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19話 買い物と特異性






19話


買い物と特異性











情報屋と別れた後、そのまま商店街へと行った。


石盤で杜撰に舗装をされているが、所々土が剥き出しでぼけっとしてたら躓きそうな道に、屋台がずらりと軒を連ねる。


通りを一つ移れば、きちんとした建物を構えた店が並んでいるが、あちらは後回しだ。


情報屋から買った、オリシュが回った店のリストを見て、載っている店舗を回るのだ。





「そのオリシュって奴の動向を調べてたのって、なんだっけか、補正?って奴と関係あんのか?」


「ああ、俺の感が正しければ、穴場だったり掘り出し物がある店で立ち寄っているはずだ」


「ふうん……なんだ、"補正"ってのは鑑定眼効果でもあんのか?」


「似たようなもんだな。


 だいたい物語の主人公ってのは優れた武器をどっかから手に入れるもんだろ。


 あいつが主人公みたいなものなら、知る人ぞ知る……なんて店に当たる気がする」


「その為に金ばらまいて……あれだけあったら浴びるほど飲めるぜ」


「この間女呼んでやったろ、ぎゃあぎゃあやかましい……ここだな」



ひげをもさもさと生やしたおっさんが魔法装飾品を売っている。


んー、パチ物が多いな。


魔法装飾品の真贋は、魔力を扱う技術がないと非常に分かり辛い。


それっぽい形だけ作って、強引に魔力を浴びせるなり、本物の魔法装飾品の近くに置いておくと、しばらくの間ほんのり魔力を感じるからだ。


が、純粋にレベルがそこそこあって魔力はあるが、扱いなれていない者は、なまじ魔力を感じてしまうため余計に騙されやすいのだ。


しかしある程度色んな種類の装飾品を装備した経験があれば、試しに装着すれば体感である程度読みとれるため、まず騙されない。


騙されるのは魔法装飾品にあまり触れることの無かったものがほとんどだが、ギルドやちゃんとしたでかい店よりも露店で買った方がマージン分割安なので、騙される初心者は絶えない。



「いらっしゃい。何をお求めだい?」



(……大したものが無いな。属性耐性系の装飾品や、Ⅱレベル以降の装飾品はなかなか出回らないから期待していたが……。


 まあ当然といえば当然か?いい物があったから"補正持ち"が引き寄せられる。


 引き寄せられたなら買うだろ。残ってるわけ無いな)



ギルドで下位装飾品と上位装飾品を交換できるが、あれは換金性だけで見ると大分損をする。


まああれだけの量の魔力Ⅱ装飾品を揃えようと思っても、なかなか集まるものではないから仕方が無いのだが。



「いやいい、邪魔したな」



ささっと離れてしまう。


冷やかしかよ、と後ろからあからさまな舌打ちの音が聞こえてくるが気にしない。





「次は魔法書店だが……正直期待できないな」


「魔法書はたっかいからなあ。


 昔は何冊か手に入れたんだけどよ、結局売って武器に変えちまうか、豪遊しちまうんだよな!がっはっは!」


「前線で活躍して大金を稼いだ冒険者でも、一定以上のレベルの魔法書は少数しか手に入らないからな。


 逆に低レベル書は割と拾うらしいが……今のところ一冊しか縁がない。


 その割と手に入りやすい低レベル書も、金持ちが買って、部下や子供に与えちまうからな」


「この迷宮都市なら割と揃うけどよ、その分パチモンは多いぜえ。半分以上パチモンだな。


 なにしろ読ませるわけにゃいかねえから触れても表紙だけだ、真贋がわかりにくい」


「マッピングの魔法書を読む前に、念入りに持った感覚を手に馴染ませておいたから、低ランクの魔法書だったらある程度わかると思うけど」



「…………手に馴染ませたからわかる? 何言ってんだ?」


「いやだから、漏れる魔力量とか、質とかをなんとなく掌で覚える様にだな」


「いやいやいや、なんだそりゃ? そんな斬新な覚え方聞いた事ねえよ。


 普通魔法書ってのは、余程強力じゃなきゃ読むまでほとんど魔力は漏れない。


 複数冊読んで、装丁や材質の知識とを付けてく内に、だんだんわかってくるものって聞いてる」


「は?あー、まあそれは聞いたことはあるが……気配っていうのが魔力じゃないのか?」


「いいや、よっぽど魔力に長けてれば別かもしれねえが、レベル80とか100とかの上級者の世界だ。


 さすがにそこまでのステータスはねえだろう」


「…………とりあえず試してみようか」



今まで感じていなかったが、この感覚は人とは違うのかもしれない。


気になるが、試してみた方が早いだろう……会話をしている内に魔法書を並べた露店が見える。



ここは兵士の見回りが多い区域だ。


見回りの密度で安全度が変わるといっても過言ではないので、高級物品を出す店は多めに金を出して安全を買う。



「……いらっしゃい」


「ああ、掘り出し物がないかなと思ってな」


「……ご自由にどうぞ」



体をゆったりとした服で覆い、頭から顔をベールで隠した女が店番をしている。


シルエットが服でよくわからず、顔も見えない。


渋々といった声色で愛想が無い。


――良く見れば、オクラと同じ隷属の首輪をしている。


おそらく冒険者が奴隷に代理で販売させているのだろう。


顔のベールは、美人故のトラブルを避けるためにわざわざ隠しているのだろうか、まあ俺にはどちらでも良いことだった。



ここは露店と言っても、地べたにござをしいて並べているのではなく、客から少し離した位置に長い箱を置き、客が来たら開いて見せるようにしている。


なるべく安全性を高めるためだろう。



「随分と安い……そして数が多いな」


「ああ、うちは良品安価がモットー……だとよ」



魔法書は、国認定の魔法書店に持ちこむと、当然中間マージンが取られる。


店先で30万Gで売る物なら、客からの買い取り価格は、需要次第だが15~24万、5~8割なことがほとんどだ。


希少な物ほどマージンは減るが、よく手に入るものはマージンが高い。


その際マージンを取られるのを嫌う者は自分なり奴隷なりが露店で売りに出すのだが、信用が無いとなかなか売れないのだ。


そこで二種類の人間が出てくる。


認定店に売れる値段と大差ない値段で並べる代わりに、偽物も一緒に並べる者と、自信満々に店売りと適正価格の間くらいで並べる者だ。


店売りと大差ない値段で売れても損はないし、偽物が売れたら得なので混ぜて売るのが"流行"のようになっている。


ちゃんとした鑑定眼があれば得だが、リスクが高い……が、騙される可能性があっても、うまく本物が安く買えたら……とこちらも騙されるものは後を絶えないのだ。


ちなみに偽物ばかり並べる物もたまにいるのだが、もし一定以上の鑑定眼がある者にその事を言い触らされれば、村八分になってこの街では生きていけなくなる可能性が高い。



この店は偽物も多い代わりに安価にしてあるのだろう。



「お、これは……軽傷治癒の魔法書、15万か」



手に持つと、じんわりと魔力が手に染み込んでくるのを感じる。


……この感覚だと、きちんと書自体から魔力を感じられているな、本物だろう。


軽傷治癒の魔法書は、国の認定店で買うと30万G程度する。


期待していた掘り出し物は無かったが、まあ店で買うの半値、つまりどう見積もっても店売りの値段かそれより安く買えただけでも満足すべきか。


もし軽傷治癒の魔法書をこの先拾って、認定店で売っても損することは無い。



「これ、貰うよ」


「一発かよ。


 ……そんなにあっさりってことは、鑑定系の称号持ちか、魔力隠蔽をかけたマジックアイテムでもあんの?」


「どうかな、想像にお任せするよ」



なんとなく探るような気配を感じたため、即答してさっと金を払う。


なるべく嫌味に見えないように笑顔を見せ、さっさと離れることにした。




「どうやら、本物のようだが」


「…………"補正持ち"が特殊ってのは聞いたがよ、俺から見ればお前も十分特殊だよ」


「なんだ、そこまで大袈裟な話……」


「確認しておくが、鑑定系の称号とかマジックアイテムとかは持ってないんだよな?


 魔法書に触れる機会が沢山あったわけでもない?」


「……ああ、一冊だけだ」



「――――スキルが連発できることはお前も特殊だと理解していたようだが……。


 俺は20余年生きてきて、そんなことを言う奴は見たことがない。一度もだ。


 お前のでたらめなところは何度も見てきた。


 今さらこの程度のことでぎゃあぎゃあ騒ぐつもりはないが、事実は正しくは認識しておくべきだ」



「………………そうだな。わかった、肝に銘じておく」



(――先刻情報屋に聞いた、現代人である可能性があるPTの特異性と繋がる所があるのだろうか。


 ……特殊覚醒称号"鑑定士"ってのがあったらそれかもな。まあまだ決め付けるには早すぎるか。


 特異性、俺の普通じゃない所……)






あれから数か所回ったが目ぼしいものはなかった。



「大当たりは無かったみたいだな」


「どうかな。まだ本命が残ってる。裏路地の方にある武器屋らしいぞ。


 まあそれが外れでも、……自分のことを再認識できただけでも儲けもんだ」



そう言ってメモを見せる。



「ああ?ああ!


 ここ知ってるぜ、偏屈爺さんがやってるんだけどよ、客に暴言吐くわ品物は売らねえわで有名な所だ!」


「またありがちな設定って感じだな……」


「設定?」


「ああなんでもない。失言だ、忘れろ」



こういった目線で物事を見過ぎるのも良くないのかもしれない。


自分はいつからこんな考え方をしていたのだったか。





ぼろい扉にすすけた壁。


武器屋のマークは付いているが、色がくすんで壊れそうだ。



「ここで刀を買って行ったらしいな」


「刀ぁ? あの無駄に高い上に手入れもめんどくせえっていうあれか」


「まあ入るぞ」



どれほど油を差してないのか、異常に抵抗を返してくる扉を押し開けると、外見からはまったく感じられない程清潔感のある店内。


どれほど雑多とした店内か……と身構えていたのだが、綺麗に整頓された武具が丁寧に置かれていた。


その奥のカウンターには、つるっぱげで、白くなったひげだけちょろんと顎から生えている小柄な爺さんが座っている。



「なんじゃ、客か……と思ったら、また餓鬼んちょか」


「また?」


「昨日もお前の様な餓鬼が来たんじゃよ。


 餓鬼に売るもんはない……と言いたいところだが、昨日売ったばかりだからな、とりあえず見るくらい勘弁してやろう」


「がっはは、すげえなこの爺!客に偉い態度だ!」



小柄だがやけに迫力のある爺さんだ。


下品に笑うオクラを、爺さんはじろりと一睨みするだけで何も言わなかった。



「魔法武器で、長物を探してる。希望はハルバードだが、次点で槍でも構わない」


「…………笑わせるなよ餓鬼、お前みたいなのがハルバードじゃと?」



大きく目を見開きながら怒気を発する爺さん。


だが、その様子はどこか怒り切れていないようだった。



「……これでももうすぐ180㎝なんだけどね。


 それより、その餓鬼が、昨日は珍しい物を買っていったんじゃないの?」



そう、それはきっと、昨日オリシュが、絶対使いこなせないと決め付けた刀を使いこなし買っていったからだろう。


使いこなしたうんぬんは知らないが、この様子からみておそらく間違いあるまい。


ちなみにだが、180cmといっても、この国の男性平均身長は175~180cmとでかい。


つまりこれでも平均だ。



「……ちっ、あれの知り合いか」


「いいや、たまたま耳にしてね。 まあいいじゃないか、あるの?ないの?」


「…………これ、振ってみろ」



そう言ってカウンターの奥から俺の身長よりやや長い、2m程のハルバードを抱えてきた。


ハルバードは、Halm(棒)Berte(斧)という意味で、別名ハルベルト、ドイツ語だ。


が、なぜこの世界でもドイツ語……?という疑問はきっと野暮に違いない。


槍の穂先に斧、反対側の柄頭にピックがついていて、文字通り槍斧長柄の全ての用途に使用できる。


突き、斬撃、棒術、引っかけて使うこともでき、地球では最強のポールウェポンと言われていた。


ガチンコ勝負なら近接武器はリーチが長いものが強い、これが一般的な意見だと俺は信じているため、つまり最強の近接武器と言うことだ。



――当然それだけの物をつければ、オプション全装備で重量は比例して大きくなっていくわけだ。


さらにこのハルバードは、所々に隕鉄という、驚異的な硬度だが非常に重い鉱石で加工してあり、見た目よりも遥かに重さがあった。



「随分重いね」


「ほら、振れるもんなら振って見せろ」


「容赦ねえなあこの爺!がっはっはっ」



ため息一つ。


爺さんはどうせ振れない、という態度をしながらも、その目には少しだけ期待の色が浮かんでいた。



「ふうっ」



『五段突き』



一瞬で前方に五つの斜線が奔る。


スキルのディレイを極力無くすように、前に出していた左半身を、意図的に崩しながら半歩引く。


その勢いで薙ぎ、振り上げ、斧部分で引っかけ引き倒し、斜め前方に踏みこみながら渾身の振りおろし。


重力に引かれる腕を強引にかつ負担を最小限に押しとどめ、隙を完全に消すようにスキル発動。



『大車輪』



本来長柄スキルのこの技だが、斧の重さをうまく流して振り子のように振りまわす。


その尋常じゃない重さと俺の卓越した長柄、槍、斧のスキルが競合し、空気の震える重低音と共に縦横無尽に振るわれるハルバード。


嵐を彷彿させるその様相に、爺さんとオクラはぽかんとこちらを見ていた。



「……っはあ、流石に重いな、腕の筋肉が痛い。

 

 出来ればもう少し軽いのがいい」



「……………………………………おい、餓鬼、お前槍と長柄と斧のスキルレベル……いや、いい、聞くまでも無かったな」



冒険者にとってステータス情報はまさに命。


例え鍛冶師にでさえ軽々しく口に出す物ではないが、この爺さんになら言ってもいいと思えていたが……必要無かったようだ。



「お前、魔法武器が欲しいといっていたな。希望属性と、……魔力は潤沢にあるか?」


「魔力量には自信があるよ。人間が鍛練で身につけられるレベルで言うなら、ね」


「……昨日今日と、へんな連中ばっかりじゃ。


 ハルバードだが、お前の能力に釣り合いそうなものが手元に無い。


 というよりその特異なスキルを活かすなら、一から作った方がいい。


 わしに全部任せてみんか」


「……ああ、任せる。


 これ、羽鋼製の剣だ。軽量化するなら使えないかと思ったんだが。


 ああそれと予算だが、50万くらいで済ませたい」


「……ふん、いいじゃろ。この量の羽鋼があるなら、できる」


「ありがたいね。いつ頃?」


「……一週間後また来い、わしは作業に入る。表の看板、ひっくり返しておけ」



そういうとさっさと奥に引っ込んでしまった。



「客に店じまいさせんなよ……」


「嵐みたいな爺だったな。お前の乱舞も嵐みたいだったが」


「褒めても駄目だぞ、酒の量は増やさない」


「…………ちっ」







2万1000G(69万-15万-50万-16000-諸経費)





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