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18話 買い物






18話


買い物







ギルドでのバカ騒ぎの翌日。


酒も完全に抜け、買い物へ行こうと簡単な装備を身につける。


街へ買い物に行くのに装備とは現代では考えられないことだが、俺の様な冒険者はまず間違いなく大金を持っている。


強き者、戦う者である俺達は、ひとたび気を抜けば襲う格好の的に成り得るのだ。



「おいスティル」


「なんだ」


「お前のことだから考えがあるんだろうがよぉ……魔法装飾品、全部魔力のに変えちまったんだって?」


「ああ、そのことか」


「そのことか……って、ランクⅠでも相当助けになるんだぞ?


 なんだ、そのスキルに加えて、他にまだ魔法でも隠し持ってんのか」


「いいや、生憎俺はマッピングの魔法しか持ってない」



ここで初めて、オクラが不審気な目に変わった。


それ程に装飾品というのは大事なものなのだ。


冒険者は、稼いだほとんどの金を装備に変える。


なぜなら、装備はそのまま力となり、命となり、そしてより過酷な戦場へ行くことで、金になるからだ。



「って、どうすんだよそりゃ! なんだ? 腐るほど貯まった金使って、魔法書でも買いあさるのか?」


「いいや、考えがあるのさ。まあ黙って俺を信じてな」



街へ出て奴隷市場へ直行する。



「なんだ、また奴隷を買い足すのか? この間4人も売り払ったばっかりだってのに」



奴隷市場の入り口横に立っていた男が、こちらに歩いてくるのが見えた。


この大陸では一般的な茶髪で、特に特徴の無い顔立ちをしている。



「いや……お、いたな。情報屋に話を聞く。ここからは黙ってろ」



自分と奴隷市場の間付近にあるこじんまりとした酒場に足を踏み入れると、後ろからその男がついてくるのが見えた。


端のテーブル席へと移動し座ると、あちらも違和感なく、始めから連れだったようについてくる。



「エール二つ。おたくは何を飲む?」


「では私も同じものを」


「エール三つだ」



十秒と待たずに入れずにエールがテーブルの上に並べられる。


詳しい話を聞けずに不機嫌になっていたオクラが、急ににこやかになる。



「おっ、いいねえ。昼間っから飲む酒は格別だ!」



さっきの「黙っていろ」という言葉は『命令』したわけではないので、普通にしゃべりだしてしまった。


軽く睨むと首をすくめて黙り込む。



「それで、頼んでいた話は?」


「ええ、あのエルフですが、この街で5年前から冒険者をしているユージという方が買って行かれました」


「………………」



予想外だ、予定外と言ってもいい。


俺の中で、あのエルフを買うのはオリシュと決まっていたからだ。


それとも、あのオリシュより強い補正を持った者がいたとでもいうのだろうか。



「それと、頼まれていた話の二つ目に重複するのですが、オリシュという新人がどこからか特大のルビーを持って来まして」


「あ、ああ」



思わず表情が崩れそうになってしまう。



「それも鑑定額500万G超の非常に良質な魔力を帯びた物だとか。


 それであのエルフを買うつもりだったようですが」


「買えなかった。いや、ユージとやらが先に買ったのか」


「ええ。


 なんだか、いやに焦らしていたというか、わざわざオリシュが来てから売約契約を結んだとか」



(なんだそれは? オリシュに恨みでもあったのか? 自分の恋人を持って行かれた、とか凄くありそうな話だが)



「妙な話だな。……オクラ、わかるか?」


「名前と顔と、若いくせにいやに強えってことははわかるが、詳しくは知らねえな」


「そいつの経歴などはわかるか?」


「そうですねえ……」



情報屋はそういって、テーブルをトントンと二度叩いた。


舌打ちしそうになる衝動を抑え、銀貨を二枚放ってやる。



「ユージ、五年前にこちらにやってきた現在15歳の元孤児の冒険者ですね。


 くすんだ金髪を長めに伸ばした優男って風貌です」


「15歳……」



(世代は同じだ。……トリッパーの可能性も、あるな)



「レベルは正確なものはわかりませんが、間違いなく80はいっています。


 到達迷宮階数は85階層。愛用している武器は水属性の高ランクの槍、サブウェポンで地属性の短刀です。


 なかなかの有名人ですよ。15歳でこのレベルに階層……そしてなにより、特殊な覚醒称号持ちですから」


「……特殊な覚醒称号?」



覚醒称号とは、50レベルになると得られる称号……他のゲームで言えば職業に近い。



――力強きもの「戦士」。


力が増し、武器がよく手に馴染む。


――知多きもの「司祭」。


知力が増し、魔法会得スピードが上がる。教会が求める称号。


――魔を使いこなすもの「魔術師」。


魔力が増し、魔力を操るのがうまくなる。


――手先良く動く「射手」


器用さが増し、指先の動きが繊細になる。


――より早く駆ける「疾駆者」。


敏捷が増し、体がよく動く。


――耐え忍ぶ者「忍者」。


耐久が増し、状態異常に強くなる。


――そして全てが高水準だった場合「世界」となる。


世界についてはいまいちよくわかっていない……らしい。



「覚醒称号の効果なんて、大した効果はないんじゃないのか?


 教会で魔法を学びたい金持ちか、教会で養われた子供が司祭を目指すくらいの意味しかないと聞いていたが」



そう、別に特に頭に入れておくべきことは「司祭」以外ない。


ステータスが増すといっても+1つ分だし、まああった方がいいが、「覚醒」などと呼ばれる程大したものではない。


別に「魔術師」だから魔術師にならなければならないわけではなく、「魔術師」で魔法剣士もいる。


もっと言えば、「射手」で近接系戦士もいれば、「忍者」で魔術師もいるのだ。


ステータスよりも、その人の「生き方」が称号になって現れるというのが定説だ。


「戦士」になった戦士が弓使いに転向し、「射手」にならないかなと思っていると、ある日「射手」になっていたなど良くある話のようだ。



ただ、普通に育てば「司祭」には成りにくいだろう。


これは教会が求める称号だ。


教会には、使い捨てではない代わりに会得に時間のかかる特殊な魔法書があるので、「司祭」を持つものは挙ってこれを求める。



――これが俺の知る全てで、ゲーム時代は特殊覚醒称号など聞いた覚えもなかったし、そもそも50レベルに到達した者がいなかったため、公式ホームページの情報しか知らない。



「ええ、特殊覚醒称号。


 非常に珍しいので、センター出身なら聞いたことが無いのもまあ無理はないのかな……?


 私が知っているだけで、『賢者』、『治癒師』、『食の求道者』、『調教師』、『考古学者』そして件のユージの『吟遊詩人』」



ちらりとオクラを見る。


首を竦めている……詳しくは知らないようだ。



「なんだそれは?」



情報屋がテーブルを叩こうとする仕草を見せたので、先んじてもう一枚銀貨を放る。



「吟遊詩人とは、歌を歌ったり、楽器を奏でて味方に補助魔法のような効果を与えることができるそうです。


 逆に下げることもできるとか」


「戦場で呑気に歌うのか?」


「いえ、短いフレーズ、2~3秒喋るように歌うとか。長いものもあるようですが。


 楽器も数秒奏でる程度でいいそうです」


「なんだそりゃ……他のは?」



「賢者は魔法の会得スピードがとても速い……司祭の上位版ではないかと。


 治癒師は回復の専用スペルを覚えるそうです。


 後は魔術師と大差ないようですね。


 食の求道者は……いまいち分からないんですが、この称号持ちの作る食事はとてもおいしく、ステータスが一時的に上がるとか。


 調教師は、なんと魔物を隷属の首輪無しで従えることが可能なんだそうです。その際のレベルなどの詳細は、余り詳しくわかりませんが。


 考古学者は、古い場所や遺跡などで様々なことがわかるそうです。


 ビッグ1は文句なしに古いと言えるので、中ではトラップや階段の位置のありそうな場所など様々なことが断片的にわかると、酒場で話していましたね」



「わからないことだらけだな」



「仕方ありませんよ。謎が多く人数が少ないもので……ただ、なぜか今の若い世代。


 それも今年15歳の孤児に多いというのが情報屋の間で囁かれていますね。


 といっても数える程度ですし、普通有名になるまでは特殊称号など隠すものなので……。


 奴隷にしたら値段がいくらつくか……速攻で狙われるでしょうしね。


 今年は只単に言いふらす馬鹿が多かっただけかもしれませんが」



「成程……な」


「そして驚くことに……ユージのPTは5人組なのですが、5人中3人が特殊覚醒持ちなんだとか。


 ユージの吟遊詩人に、賢者の男と考古学者の女、後2人は普通に戦士と忍者だそうですが」



「……それで、全員が全員自分らで言いふらしてしまったわけか」


「ええ。その後すぐに迂闊だったと気付いたのか口を閉ざしましたが、ある程度の古株なら大抵は知っています」


「……他におかしな言動はなかったか? 


 例えば、そう……意味のわからない単語を使ったり、そういうことは」


「特にそういった話は聞いた覚えはないですね。とは言っても、さすがに5年前の言動まではわからないので、最近は、ですが」


「10歳の頃の様子とかそういったものはわかるか?」


「その頃は特に注意して見ていませんでしたので、詳しいことはわかりませんが……。


 10歳で来ていきなり迷宮に入って、普通に戦闘をこなしていたようですよ。


 スキルの選択や、戦略眼は子供の頃から熟練のようだと感心されていたようです」



("補正持ち"とも思ったが……いくら"補正"でも実年齢以上の判断は難しいんじゃないだろうか。


 もし、仮にだ、そいつらがトリッパーだとすれば、トリッパーは50レベルで特殊な能力が得られる、もしくは得られる可能性が高い……ということか?


 センター時代から遠目に他のトリッパーを見ていたが、マクロの様な特殊なものを持っているのは俺だけだった。


 トリッパーが特別扱いされることはないと、可能性を除外していた……。


 くそっ、情報が少な過ぎるっ。本人に上手いこと自然にアポが取れれば……)



「……そのユージ達が、他に奴隷を買ったという情報はあるか?


 それと、集めている情報とかはわかるか?」



銀貨を一枚放りながら聞く。



「ええ、二日に一回ほど奴隷市場に顔を出しては、今年15になった孤児で奴隷に成ったものを買っているそうです。


 情報屋に聞いた情報は……知りませんな。申し訳ない」



この場合の知らないとは、おそらく売った情報の内容を漏らすつもりはないということだろう。


下手に漏らして彼らに恨まれれば、戦闘力の無い情報屋はおちおち眠れやしない。


或いはもっと金を積めば別かもしれないが……。



「……いや、こちらこそ、踏み行ったことを聞き過ぎた。


 酒場でよく話す、聞く内容でいい。あるか?」


「それでしたら、最近よく、今年の孤児について聞いていることが多いそうですよ。性格や、言動について」



(……これでトリッパーは、特殊な力に目覚める可能性が高い、という線が濃厚になった……。


 ちっ、失態だ。分かっていた筈じゃないか、十分ありえた、むしろいない方がおかしいじゃないか!


 この迷宮都市で成功している現代人が他にいることなんて……。


 まず現代人がここにいることすらイレギュラーなのに、なにか後天的にイレギュラーが起きるなんて考えておくことが当然だったのに、あっさりと安値で現代人の奴隷を手放してしまった……)



「どうかなさいましたか?」



はっと我に返る。


こちらにきて五年と少し、失態と言える失態は無く、回収できる利益は最低限はきっちり回収してきて、増長していたのかもしれない。


なにもかも上手くいくなど、俺の様な小悪党にはありえないことだ。


しかし逃した魚は大きかったかもしれないと思うと、胸をかきむしりたくなる。


……この小市民な性格がいつか己を滅ぼすかもしれない、と自分を落ちつけることに専念する。



「…………いや、なんでもない。


 では最後に、オリシュが最近回った店舗、訪ねた人のリストをくれ」



ユージ達のよくいく酒場なども聞こうと思ったが、有名人らしいしそこらで聞いてもわかるだろう。


予定外に出費し過ぎた……自重しないと。



「こちらです」



「助かった。その詮索しない所も気にいった……ほら」



正規の報酬の金貨を一枚に、おまけして銀貨を追加で二枚投げ遣る。


ここでご機嫌を取っておけば、金払いのいい上客と見られてサービスもよくなる……これは例の中隊長の時も使った手だ。


金貨は銀貨の10倍――1万Gの価値がある。


オリシュ一人の動向と、奴隷エルフの様子数日調べるだけで、危険も無く16000G……ぼろい商売だな。


しかも、こいつがわざわざ動いたわけではなく、もっと下っ端の食い詰めた奴らを動かして小遣いをやっているんだろうし。


……まあ仕方が無い出費だ。


情報というのはいつでも重要なものだし、『俺が調べ回っていた』という情報を封鎖できるなら安いものだ。



話も聞き終わったし出るか――と席を立とうとすると





「これはまだ未確認で、不鮮明な情報なのですが――――――――



 ――――――――殺人鬼マーダーという称号もあるそうですよ。



 …………知るものは皆口を閉ざすか、この世にいませんが」







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