト。


明らかに致命傷になりうる攻撃も、その技術と、持ち前の馬鹿力に、ガッツでなんとかかわしている。





「はあぁぁっ、ふ、はっ、『疾風突き』っ!」



素早い動きで敵を翻弄し、美しい舞いの様な剣技を魅せるレイツェン。


レイピアの原型である「エペ」という細く長い武器を使いこなす。


蝶のように舞い、蜂のように刺すとは彼女のことを表しているようだ。




「吹き飛びなさいっ! 『バーストフレア(炸裂する炎)』!」



その軽いフットワークで、遠距離からだけでなく近距離で有効な魔法も使いこなす攻撃的な魔法使いであるキルエ。


潜在的に魔力が高く、魔法を自然会得する可能性すら持つ強力な種族である彼女は味方にするととても心強い。


レベル差が大きく生半可な攻撃が効かない相手に物怖じせず、近距離~中距離の魔法をどんどん撃って戦力を削っている。





「あああああああっ、これでッ、爆ぜろ!」



『隼斬り』→『光刃・隼』




そして皆が抑え、集め、弱らせた敵を一網打尽にするのがこの僕、オリシュだ。


3つの刃となった隼斬りが、その刃を光刃へと変貌させる。


元の刀身の優に二~三倍の長さになり、敵に合わせて婉曲、枝分かれをし無数の刃となって敵の群れを切り裂くッ!



こちらに襲いかかろうとしていたソウルイーター、ソウルシーカー合わせて十数体がこの一撃でばらばらに千切れ、その生涯を終えた。


少しの時間をおいて続々と死体が迷宮内部に吸いこまれ、足場で困ることは余りないのが唯一の救いか。



ぞくりぞくりと、僕たちPT皆を、圧倒的上位を倒したことによる膨大な経験値の取得による快感が襲う……。


……この感触は、病みつきになっちゃうね。




「ん? なんだ?」



ソウルイーター、ソウルシーカーと戦いながら、なんとか強敵を――リッチにマインドフレイア――退ける方法を探っていると、外がなにやら騒がしい。


今は宙に浮かび観察しているから良いが、気まぐれにこちらに来ればどう対処すればいいのか、ひと時も気は抜けない。


そしてなにより、新たに襲いかかってくる素早いソウルシーカーを追い散らすのに注意を向けている僕はそちらを見ることができない。


一体何が――。




「ディスペル(解呪)! 発動! 早く! はやくはやくはやくはやく!」



「ま、マキ!」



マキの慌てた声に続いて、クーシャの喜色に満ちた声がする。




「――くそ、薄汚い裏切り者、尻軽女ガァあっ」




「マキィィい……ひっ、ああ」



男の罵声のような声に続き、クーシャの絶望に塗れた声が響く。


やっとのことでソウルシーカーを消滅させ、そちらを見れば――。




――――そこには、喚き散らしながらマキを串刺しに、滅多刺しにし、四肢と胴を解体する男たちの姿があった。




「あ、マキ、うおおおああああああマキいいいいいいいいいい!!」




視界が真っ赤に染まり、次いで真っ白になった。


涙が自然とこぼれてくるのがわかる。




マキ、優しかったマキ、笑顔が素敵だったマキ。


危険を冒してまでキルエの情報を教えてくれ、こうして最後まで僕たちを助けてくれた、マキ。





「――あ゛ああああああああああああああああああ、ああああああああ゛ああああああああああああああああああああ


 ああああ゛あああああああああああああああああああああ

 

 ……ああああああ゛ああああ


 ああ゛、あああああああ、あ゛ああああああああああああ゛



 あ゛ああああああああ゛あああああああああああああああ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああああああああぁ」











『ダークネスフィールド』










「…………シュ! オ…………か」



辺りが真っ暗闇になった、どうでもいい。


元から視界は真っ白だ。


白が黒になったところで何の違いがあるんだ?



「しっ……して! オ……ュ」









『マインドブラスト(精神爆破)』



『グラビティコントロール(重力制御)』











「が……あた……われ……」


「ひ……けて」


「ああ……ぎぐっ」


「な……これ…………だめ」



頭が割れそうに痛い、体が麻痺し、悶絶し、苦しみという言葉すら生温い、精神を破壊しつくすような――。


それがなんだ。


僕の心はずっと痛い、壊れそうに苦しい、マキが死んで、マキが殺されて……。


何も変わらない、へんかしていない。


零れ落ちる涙が、熱く滾る怒りのエネルギーが、体中から集まり剣に宿る――!





「それがァア! なんだってんだよオオオオオオオ!」





『ショックウェーブ』→属性付与光・火→『ショックウェーブ・フレア』





通常非常に困難では済まされない二属性合成付与――それも非常に高精度であり、付与するスキルが『ショックウェーブ』という高ランクスキルだ。


こんなこと、できたこともやったこともないし、数秒前までできる気なんてさらさらしなかった。



……光と炎をを圧縮し、日輪の如く白い輝きを、刀に込めて、振り下ろすッ!!!



――膨大な光の海が、爆発なエネルギーとなり、次いで衝撃混ざり合い荒れ狂った。





「GIGUVAAAAAAAAAAAAAA」



「AAアアTUイ……モEEEEEEルルルルルルルルル」




光と衝撃は30m程度の空間に吹き荒れ、燃やしつくし、煤に変えた。


今だ外に出ず、閉所内にいたソウルイーターやソウルシーカーはその大半が燃え尽き溶け落ち焦げ崩れた。


マインドフレイアはその半身が消し飛ばされており、息も絶え絶え。


リッチも自慢の黒衣は煤け、初めの威容、威圧感など見る影もなく弱っている。


今だ動ける程度の力はあるリッチは、今の聖炎を警戒したのか壁や死体に燻っている残炎を避けるかのように、ふらふらと空いた入口から外へ逃げるように出ていった。



「どけ、どけえッ」




茫然とする仲間達を置き去りに、入口付近で戦闘をしていたためショックウェーブ・フレアの衝撃で消し飛ぶか吹き飛んだ、ユージの仲間二人の荷物の残骸を蹴り飛ばし、何故か無事だったマキの遺体の元に駆け寄る。



「ああ、マキ、マキ……」



涙が溢れる。


真っ白から真っ黒に染まった視界が、段々と鮮明になっていく。


彼女と過ごした、短い時間に過ぎない思い出が脳裏を走馬灯のように流れた。




「マキ、僕は、君の死をッ…………君のしてくれたこと、君の思いを、無駄になんてしないッ!」




千切れかけていた左腕と、足付近に斬られ落ちていた右腕を胸の上に乗せ、掌を合わせギュッと握りしめた。









「ありがとう、本当に……君と出会えてよかった。


 君の分まで、精一杯生きるよ、マキ。


 そっちで待っててくれ。僕や皆が死んでそっちに行ったら、皆でまた笑おう」
















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