20話 一般人の生活は平凡極まりない
20話
一般人の生活は平凡極まりない
■装備品
スティルLv31
良質な鋼鉄の短槍
鋼鉄のラウンドシールド
胴:鋼鉄のスプリントメイル
手:鋼鉄のガントレット
足:鋼鉄のグリーブ
頭:鋼鉄のチェインフード
指:力の指輪Ⅱ[力++]
:毒耐性のリング[出血毒耐性+][神経毒耐性+]
手:敏捷の腕輪Ⅱ[敏捷++]
:魔力の腕輪Ⅱ
足:隠密のアンクレット[敏捷+][足音隠蔽+]
:術者のアンクレットⅡ[魔力++][知力+]
首:
耳:
オクラLv67
良質な鋼鉄のアクス
鋼鉄のラウンドシールド
胴:鋼鉄のプレートメイル
手:鋼鉄のガントレット
足:鋼鉄のグリーブ
頭:鋼鉄のグレートヘルム
指:火のガードリング [守備力微+][器用微+][火耐性+]
:敏捷の指輪[敏捷+]
手:敏捷の腕輪[敏捷+]
:力の腕輪[力+]
足:敏捷のアンクレットⅡ[敏捷++]
:力のアンクレット[力+]
首:
耳:
軽傷治癒の魔法書を、買った翌日から1日かけて読み取り込んだ。
いくら知力が高いからと言って、前回の半分しか時間がかかっていない……普通より早過ぎる。
そしてさらに前回から時間が短縮され過ぎている……。
よくわからないが、本から引き出す魔力がよりスムーズに、即座に体に馴染む。
何と言えば良いのか、前回よりも魔力を取り込むこと自体に適応している……能力をより効率よく使いこなしているような気分。
先日は鑑定系の才能かなにかでもあるのでは、と思ったが、魔法系の才能でもあるのだろうか……。
誰かに聞いてみたいとは思うものの、いくらオクラとはいえど、異世界ゲームトリップ?
こんな馬鹿げた話をするつもりはないし、してなにか意味があるとも思えない。
「まあとりあえずは考えても仕方がない……これからのことを考えよう。
あの羽鋼やハルバードを使った後に、いくら業物(良質な)とはいえ鋼鉄製の武器とは……といかん、また気分が降下してきた」
「贅沢な野郎だな、俺だって60代になるまでは鋼鉄だったぞ!」
「60代からは?」
「黒鉄っつってな、重くて硬い金属があるんだ。隕鉄の劣化版みたいなもんだな。
最初は黒鉄のメイスを拾ったから使ってたんだが、後で別のとこから手に入った、ベースが黒鉄刃先に少量隕鉄をあしらった斧を使ってた。
斧ならスキルレベル2あれば、大抵の重さのも使いこなせるからな!がっははは!」
「……入手先は?」
「メイスはちゃんとした戦利品だぞ…………斧はな、外周り、所謂普通の冒険者ギルドの依頼でな、商人の護衛任務してたんだよ。
俺らともう1グループいたんだが……その内黒鉄製武器を持った一人がな、ぐはは、たまたま瀕死になったんだよ」
「たまたまねぇ……」
「そう!たまたま! そこで命を救った俺に、向こうから!あくまで向こうから献上してくれたってわけさ!」
「……まあ贅沢言ってても仕方ない。
風属性のナイフも手に入ったことだし、武器が出来るまでは無理せず40階付近で稼ごう」
それから3日ほど、特にこれと言った事件も出来事も無く、ちょくちょく"補正"を感じられる人間に探りをいれながら金稼ぎをしていた。
特にこれと言った入手品も無く、粗悪なレベルの鋼鉄武器や換金アイテムしか手に入らない。
やはり普通に地力のみで動けばこんなものか……最近は何か新しいものが手に入るということに、慣れていたからな。
■
全て換金。57000G。
消費アイテムをまとめて購入20000G
宿代飲み代娼婦代12000G。
収入25000G
レベル27→31
特に高い物や貴重な物を手に入れることも無く、何か事件が起こるでもなく、ユニークモンスターとも一度も出会えていない。
風の噂によると、同じ日同じ階層でオリシュ達がユニークモンスターを二日続けて倒したとか……。
武器がまだだから念のため関わらないようにしていたが、ここまで差があるとは。
どうにかして介入できれば儲かったのに……と獲らぬ狸の儲けの額を妄想してしまうのは、俺が小市民かつ小さい人間な証拠なのだろう。
軽傷治癒の魔法を得たため薬代がぐっと浮く……と言って消費アイテムを買い渋るのは馬鹿のやることだ。
マナポイントがその瞬間足りなければ?
治癒の魔法を使うのに割く集中力は?タイムラグは?その日そのマナポイントを攻撃に回すことは本当に無いか?
二人と言う少人数で、緊急を要する傷以外に魔法を使うなど愚の骨頂だ。
よって、ゲームのようにMPを使いきるまで頑張るなんてことはしない。
安全マージンをしっかり取って、全てにおいて余裕を持っておく。
なによりMPの使い過ぎは疲れるから、心情的にもしたくないのだ……体の傷を癒して精神的に疲労するのは、あまり好きではない。
しかし、塗り薬+飲み薬+治癒魔法で三方向からの治癒の速度には目を見張るものがある。
これに疲労回復の薬も一緒に摂取すれば、激しい戦闘直後でもすぐに戦える……経済的にそうそうできることでもないが。
「あと二日で装備ができると思うと、もう気分が上がる上がる。
最近はちょっと遊び代に金を使い過ぎたな。まあ今は俺のレベル上げが先決だから金は二の次だが……」
鋼鉄製の槍を軽く振りまわし手に馴染ませる。
今日も今日とて、翌日体に疲れを残さない程度に稼ぐとしますか。
■迷宮『ビッグ1』近辺
迷宮まで歩いて向かう途中、分厚い外套着込んだ5人組が歩いているのが見えた。
「おいスティル、ありゃユージってやつじゃねえか」
「へえ……あれがね。しかし、なんか様子が変だな」
ユージとそのPTらしき6人の人間は、フードを被ったりふちの広い帽子をかぶったりして顔を隠して、こそこそと移動している。
ユージらしき人物は、くすんだ金髪を肩まで伸ばした、男にしては長髪の優男のようだ。
あれじゃ尾行でもしているよう……と前を見ると、オリシュを先頭にした5人組が見えた。
(うわ全部見覚えある。……まあ色んな意味で派手な奴らばかりだからな)
オリシュ、ニュウ、レイツェン、クーシャ、ナイト。
皆揃って美男美女、若さとその活力から周囲の空気がきらめきを持っているように感じる。
黒髪で中性的な顔立ち、やや小柄でパッと見女に見えるオリシュ。
艶のある茶髪で童顔、幼げな顔立ちに似合わぬ巨乳を抱えたニュウ。
切れ長の目にすらっとしたシルエット、肩までの金髪が太陽に映えるレイツェン。
さらりとした茶髪を風になびかせながら、はきはきとした笑顔が似合う、どことなくツッコミの気配がするクーシャ。
赤髪短髪で爽やかな笑顔が絶えない、どことなく天然ボケな気配がするナイト。
(……浮きすぎだろこいつら。で、なんだ……ユージ一行はあいつらをつけてんのか?)
「おいスティル、どうすんだ」
「……うーん、ついてってみるか。さりげなくな」
「おう任せとけ、さり気なくな!」
さり気なくなら大声出すな。
■30階層
迷宮1階層でゲートに乗り30階層に移動する。
オリシュ一行、ユージ一行が移動後、二組あけてゲートに乗ると。
「やあ、スティル君」
件のユージが、今まさに俺達が立っているゲートの目の前に立っていた。
「ちょっと話いいかな? ……君も僕に用があったんだろ?」
……お見通しですか。
「これでも気配を消すことには自信があったんだけどね。
オクラの図体がでかすぎたことが敗因かな?」
「あっはは、そうだね、君の想像通りだ」
ひきつった表情をしているオクラのすねを蹴たぐった。
「他のお仲間は尾行中?」
「そうだね。来て一月も経ってない人間に、そこまで調べられているとは驚きだ……それとも、偶然かな?」
「さてどうかな」
完全に偶然です……と言いたいところだが、こういう言い方になるということは、尾行をしていたのは今回だけではないのだろう。
そしてオリシュ達を尾行するということはだ、俺と同じ"補正持ち"がわかる……という可能性が非常に高い。
確かにオリシュ達は、レベルに見合わない装備をしているが、最低でも80レベル代のこいつらがリスクを冒してまで欲する程のものではない。
「それはまあいい。君にもわかるんだろう?
いやその前に聞くことがあったな。君も来訪者……外からこの世界に来たんだろう?」
「なにを言って」
「いいんだよ、明言してくれなくても。こちらは勝手に確信させて貰っている。
スティル、センタータウンの孤児出身。いつの間にか5万G返済済みみたいだね。
どういう手品か、30階層以下で羽鋼の剣を手に入れたみたいだが、今は持っていないようだね。
……僕の読みだと、クーシャとナイトだったかな? 彼らと接触したときに手に入れたのだろう?」
「……随分と詳しいね。
その様子だと、そんなに俺に興味が、いいや、この年の孤児に興味があったのか?
少なくともお前のPTの3人は、お前らで言う来訪者だろうしな」
情報戦ではぼろ負けだな。
そりゃあ情報網では勝てる筈もないが、気を使って目立たないようにしていたのだが……。
こいつが来訪者なら、少なくとも同じ希少性を持った残り二人は、まず間違いなく同じ存在だろうとカマをかけてみたが……間違いではなかったようだ。
「あっはは、君も時間が無い割によく調べてるみたいだね。
……口元、ひきつってるよ。来た頃の情報を隠蔽している自信があったんだろう?」
「そうだな。さすが5年も先輩なだけある。
尾けていることに気付いたのもあるんだろうが、わざわざあんた本人がこうして話しかけてくれているんだ。
元々俺に興味はないでもなかったんだろう?」
話しこんでいると、ユージの背後から、ゲートの魔力の香りに惹かれて来たのであろうウルフ族が視界に入って来た。
「……そうだね、ちょっと人気の無い所にどうだい? そのでっかい奴隷君……オクラだったかな。
彼がいれば僕が不意打ちしても、時間稼ぎにはなるだろう?」
ユージが言葉終わりに、歌うように短く呟く。
魔法発動の魔力の動きを感じた後、ユージ腕にまとわりつくようにつむじ風が発生する。
振り向き様に無造作に手を振りおろす。
『ゲイルアロー』
結構な距離があったのにも関わらず、忍び寄っていたウルフ族は体中から血飛沫を上げながら吹き飛び、死体が床に取り込まれた。
風魔法であるウィンド系の一つ上の威力の魔法、ゲイル系。
恐るべき射程距離、威力、そしてなにより……
「おいおい、なんて早え詠唱だよ……」
そう、上位魔法のゲイルアローをあの速度で詠唱できるのは普通ではない。ないのだが……。
(これから駆け引きなのに調子に乗らせてどうするこの馬鹿……)
「ぐぇっ」
再教育が必要だなと、一段と強く、甲冑の隙間を指で突いてやる。